【遺産共有と物権共有の混在(持分相続タイプ)における分割手続】

1 遺産共有と物権共有の混在(持分相続タイプ)における分割手続

共有者の1人が亡くなった場合、当該共有持分権が遺産(の1つ)となります。相続人が複数人いる場合、物権共有の中に遺産共有が含まれる状態になります。
ところで、遺産共有と物権共有では、分割手続の種類が異なります。
詳しくはこちら|遺産共有の法的性質(遺産共有と物権共有の比較)
このようなケースで分割をする場合には、遺産分割と共有物分割のどちらを用いるか、という問題が生じます。
本記事では、このような状態になるプロセスと、その後の分割手続の種類について説明します。

2 共有持分の相続の後の分割請求の事案

共有者の1人が亡くなり、当該共有持分権を複数の相続人(共同相続人)が承継すると、被相続人が有していた共有持分権をさらに共有(複数人で所有)するということになります。
結論として、物権共有の中に遺産共有が含まれている状態となります。
分割手続の種類を説明する前に、判例として登場した事案の内容を整理しておきます。

共有持分の相続の後の分割請求の事案

あ 事案・概要

一般的な共有=物権共有であった
その後、共有者の1名に相続が生じた
物権共有と遺産共有の両方が含まれる状態になった

い 具体的事案

共有者=A・B・C
Cが亡くなった
Cの相続人=C1・C2・C3

う 最終的共有者

共有者=A・B・C1・C2・C3
※最判平成25年11月29日

3 物権共有・遺産共有混在における分割手続(平成25年最判)

前記事案を前提として、分割手続の種類について説明します。
全体が遺産共有であるとはいえない状態なので、分割手続として遺産分割を使えません。消去法的に共有物分割の手続を用いることになります。
ただし、共同相続人(相続人グループ)の有する持分は遺産共有なので、遺産分割によって分割することになります。具体的には、共有物分割の中で、共同相続人全体が得た財産を、改めて(次の手続として)遺産分割によって分割する、ということになります。2重の入れ子構造として扱うのです。

物権共有・遺産共有混在における分割手続(平成25年最判)

共有物について、遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(以下「遺産共有持分」といい、これを有する者を「遺産共有持分権者」という。)と他の共有持分とが併存する場合、共有者(遺産共有持分権者を含む。)が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり、共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり、この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照)。
※最判平成25年11月29日

4 物権共有と遺産共有の入れ子構造

前記の判例の理論は、不動産の所有権全体を2重の入れ子と考えると分かりやすいです。

物権共有と遺産共有の入れ子構造

あ 物権共有

不動産全体がA・B・Cの3つの箱で分けられている
→これは『相続とは関係ない共有=物権共有』である
→『共有物分割』の対象となる

い 遺産共有

Cの箱の中には、小さい箱が3つ入っている
C1・C2・C3の3つ
→これは『相続による共有=遺産共有』である
→『遺産分割』の対象となる

5 物権共有と遺産共有の混在の経緯や分割請求者による違いの否定

ところで以上で説明した判例は、遺産共有と物権共有が混在するに至った経緯や分割請求をした者(原告)の立場によって違いはない(共有物分割とする)ことをはっきりと示しました。それまでの分かれていた解釈(後述)を統一したのです。
また、相続人(遺産共有の持分権者)が共有物分割を請求できる、ということを示した、ということも指摘できます。

物権共有と遺産共有の混在の経緯や分割請求者による違いの否定

あ 混在の経緯・請求者の違い→否定

本判決(注・最判平成25年11月29日)は、昭和50年判決を踏襲しつつ、共有物について遺産共有持分と通常の共有持分との併存が生ずるに至った経緯や、共有物分割を求める者が遺産共有持分と通常の共有持分のいずれを有する者であるかにかかわらず、同様の理が妥当することを明らかにした点に意義がある。
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』p559

い 相続人による共有物分割請求→肯定

この平成25年判決は、まずは、1個の財産について遺産共有と一般の持分による共有が併存する場合に、その併存状態の解消を、共有物分割訴訟によって、遺産共有の権利者からも求めることができることを明確にした点に意義を有する。
※川淳一稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)』有斐閣2019年p206

6 共有物分割で共同相続人が得た財産の扱い(保管義務)

前述のように、共有物分割の手続の中では、複数の相続人を1グループとして扱い、相続人グループが取得する財産を決めることになります(共有のまま残す=未分割のままにしておく)。この財産は次に予定される遺産分割で最終的、確定的に取得する者が決まります。そこで、遺産分割完了までは保管しておく必要があります。平成25年判例ではこの保管義務も示しています。このことについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|競合する共有物分割と遺産分割の連携(保管義務・実情)

7 遺産の共有持分譲渡の後の分割手続の種類(概要)

以上の説明は物権共有の中に遺産共有が含まれるという状況を前提としていました。逆に、遺産共有の中に物権共有が含まれるというケースもあります。この場合の分割手続の判別についても判例や裁判例が判断を示しています。その中で、見解が分かれている解釈もありましたが、前述の平成25年判例が見解を統一しました。結果としては、本記事で説明した結論と同じになっています。
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の混在(遺産譲渡タイプ)における分割手続

8 遺産共有と物権共有の混在における分割手続判別のまとめ(概要)

遺産共有と物権共有が混在するケースにおける分割手続の種類の判別については、平成25年判例で単純化されたといえます。
ただし、実際にこのテーマが問題となる事案では、他にも検討を要する事情があり、複雑となって判断がしにくいということもあります。そこで、別の記事に、間違えやすいところも含めて分割手続の種類の判別方法をまとめました。
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の混在における分割手続(まとめ・令和3年改正前)
なお、令和3年の民法改正でこのルールに例外が追加される変更がなされました。
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の混在における共有物分割(令和3年改正民法258条の2)

本記事では、物権共有の中に遺産共有が含まれる状況になるプロセスと、その場合の分割手続の種類を説明しました。
実際には、個別的事情によって法的扱いや最適なアクションは違ってきます。
実際に、相続や共有に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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