【相続放棄申述の審理での家裁の審査の程度は低い(明白性基準)】
1 相続放棄の申述の審理における家裁の審査の程度
2 相続放棄の審理と熟慮期間の関係の実情
3 相続放棄の審理に程度に関する明白性基準
4 明白性基準を使った具体的な判断の方法
5 明白性基準により判断をした多くの裁判例がある(概要)
1 相続放棄の申述の審理における家裁の審査の程度
相続人が相続放棄をする場合は,家庭裁判所の審判という手続を行う必要があります。
詳しくはこちら|相続放棄により相続人ではない扱いとなる(相続放棄の全体像)
家裁の審判では,どのような内容をどの程度審理(判断)するのかという問題があります。
つまりどのような基準で相続放棄の申述を受理するのか,という基準のことです。
判例によって判断基準が作られています。
しかし,見解が分かれているものもまだあります。
本記事では,相続放棄の申述の審理の対象や審理の程度について説明します。
2 相続放棄の審理と熟慮期間の関係の実情
まず基本的なルールとして,相続放棄ができる条件(要件)がいくつかあります。
その中でも実際に問題になりやすいのは熟慮期間です。
熟慮期間についての判例のルールが複雑なので,実際の事案に該当するかどうかがはっきりしないことがよくあります。
<相続放棄の審理と熟慮期間の関係の実情>
あ 相続放棄の期間制限(熟慮期間・前提)
熟慮期間が制限されている
熟慮期間を経過した後には相続放棄ができない
=相続放棄の効力を生じず法定単純承認となる
※民法921条2号
詳しくはこちら|相続放棄により相続人ではない扱いとなる(相続放棄の全体像)
い 相続放棄の審理における実情
家庭裁判所の相続放棄の申述の審理において
熟慮期間の経過の有無がはっきり判断できないケースがある
3 相続放棄の審理に程度に関する明白性基準
相続放棄の申述の手続で,裁判所はどこまで事情を調査して審査するのか,という問題があります。
相続放棄の特徴として,しっかりした調査や関係者の関与は行われません。
また,審判結果の効力も,相続放棄の効力を確定するものではありません。
そのため,最小限の審査(判断)しかしないという解釈がとられています。
つまり,明白に要件を欠く,というものではない限り受理するということです。
これを明白性基準と呼んでいます。
<相続放棄の審理に程度に関する明白性基準>
あ 相続放棄の審理の特徴(理由)
相続放棄の要件の有無について入念な審査をすることは予定されていない
受理した場合,実体要件を満たしていることが確定するわけではない
却下した場合,相続放棄の主張ができなくなる
い 実質的審理の可否
相続放棄の要件の存否について家庭裁判所が実質的に審査する
しかし一応の審査で足りる(う)
う 明白性基準の内容
要件の欠缺が明白である場合にのみ申述を却下すべきである
それ以外は申述を受理すべきである
※福岡高裁平成2年9月25日;要件一般について
え 明白性基準の適用
実務において,家庭裁判所は明白性基準(い)を採用している
近年の裁判例ではほぼ例外なく明白性基準を採用している
学説・実務家の見解の多くは明白性基準に賛同している
※東京高裁平成22年8月10日
※大阪高裁昭和61年6月16日ほか多数
※遠藤隆幸『相続放棄申述受理審判における熟慮期間の審査とその程度』/『金融・商事判例1436号』2014年3月p78
※松田享『相続放棄・限定承認をめぐる諸問題』新日本法規出版p400
※『月報司法書士2015年2月』日本司法書士会連合会p87〜
4 明白性基準を使った具体的な判断の方法
明白性基準を使って,相続放棄の申述を受理するかどうかを判断する具体的な方法を説明します。
まず,主張だけでは判断しないという傾向があります。
かといって,一般の訴訟のようなしっかりした証拠が必要,ということはありません。
最小限の証拠で申述を認めるということです。
<明白性基準を使った具体的な判断の方法>
あ 主張のみによる判断(否定)
申立人の主張のみによって判断するわけではない
例=要件に関する主張自体が成り立つかどうかだけの判断
※遠藤隆幸『相続放棄申述受理審判における熟慮期間の審査とその程度』/『金融・商事判例1436号』2014年3月p78,79
い 一応の証拠
家庭裁判所の相続放棄の申述の実務において
受理を可能とする一応の証拠がある場合
→受理している
う 別手続における審理・判断(参考)
熟慮期間の起算点に問題がある場合
→後日の民事訴訟で決着させるという運用がなされている
※大阪弁護士会研修センター運営委員会編『家庭裁判所別表第一審判事件の実務』新日本法規出版2013年p336
5 明白性基準により判断をした多くの裁判例がある(概要)
実際に,多くの裁判例が明白性基準を使って判断をしています。
いくつかの裁判例の内容を,別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|明白性基準と熟慮期間繰り下げ非限定説による相続放棄申述の裁判例集約
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