【民法254条(共有者の内部関係の承継)の趣旨・背景】
1 民法254条(共有者の内部関係の承継)の趣旨・背景
2 紛争の母の回避という目的
3 郷に入れば郷に従え法理
4 民法254条と共有物分割請求権との関係
1 民法254条(共有者の内部関係の承継)の趣旨・背景
民法254条は共有物に関する契約(合意)により生じる債権債務関係が,共有持分の特定承継人(譲受人)に承継されるという規定です。
詳しくはこちら|共有持分譲渡における共有者間の権利関係の承継(民法254条)の基本
これ,共有者間の関係が共有持分(物権)を取得した者に承継されるというとても特殊なルールです。承継される権利関係の範囲についての解釈論の中で,民法254条の趣旨が登場します。
本記事では,民法254条の趣旨や背景を説明します。
2 紛争の母の回避という目的
前述のように,共有持分(物権)の譲渡によって譲渡人が他の者(共有者)との間の権利関係を承継するというのは,物権の譲渡の原則論に反します。
それでも例外を認めた理由として,原則論どおりにすると(共有というものを)紛争の母にしてしまう,ということが指摘されています。
つまり,共有持分は物権とはいっても,常に他の共有者との関係(調整)が必要になる,という特殊性が背景にあるのです。
<紛争の母の回避という目的>
(昭和34年判例の解説として)
おもうに,共有物分割契約は,持分権という名の所有権を内容的に―特に,管理・処分権能を―制限する特約であつて,本来,単に債権的効力しかないはずである。
このことは,持分権の自由譲渡性の貫徹ということを強調するかぎり,当然そうあるべきである。
しかし,右の理論を徹底させることは,ついには,共有をして,徒らに,「紛争の母」(mater rixarum)たらしめるばかりでなく,なんら妥当な結果をもたらさないことは,火をみるより明らかである。
・・・
※玉田弘毅稿『民法第二五四条の適用が認められた事例』/『法律論叢34巻1号』明治大学1960年p98,99
3 郷に入れば郷に従え法理
さらに抽象的に考えると,共有者は団体という性質があるので,その団体に新たに加わる者は団体のルールに従うという根本原理がある,という指摘もあります。
<郷に入れば郷に従え法理>
さらに民法254条が,厳密な意味での団体とはいえなくてもこれに新たに加わる者は,既存の内部ルールに当然に服すべきであるとの法理が民法に内在しているというような議論の起点となる可能性を持つことに注意すべきであるように思われる。
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p581
4 民法254条と共有物分割請求権との関係
やや視点を変えて,民法254条によって権利関係を承継させられてしまう持分の譲受人の立場で考えてみましょう。もし,権利関係(負担)の承継が不服であれば共有物分割請求により共有関係を解消することができます。これが救済手段となっています。
この考えをさらに進めると,共有物分割請求ができない場合(組合財産)には,例外的・救済的解釈として権利関係の承継を否定するということにつながります。
<民法254条と共有物分割請求権との関係>
あ 民法254条の趣旨
・・・その内部関係の効力を持分の特定承継人に対して認め,そしてそれがその承継人の意思に基づかなかったことにより,その者が不都合と考えれば,この分割請求権を行使すれば良い。
それ故にこそこの分割請求権に関する限り,もしそれを制限するときは登記すべきことを要するものとしたといえる。
従つて特定承継人の側はその限りで保護されているといえよう。
※新田敏稿『民法254条と区分所有法25条』/『法学研究47巻12号』慶應義塾大学法学部内法学研究会1975年p1308,1309
い 分割請求ができない場合の救済
もしも右の理解に誤りがないとすれば,分割請求権を行使し得ない共有が問題となる場合には,・・・
その内部関係として生じた債権が,善意の特定承継人の利益を実質的に侵害する内容のものであるときには,民法二五四条の規定にもかかわらず,その善意の特定承継人に対しては行使し得ないとする・・・
※新田敏稿『民法254条と区分所有法25条』/『法学研究47巻12号』慶應義塾大学法学部内法学研究会1975年p1309
う 共有物分割請求ができない共有(参考・概要)
民法上の組合の財産については,共有物分割請求ができない
※民法676条3項
詳しくはこちら|民法上の組合の財産の扱い(所有形態・管理・意思決定・共有の規定との優劣)
本記事では,民法254条の趣旨や背景について説明しました。
実際には,個別的事情により,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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