1 共有持分買取権の要件に関する解釈
2 持分買取権の条文
3 持分買取権を行使できる者
4 義務不履行期間(1年間)の起算点
5 償金の提供の扱い
6 償金の金額(概要)
7 求償権と償金の相殺
8 部分的な(一部だけの)行使

1 共有持分買取権の要件に関する解釈

共有物に関する費用を負担しない共有者の共有持分を他の共有者が強制的に買い取る制度(共有持分買取権)があります。
詳しくはこちら|共有持分買取権の基本(流れ・実務的な通知方法)
共有持分買取権の要件については,いろいろな解釈論があります。本記事ではこれを説明します。

2 持分買取権の条文

解釈の元となる条文を最初に押さえておきます。条文の規定はとてもシンプルなので,細かいことについては解釈が必要になるのです。

<持分買取権の条文>

(共有物に関する負担)
第二百五十三条 各共有者は,その持分に応じ,管理の費用を支払い,その他共有物に関する負担を負う。
2 共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは,他の共有者は,相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
※民法253条

3 持分買取権を行使できる者

共有持分買取権は,『共有物に関する費用を負担しない共有者』以外の共有者であれば誰でも行使できます。通常は,費用を立て替えた者,つまり求償権の債権者が行使しますが,買い取る資金のある他の共有者が行使する(買い取る)こともできるのです。

<持分買取権を行使できる者>

義務不履行の共有者を除く他の共有者は誰でも償金を払えば持分を取得することができる
※川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p459

4 義務不履行期間(1年間)の起算点

共有持分買取権は,条文上,1年以内に義務を履行しないことが要件となっています。しかし,条文には,この1年の起算点が明記されていません。
これについては,一般的に,求償債務の履行期が定まっていればこれ(履行期)となり,定まっていなければ催告(請求)があった時と解釈されています。

<義務不履行期間(1年間)の起算点>

あ 条文規定(前提)

条文上,起算点が明記されていない
※民法253条2項

い 解釈

すべての共有物の管理の費用その他の負担については,共有者間に立替分の償還債務の履行期につき,特約または議決ないしは慣行のない以上,その履行期は立替者からの償還の催告があった時と解するのが相当であり,この時から民法253条2項の1年を起算すると解するべきであろう
※池田良兼稿『民法第253条第2項の2つの問題』/『判例タイムズ209号』1967年10月p47
※川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p459参照

う 参考となる裁判例

共有物の負担の求償の催告から1年以内に持分買取権を行使した(持分取得の意思表示をした)
→結果としては持分買取権の効力を認めなかった
催告時を起算点と判断しているように読める
※東京高裁昭和57年11月17日

え まとめ
履行期の定めの有無 起算点
負担の償還の履行期の定め(特約,議決,慣行)がある 定めた履行期
負担の償還の履行期の定めはない 催告の時

5 償金の提供の扱い

共有持分買取権の行使は,持分を取得する意思表示によって行います。この意思表示の時に,償金(持分の代金)を提供することが必要であると解釈されています。原則的には現実の提供ですが,例外的に口頭の提供で足りることもあります。ただし,償金支払が先履行となるわけではなく,同時履行となるという解釈が一般的です。
なお,償金の提供を不要とする見解もあります。

<償金の提供の扱い>

あ 一般的見解

ア 原則=現実の提供
意思表示とともに償金を現実に提供する
イ 例外=口頭の提供
持分買取権の相手方(債務者)があらかじめ償金の受領を拒絶する旨の意思表示をしている場合
持分買取権行使者は弁済の準備として認めるに足るべき行為をなしたることを債務者に通知し,その受領の催告をなすだけで足りる
※池田良兼稿『民法第253条第2項の2つの問題』/『判例タイムズ209号』1967年10月p47,48
※川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p459参照

い 同時履行

償金の支払と持分移転の履行は同時履行となる
債務は未だ発生していないのであるが一種の弁済の提供と考える
※池田良兼稿『民法第253条第2項の2つの問題』/『判例タイムズ209号』1967年10月p47

う 買戻しにおける解釈(参考)

買戻しの時に売主がなす代金及び契約の費用の提供との関係(大判大正7年11月11日,大判大正9年8月9日)と極めて類似する
※池田良兼稿『民法第253条第2項の2つの問題』/『判例タイムズ209号』1967年10月p47

え 他の見解

債権者である共有者は,債務者である共有者に対して買取の意思表示をすればよく,償金の提供は要件ではない
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 物権 第3版』第一法規2019年p366

6 償金の金額(概要)

ところで償金の金額の算定については,条文上,特に規定はありません。そこで,取得する持分の価値ということになります。実務的な算定方法については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有持分買取権の『相当の償金』の金額の算定

7 求償権と償金の相殺

通常,持分買取権を行使する共有者は,立て替えた費用の求償権を持っていることが多いです。この場合は,支払う償金から求償権の金額を相殺する(控除する)ことができます。

<求償権と償金の相殺>

あ 見解

代金債権(償金)に対して求償権により相殺をして差額を支払うことになる
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 物権 第3版』第一法規2019年p366

い 注意点

持分取得の意思表示の前には代金債権は発生していない
償金の提供なく持分取得の意思表示をしただけで持分買取権の効果として代金債権が生じたということを前提としていると思われる

8 部分的な(一部だけの)行使

例えば,持分3分の1共有者Aへの求償権が100万円あった場合に,50万円だけを支払って,(持分3分の1の)2分の1部分についてだけ持分買取権を行使する(持分を取得する)という発想も生じます。しかし,権利関係が複雑になるため,このような部分的な行使は認められていません。

<部分的な(一部だけの)行使>

持分の全部に相当する償金を支払った場合にはじめて適用されるのであり,持分の一部に相当する償金を支払って持分の一部を取得することはできない
※大判明治42年2月25日

本記事では,共有持分買取権の要件に関するいろいろな解釈を説明しました。
実際には,個別的な事情によって,最適な解決方法は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。