【代償分割の要件(特別の事情)の解釈(学説・裁判例)】

1 代償分割の要件(特別の事情)の解釈(学説・裁判例)
2 「諸問題」による特別の事由の解釈
3 石村太郎氏による特別の事由の解釈
4 石田敏明氏による特別の事由の解釈
5 「特別の事情」の解釈を示した裁判例

1 代償分割の要件(特別の事情)の解釈(学説・裁判例)

遺産分割の分割類型の1つに代償分割があります。条文上,「特別の事情」(以前は「特別の事由」)がある場合に代償分割を選択できると規定されています。
詳しくはこちら|遺産分割における代償分割の基本(規定と要件)
本記事では,「特別の事情」の解釈,つまり,代償分割の要件に関するいろいろな解釈(学説や裁判例)を紹介します。

2 「諸問題」による特別の事由の解釈

代償分割ができるための「特別の事由」(特別の事情)についてはいろいろな解釈(学説)が示されています。最初に,よくまとめられている解釈を紹介します。要するに現物分割が原則という前提で,これが不可能か,不合理である場合に代償分割を選択できるという内容です。また,債務を負担する者(対価を支払う者)に資力があることも必要であると指摘されています。

<「諸問題」による特別の事由の解釈>

(代償分割が認められる「特別の事由」として)
第1に,現物分割が不可能な場合,
第2に,現物分割が可能であるが,分割後の財産の価値を著しく損なう場合,
第3に,現物分割は可能であり,第2のような事情もないが,特定の遺産に対する特定の相続人の利用を保護する必要がある場合,
第4に,以上のような事情がなくとも,当事者間に合意が成立しているか,少なくとも,代償分割をすることについて異議がないような場合
・・・
以上の事由に加えて,債務負担を命じられる相続人に債務支払の資力があることが要件となる。
※田中壯太ほか『遺産分割事件の処理をめぐる諸問題』p318
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p395参照

3 石村太郎氏による特別の事由の解釈

代償分割を認めるための「特別の事由」について,別の解釈を紹介します。前記の解釈(要件)と比べると,細かい違いはありますが,大枠に違いはありません。

<石村太郎氏による特別の事由の解釈>

(代償分割が認められる「特別の事由」の一般的基準として)
現物分割によることが物理的,社会的あるいは経済的に不可能であること,
現物分割が可能であっても,遺産の内容・性質や相続人の職業・年齢等一切の事情(民法906条)から代償分割によるのが合理的と判断される場合であること,
共同相続人間において,代償分割によることを不相当と判断せざるを得ないような際立った対立がないこと,
以上いずれの場合においても債務の支払が確実であること
等が挙げられる
※石村太郎『債務負担の方法による分割をめぐる問題点』/『判例タイムズ臨時増刊 遺産分割・遺言215題』p235

4 石田敏明氏による特別の事由の解釈

次に,代償分割と現物分割の関係に着目した解釈を紹介します。現物分割が不可能である場合に,消去法的に代償分割を選択できることを前提として,現物分割が可能であったとしても,代償分割の必要性が高い(相当である)場合には代償分割を選択できる,という指摘です。

<石田敏明氏による特別の事由の解釈>

(代償分割が認められる「特別の事由」として)
現物分割が可能であるにもかかわらず代償分割を適当とする場合とは,遺産が農地や営業用財産で特定の職業の相続人に取得させるのが相当であったり,遺産の利用関係や相続人の心身の事情から特定の遺産を特定の相続人に取得させるのが相当な場合をいう
※石田敏明/『注解家事審判規則』p313

5 「特別の事情」の解釈を示した裁判例

多くの裁判(審判,決定)が,代償分割の判断をしています。その中で,「特別の事情」の一般的解釈を示したものを紹介します。現物分割にした場合に財産が細分化するということや,支払能力が指摘されています。以上の学説と基本的に変わりません。

<「特別の事情」の解釈を示した裁判例>

(全面的価格賠償に相当する代償分割について)
「特別の事情」があるときとは,相続財産が細分化を不適当とするものであり,共同相続人間に代償金支払の方法によることにつき争いがなく,当該相続財産の評価額がおおむね共同相続人間で一致しており,しかも,相続財産を取得する相続人に債務の支払能力がある場合に限られる
※大阪高決昭和54年3月8日

本記事では,代償分割の要件についてのいろいろな解釈(見解)を説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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