【共有持分譲渡に関する法的問題の全体像】

1 共有持分譲渡に関する法的問題の全体像

共有持分を購入した場合には、共有持分を取得し、新たな共有者となります。このことは所有権の購入と同じなのですが、共有特有の特殊な法的扱いがあります。代表的なものは、新たな共有者は、それ以前に共有者が決めたことに拘束されるという扱いです。
また、民法上の組合の財産については、一種の共有となっていますが、共有持分を譲渡自体ができません。
本記事ではこのような、共有持分の譲渡に関する法律的な問題の全体像を説明します。

2 共有持分譲渡の自由と制限(概要)

共有持分(権)は所有権の性質をもつため、共有者が単独で処分することができます。処分の代表が譲渡(売却)です。
共有者の間で持分の譲渡を禁止することを合意した場合、合意自体は有効ですが、債権的な効力にとどまります。つまり合意に違反して譲渡してしまった場合でも、譲渡(持分の移転)は有効です。
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)

3 共有者間の権利関係の承継

(1)共有者間の債権債務・合意の承継(民法254条)(概要)

共有持分の譲渡が一般の財産の譲渡と大きく違うのは、共有者間の、共有関係と分離できない権利関係(合意)が広く承継されるというものです。たとえば維持費の立替や購入資金の立替についての求償などです。
しかも、原則として登記されていない内容が承継されるのです。例外的に不分割特約(分割禁止特約)だけは登記してある場合だけ承継されます。
共有者間の権利関係の承継については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有持分譲渡における共有者間の権利関係の承継(民法254条)の基本

(2)持分譲受人が承継する共有物に関する合意の具体例

持分を購入した者が、過去の共有者間の合意に拘束される具体例は、購入したけれど共有物(共有不動産)を使えないし、対価ももらえないというような状況です。

持分譲受人が承継する共有物に関する合意の具体例(※2)

あ 使用方法の合意

建物がA・B・Cの共有となっていた
建物にはAが単独で居住していた
B・Cは無償でAが単独で居住することを承認していた

い 持分譲渡

Cが共有持分をDに売却した
DはAに対して明渡・賠償金を請求した

う 承継

共有者全体としての合意(Aが単独で使用できる)
共有者同士の合意(Aの使用対価(償還義務)は生じない)
という2つの合意は持分譲受人Dに承継される(民法254条)
Dの明渡・賠償金の請求は認められない

4 共有状態を維持する手法による持分譲渡の障害(概要)

ところで、共有者全員が協力して、共有状態を維持する手法をとることがあります。共有物分割や持分譲渡を防ぐ手法ともいえます。
たとえば、信託の活用や、優先購入権(売買予約とその登記)条件付の共有物分割の合意共有物分割の予約という手法です。さらに、用益権設定によって、持分を購入しても当該不動産を使えないようにする手法もあります。
これらは、持分を譲り受ける(購入する)者にとっては大きな障害となります。しかも、これらの手法は登記上読み取れるものもあれば、読み取れないものもあります。持分の譲渡(売買)のリスクということになります。
詳しくはこちら|共有状態を維持するニーズ・手法とハードル

5 共有物に関する合意を承継した譲受人の救済手段

前述のように、共有持分を購入した後に、いろいろな負担(債務)を承継したことが分かったケースでは、持分の譲受人を救済する法的手段がいくつかありますので整理します。

共有物に関する合意を承継した譲受人の救済手段

あ 前提事情

(前記※2)の事案において
持分を購入したDは現実的な利益がほとんどない
Cが事前に合意内容をDに説明していなかった
Dとしては想定外の損失を受けた

い 売買契約に関する救済手段

売買契約に問題があったと言える
→DはCに対して次の主張・責任追及をすることができる可能性がある
ア 契約の取消 錯誤・詐欺による取消
イ 説明義務違反→債務不履行責任ウ 契約不適合責任(瑕疵担保責任) 詳しくはこちら|売買契約に関する責任の種類(瑕疵担保・債務不履行・不法行為)

う 共有一般の救済手段

根本的な共有関係からの離脱の手段がある
ア 共有物分割請求イ 共有持分を第三者に譲渡するウ 共有持分を放棄する

6 関連テーマ

(1)共有持分譲渡による「紛争の母」召喚(概要)

以上のように、共有持分の譲渡にはいろいろな法律問題(リスク)が伴います。この点、共有持分の譲渡により、従前の共有者間の関係が壊れるということを「紛争の母」と呼ぶ、鋭い指摘もあります。

共有持分譲渡による「紛争の母」召喚(概要)

(共有持分権の自由譲渡により、共有者間の合意(関係性)を維持できないことになることについて)
ついには、共有をして、徒らに、「紛争の母」(mater rixarum)たらしめるばかりでなく、なんら妥当な結果をもたらさないことは、火をみるより明らかである。
※玉田弘毅稿『民法第二五四条の適用が認められた事例』/『法律論叢34巻1号』明治大学1960年p98、99
詳しくはこちら|民法254条(共有者の内部関係の承継)の趣旨・背景

(2)共有持分の購入と弁護士法73条違反

不動産の共有持分を購入した場合、通常はそのままでは不動産を使えることにはなりません。占有する共有者や入居者(賃借人)に対して明渡や金銭(賃料相当の損害金)を請求し、さらに状況によっては共有物分割を請求することが前提となっています。
このようなプロセスを繰り返して行う場合、他人の権利の譲り受けとその後の権利の実行として、弁護士法73条違反となることがあります。弁護士法73条に違反すれば、犯罪(刑事罰の対象)になるとともに、取引(共有持分権の売買)も無効となります。
詳しくはこちら|業としての権利の譲受と実行の禁止(弁護士法73条の全体像)

本記事では、共有持分を譲り受けた者が拘束される可能性のある事情、つまり譲受人の負うリスクについて説明しました。
共有持分を取得する際は、多くの法的なリスクが生じるので、十分に把握・理解することが求められます。
共有持分の譲り受け(購入)を予定している方や、これに伴う問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【単独で使用する共有者に対する償還請求(民法249条2項)】
【民法254条(共有者の内部関係の承継)の趣旨・背景】

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