【競合する共有物分割と遺産分割の連携(保管義務・実情)】

1 競合する共有物分割と遺産分割の連携(保管義務・実情)

遺産共有と物権共有(通常の共有)が混在する状態で共有物全体の共有の解消をするには、原則として、共有物分割遺産分割の両方を行う必要があります。この場合には2つの分割手続の連携が必要になります。本記事ではこのことを説明します。

2 遺産共有と物権共有の混在における分割手続(概要)

遺産共有と物権共有が混在している場合に、2つの分割手続が必要になるのはなぜでしょうか。それは、共有物分割訴訟では遺産共有を解消できないからです。このルールですが、令和3年の民法改正で例外が作られました。現在では、例外的に共有物分割訴訟だけで完全に共有を解消できるケースもあります。
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の混在における共有物分割(令和3年改正民法258条の2)
逆に、例外に当てはまらない場合には、改正前(原則)どおりに、(完全に共有を解消するには)2つの分割手続が必要、ということになります。
この場合の共有物分割訴訟の裁判所の対応には工夫が必要になります。遺産共有を解消できないので、遺産共有部分は共有を維持します。具体的には、相続人全体として取得する財産を定めるにとどめ、この財産を、その後の遺産分割の対象とするようにします。
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の混在における分割手続(まとめ・令和3年改正前)

3 共同相続人が得た財産の扱い(保管義務)

前記のように、第1段階である共有物分割で共同相続人(相続人グループ)が得た財産は、第2段階である遺産分割を行う対象となります。つまり、共有物分割で共同相続人が得た財産は、その時点では、最終的な帰属が決まっていない状態の財産ということになります。共同相続人が得た財産が(全面的価格賠償の)賠償金である場合には、この金銭を共同相続人のうち1人が保管する義務を負わされます。

共同相続人が得た財産の扱い(保管義務)(※1)

あ 基本的な獲得財産の扱い

相続人グループが得た財産について
→相続人間で遺産分割の対象となる
→遺産分割により帰属が確定する
C1・C2・C3において遺産分割をすることになる

い 価格賠償金の保管義務

相続人グループが価格賠償金を得た場合
裁判所は判決において、現物取得者に対し、各対価取得者が保管すべき範囲に応じた額の賠償金の支払を命じることができる
(保管すべき賠償金の分配・金額は裁判所が指定できる)
受領者(対価取得者)は金銭を保管する義務を負う
保管期限=遺産分割完了時まで
※最高裁平成25年11月29日
※村重慶一稿『共有地が遺産共有持分と他の共有持分である場合にどのように分割すべきか』/『戸籍時報717号』日本加除出版2014年10月p52

4 金銭保管義務の設定の不合理性(批判)

前記の判例では、相続人(共有者)の1人に金銭の保管義務が課されます。この手法について批判もあります。

金銭保管義務の設定の不合理性(批判)

あ 批判対象

判例では相続人に金銭の保管義務を課している(前記※1
次のような不合理性が指摘されている

い 保管義務の法的根拠が不明

制度・規定として似ている保管義務は存在する(後記※2
しかしいずれも前記判例の保管義務には適用されない
結局判例の保管義務は法的根拠が不明である

う 債権の可分性との矛盾

相続財産の金銭債権は可分と解釈されている
価格賠償金の請求権は各相続人に分割承継される
詳しくはこちら|一般的金銭債権の相続(分割承継・相続分の適用・遺産分割の有無)
→遺産分割の対象ではないことになる
前記判例はこの理論と整合しない
※『月報司法書士2014年4月号』日本司法書士会連合会p64〜

え 平成28年判例変更の関係

預貯金債権の相続に関して判例が変更された
→これと比較すると保管義務(前記※1)は整合的である
詳しくはこちら|平成28年判例が預貯金を遺産分割の対象にした判例変更の理由

5 保管義務を規定する条文(参考)

前記の判例で示された、相続人の1人の保管義務の性質を考えるにあたって、既存の規定(手続)に登場する保管義務が参考になります。

保管義務を規定する条文(参考)(※2)

あ 相続人の保管義務

相続承認・相続放棄に関連して
相続人に保管義務が課されることがある
注意義務の程度=固有財産におけるのと同一の注意
『保管の対象物』についての明確な規定はない
※民法918条

い 財産管理人の保管義務

遺産分割審判に伴う保全処分として
財産管理人が選任されることがある
審判前の保全処分の1つである
遺産の管理をする制度である
※家事事件手続法105条1項
詳しくはこちら|審判前の保全処分の基本(家事調停・審判の前に行う仮差押や仮処分)

6 2種類の競売申立がなされたケースの財産の保管

以上のように、財産の保管義務については不明確なところがあります。これに関して、2つの競売の申立が同時になされたことを前提として、(審判前の保全処分として選任された)遺産についての財産管理人が(先行する共有物分割により共同相続人が取得した財産を)保管する方法が指摘されています。

2種類の競売申立がなされたケースの財産の保管

通常の共有持分と遺産共有持分が混在する共有物の共有物分割訴訟の判決に基づいて競売の申立がなされ、その後に遺産分割審判の中間処分としての競売の申立がなされた場合
遺産共有部分については後行手続における財産の管理人に交付するのが適切であるように思われる
※鈴木忠一ほか『注解民事執行法(8)』p392(両競売事件を別事件として扱うべきである)
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』光文堂2019年p1722

7 共有物分割と共有物分割の競合の実情

以上のように、2つの分割手続の「つなぎ」として、保管義務があることが判例で示されています。これで2つの分割手続がうまく連携するようになっています。
この点、現実には、2つの分割手続のうち、先に行う(ことになりがちな)共有物分割で有用な財産の帰属が決まってしまい、次の遺産分割にしわよせがくる(相続人は不利益を受ける)、という指摘がなされています。

共有物分割と共有物分割の競合の実情

遺産相続がこのような状況の場合に、遺産分割手続と共有物分割手続(訴訟)とが競合するときに、両者が両立するか又は同一手続内で審理・裁判(審判)することはできなく、何れか一方の手続によってそれぞれの関係者間の共有関係の解消を進めるべきことであるが、現実にはなぜか共有関係の解消を進める手続は結果的に通常民事訴訟手続に含まれる共有物分割手続(訴訟)を優先させてその限度での現物分割をまず認めていることが圧倒的のようである。
そして、共有物分割手続(訴訟)の優先により結果的には、後からなされる被相続人の遺産分割手続の意味をなくさせ、又は非常に価値なくさせる結果になる場合が多いことが予測されるといえる。
というのは、共有物分割訴訟の現物分割により相続財産の一番意味のある(ある意味ではおいしいところないし甘い)ところは、外部の共有者の手元に確保される可能性が強いことを容認せざるを得ないことになる。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p65、66

本記事では、共有物分割と遺産分割の両方を行う状況における、この2つの分割手続の連携や実情を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に相続財産(不動産)の共有や遺産分割の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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