1 共有持分譲渡における共有者間の権利関係の承継(民法254条)の基本
2 民法254条の条文
3 特定承継人の意味
4 承継する債務の典型例
5 借入債務や借入費用の分担の契約(否定)
6 民法254条の「債権」に関する基本的解釈
7 使用収益・管理・費用分担の合意の承継(昭和57年東京高裁)
8 管理使用に関する特約上の権利義務の承継
9 共有物分割契約上の債権への民法254条の適用(概要)
10 持分譲渡を制限する合意の承継(否定)
11 民法254条の適用における登記の要否(否定)
12 登記の要否に関する不分割特約との比較
13 共有持分の譲渡人と譲受人の関係
14 民法254条の本質的な趣旨・背景(概要)
15 民法254条と同趣旨の規定(民法259条・参考)
16 担保権実行における土地共有者が合意した利用権の消滅か存続(概要)

1 共有持分譲渡における共有者間の権利関係の承継(民法254条)の基本

原則として,所有権(物権)を譲渡しても,譲渡人と他の者との間の合意(債権債務)を譲受人が承継することはありません。この点,共有持分譲渡は例外的に,譲受人がいろいろな権利関係を承継します。
本記事では,共有持分譲渡において譲受人が共有者間の権利関係を承継することについて説明します。

2 民法254条の条文

条文上は,共有者間の債権は,特定承継人に対して行使できると規定されています。裏返しにすると,特定承継人(譲受人)が債務を承継するということです。

<民法254条の条文>

(共有物についての債権)
第二百五十四条 共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は,その特定承継人に対しても行使することができる。

3 特定承継人の意味

最初に,解釈の問題のない簡単なところから説明を済ませます。共有持分の特定承継人とは主に譲受人です。以下,基本的に譲受人といいます。

<特定承継人の意味>

民法254条の「特定承継人」とは,定義上,承継人のうち,包括承継以外の態様で共有者からその共有持分権を取得した者を指す
売買,贈与,特定遺贈による取得者などが含まれる
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p583

4 承継する債務の典型例

民法254条の解釈の中心は承継する権利関係の範囲です。その本格的な解釈に入る前に,まずは,典型的なものを押さえます。
共有物の維持に必要な費用が典型です。さらに,共有物を購入した時点で購入代金の立替があった場合にはこれも含みます。

<承継する債務の典型例>

あ 管理費用・公租公課の償還請求権(債務)

(民法254条の『債権』について)
他の共有者が負担すべき管理費用・公租公課,などを共有者の1人が立替えた場合に,他の共有者に対して有する償還請求権が該当する
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法−総則・物権・債権−第6版』日本評論社2019年p473

い 使用・管理に関する契約により生じる債権(債務)

共有物の使用または管理の方法に関する契約より生じるもの,管理費用その他共有物の負担に関し分担割合を定めた契約により生じるものが該当する
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p582
※大判大正8年12月11日(共有物管理に関する特約)

う 購入代金の立替

共有物購入のさいに1人の拠出すべき分の代金を他の者が立替えた場合に,他の共有者に対して有する償還請求権が該当する
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法−総則・物権・債権−第6版』日本評論社2019年p473

え 持分買取権(概要)

民法253条2項の持分買取権も特定承継人に行使できる
詳しくはこちら|共有持分買取権に関する解釈の基本(主体・起算点・償金提供・部分的行使・効果)

5 借入債務や借入費用の分担の契約(否定)

共有物の購入代金の立替については民法254条が適用されますが,第三者から借り入れた債務について,共有者の間で負担内容を合意したという場合に,この合意による債務は,民法254条が適用されません。それは共有者同士の債権・債務ではないという違いが理由です。

<借入債務や借入費用の分担の契約(否定)>

共有物買い入れの資金を借り入れた債務及びこれを借り入れるに当り要した費用等につき,共有者間で締結した,各自の持分に応じてこれを負担する契約などは,これに関する特別の意思表示がないかぎり,譲受人が当然承継すべきものではない。
※大判大正8年12月11日

6 民法254条の「債権」に関する基本的解釈

民法254条がどこまで適用されるのか,という解釈については多くの判例があります。多くの判例がベースにしている基礎部分は,共有関係と分離できない権利関係であれば広く共有持分の譲受人が承継する,ということです。条文には債権と記載されているけど,それは一例を挙げた趣旨である,と解釈されています。

<民法254条の「債権」に関する基本的解釈>

あ 裁判例

共有持分の特定承継人は,共有関係と相分離しえない権利関係(負担)を承継する
民法254条は,承継されるものを債権に限定する趣旨ではなく,承継されるものの一部として確認するものである
※東京高裁昭和57年11月17日(後記※2

い 一般的な学説

(昭和34年判例(後記※1)の解説として)
つまり,民法254条は,共有物管理費用,立替金返還債務のような,共有者間の債務のみならず,共有物分割契約上の債務もまた,いわば,共有持分権の一種の負担として,その特定承継人を拘束することを認めた例外的取扱いに関する規定と解される。
※玉田弘毅稿『民法第二五四条の適用が認められた事例』/『法律論叢34巻1号』明治大学1960年p100,101

う 別の見解

債権の種類ごとに特定承継人が責任を負う根拠を分けて考える
※伊藤栄寿『共有物についての債権の特定承継人に対する効力』/愛知学院大学法学部同窓会編『法学論集第4巻』2011年p224〜228
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p582参照

7 使用収益・管理・費用分担の合意の承継(昭和57年東京高裁)

以下,民法254条により持分の譲受人に承継される権利関係を判断した判例,裁判例を紹介します。
まず,共有物に関する使用収益・管理と費用分担に関する合意が持分の譲受人に承継されると示された裁判例を紹介します。『債権』ではなく,合意そのものの承継が認められています。

<使用収益・管理・費用分担の合意の承継(昭和57年東京高裁)(※2)

あ 裁判例の規範

共有者間の共有物に関する使用収益,管理又は費用の分担についての定めは,その共有者の特定承継人に対しても当然承継されるものと解すべきものである

い 理由(承継する範囲)

けだし,共有物の使用収益,管理又は費用の分担に関する定めは,共有関係と相分離しえないものであり,共有者は,自己が持っていた以上の権利を譲り渡すことができず,譲受人も,譲渡人が受けていたと同じ制限を受ける権利を取得するのが当然であるからである
民法254条は,右の当然の事理を前提とし,更に具体的に発生した債権についても特定承継人に承継されることを規定しているのである
(承継されるものを債権に限定する趣旨ではなく,承継されるものの一部として確認するものである)

う 登記の要否(否定)

なお右特約については公示方法がないので,持分の譲受人が不測の損害を受け,取引の安全を害することがないとはいえないが,これは譲渡人の瑕疵担保責任,あるいは,共有者となつた譲受人による共有解消の問題として考慮すれば足りるものというべきである
※東京高裁昭和57年11月17日(使用収益・管理の方法,費用の分担について)

8 管理使用に関する特約上の権利義務の承継

さらに,共有物の管理使用に関する特約上の権利義務が持分の譲受人に承継されると示された裁判例を紹介します。正確には,この解釈は前提部分であり,事案としては,複数の者が(土地の)使用収益権を共同して有する状態であり,この場合に,民法254条(共有の規定)を準用したという理論的構造になっています。

<管理使用に関する特約上の権利義務の承継(※3)

あ 裁判例の規範

民法第254条によれば,共有者の1人が共有物につき他の共有者に対して有する債権はその特定承継人に対してもこれを行うことが出来るものとされていて,共有持分の譲受人は共有物の管理使用に関する特約上の権利義務をも当然に承継し・・・

い 登記の要否(否定)

・・・登記その他の公示方法がないからと言ってこれを否認することは出来ないと解される

う 事案への適用(あてはめ)

共同使用収益権者による一括仮換地の一部をその中の1人だけに専用して使用収益させるという合意について
民法254条の準用により,XはAから持分の一部を特定承継したYに対しても右合意の効力を主張して本件宅地の専用使用収益権を行使することが出来る
※仙台高裁昭和42年2月20日(専用使用収益について・前提として)

9 共有物分割契約上の債権への民法254条の適用(概要)

民法254条によって承継される権利関係の範囲の中で,特に議論があるのは共有物分割契約上の債権です。判例,実務は肯定していますが,学説には反対する見解もあります。
詳しくはこちら|民法254条が共有物分割契約上の債権に適用されるか否かの判例・学説

10 持分譲渡を制限する合意の承継(否定)

共有物に関して共有者間で合意した内容のすべてが持分の譲受人に承継される,というわけではありません。共有持分の譲渡を制限(禁止)する合意は,共有物の使用や管理の方法,とは違います。そこで,この合意に反する共有持分の譲渡が無効となるわけではありません。その上で,共有持分の譲受人がこの合意内容を承継することもありません。ただし,民法上の組合財産の共有持分については特別に譲渡しても無効となります。

<持分譲渡を制限する合意の承継(否定)>

あ 持分譲渡を制限する合意の効力

共有者間で持分権を処分しないという特約をした場合,それは債権的効力をもちうるにとどまる
持分を譲渡しないという特約は,持分権の本質上,譲受人を拘束しえない
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p435
※我妻栄著『民法講義Ⅱ 新訂 物権法』岩波書店1983年p326

い 民法上の組合財産の共有持分の譲渡(参考)

民法上の組合の財産については持分譲渡は無効となる
詳しくはこちら|共有持分譲渡に関する法的問題の全体像

11 民法254条の適用における登記の要否(否定)

共有持分の譲受人の立場で考えると,いろいろな権利関係が承継されるので,共有持分の購入はリスクが大きいことになります。そこで,承継される内容が登記されていれば安心です。そのような発想はあるのですが,登記制度上,登記できないので,結論として,登記がなくても承継してしまう状態にありあます。

<民法254条の適用における登記の要否(否定)>

あ 判例

登記されていない権利関係であっても,民法254条が適用される
※最判昭和34年11月26日(後記※1
※東京高裁昭和57年11月17日(前記※2
※仙台高裁昭和42年2月20日(前記※3

い 学説

(昭和34年判例(後記※1)の解説として)
なお,共有物分割契約が,本件事案のように,不動産についてなされている場合には,共有持分権者の管理・処分権能の制限として登記がなければ,第三者に対抗することができないかどうかも問題である。
できうべくんば,この場合にも,不動産共有に関する不分割契約(256条1項但書,2項,不動産登記法78条)と同様,その旨の登記を要するとなすべきであるが,しかし,現行法制上,かような登記手続が認められていないから,不動産登記法第78条を類推することによつて,登記を要すると解することは,解釈論としては,無理である
したがつて,民法第254条にいう「債権」は不動産に関する共有であつても,登記を要せずして,第三者に対抗することができるわけである。
しかし,その結果,共有持分権の譲受人に不測の損害をかけるおそれがあるものというべく,このような民法の態度は,いかにも,物権取引の安定性に対する配慮が不足しているといわざるをえない。
それはともかく,判旨が,共有物分割に関する契約上の債権は,登記を経たものであるかどうかにかかわらず,債権者たる共有者は,譲受人たる所有権共有者に対し債権を行使することができると説くのは,正確を欠いているといえよう。
※玉田弘毅稿『民法第二五四条の適用が認められた事例』/『法律論叢34巻1号』明治大学1960年p101

う 昭和34年判例(※1)

昭和34年判例については別の記事で説明している
詳しくはこちら|民法254条が共有物分割契約上の債権に適用されるか否かの判例・学説

12 登記の要否に関する不分割特約との比較

共有者間で共有物に関して合意した内容は,登記できません。そこで登記がなくても共有持分の譲受人に承継されます(前述)。
ところで,共有者間の合意の中で登記できるものが1つだけあります。それは不分割特約(分割禁止特約)です。不分割特約だけは登記できるので,逆に登記をしないと第三者(共有持分の譲受人)に対抗できないことになります。つまり登記がないと譲受人に承継されないのです。

<登記の要否に関する不分割特約との比較>

あ 共有者間の合意(前提)

共有者間で共有物の使用方法を協議・合意することがある
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類

い 不分割特約の承継(概要)

(共有者間の合意の1つとして)
共有者間で不分割特約を合意した場合(実質的な不分割の合意を含む)
→登記することができる
登記をしないと特定承継人に対抗できない
※民法256条
※不動産登記法59条6号
※東京地裁平成3年10月25日(実質的な不分割の合意について)
詳しくはこちら|共有物分割禁止特約の基本(最長5年・登記の必要性)

う 一般的な共有物の使用・管理に関する合意の承継

共有者が共有物の使用・管理に関して合意・決定した内容について
『あ』以外は登記することはできない
登記をしなくても特定承継人に対抗できる
=合意・決定内容は承継される(前記)

13 共有持分の譲渡人と譲受人の関係

民法254条によって持分の譲受人が債務(負担)を承継した場合,もともと譲渡人(である共有者)が負っていた債務は消滅するわけではありません。
結局同じ内容の債務を譲渡人と譲受人の両方が負っている状態になります。

<共有持分の譲渡人と譲受人の関係>

あ 共有持分の譲渡人の立場

(民法254条が適用されるケースにおいて)
譲渡人である共有者が依然として債務を負うことはもちろんである

い 譲渡人と譲受人の関係
ア 連帯

一方,債権者は,特定承継人に対しても債権を行使することができる
=共有持分の譲渡人・譲受人は連帯して債務を負うことになる

イ 求償
特定承継人が弁済した場合には,譲渡人に対して償還請求権を取得する
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法−総則・物権・債権−第6版』日本評論社2019年p473
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2物権 第3版』第一法規2019年p365
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p583

14 民法254条の本質的な趣旨・背景(概要)

民法254条の解釈の中では,この規定の趣旨や立法過程(背景)がよく登場します。民法254条の趣旨や背景については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民法254条(共有者の内部関係の承継)の趣旨・背景

15 民法254条と同趣旨の規定(民法259条・参考)

民法254条は,共有者同士の権利関係を保護するものです。同じように共有者同士の権利関係を保護する規定としては民法259条もあります。

<民法254条と同趣旨の規定(民法259条・参考)>

あ 民法254条と259条の共通点

(民法254条の『債権』について)
民法は,このような債権はとくに保護する必要があるとして,このような債権を有する共有者は,その共有物の分割にさいし,その債務者である共有者に帰すべき共有物の部分をその債権の弁済にあてることができるように定めている
※民法259条
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法−総則・物権・債権−第6版』日本評論社2019年p473

い 民法254条と259条の重複適用(概要)

民法259条の規定は,「債務者」である共有者の持分の譲受人に対しても適用される
詳しくはこちら|共有物分割における共有者間の債権の保護(民法259条)

16 担保権実行における土地共有者が合意した利用権の消滅か存続(概要)

ところで,このような共有物の使用に関する合意の承継の問題が具体化する状況として,共有の土地の利用に関する合意がある状態で抵当権が実行(競売)されたというものもあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|担保権実行における土地共有者が合意した利用権の消滅か存続

本記事では,共有持分の譲渡において,共有者間の権利関係が譲受人に承継されることについて説明しました。
実際には,個別的事情により,法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)の共有持分譲渡に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。