1 『相続に関わりたくない』場合は『相続放棄』ができる
2 住宅ローンは『生命保険で完済となる』場合があるので注意
3 相続放棄の熟慮期間は3か月|満了すると『単純承認』になる
4 熟慮期間は家裁で延長する手続もある|熟慮期間伸長の申立
5 熟慮期間の起算点が繰り下げられることもある(概要)
6 相続放棄の申述の家裁の審判手続と審理の程度
7 相続開始前に『相続放棄』を調印しても無効となる
8 相続放棄の細かい効果・他の手続との関係|遺産分割・姻族関係終了

1 『相続に関わりたくない』場合は『相続放棄』ができる

相続人ではあっても,相続に一切関わりたくない,ということもあります。

<相続放棄を活用する典型的事情>

あ 相続に関与したくない

ア 債務の承継を避けたい
イ 相続人自身の債権者に,承継した財産を差し押さえられることを避けたい
ウ 心情的に相続に関わりたくない

い 相続による法的リスク回避

ア 賃貸借・使用貸借の終了を回避する
詳しくはこちら|近親者間の賃貸借・使用貸借×貸主の死亡|混同消滅→契約終了

このような場合,相続放棄の手続により,相続人から除外されます。

<相続放棄の申立>

あ 申立ができる期間

相続開始があったことを知ってから3か月

い 家裁の決定

真意であることが確認されれば認められる
当事者が裁判所に出席することを求められないことが多い

う 相続放棄の効果

『最初から相続人ではなかった』ことになる
ただし『特定遺贈』などは効力が維持される(※1)

え 具体的な『承継しない』内容

プラス財産・マイナス財産(債務)を一切承継しない
税金も承継しない
※民法915条1項,938条,939条

<相続放棄→効力が維持されるもの(上記※1)>

『特定遺贈』など,一定範囲で効力が維持される
詳しくはこちら|相続の良いトコ取り作戦|債務・望まぬ不動産を承継しない×欲しい財産は承継

逆に,相続人が相続放棄をしない場合は,相続を承認することになります。
一定の条件付きで承認する限定承認という手続もあります。
詳しくはこちら|限定承認|基本|活用場面・対象財産・相続債権者の請求訴訟・相殺

2 住宅ローンは『生命保険で完済となる』場合があるので注意

『住宅ローンを承継したくないので相続放棄をしたい』と考える方もいらっしゃいます。
しかし,一般的な住宅ローンでは,前提条件として,生命保険加入が必要となっています。
金融機関が手続を行うので,あまり意識しないことが多いです。
団体信用生命保険(団信)と言います。
相続放棄の判断の前に,金融機関に確認すると良いでしょう。

3 相続放棄の熟慮期間は3か月|満了すると『単純承認』になる

相続放棄をするには,家庭裁判所への申立が必要です。
相続放棄の申述(しんじゅつ)と言います。
相続放棄の申述には期間制限があります。

<熟慮期間の基本的内容>

あ 相続放棄・限定承認の期間制限

相続放棄・限定承認をせずに熟慮期間(い)が満了した場合
→単純承認をしたとみなされる
※民法921条2号
詳しくはこちら|法定単純承認|基本・種類|背信行為=隠匿・私的消費・財産目録不記載

い 熟慮期間の条文規定

自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月
※民法915条1項本文,938条,939条
詳しくはこちら|相続放棄により相続人ではない扱いとなる(相続放棄の全体像)

『相続放棄をするか,承認するかの判断をする期間』という趣旨です。
そこでこの期間を熟慮期間と言います。
期間切れになると単純承認という扱いになります。
これを法定単純承認と言います。

4 熟慮期間は家裁で延長する手続もある|熟慮期間伸長の申立

事情によっては,承認するか相続放棄をするかの『熟慮期間』を3か月以上欲しい,ということもあります。
このような場合は,家裁で『延長』してもらう手続があります。
これについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|相続承認と相続放棄|承認には単純承認と限定承認がある|熟慮期間・伸長の手続

5 熟慮期間の起算点が繰り下げられることもある(概要)

実際には,相続放棄などをするかどうかを判断できないまま熟慮期間が経過してしまうこともあります。
文字どおり,十分に検討する機会があればよいのですが,そうではないこともあります。
そこで,特殊な事情がある場合は,熟慮期間がまだ進んでいないと判断して,救済的に相続放棄や限定承認の申述を認めることもあります。
詳しくはこちら|相続放棄の熟慮期間の起算点とその繰り下げ(限定説と非限定説)

6 相続放棄の申述の家裁の審判手続と審理の程度

相続放棄をするためには,家庭裁判所の審判の手続が必要です。
家裁は,相続放棄の要件について審査することになります。
相続放棄の申述を認める(受理する)審判があっても,相続放棄の効果が確定するわけではありません。
詳しくはこちら|相続放棄の申述の家庭裁判所の手続と受理する審判の効果
このようなことから,裁判所は,相続放棄の要件について,とても粗い審査しかしません。
最小限の証拠だけがあれば相続放棄の申述を認める(受理する)のです。
詳しくはこちら|相続放棄申述の審理での家裁の審査の程度は低い(明白性基準)

7 相続開始前に『相続放棄』を調印しても無効となる

被相続人の生前から,『相続放棄』の内容を調印しているケースも散見されます。
しかし,このような意思表示は明確に記録化していても無効となります。
※札幌高裁昭和59年10月22日
この点,大審院大正5年8月12日は実質的な相続放棄契約の有効性を認めています。
とは言っても,これが一般論として現在も先例として効力があるとは考えられていません。

8 相続放棄の細かい効果・他の手続との関係|遺産分割・姻族関係終了

相続放棄の効果は,細かいものは複雑です。
遺留分や特別受益との関係,税務上の扱いなどです。
また,似ている手続もいくつかあります。
よく誤解してしまい,深刻な問題が生じることもあります。
このような内容については別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|相続放棄の効果・他の制度との関係|遺産分割・遺留分・特別受益・姻族関係終了