【共有土地の賃貸借(借地)における借地権譲渡承諾の紛争事例(明渡請求など)】

1 共有土地の賃貸借(借地)における借地権譲渡承諾の紛争事例(明渡請求など)

借地において土地が共有となっている、つまり地主が複数人いるということはよくあります。借地人が建物と借地権を譲渡(売却)する場合には、その前に地主の承諾を得ることになります。
しかし、この譲渡承諾が後から無効と判断されることもあり、その場合、最悪のケースでは土地の明渡を余儀なくされます。ただ、多くの法律問題が関わり、簡単に結論が決まるわけではありません。
本記事では、このような事案について法的にどのように扱われるのかを説明します。

2 設例

最初に説明する事案の内容を整理しておきます。
土地がABCの共有、借地人はD1人、というケースです。借地人Dは、建物と借地権をEに売却したいと考えています。

<設例>

土地の共有者(地主)
A・B・C(持分割合はそれぞれ3分の1)
借地人
D
状況
Dは(建物と)借地権をEに売却したい

3 借地権譲渡の承諾→過半数持分の共有者から得る

まず、賃貸借の一般論として、賃借権(借地権)を譲渡するためには賃貸人(地主)の承諾が必要です。
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸の基本(賃貸人の承諾が必要・無断譲渡・転貸に対する明渡請求)
この点、本設例では賃貸人(地主)はABCです。3人いるので、誰から承諾を得ればよいか、という問題があります。この点、賃借権(借地権)の譲渡を承諾することは、一般的に共有物の管理に分類されています。つまり、過半数の共有持分を持つ共有者が賛成すれば譲渡承諾を決定できる、という扱いになります。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借に関する各種行為の管理行為・変更行為の分類(全体)

4 承諾をした共有者の持分が過半数未満であった場合→承諾は無効

AがDに対して「BCも賛成してくれたから借地権譲渡を承諾します」と伝えました。そこでDはEへの借地権の譲渡(売却)をそのまま進めました。
しかしあとから、実はBCは賛成していなかったことが分かりました。結果的には有効な承諾はなかったということになります。
この状況になってしまった場合、どのような法的扱いとなるのか、以下説明します。

5 無承諾の借地権譲渡の結果(原則)→解除と明渡請求

(1)原則(単独所有の場合)

賃貸人の承諾がない賃借権(借地権)譲渡がなされた場合、一般論としては、賃貸人(地主)は賃貸借(借地)契約を解除できます。契約を解除してもしなくても、賃貸人(地主)は明渡請求をすることができます。
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸の基本(賃貸人の承諾が必要・無断譲渡・転貸に対する明渡請求)

(2)共有ケースで明渡請求をする者→共有者単独

実際には建物はEに譲渡され、Eが所有者となっているので、BやCはEに対して建物収去土地明渡を請求する、ということになります。このような明渡請求の手続は、共有者が単独で行うことが可能です。BまたはCが単独で請求(訴訟提起)をすることができます。
詳しくはこちら|共有者から第三者への妨害排除請求(返還請求・抹消登記請求)

(3)共有ケースで解除する者→過半数持分の共有者

なお、Cに対して借地契約を解除することは管理に分類されているので、BとCが賛成しないと解除できません(ただし前述のように解除しなくても明渡請求は可能です)。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除・終了と明渡請求に関する変更・管理・保存行為の分類

6 明渡請求に対する建物買取請求権

本設例では、Dが明渡請求を受けた場合、建物を解体して原状回復をして土地を明け渡すことになります。
ただし、Dは地主Aに対して建物買取請求権を行使することができます。
詳しくはこちら|第三者の建物買取請求権(無断の借地権譲渡・転貸ケース・借地借家法14条)
これにより建物の解体はしなくて済みます。地主(ABC)から代金をもらえることにもなります。ただし代金の金額は建物の価値がベースになり、借地権価格は含まれません。
詳しくはこちら|建物買取請求における代金算定方法・場所的利益の意味と相場

7 共有者からの使用承諾理論による明渡請求の否定

前述の、土地を明け渡すことになる、という結論はあくまでも原則論から出した結論です。本設例では土地が共有なので一般論との違いが出てきます。
借地権譲渡について、少なくとも土地の共有者Aは承諾しています。前述のようにAの持分は過半数に満たないので借地権譲渡の承諾としては適法(有効)ではありませんが、土地を使用することの承諾としては有効といえます。というのは、共有者(の1人)から共有不動産の使用の承諾を受けた者がいる場合、他の共有者は原則として明渡請求をできない、という判例理論があるのです。
では本設例の結論として、Eは明渡をしなくて済む(居住を続けられる)かといえば、そうともいえません。
共有者による使用承諾は、過半数の共有持分を持つ共有者による意思決定”で撤回(変更)されてしまうのです。本設例では、BCが「土地をEには使わせない、Bが使うことにする」と決定すれば、決定どおりになる、つまりEは建物を解体して土地を明け渡す義務がある、という結論になるはずです。
詳しくはこちら|共有者から使用承諾を受けて占有する第三者に対する明渡請求

8 個別事情による結果の違い

以上は、基本的、一般的な解釈を本設例にあてはめた結論です。
原則としてこのような結果になりますが、共有不動産に関しては特に、個別的事情によって解釈を修正することが多いです。変更や管理の分類が、原則とは別の分類となることや、権利の濫用が適用されて原則どおりの結果が否定される、ということが起きやすいのです。
違う言い方をすると、主張や立証のやり方で結果が変わることが起きやすいということになります。

9 紛争予防策

以上の説明は、結果的に譲渡承諾が無効だった、というケースが前提となっていました。実際に借地権譲渡をする場合、このようなことにならないように、譲渡承諾は地主の全員(ABC)から署名押印をもらうことが望ましいです。仮にBCが署名押印をしてくれない(承諾してくれない)場合には、地主の承諾の代わりに裁判所の許可をもらう手続で進める方法もあります。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判の趣旨と機能(許可の効力)

本記事では、共有の土地の借地権譲渡承諾に関する紛争事例について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有の土地の賃貸借(借地)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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