1 遺産共有+一部が物権共有の分割手続の種類
2 物権共有+一部が遺産共有における相続人の分割請求の事案
3 物権共有+一部が遺産共有における相続人の分割請求の解釈
4 共同相続人が得た財産の扱い(保管義務)
5 物権共有+一部が遺産共有の入れ子構造
6 物権共有と遺産共有の混在の経緯や分割請求者による違いの否定
7 金銭保管義務の設定の不合理性(批判)
8 『保管義務』に関連する規定(参考)
9 2種類の競売申立がなされたケースの財産の保管
10 遺産の共有持分譲渡の後の分割手続の種類(概要)

1 遺産共有+一部が物権共有の分割手続の種類

共有者の1人が亡くなった場合,当該共有持分権が遺産(の1つ)となります。相続人が複数人いる場合,物権共有の中に遺産共有が含まれる状態になります。
ところで,遺産共有と物権共有では,分割手続の種類が異なります。
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の比較(法的性質・分割類型・分割手続の種類)
このようなケースで分割をする場合には,遺産分割と共有物分割のどちらを用いるか,という問題が生じます。
本記事では,このような状態になるプロセスと,その後の分割手続の種類について説明します。

2 物権共有+一部が遺産共有における相続人の分割請求の事案

共有者の1人が亡くなり,当該共有持分権を複数の相続人(共同相続人)が承継すると,被相続人が有していた共有持分権をさらに共有(複数人で所有)するということになります。
結論として,物権共有の中に遺産共有が含まれている状態となります。
分割手続の種類を説明する前に,判例として登場した事案の内容を整理しておきます。

<物権共有+一部が遺産共有における相続人の分割請求の事案(※1)>

あ 事案・概要

一般的な共有=物権共有であった
その後,共有者の1名に相続が生じた
物権共有と遺産共有の両方が含まれる状態になった

い 具体的事案

共有者=A・B・C
Cが亡くなった
Cの相続人=C1・C2・C3

う 最終的共有者

共有者=A・B・C1・C2・C3
※最高裁平成25年11月29日

3 物権共有+一部が遺産共有における相続人の分割請求の解釈

前記事案を前提として,分割手続の種類について説明します。
全体が遺産共有であるとはいえない状態なので,分割手続として遺産分割を使えません。消去法的に共有物分割の手続を用いることになります。
ただし,共同相続人(相続人グループ)の有する持分は遺産共有なので,遺産分割によって分割することになります。具体的には,共有物分割の中で,共同相続人全体が得た財産を,改めて(次の手続として)遺産分割によって分割する,ということになります。2重の入れ子構造として扱うのです。

<物権共有+一部が遺産共有における相続人の分割請求の解釈>

あ 判決文(引用)

共有物について,遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(以下『遺産共有持分』といい,これを有する者を『遺産共有持分権者』という。)と他の共有持分とが併存する場合,共有者(遺産共有持分権者を含む。)が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり,共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり,この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきものと解するのが相当である

い 要点

前記※1の事案を前提とする
共有関係の解消を求める手続は,共有物分割である
当事者は次の『ア・イ』のように扱う
ア 元々の共有者
A・Bのことである
イ 相続人グループ
C1・C2・C3を1グループとして扱う(後記※2)
※最高裁平成25年11月29日

4 共同相続人が得た財産の扱い(保管義務)

前記のように,第1段階である共有物分割で共同相続人(相続人グループ)が得た財産は,第2段階である遺産分割を行う対象となります。つまり,共有物分割で共同相続人が得た財産は,その時点では,最終的な帰属が決まっていない状態の財産ということになります。共同相続人が得た財産が(全面的価格賠償の)賠償金である場合には,この金銭を共同相続人のうち1人が保管する義務を負わされます。

<共同相続人が得た財産の扱い(保管義務)(※2)>

あ 基本的な獲得財産の扱い

相続人グループが得た財産について
→相続人間で遺産分割の対象となる
→遺産分割により帰属が確定する
C1・C2・C3において遺産分割をすることになる

い 価格賠償金の保管義務(※3)

相続人グループが価格賠償金を得た場合
裁判所は判決において,現物取得者に対し,各対価取得者が保管すべき範囲に応じた額の賠償金の支払を命じることができる
(保管すべき賠償金の分配・金額は裁判所が指定できる)
受領者(対価取得者)は金銭を保管する義務を負う
保管期限=遺産分割完了時まで
※最高裁平成25年11月29日
※村重慶一稿『共有地が遺産共有持分と他の共有持分である場合にどのように分割すべきか』/『戸籍時報717号』日本加除出版2014年10月p52

5 物権共有+一部が遺産共有の入れ子構造

前記の判例の理論は,不動産の所有権全体を2重の入れ子と考えると分かりやすいです。

<物権共有+一部が遺産共有の入れ子構造>

あ 物権共有

不動産全体がA・B・Cの3つの箱で分けられている
→これは『相続とは関係ない共有=物権共有』である
→『共有物分割』の対象となる

い 遺産共有

Cの箱の中には,小さい箱が3つ入っている
C1・C2・C3の3つ
→これは『相続による共有=遺産共有』である
→『遺産分割』の対象となる

6 物権共有と遺産共有の混在の経緯や分割請求者による違いの否定

ところで以上で説明した判例は,遺産共有と物権共有が混在するに至った経緯や分割請求をした者(原告)の立場によって違いはない(共有物分割とする)ことをはっきりと示しました。それまでの分かれていた解釈(後述)を統一したのです。

<物権共有と遺産共有の混在の経緯や分割請求者による違いの否定>

本判決(最高裁平成25年11月29日)は,昭和50年判決を踏襲しつつ,共有物について遺産共有持分と通常の共有持分との併存が生ずるに至った経緯や,共有物分割を求める者が遺産共有持分と通常の共有持分のいずれを有する者であるかにかかわらず,同様の理が妥当することを明らかにした点に意義がある。
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成25年度』p559

7 金銭保管義務の設定の不合理性(批判)

前記の判例では,相続人(共有者)の1人に金銭の保管義務が課されます。この手法について批判もあります。

<金銭保管義務の設定の不合理性(批判)>

あ 批判対象

判例では相続人に金銭の保管義務を課している(前記※3)
次のような不合理性が指摘されている

い 保管義務の法的根拠が不明

制度・規定として似ている保管義務は存在する(後記※4)
しかしいずれも前記判例の保管義務には適用されない
結局判例の保管義務は法的根拠が不明である

う 債権の可分性との矛盾

相続財産の金銭債権は可分と解釈されている
価格賠償金の請求権は各相続人に分割承継される
詳しくはこちら|一般的金銭債権の相続(分割承継・相続分の適用・遺産分割の有無)
→遺産分割の対象ではないことになる
前記判例はこの理論と整合しない
※『月報司法書士2014年4月号』日本司法書士会連合会p64〜

え 平成28年判例変更の関係

預貯金債権の相続に関して判例が変更された
→これと比較すると保管義務(前記※3)は整合的である
詳しくはこちら|平成28年判例が預貯金を遺産分割の対象にした判例変更の理由

8 『保管義務』に関連する規定(参考)

前記の判例で示された,相続人の1人の保管義務の性質を考えるにあたって,既存の規定(手続)に登場する保管義務が参考になります。

<『保管義務』に関連する規定(参考・※4)>

あ 相続人の保管義務

相続承認・相続放棄に関連して
相続人に保管義務が課されることがある
注意義務の程度=固有財産におけるのと同一の注意
『保管の対象物』についての明確な規定はない
※民法918条

い 財産管理人の保管義務

遺産分割審判に伴う保全処分として
財産管理人が選任されることがある
審判前の保全処分の1つである
遺産の管理をする制度である
※家事事件手続法105条1項
詳しくはこちら|審判前の保全処分の基本(家事調停・審判の前に行う仮差押や仮処分)

9 2種類の競売申立がなされたケースの財産の保管

以上のように,財産の保管義務については不明確なところがあります。これに関して,2つの競売の申立が同時になされたことを前提として,(審判前の保全処分として選任された)遺産についての財産管理人が(先行する共有物分割により共同相続人が取得した財産を)保管する方法が指摘されています。

<2種類の競売申立がなされたケースの財産の保管>

通常の共有持分と遺産共有持分が混在する共有物の共有物分割訴訟の判決に基づいて競売の申立がなされ,その後に遺産分割審判の中間処分としての競売の申立がなされた場合
遺産共有部分については後行手続における財産の管理人に交付するのが適切であるように思われる
※鈴木忠一ほか『注解民事執行法(8)』p392(両競売事件を別事件として扱うべきである)
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』光文堂2019年p1722

10 遺産の共有持分譲渡の後の分割手続の種類(概要)

以上の説明は物権共有の中に遺産共有が含まれるという状況を前提としていました。逆に,遺産共有の中に物権共有が含まれるというケースもあります。この場合の分割手続の判別についても判例や裁判例が判断を示しています。その中で,見解が分かれている解釈もありましたが,前述の平成25年判例が見解を統一しました。結果としては,本記事で説明した結論と同じになっています。
詳しくはこちら|遺産共有+一部が物権共有(遺産共有における共有持分譲渡)の分割手続の種類

本記事では,物権共有の中に遺産共有が含まれる状況になるプロセスと,その場合の分割手続の種類を説明しました。
実際には,個別的事情によって法的扱いや最適なアクションは違ってきます。
実際に,相続や共有に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。