1 遺産の中の特定財産の処分(遺産共有の共有持分の譲渡・放棄)の可否
2 遺産共有の性質(共有説・前提)
3 遺産の中の特定財産の処分
4 遺産の中の特定財産(共有持分)の譲渡
5 遺産の中の特定財産(遺産共有)の共有持分放棄
6 遺産の譲渡と遺産分割の優劣(概要)
7 遺産の中の特定財産の処分の後の分割手続(概要)
8 遺産の共有持分の(2次)遺産分割(参考)
9 相続放棄・相続分放棄・相続分譲渡との違い(概要)

1 遺産の中の特定財産の処分(遺産共有の共有持分の譲渡・放棄)の可否

遺産分割が未了である状態では、普通であれば遺産分割によって共有状態が解消されます。この点、遺産分割未了の状態でも、遺産の処分、つまり共有持分の譲渡や共有持分放棄は可能です。
本記事では、このことについて説明します。

2 遺産共有の性質(共有説・前提)

遺産分割が未了の状態で相続人が複数いる(共同相続人)場合には、法定相続によって遺産は共有となっています。この共有のことを遺産共有といいます。遺産共有は、分割手続以外は物権共有(通常の共有)と同じ性質です。この法的性質は、以下説明する理論の土台となっています。

遺産共有の性質(共有説・前提)

相続財産の共有は、民法改正の前後を通じ、民法249条以下に規定する『共有』とその性質を異にするものではない
※最高裁昭和30年5月31日
(注・民法改正とは昭和22年改正のことである)
詳しくはこちら|遺産共有の法的性質(遺産共有と物権共有の比較)

3 遺産の中の特定財産の処分

遺産共有も物権共有の性質と同じであるので、共有持分の(物権的な)処分は可能であることになります。民法の規定も物権的処分を前提としたものがあります。

遺産の中の特定財産の処分

あ 遺産の処分に関係する民法の条文

ア 平成30年改正民法以前からある条文 (遺産の分割の効力)
第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
※民法909条
イ 平成30年改正民法により新設された条文 (遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
第九百六条の二 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
※民法906条の2

い 民法の条文の解釈

民法909条ただし書は、相続財産を構成する個々の権利についての持分を有効に処分することを認めている
※佐藤義彦稿『遺産分割か共有物分割か』/『判例タイムズ671号』1988年10月p90
民法906条の2も、同様に明確に相続財産の中の特定財産の処分を認めている

う 判例(概要)

判例は、相続財産の中の特定財産について、(処分の1つである)譲渡を認めている(後記※1

え 見解

共同相続人が遺産分割前にその共有持分を処分することは禁じられていない
※堂薗幹一郎ほか編著『一問一答 新しい相続法−平成30年民法等(相続法)改正、遺言書保管法の解説』商事法務2019年p93
※風間鶴寿『相続分の譲渡』/『契約法大系Ⅱ』1962年p53〜
※田中恒朗稿『判例タイムズ367号 臨時増刊 主要民事判例解説』p55〜

4 遺産の中の特定財産(共有持分)の譲渡

遺産の処分の代表的なものは(共有持分の)譲渡です。判例はこれをストレートに認めています。

遺産の中の特定財産(共有持分)の譲渡(※1)

あ 遺産の中の特定財産の共有持分譲渡

ア 昭和38年判例 遺産に属する特定財産上の持分を譲渡することは可能である
※最判昭和38年2月22日
詳しくはこちら|共有者の不正な登記の抹消請求の判例・裁判例の集約
イ 昭和50年判例 共同相続人の1人から遺産を構成する特定不動産について同人の有する共有持分権を譲り受けた第三者は、適法にその権利を取得することができる
※最高裁昭和50年11月7日

う 学説のまとめ

遺産分割前に、遺産に属する特定の権利についての持分的権利を第三者に譲渡することができることについては、異論もあるが、これを肯定するのが現在の多数説であり、最判昭和38年2月22日はこのことを前提としていると解される
※佐藤義彦稿『遺産分割か共有物分割か』/『判例タイムズ671号』1988年10月p91

え 譲受人の属性(参考)

遺産の中の特定財産の共有持分の譲渡は、第三者に対してだけではなく、他の相続人(共有者)に対して行うことも想定されている
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の混在(遺産譲渡タイプ)における分割手続

5 遺産の中の特定財産(遺産共有)の共有持分放棄

一般的に、共有者は、共有持分放棄をすることができます。
詳しくはこちら|共有持分放棄の基本(法的性質・通知方法など)
ここで、遺産共有(遺産分割未了の状態)でも共有持分放棄ができるか、という疑問も一応あります。これは、相続人の間で遺産分割をするとか、相続分放棄や相続分譲渡(後述)が可能なので、こちらが優先されるというような発想です。
しかし、遺産共有物権共有の違いは分割の手続だけです(前記)。そこで、持分放棄に関しては違いはない(物権共有と同じ扱いとなる)ので、可能であるはずです。古い判例も一般的な学説もストレートに肯定しています。結局、遺産の中の特定財産の処分は広く認められるといえます。

遺産の中の特定財産(遺産共有)の共有持分放棄

あ 判例

相続の放棄を認むべきものに非ずといえども本件被相続人の有せし共有地持分の如き個々の財産に付き其遺産相続人の放棄ありたるや否を判定するに当たりては必ずしも裁判所に対する放棄の申述に依ることを要せず(現代語化)
※大判大正5年12月27日

い 裁判例

(遺産共有の状態を前提として)
遺産相続を放棄したるにあらずして遺産相続により取得したるものなること・・・遺産相続放棄の手続によらざるも右持分の放棄は法律上有効なることは論をまたず・・・
※東京控判大正9年4月14日(新聞1757号p17)

う 注釈民法の見解

相続財産のうち、有体物については、個々の相続財産上の共有持分を放棄することができる
放棄した相続人の共有持分は、他の共有者にその共有持分に応じて帰属する
※谷口知平ほか編『新版注釈民法(27)相続(2)補訂版』有斐閣2013年p287

え 判例先例相続法の見解

遺産分割前においても、民法255条により、相続財産のうち有体物については、個々の相続財産上の共有持分を放棄することができる。遺産共有は物権法上の共有とその性質を異にするものではない以上、民法255条の適用を肯定してよいだろう。
※松原正明著『全訂 判例先例 相続法Ⅱ』日本加除出版2006年p203

お 遺産分割・相続放棄を優先とする発想(参考)

遺産性の喪失が共有物分割の要件であるが、共有持分放棄も同じとする発想
(単なる発想で一般的な見解とはいえない)
※『月報司法書士2017年12月』p20(相続放棄優先)

6 遺産の譲渡と遺産分割の優劣(概要)

以上のように、遺産の中の特定財産(の共有持分)の譲渡は可能ですが、その後に遺産分割が合意や審判で完了した時に、その遺産の譲渡について登記がなされていれば有効ですが、登記がないと譲渡は無効(権利を取得できない)となります。

遺産の譲渡と遺産分割の優劣(概要)

あ 遺産分割の遡及効(原則)

遺産分割の効果は相続開始時に遡及する
→遺産分割前に遺産を譲り受けた者(第三者)は権利を取得できないはずである

い 遺産分割前の第三者の保護(例外)

遺産分割前に遺産を譲り受けた者(第三者)が登記(対抗要件)を得ている場合
→第三者が優先される(権利を取得する)
※民法909条ただし書
詳しくはこちら|遺産分割『前』の第三者と遺産分割の優劣(権利保護要件としての登記)

う 特定財産承継遺言と遺産の譲渡の優劣(参考)

遺言と遺産の譲渡の優劣関係は、平成30年改正民法の施行前後で扱いが変わった
詳しくはこちら|『相続させる』遺言(特定財産承継遺言)の法的性質や遺産の譲渡との優劣

7 遺産の中の特定財産の処分の後の分割手続(概要)

遺産の中の特定財産(共有持分)の譲渡や放棄がなされた場合、その後の分割手続(共有を解消する手続)の種類や具体的な分割の方法はどうなるのか、という問題があります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の混在(遺産譲渡タイプ)における分割手続
詳しくはこちら|遺産の中の特定財産の処分(譲渡)の後の遺産分割(不公平の是正)

8 遺産の共有持分の(2次)遺産分割(参考)

以上で説明したのは、共有持分の「処分」です。「処分」そのものではなくて、「遺産分割」ができるか、という問題があります。状況はやや複雑です。1次相続が未分割で遺産共有の状態で、相続人の1人が亡くなった(2次相続)というケースです。
2次相続の相続人の立場では、(1次相続で生じた)遺産共有の共有持分が遺産分割の対象となります。
なお、平成17年最判は、「1次相続の分割が未了であるから2次相続の遺産分割の対象はない(から遺産分割はできない)」という原審判断を否定しています。

遺産の共有持分の(2次)遺産分割(参考)

遺産は、相続人が数人ある場合において、それが当然に分割されるものでないときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属し、この共有の性質は、基本的には民法249条以下に規定する共有と性質を異にするものではない(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁、最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁、最高裁昭和57年(オ)第184号同61年3月13日第一小法廷判決・民集40巻2号389頁参照)。
そうすると、共同相続人が取得する遺産の共有持分権は、実体上の権利であって遺産分割の対象となるというべきである。
※最判平成17年10月11日

9 相続放棄・相続分放棄・相続分譲渡との違い(概要)

遺産の共有持分を放棄するのと似ている手段として、相続放棄相続分放棄があります。一般の方で間違えている方が多いので注意を要します。
相続放棄は、家庭裁判所の申述の手続を行うことによって、相続人ではなくなるものです。期間制限があります。また、特定の財産についてだけ相続放棄をするということはできません。
相続分放棄は、意思表示(通知)によって、相続人としての地位は維持しつつ、遺産分割の当事者から脱するというものです。期間制限はありません。特定の財産についてだけ相続分放棄をするということはできません。
細かい違いはありますが、相続放棄・相続分放棄で共通しているのは、遺産分割に参加しなくてすむようになることです。
一方、相続人が共有持分放棄をしても、相続人でもあることと、遺産分割の当事者であることは変わりません。つまり遺産分割に参加する立場は変わらないのです。また、共有持分放棄は特定の財産を対象として行います。
相続放棄相続分放棄については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続分の放棄の全体像(相続放棄との違い・法的性質・効果・家裁の手続排除決定)
詳しくはこちら|相続放棄により相続人ではない扱いとなる(相続放棄の全体像)
さらに、共有持分の譲渡とは別に相続分の譲渡という手段もあります。これも間違えやすいのですが、内容は大きく違います。相続分の譲渡については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続分譲渡|遺産分割に参加する立場ごとバトンタッチできる

本記事では、遺産共有の状態で共有持分放棄をすることについて説明しました。
実際には、具体的な事情によって、最適な手段は違ってきます。
実際に相続や共有に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。