1 相続税と民事的な相続の交渉,裁判との関係
2 相続税の算定方法の概要
3 相続税の基礎控除
4 小規模宅地の評価減
5 相続税の申告・納税期限
6 納税;物納,延納
7 物納の要件
8 物納不適格不動産

1 相続税と民事的な相続の交渉,裁判との関係

相続税は,相続に関する民事的なトラブル解決と深く結びついています。
遺産分割の際に,後から相続税や贈与税の課税対象と分かり,後悔するケースもあるようです。
つまり,相続に関する交渉や裁判で重要となるポイントをまとめます。

<相続に関する交渉,裁判におけるポイント>

相続人間の利害だけではなく,課税面も考慮して進める方が良い

2 相続税の算定方法の概要

(1)相続税額算定方法の概要

相続税の算定については,多くの細かい規定があります。
相続税法だけではなく,通達類によって多くのルールがあるのです。
一方,目安を算出するための基本的なルールは複雑ではありません。
以下,相続税の算定の概要を説明します。

<相続税算定方法の概要>

ア 相続財産から基礎控除額を差し引きます。
イ この課税標準額の総額,を,法定相続分で各相続人に按分します。
 これが各相続人の課税標準額となります。
ウ 『各相続人の課税標準額』について,税率を乗じます。
 税率は累進的な規定になっています。
 税率を乗じた結果が相続税額です。

次に,相続税率と算定例を示します。
改正法施行前後それぞれについて示します。

(2)平成26年法改正の相続税率

相続日=平成26年12月31日まで

<相続税率;平成26年法改正

課税標準 税率 控除額(速算用)
1000万円以下 10%
3000万円以下 15% 50万円
5000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
3億円以下 40% 1700万円
3億円超 50% 4700万円

(3)平成26年法改正の相続税率

相続日=平成27年1月1日以降

<相続税率;平成26年法改正

課税標準 税率 控除額(速算用)
1000万円以下 10%
3000万円以下 15% 50万円
5000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1700万円
3億円以下 45% 2700万円
6億円以下 50% 4200万円
6億円超 55% 7200万円

(4)具体的算定例

<相続税額の算定例>

あ 事例設定

相続人=妻,子供2人
相続財産=1億円
※便宜的に,金銭換算しています。

い 改正法施行前

1億円-8000万円(基礎控除)=2000万円
ア 妻
2000万円×2分の1=1000万円(配偶者の課税標準額)
 1000万円×10%=100万円(配偶者の負担する相続税)
イ 子供
2000万円×4分の1=500万円(子1人の課税標準額)
 500万円×10%=50万円(子1人の負担する相続税)

う 改正法施行後

1億円-4800万円(基礎控除)=5200万円
ア 妻
5200万円×2分の1=2600万円(配偶者の課税標準額)
 2600万円×15%-50万円=340万円(配偶者の負担する相続税)
イ 子供
5200万円×4分の1=1300万円(子1人の課税標準額)
 1300万円×15%-50万円=145万円(子1人の負担する相続税)

3 相続税の基礎控除

相続財産が一定の規模までは相続税がかかりません。
基礎控除というものです。
どれくらいの財産があると相続税がかかるのかについて説明します。
相続税法の改正によって,基礎控除額が変わります。
改正前後の両方を示します。
算定例も含めて説明します。

<基礎控除額>

改正法施行前/後 相続発生日(死亡日) 基礎控除額
平成26年12月31日まで 5000万円+1000万円×法定相続人の数
平成27年1月1日以降 3000万円+600万円×法定相続人の数

<基礎控除額の算定例>

あ 事例設定

相続人が妻,子供2人

い 基礎控除額
改正法施行前/後 計算式 基礎控除額
5000万円+1000万円×3人 =8000万円
3000万円+600万円×3人 =4800万円

4 小規模宅地の評価減

相続税の算定上,代表的な軽減措置が『小規模宅地』の制度です。

<小規模宅地の評価減>

あ 条件

相続財産の中に,被相続人や被相続人と同一生計の親族等が,事業又は自宅に使っていた宅地等がある

い 軽減措置

次の範囲で,通常の評価額の80%又は50%を減額して評価することができます。
《軽減対象範囲》
対象の宅地のうち200平方メートル又は330平方メートルまでの部分

詳しい制度の内容は別に説明しています。
詳しくはこちら|相続税・小規模宅地特例|基本・併用|民泊の扱い
実務上,この優遇措置の適用をどの宅地にするか,について相続人間で見解が一致しないこともあります。
上記のとおり,課税,と,民事的な解決,が絡み合う現象の1つです。

5 相続税の申告・納税期限

相続税の申告や納税には法律上期限が設定されています。

<相続税の申告,納税期限>

被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月+1日
※相続税法27条,33条

通常,相続を知った日というのは,被相続人死亡の日ということになります。

6 納税;物納,延納

税金は金銭で一度に納めるのが原則です。
しかし,例外として用意されている方式にバリエーションがあります。

相続税については,特別な納税方法として延納と物納制度があります。
金銭での期限内の一括での納税が困難な場合のための救済策です。

<納税の緩和手続>

あ 延納

数年に分けて納める

い 物納

相続などで取得した財産そのもので納める制度
→延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合に認められます。

7 物納の要件

物納はあくまでも例外です。
納税者が税務署に物納申請をして,税務署が許可をする,というプロセスを経て物納が可能となります。
物納が許可されるのは,一定の要件が前提となります。
概要を↓に示します。

<物納要件;概要>

※すべて
ア 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある
イ 納期限までに物納申請を行う
ウ 国が管理,処分するのに適している財産が対象である

<物納対象財産;順位;概要>

あ 第1順位

国債
地方債
不動産
船舶

い 第2順位

社債(特別の法律により法人の発行する債券を含みますが、短期社債等は除かれます。)
株式(特別の法律により法人の発行する出資証券を含みます。)
証券投資信託又は貸付信託の受益証券

う 第3順位

動産

8 物納不適格不動産

上記のとおり,物納の要件の1つとして国が管理,処分するのに適している財産というものがあります。
物納は,権利関係が明確で,管理,処分が容易な財産が対象とされているのです。

代表的な物納の対象は不動産です。
不動産について,物納の適格性を説明します。

不動産の権利関係が複雑なものは管理,処分に手間がかかるので物納適格から外れます。
物納不適格と呼んでいます。
具体的な不適格の不動産については,施行令に規定されています(相続税法施行令18条1号)。

例えば共有はその1つとされています(1号ト)。
なお,共有状態が解消され,単独所有となれば物納要件を満たし,物納可能となり得ます。
施行令における物納不適格の不動産を↓に示しておきます。

<物納不適格;不動産>

イ 担保権が設定されていることその他これに準ずる事情がある不動産
ロ 権利の帰属について争いがある不動産
ハ 境界が明らかでない土地
ニ 隣接する不動産の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産
ホ 他の土地に囲まれて公道に通じない土地で民法210条の規定による通行権の内容が明確でないもの
ヘ 借地権の目的となっている土地で,その借地権を有する者が不明であることその他これに類する事情があるもの
ト 他の不動産と社会通念上一体として利用されている不動産
 若しくは利用されるべき不動産又は二以上の者の共有に属する不動産
チ 耐用年数(所得税法の規定)を経過している建物。
 通常の使用ができるものは除く。
リ 敷金の返還に係る債務その他の債務を国が負担することとなる不動産
ヌ その管理又は処分を行うために要する費用の額がその収納価額と比較して過大となると見込まれる不動産
ル 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある目的に使用されている不動産
 その他社会通念上適切でないと認められる目的に使用されている不動産
ヲ 引渡しに際して通常必要とされる行為がされていない不動産
ワ 地上権,永小作権,賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利が設定されている
 +この権利を有する者が次に該当する不動産
 ・指定暴力団の暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(暴力団員等)
 ・暴力団員等によりその事業活動を支配されている者
 ・法人で暴力団員等を役員等とするもの