1 相続放棄により相続人ではない扱いとなる(相続放棄の全体像)
2 相続放棄を活用する典型的事情
3 相続放棄の基本
4 住宅ローンは生命保険で完済となる場合がある(参考)
5 相続放棄の熟慮期間は3か月|満了すると単純承認になる
6 熟慮期間は家裁で延長する手続(熟慮期間伸長の申立)
7 熟慮期間の起算点が繰り下げられることもある(概要)
8 相続放棄の申述の家裁の審判手続と審理の程度
9 相続開始前の相続放棄(遺産分割)の効果(無効)
10 相続放棄の細かい効果・他の手続との関係|遺産分割・姻族関係終了
11 相続分の放棄との違い(概要)
12 共有持分放棄との違い(概要)

1 相続放棄により相続人ではない扱いとなる(相続放棄の全体像)

相続人ではあっても、財産はいらないので、相続に一切関わりたくない、ということもあります。その場合は相続放棄により、相続人ではなかった扱いを受けることができるようになります。
本記事では、相続放棄の基本的なことを説明します。

2 相続放棄を活用する典型的事情

相続放棄を活用することが適している状況にはいろいろなものがあります。
被相続人が負っていた債務(マイナス財産)を承継したくない、というものが典型ですが、逆に、プラス財産を承継したくない、という状況もあります。また、財産とは関係なく、単に気持ちとして相続(他の相続人)に関与したくない、という状況もあります。
さらに、相続人となることで賃貸借や使用貸借契約が終了してしまうので、これを避けるため、という少し変わった状況もあります。

相続放棄を活用する典型的事情

あ 相続に関与したくない

ア 債務の承継の回避 債務の承継を避けたい
イ 財産の承継の回避 相続人自身の債権者に、承継した財産を差し押さえられることを避けたい
ウ 心理的な関わり排除 心情的に相続に関わりたくない

い 相続による法的リスク回避

ア 賃貸借・使用貸借の終了の回避 相続人(の1人)であることにより、賃貸借契約や使用貸借契約が終了してしまう、という状況もある
詳しくはこちら|近親者間の賃貸借・使用貸借における貸主の死亡による混同(契約終了)

3 相続放棄の基本

相続放棄を使う場合には、家庭裁判所への申立が必要です。そして申立の期間も、3か月だけに限定されています。
家庭裁判所での相続放棄の手続を行えば、相続人から除外される扱いを受けることになります。

相続放棄の基本

あ 申立ができる期間

相続開始があったことを知ってから3か月

い 家裁の決定

真意であることが確認されれば認められる
当事者が裁判所に出席することを求められないことが多い

う 相続放棄の効果

ア 基本 最初から相続人ではなかったことになる
プラス財産・マイナス財産(債務)を一切承継しない
税金も承継しない
※民法915条1項、938条、939条
イ 特定遺贈の効果(維持) 相続放棄をしても、特定遺贈などは効力が維持される
詳しくはこちら|相続の良いトコ取り作戦|債務・望まぬ不動産を承継しない×欲しい財産は承継

なお、相続人が相続放棄をしない場合は、相続を承認することになります。一定の条件付きで承認する限定承認という手続もあります。
詳しくはこちら|限定承認|基本|活用場面・対象財産・相続債権者の請求訴訟・相殺

4 住宅ローンは生命保険で完済となる場合がある(参考)

「住宅ローンを承継したくないので相続放棄をしたい」と考える方もいらっしゃいます。
しかし、一般的な住宅ローンでは、前提条件として、生命保険加入が必要となっています。
金融機関が手続を行うので、あまり意識しないことが多いです。
団体信用生命保険(団信)と言います。
相続放棄の判断の前に、金融機関に確認すると良いでしょう。

5 相続放棄の熟慮期間は3か月|満了すると単純承認になる

相続放棄をするには、家庭裁判所への申立が必要です。相続放棄の申述(しんじゅつ)と言います。相続放棄の申述には3か月の期間制限があります。
この3か月は、相続放棄をするか、承認するかの判断をする期間という意味で、熟慮期間と呼んでいます。
3か月の期間に相続放棄(や限定承認)の申立をしないと、単純承認という扱いになります。これを法定単純承認と言います。

熟慮期間の基本的内容

あ 相続放棄・限定承認の期間制限

相続放棄・限定承認をせずに熟慮期間(い)が満了した場合
→単純承認をしたとみなされる
※民法921条2号
詳しくはこちら|法定単純承認|基本・種類|背信行為=隠匿・私的消費・財産目録不記載

い 熟慮期間の条文規定

自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月
※民法915条1項本文、938条、939条
詳しくはこちら|相続放棄により相続人ではない扱いとなる(相続放棄の全体像)

6 熟慮期間は家裁で延長する手続(熟慮期間伸長の申立)

事情によっては、承認するか相続放棄をするかの『熟慮期間』を3か月以上欲しい、ということもあります。
このような場合は、家裁で『延長』してもらう手続があります。
これについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|相続承認と相続放棄|承認には単純承認と限定承認がある|熟慮期間・伸長の手続

7 熟慮期間の起算点が繰り下げられることもある(概要)

実際には、相続放棄などをするかどうかを判断できないまま熟慮期間が経過してしまうこともあります。
文字どおり、十分に検討する機会があればよいのですが、そうではないこともあります。
そこで、特殊な事情がある場合は、熟慮期間がまだ進んでいないと判断して、救済的に相続放棄や限定承認の申述を認めることもあります。
詳しくはこちら|相続放棄の熟慮期間の起算点とその繰り下げ(限定説と非限定説)

8 相続放棄の申述の家裁の審判手続と審理の程度

相続放棄をするためには、家庭裁判所の審判の手続が必要です。
家裁は、相続放棄の要件について審査することになります。
相続放棄の申述を認める(受理する)審判があっても、相続放棄の効果が確定するわけではありません。
詳しくはこちら|相続放棄の申述の家庭裁判所の手続と受理する審判の効果
このようなことから、裁判所は、相続放棄の要件について、とても粗い審査しかしません。
最小限の証拠だけがあれば相続放棄の申述を認める(受理する)のです。
詳しくはこちら|相続放棄申述の審理での家裁の審査の程度は低い(明白性基準)

9 相続開始前の相続放棄(遺産分割)の効果(無効)

ところで、将来の親Aの相続を見越して、事前にAの子であるBとCの間で、「Cは相続放棄をする」と約束する、あるいは、「Aの全財産をBが相続(取得)する」と約束しておく、という発想もあります。実際にそのような合意をしたケースもあります。
しかし、このような事前(相続開始前)の、相続放棄や遺産分割の合意や意思表示は無効となります。
相続についての判断は、いろいろな民法の規定が細かく期間制限を決めているので、(期限後はもちろん)早すぎる判断も禁じている、と考えるのです。

相続開始前の相続放棄(遺産分割)の効果(無効)

あ 相続放棄の意思表示

相続開始前の相続放棄の意思表示は無効である
※大判昭和14年6月7日

い 相続放棄の合意

相続開始前の相続放棄の合意は無効である
※大決大正6年11月9日

う 相続放棄・遺産分割の意思表示

遺産の範囲は相続の開始により初めて確定するのであって、その相続放棄分割協議意思表示は、そのとき以後における各相続人の意思によりなさるべきものである
※横浜地川崎支判昭和44年12月5日
※東京家審昭和52年9月8日参照

え 遺産分割協議

遺産分割協議の対象となる相続財産の有無及びその範囲は、相続開始時において定まるものであって、仮に相続債務が存在した場合には、遺産分割協議において相続財産を取得しなかった者も債権者との関係においては債務を免れるものではないことからすると、相続人による遺産分割協議は相続開始後に行われることが当然の前提とされており、その限りにおいて効力を有するものと解すべきであり、そして、民法915条1項は、相続の承認・放棄をなすべき期間を、相続人が、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内とし、相続放棄の申述を家庭裁判所に対して行うことを求めていることや(同法938条)、同法1043条1項が、相続開始前の遺留分の放棄については家庭裁判所の許可にかからしめていることなどに照らしても、相続開始前の遺産分割協議は効力を有しないものと解さざるを得ない。
※東京地判平成15年3月6日

お 将来取得する持分の放棄と譲渡

相続開始前に、相続財産となるべき特定の財産につき、相続により取得すべき持分権を放棄したり、これを他の相続人に対して譲渡する契約は無効である
※札幌高判昭和59年10月22日
※犬伏由子稿/谷口知平 ほか編『新版 注釈民法(27)補訂版』有斐閣2013年p615参照

10 相続放棄の細かい効果・他の手続との関係|遺産分割・姻族関係終了

相続放棄の効果は、細かいものは複雑です。
遺留分や特別受益との関係、税務上の扱いなどです。
また、似ている手続もいくつかあります。
よく誤解してしまい、深刻な問題が生じることもあります。
このような内容については別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|相続放棄の効果・他の制度との関係|遺産分割・遺留分・特別受益・姻族関係終了

11 相続分の放棄との違い(概要)

『相続の放棄』という手法(手続)があります。用語は『相続放棄』と似ているのですが、大きく異なるものです。この2つを混同(誤解)している方もよくいらっしゃいます。
『相続分の放棄』については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続分の放棄の全体像(相続放棄との違い・法的性質・効果・家裁の手続排除決定)

12 共有持分放棄との違い(概要)

相続放棄相続分放棄とは別の手段として、遺産の中の特定の財産について共有持分放棄をする、ということも可能です。もちろん、どのような状況で使えるのか、また、この手段を用いた場合にどのような効果が生じるのか、ということは大きく異なります。遺産の中の財産の共有持分放棄については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺産の中の特定財産の処分(遺産共有の共有持分の譲渡・放棄)の可否

本記事では、相続放棄の基本的な内容を説明しました。
実際には、具体的な状況によって最適な手段は違ってきます。
実際に相続放棄などの相続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。