【相続の良いトコ取り作戦|債務・望まぬ不動産を承継しない×欲しい財産は承継】

1 相続で『押し付け合う』というレアな状況|活用できない不動産・相続債務
2 相続で『欲しい財産を承継』かつ『ネガティブ財産の承継を回避』する|良いトコ取り作戦
3 『望まぬ不動産』を国に押し付ける作戦
4 『特定遺贈』を使った『良いトコ取り作戦』|債務は負わぬがプラス財産はもらう
5 『特定遺贈+相続放棄』への相続債権者の対抗策|相続財産分離・差押など
6 『生前贈与』を使った『良いトコ取り作戦』|債務は負わぬがプラス財産はもらう
7 『生前贈与+相続放棄』への相続債権者の対抗策
8 『良いトコ取り作戦』への相続債権者の対抗策|まとめ

1 相続で『押し付け合う』というレアな状況|活用できない不動産・相続債務

相続では『相続人間で財産を取り合う』ということがよく生じます。
しかし中には『押し付け合う』場面もあります。

<相続で『押し付け合う』財産の典型例>

あ 活用できない不動産

承継すると『所有』自体がリスク・コストとなる

い 被相続人の債務=相続債務

『相続人が承継する』というのが原則である

2 相続で『欲しい財産を承継』かつ『ネガティブ財産の承継を回避』する|良いトコ取り作戦

いずれも『相続放棄』をすれば『承継しないで済む』ことになります。
しかし,遺産のうち特定の財産についてだけ相続放棄をする(承継しない)ということはできません。相続放棄をすると遺産のうち欲しい財産も承継できなくなります。
ただ,事前からのしっかりした準備を行えば,一定の範囲で『良いトコ取り』が実現します。
以下『良いトコ取り』の方法について説明します。
複雑な作戦となりますが,次のような細かいルールの組み合わせで完成させます。

3 『望まぬ不動産』を国に押し付ける作戦

不動産によっては『所有』自体を避けたい,という場合もあります。
発想としては『所有権放棄』という単純なものもあります。
しかし,実務上,スグに実現することはできない状態です。
詳しくはこちら|無主の不動産→国庫帰属|不動産の所有権放棄は現実的にはできない傾向

しかし,別の制度をうまく組み合わせると『作戦』が完成します。

<誰も引き継ぎたくない不動産を国に押し付ける作戦>

あ 仕込み

『残す財産』をリストアップして『ア・イ』のいずれかを行っておく
ア 遺言により『特定遺贈』とするイ 生前贈与をする

い 遂行

相続開始後,相続人の全員が『相続放棄』を行う

う 効果発現(結果)

必要なものだけ残る(承継する)
不必要なものは国庫帰属

4 『特定遺贈』を使った『良いトコ取り作戦』|債務は負わぬがプラス財産はもらう

被相続人の財産のうち『マイナスは承継しない』かつ『プラスは承継する』というミッションをまとめます。

<特定遺贈+相続放棄作戦>

あ ミッション

債務から逃れてプラス財産はゲット

い 仕込み

ア 遺言 『プラス財産』をリストアップして『特定遺贈』にしておく
相続開始後,相続人の全員が『相続放棄』を行う
遺言の内容にミスがあるとミッションは達成できない(お)
イ 生前贈与 相続開始よりも前に(推定相続人などに)贈与しておく

う 効果発現(結果)

相続人は債務を承継しない
プラス財産は承継する

え 他の遺産の処理

『相続財産管理人』が換価・配当を行う
プラス財産が余れば→国庫帰属
詳しくはこちら|相続人不存在では遺産は特別縁故者か共有者か国庫に帰属する

お 遺言の注意

遺言の内容が『ア・イ』の場合
→相続放棄によりプラス財産も承継できない
ア 包括遺贈イ 『相続させる』遺言=特定財産承継遺言(遺産分割方法の指定) 詳しくはこちら|『相続させる』遺言(特定財産承継遺言)の法的性質や遺産の譲渡との優劣

このスキームだと被相続人の債権者(相続債権者)が迷惑を被るように思えます。
そうすると上記スキームは道義的に良くないのでしょうか。
価値観をぶつけあっても解決に至りません。
このような不合理は法律・制度上の設定で対応すべきです。
と言いますか,既存の法律に『不合理』を是正するツール(制度)があるのです。
『相続債権者の対抗策』を,次に説明します。

5 『特定遺贈+相続放棄』への相続債権者の対抗策|相続財産分離・差押など

(1)相続債権者の対抗策

特定遺贈+相続放棄,の作戦により相続債権者は『回収不能』となってしまいます。
相続債権者の対抗策のうち主なものをまとめます。

<『特定遺贈+相続放棄』への相続債権者の主な対抗策>

あ 第1種相続財産分離

まさにこのような回収のための制度

い 相続財産の差押

『特定遺贈』とは対抗関係となる

う 詐害行為取消権→NG

詐害行為には該当しない(遺言作成・相続放棄のいずれも)

『プラスを獲得・マイナスを負担せず』なので素朴な価値観としては不合理な感じもします。
一方で債権者の立場としては『当初から想定されているリスク』です。
仮に『回収不能』を可能な限り回避するのであれば担保権設定などの予防措置を取るべきなのです。

(2)従来の判例理論から逸脱する判例もある

この点,従前の判例理論に反する価値観を採用したように取れる判例もあります。
『相続放棄』ではなく『限定承認』をした相続人が『特定遺贈』で財産を承継したケースです。
最高裁は『不合理』という価値観を理由として『差押』を優先させています(最高裁平成10年2月13日)。
この判例を含めて,相続債権者の対抗策の詳細については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続債権者が想定外の遺贈で困った時の対応法;包括遺贈,対抗関係など

6 『生前贈与』を使った『良いトコ取り作戦』|債務は負わぬがプラス財産はもらう

『良いトコ取り作戦』は『特定遺贈』を使う方法以外にもあります。
代わりに『生前贈与』を使う,という方法です。

<生前贈与+相続放棄作戦>

あ ミッション

不要な財産・債務を逃れてプラス財産はゲット

い 仕込み

『プラス財産・残す財産』は生前に贈与しておく
相続開始後,相続人の全員が『相続放棄』を行う

う 効果発現(結果)

相続人は『不要な財産・債務』を承継しない
プラス財産は承継する

え 他の遺産の処理

相続財産管理人が換価・配当を行う
プラス財産が余れば→国庫帰属

7 『生前贈与+相続放棄』への相続債権者の対抗策

『生前贈与+相続放棄』についても,相続債権者の対抗策はあります。

<『生前贈与+相続放棄』への相続債権者の対抗策>

あ 第1種相続財産分離→NG

相続開始時では既に『相続財産』ではないため

い 差押→NG

『あ』と同じ

う 詐害行為取消権

『生前贈与』は詐害行為の対象となる

もちろん,具体的な『贈与』の時期とその時の状況で『詐害性』が評価・判定されます。

8 『良いトコ取り作戦』への相続債権者の対抗策|まとめ

前述のように『良いトコ取り作戦』の内容によって,相続債権者の対抗策は違います。
対抗策の組み合わせをまとめます。

<相続債権者の対応|まとめ>

債務者サイドのスキーム 相続財産分離 ストレート差押 詐害行為取消権
遺贈+相続放棄スキーム
生前贈与+相続放棄スキーム

※手続の利用対象となる,という意味であり『回復が実現する』とは限らない

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【相続放棄の効果と詐害行為・第三者との優劣・相続分・遺留分との関係】
【刑事・民事・家事手続の不服申立(控訴・上告・抗告)の書面提出期限】

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