【共有不動産の賃貸借契約における賃貸人の名義(反対共有者の扱い)】

1 共有不動産の賃貸借契約における賃貸人の名義(反対共有者の扱い)

共有の不動産を賃貸するケースはよくあります。収益物件が共有となっている、ともいえます。
詳しくはこちら|共有不動産の賃貸借|典型例|契約締結
このようなケースでは、誰が賃貸人なのかということが問題となります。本記事では、このことを説明します。

2 共有土地の短期賃貸借の設例

最初に、本記事で前提とする事案を示します。この事案では、賃貸借契約であり、これは借地借家法の適用はなく、また、期間が5年未満なので、短期賃貸借に分類され、共有物の管理に該当することになります。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
そこで過半数の持分を持つ共有者A・Bの賛成で決定することができます。つまりCは反対していてもそれを押し切って貸すことを決定できる、ということになります。

<共有土地の短期賃貸借の設例(※1)

兄弟A・B・Cが共有している土地がある
持分は3分の1ずつである
友人Dが資材・機材を置く場所として貸して欲しいと言っている
A・Bの賛成だけで1年間、地代月額5万円で貸すことに決めた
Cは反対している

3 共有物の使用方法の意思決定と実行行為の区別(概要)

以下、「賃貸人」となるのは誰なのか、ということを説明します。ここで前提となる理論で重要なことは、第1ステップである意思決定、つまり賃貸借をするという意思決定と、第2ステップである実行行為、つまり賃貸借契約を締結すること(共有者として意思表示すること)は別であり、ということです。この2段階の区別については賃貸借契約の解除でも問題となり、多くの議論があります。別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除の意思表示の方法(反対共有者の扱い)

4 昭和39年最判→反対共有者も賃貸人に含める

では、「賃貸人」は、賛成したA・Bだけなのか、反対したCも含めた共有者全員なのか、という話しに戻ります。
第1ステップである、過半数(多数決)による意思決定は、共有者全体としての決定(合同行為)という性質があります。単純に考えると、賃貸借契約の効果は共有者全員に帰属するということになり、それであれば、共有者全員が賃貸人となるという発想になります。この考え方を採用したように読める判例もあります。

昭和39年最判→反対共有者も賃貸人に含める

あ 前提事実

・・・Dは、右Eの死亡によりその相続人として本件土地に対する三分の二の割合の持分権を取得した訴外Fより、本件土地の北側半分を賃借した旨の原判決の事実認定は、その挙示する証拠により首肯できないことはない。

い 賃貸人の特定→共有者全員

そして、右過半数の持分権者であるFの承諾によつて、F外二名の本件土地共有者とD間の本件賃貸借契約が有効に成立した旨の原判決の判断は、民法二五二条の法意に照らして正当である。
※最判昭和39年1月23日

5 「現実使用」と「収益」の2分論(概要)

話しは変わりますが、令和3年の民法改正の議論の中で、現実使用収益を区別する見解が示されています。その見解の中身は、現実使用の方は反対した共有者も拘束する(共有者全体の合同行為)一方で、収益については(合同行為ではなく)個々の当事者間の合意という扱いをすると読めます。
詳しくはこちら|単独で使用する共有者に対する償還請求(民法249条2項)
この考え方を前提とすると、「Dに賃貸する」ことを多数決(持分の過半数)で決定した場合、合同行為としては(共有者全員を拘束する内容は)特定の賃貸借契約ではなく、これを抽象化したDが占有することにとどまると考えられます。
そうすると、反対した共有者Cは、Dの占有を違法と主張することはできない、また、「賃貸人」ではないのでDに賃料を請求することはできない、一方で(Dの支払う賃料が低いとしても)相場の賃料を元にした金額についてAとBに対して償還請求をすることができる、ということになると思います。

6 意思決定の後の意思表示(実行行為)に関する授権(概要)

前述の考え方を採用すると、賃貸借契約の当事者(賃貸人)になるのは、あくまでも賃貸借契約を締結した者(賃借人に対して申込または承諾の意思表示をした者)だけということになります。
この点、共有者間の意思決定があったことで実行行為(意思表示)の授権(代理権授与)があったと認める見解もあります。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除の意思表示の方法(反対共有者の扱い)
この見解を採用すれば、AやBがCの代理人も兼ねてDと賃貸借契約を締結する(ABCの全員が賃貸人となる)ことが実現します。
しかし、令和3年の民法改正の際の議論の中で、授権は根拠がないとして否定した上で、契約の当事者は実際に契約を締結した共有者だけである、という見解が示されています。(共有者から「共有物の管理者」への委任契約に関して)。
詳しくはこちら|共有物の管理者の制度(令和3年改正)
この見解を前提とすると結局、授権がない以上、反対共有者は賃貸人には含まれないということになります(意思表示を命じる判決(民事執行法177条)により賃貸人に含める発想もありますが、前提として意思表示をする義務が認められない可能性もあると思います)。

7 平成20年東京地判→賛成共有者のみ

実務では、賃貸借契約を締結する際、反対する共有者は除外しておく、という方法をとることもあります。ここで紹介する裁判例は、変更(処分)に分類されると思われる賃貸借(長期賃貸借扱い)ですが、共有者の一部だけが賃貸人となっています。

平成20年東京地判→賛成共有者のみ

本件賃貸借契約は、原告X1(注・共有者の1人)と原告学園(注・賃借人)とが契約当事者として締結したものであるから、その契約上の義務を負うのはあくまで原告X1と原告学園のみであり、契約当事者でない被告(注・共有者の1人)が本件賃貸借契約上の賃貸人として義務を原告学園に対して負うことはないと解すべきである。
※東京地判平成20年10月24日

なお、共有者ABだけが賃貸人となった場合でも、賃貸借の対象(目的物)はあくまでも当該不動産(全体)です。ABの共有持分が賃貸借の対象となるわけではありません。
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)

8 令和5年法務省通達(登記)→賛成共有者全員またはその一部

賃貸人が誰なのか、という問題について、令和5年の法務省通達にもコメントがあります。この通達は、令和3年改正に対応する登記手続を説明するものです。
登記申請の当事者の説明の前提として、短期賃貸借の契約の賃貸人(当事者)は、賛成した共有者(持分過半数)の全員またはその一部である、という説明がなされています。反対共有者も含めた共有者全員ということを否定している、つまり授権を否定しているようにも読めます。
なお、登記申請については、反対共有者も登記義務者に含むが、申請人には含まないという説明になっています。これは、申請意思がない以上、申請人になれないが、賃借権設定は、所有権(共有持分権)の制限になるので、共有者全員が「登記上、直接に不利益を受ける」(不動産登記法2条13号)に該当するということが理由です。反対共有者にも賃貸借契約の効果が及ぶという意味ではありません。
次に、長期賃貸借については、共有者全員の同意が必要であるところ、賃貸人となるのは共有者全員でもよいが、共有者の一部でもよいという説明がなされています。

令和5年法務省通達(登記)→賛成共有者全員またはその一部

あ 短期賃貸借

ア 賃貸人→賛成共有者全員またはその一部 (2)前記(1)の過半数で決するところにより短期の賃借権等が設定され(当該過半数による決定を行った共有者全員が契約当事者になる場合と、その一部が契約当事者になる場合がある。)、
イ 登記申請人→過半数持分権者・登記義務者→共有者全員(参考) これに基づいて当該短期の賃借権等の設定の登記を申請する場合には、改正民法第252条第4項の趣旨から、各共有者の持分の価格に従い、その過半数を有する共有者らが登記申請人となれば足りる(当該共有者ら以外の共有者らは、登記申請人とはならないが、登記義務者としてその氏名又は名称及び住所を申請情報の内容とする必要がある。)。
※法務省民事局長令和5年3月28日『法務省民二第533号』通達p3、4

い 長期賃貸借

ア 賃貸人→共有者全員または一部 (注・共有物の管理者による長期賃貸借の説明の箇所)
共有物の管理者が共有物について長期の賃借権等を設定し(管理者自らが契約当事者になる場合と、共有者の全部又はその一部が契約当事者になり、管理者がこれらの者から委任を受けて契約を締結する場合がある。)、・・・
※法務省民事局長令和5年3月28日『法務省民二第533号』通達p7、8

この通達の内容(登記申請の手続)やその問題については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有不動産への賃借権設定登記申請の当事者(令和5年通達)

9 松尾弘氏見解→反対共有者を賃貸人に含める方向

松尾氏は反対共有者を賃貸人に含める解釈、含めない解釈の両方の可能性を指摘した上で、含めない場合には、バランスを欠くことと法律関係を複雑にする、ということを指摘してどちらかというと含める解釈を支持するようなコメントをしています。
さらに、含めないとした場合でも、共有者間の償還請求を追認と評価する発想も示しています。これについては、賃貸借契約の中で反対共有者の顕名(名義の表示)があった場合はよいですが、なかった場合はそもそも追認が使えないようにも思えます。

松尾弘氏見解→反対共有者を賃貸人に含める方向

あ 反対共有者を賃貸人に含めない(前提)

(a)賃貸借契約はA1・A2とBとの間でのみ成立し、BはA1・A2に毎月6万円を支払う一方、A3はA1・A2各自に対し、持分価格に従い、不当利得として毎月1万円(注・原文のまま・2万円が正しいと思われる)相当の価額を償還請求することができる(民法249②*)とも考えられる。
その一方で、BはA3に対しては、なんら使用・収益請求権をもたないことになる。

い 反対共有者を賃貸人に含む(共同貸主)

もっとも、(b)共有物の管理に関する規定(民法252④*)に従い、A1・A2がBと賃貸借契約を締結した場合、それはA1・A2・A3が共有する土地を目的物とするものであり、A1・A2は、たとえA3が反対したとしても、共有物をBに所定の期間内は賃貸する権限をもつことから、その範囲でA3もこの賃貸借の共同貸主となり、Bに対して共有物を使用・収益させる債務を負うという解釈もできるであろうか
そのように解しないと、A3はBに対する関係で共有物を使用・収益させる債務を負担しない一方で、賃料相当額は、A1・A2に対する不当利得返還請求(償還請求)という形で、実質的に賃料に当たるものとして収受できることになり、バランスを欠くとともに、法律関係を複雑にするようにも思われる。

う 償還請求を追認とみる余地

少なくとも、A3がA1・A2に対する賃料相当額の支払を請求することは、A1・A2によるBへの賃貸を明示的または黙示的に追認したものと解され、A3との間にも賃貸借契約の効力が遡及的に発生する(民法116参照)とみる余地があるように思われる。
※松尾弘著『物権法改正を読む』慶應義塾大学出版会2021年p39、40

10 借地非訟手続における賃貸人の認定→共有者全員(参考)

本記事の説明は借地借家法の適用なしが前提ですが、ここで参考として、借地借家法の適用ありの土地賃貸借(借地)における借地非訟手続の当事者の問題を紹介します。
建物所有目的の土地賃貸借は変更分類とされているので、もともと共有者全員が同意しないと適法な借地権設定ができません(共有者の一部が反対していたらできません)。そこで、借地非訟手続の申立においては、共有者全員を相手方とすべきです。正確には、共有者全員を借地権設定者(借地借家法2条3号)として扱う、ということになります。

借地非訟手続における賃貸人の認定→共有者全員(参考)

あ 契約書の賃貸人名義が単独→代理または転貸の可能性

(注・借地非訟手続について)
(所有者から土地の管理を委ねられた親族等がその名義で契約書を作成したり、共有土地について共有者のうちの一人による単独の名義で契約書が作成されているような場合がある。)が、その多くは無権限による賃貸ではなく、このような場合には顕名によらない代理行為と解することができるであろうし、あるいは土地の転貸借がなされたものと解しうる場合もありうるから、その法律関係を実態に即して構成すべきである。

い 借地非訟事件

登記簿上の土地所有者と当事者とが一致しているか否かは事件受付の段階でチェックされており、その際、申立人のなかには契約書の記載に固執する向きもあるが、借地非訟事件手続きは土地所有者との関係で適法な借地権の存在を前提としていると解されるから、申立ての認容を得るには原則として土地所有者を漏れなく相手方とすべきである。
※佐村浩之稿『借地非訟事件実務の現状』/『判例タイムズ226号』1988年8月p20

11 共有物の賃貸借契約書の記載方法(概要)

以上のように、共有物を対象とする賃貸借契約を締結する時には、賃貸人の名をどうするべきか、という問題があります。実際に賃貸借契約書を作成する時の工夫、具体的な記載・調印方法については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有不動産の賃貸借契約書・解除通知書のサンプル(賃貸人の記載方法)

本記事では、共有不動産の賃貸借契約書の「賃貸人」の名義が誰なのか、ということを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産の賃貸借に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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