1 複数の賃貸人(共同賃貸人)の金銭債権・債務の可分性
2 賃貸人の相続における賃料債権の可分性
3 相続開始時に既発生の賃料債権の可分性(参考)
4 一般的な共同賃貸人の賃料債権の可分性
5 共同賃貸人が負う保証金・敷金返還債務の不可分性

1 複数の賃貸人(共同賃貸人)の金銭債権・債務の可分性

賃貸借契約の賃貸人(貸主)が複数人存在するケースがあります。複数の賃貸人のことを共同賃貸人と呼びます。
具体例は、共有不動産の賃貸借において共有者の全員が賃貸人になるというケースです。
この場合、共同賃貸人が有する金銭債権と、共同賃貸人が負う金銭債務が可分なのか不可分なのか、という解釈論があります。本記事ではこれについて説明します。
なお、賃借人が複数であるケースにおける金銭債権・債務の問題については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|複数の賃借人(共同賃借人)の金銭債権・債務の可分性(賃料債務・損害金債務)
また、賃貸人または賃借人が複数人であるケースにおける金銭債権・債務以外の問題については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|貸主or借主が複数の賃貸借の金銭請求以外の問題

2 賃貸人の相続における賃料債権の可分性

賃貸人が複数になる典型的な状況は、(1人の)賃貸人が亡くなって、複数の相続人が賃貸人の地位を承継したというものです。まずは、この状況で、毎月発生する賃料債権の扱いをまとめます。
過去には見解が分かれていましたが、平成17年の最高裁判例で可分として統一されました。つまり、各賃貸人は、賃料の一部の金額だけを請求できるということになります。

賃貸人が複数であるケースの賃料債権の可分性

あ 前提事情

賃貸借契約が締結されている
賃貸人が亡くなった
複数の相続人が対象の不動産を共同相続をした
(賃貸人が複数人の状態になった)

い 統一された見解(概要)

賃料債権は一般的な金銭債権の性質である
→可分である(分割独立債権として確定的に取得する)
※最判平成17年9月8日
詳しくはこちら|遺産の賃貸不動産の賃料債権の扱い(遺産分割/当然分割・遡及効の制限)

3 相続開始時に既発生の賃料債権の可分性(参考)

共同賃貸人が存在する状況で毎月発生する賃料債権は可分でした(前記)。
この点、既に発生している(過去の)賃料債権が相続によって複数の相続人(共同相続人)に承継されたという状況では扱いが異なります。単純な金銭債権として考えます。つまり、可分債権として扱われるのです。結論として、各相続人は各自の相続分に応じた金額だけを請求することができるということです。
これは、単なる金銭債権の相続であり、賃貸人の地位を誰が承継するかとは別の問題であるといえますが、参考として説明しておきます。
なお、平成28年の判例変更があてはまり、不可分となったように思えますが、賃料債権にはあてはまりません。

相続開始時に既発生の賃料債権の可分性(参考)

あ 前提事情

Aが賃貸人であった
賃借人が賃料債務を滞納していた
Aが死亡した
相続人はB・Cである

い 賃料債権の可分性(概要)

ア 法的扱い 既に発生していた賃料債権について
→一般的な金銭債権として扱う
→可分債権であるため、当然に分割して相続する
遺産分割の対象ではない
詳しくはこちら|一般的金銭債権の相続(分割承継・相続分の適用・遺産分割の有無)
イ 平成28年判例変更との関係 預貯金債権を遺産分割の対象として認めた(判例を変更した)
預貯金債権以外の金銭債権については従前の解釈(可分)のままである
※最高裁平成28年12月19日
詳しくはこちら|平成28年判例が預貯金を遺産分割の対象にした判例変更の理由

4 一般的な共同賃貸人の賃料債権の可分性

以上の説明は、単独の賃貸人の相続が原因となって賃貸人が複数人となったケースでした。これとは別に、原因に関わらず、一般的に賃貸人が複数であることを前提とした解釈として、可分という判断をした下級審裁判例があります。不法行為による損害賠償請求権と同じ扱いをするという解釈です。

一般的な共同賃貸人の賃料債権の可分性

あ 裁判例

賃貸物件を共有する賃貸人の一部が、賃借人に対して賃料を請求することについて
各共有者は、それぞれその共有持分の割合に応じて、賃料の支払を請求することができる(最高裁昭和51年9月7日参照)
※東京高裁平成2年12月20日

い 参照判例の内容(参考)

最高裁昭和51年9月7日について
共有土地の不法占有者に対する損害賠償請求についての判断である
詳しくはこちら|共有物と共同訴訟形態(損害賠償・境界確定・地役権設定登記請求・賃料増減額)

なお、現実には通常、賃貸借契約の中で、賃料の支払方法が賃貸人のうちの特定の者の預金口座に送金するものと定められているので、実際に賃貸人(共有者)のそれぞれが賃料のうち一部の金額を請求するようなことは生じません。送金方法の取り決めに関するトラブルを、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共同の賃貸人(共有者)間の賃料支払方法の変更と口頭の提供の効力

5 共同賃貸人が負う保証金・敷金返還債務の不可分性

賃貸人が負う金銭債務として、保証金や敷金を返還する債務があります。賃貸人が複数人である場合には、この返還債務は不可分債務となります。

共同賃貸人が負う保証金・敷金返還債務の不可分性

あ 前提事情

賃貸借契約が締結されている
賃貸人が死亡した
相続人は複数人である
→賃貸人が複数となった

い 保証金・敷金返還債務の不可分性

賃借人に対する保証金・敷金の返還債務について
→不可分債務である
※大阪高裁昭和54年9月28日

本記事では、共同賃貸人に帰属する金銭債権・金銭債務の可分性について説明しました。
実際には、個別的な事情によって扱いが違ってくることもあります。
実際に共同賃貸人(賃貸人が複数存在する)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。