【建物買取請求における代金算定方法・場所的利益の意味と相場】

1 建物買取請求における代金算定方法・場所的利益の意味と相場
2 建物買取請求権の原則論と実際
3 建物評価額の算定方法
4 判例における場所的利益の説明
5 場所的利益(事実上の利益)の内容
6 場所的利益の位置づけ(実質的意味)
7 場所的利益の相場
8 場所的利益と使用借権の評価の関係(参考)

1 建物買取請求における代金算定方法・場所的利益の意味と相場

借地契約の期間満了と,借地権譲渡を地主が承諾しない場合などは,借地人が建物買取請求権を行使できます。
詳しくはこちら|建物買取請求権の基本・要件・趣旨
建物買取請求権とは,文字どおり,地主に建物を買い取らせるというものです。そこで,代金の金額がいくらになるのか,ということが問題となります。代金の計算の中で場所的利益が出てきます。
本記事では,場所的利益を含めた,建物買取請求権における金額(代金)の計算について説明します。

2 建物買取請求権の原則論と実際

理論的には,建物買取請求権の対象は建物だけであり,借地権はすでに消滅しているので含みません。そこで,素朴に考えると,買い取らせる金額(代金)は建物の価値となるはずですが,これに場所的利益を加算する解釈が定着しています。

<建物買取請求権の原則論と実際>

あ 建物買取請求権の対象(理論)

建物買取請求権の対象となるのは,理論的には,建物のみであり,借地権は対象にならない
借地権はすでに消滅しているのだから,当然のことである

い 場所的利益を加算する解釈

しかし,多くの判例では,建物価額のほかに「場所的利益」を参酌することとしている
※土地評価理論研究会著『新版 特殊な権利と鑑定評価』清文堂2012年p201

う 判例における代金の計算

建物買取請求権の行使の際の代金額
=建物評価額(後記※1)+場所的利益(後記※2
※最高裁昭和35年12月20日
※最高裁昭和47年5月23日
※札幌高裁昭和34年4月7日
※東京地裁昭和37年9月21日
※東京地裁平成3年6月20日

3 建物評価額の算定方法

理論的に難しい場所的利益は置いておいて,最初に,建物の評価額の算定方法を説明します。これは単純で,再調達価格,つまり,建築費用から耐用年数を基準とした経年による減価をする,というものです。

<建物評価額の算定方法(※1)

あ 主な算定方法

不動産鑑定評価基準における再調達価格同様の方法を採用することが多い

い 再調達価格の内容

建物を建築する場合の費用を算出する
耐用年数のうち経年分の減価相当額を控除する
※札幌高裁昭和34年4月7日

4 判例における場所的利益の説明

前述のように,建物買取請求がなされた時の代金の計算では,建物の価値に場所的利益を加算します。もちろん,借地権の価値ではありません。建物買取請求の時だけ使われる概念(用語)です。
判例の中では(借地人が持っている)事実上の利益と説明されています。

<判例における場所的利益の説明>

あ 判例による指摘

建物買取請求権の対象建物について
借地権はないが建物の存在自体から建物所有者が享受する事実上の利益が存在する
これを場所的利益と呼ぶ
※最高裁昭和47年5月23日
※札幌高裁昭和34年4月7日

5 場所的利益(事実上の利益)の内容

前述の事実上の利益とは何でしょうか。建物所有者(元借地人)は借地権(土地占有権原)のない建物を持っていることでどんな利益を受けるのでしょうか。
状況を整理すると,すでに借地権は消滅しているので,地主は建物の収去(解体)を請求できる状態です。ここで,地主と建物所有者が交渉して,うまくいけば,新たに借地権を設定する(借地契約を締結する)ことができるかもしれません。大雑把にいえば,建物所有者は,地主との優先交渉権を持っているともいえます。これが事実上の利益(場所的利益)の中身のひとつです。

<場所的利益(事実上の利益)の内容>

あ 借地権設定の可能性

うまく地主との協議が進むことによって
→新たに借地権の設定ができるかもしれない

い 地主が取得する想定

地主が借地権を取得したと想定した場合
土地利用権原を考えることなく適法に建物を活用できる

う 結果的な土地利用実現の可能性

仮に地主が明渡請求を行った場合
→土地利用権原がなくても認められるとは限らない
→建物所有者は建物を利用できる可能性がある
例=権利濫用として明渡請求が排斥される

6 場所的利益の位置づけ(実質的意味)

場所的利益の内容を説明しようとすると,以上のように,ちょっと苦しいところがあります。そこで,理論的には苦しまぎれだが,人情的に補償してあげるという趣旨のものだ,という分かりやすい指摘もあります。

<場所的利益の位置づけ(実質的意味)>

借地権価額は加算しないといっておきながら,実際には借地権価額の一部を加算していることになって,理論的にはどうもすっきりしない。
・・・
土地所有者側に借地更新を拒絶する「正当事由」があったにせよ,また借地権の無断譲渡・転貸ということがあったにせよ,建物だけの価額を支払っただけで,経済的価値の相当に大きい借地権を無償で取り上げてしまうのは,やはりあまりに残酷ではないか,ある程度のものは補償してあげるのが世間の常識であろうし,人情としてももっともなところではないかという,いわば苦しまぎれで考え出したのが,この「場所的利益」というものではないかと思われる。
※土地評価理論研究会著『新版 特殊な権利と鑑定評価』清文堂2012年p202

7 場所的利益の相場

いずれにしても,実務では,建物買取請求における代金の計算では,場所的利益の加算を行います。具体的な計算としては,土地価格の15%程度とすることが多いです。前述のように明確な理論的裏付けがあるわけではないので,この15%の算定根拠を説明できません。そこで実際に15%以外の数値が使われることもあります。それでも10〜30%の範囲に収まることがほとんどです。

<場所的利益の相場(※2)

一般的に,「場所的利益」の価格は,建物付宅地価格建付地としての価格の15%程度とすることが多い
※土地評価理論研究会著『新版 特殊な権利と鑑定評価』清文堂2012年p202
※鵜野和夫著『不動産の評価・権利調整と税務 第42版』2020年p679

8 場所的利益と使用借権の評価の関係(参考)

ところで,土地の使用貸借において,一定の場合に,使用借権の評価額の計算が行われることがあります。
借地権未満の一定の評価額という意味では,場所的利益と使用借権は共通します。もちろん,このふたつは別の物(概念)です。その上で,どちらの評価(金額)の方が高いのか,ということについては両方の見解があります。このことについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|土地の使用借権の評価額(割合方式・場所的利益との関係)

本記事では,建物買取請求権の行使の際の代金の計算について,場所的利益を中心に説明しました。
実際には,個別的事情によって,法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際に借地契約の終了や明渡請求に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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