1 不在者財産管理人の選任制度の全体像
2 不在者財産管理制度の条文規定
3 不在者財産管理人の選任の要件
4 不在者の判断の補足説明
5 財産管理人の不在の判断の補足説明
6 不在者財産管理人選任手続の分類
7 不在者財産管理人の審判における不在の証明
8 不在者財産管理人と失踪宣告の比較
9 不在者財産管理人と成年後見との関係
10 不在者財産管理人の選任の具体例(概要)

1 不在者財産管理人の選任制度の全体像

たとえば,土地や建物の所有者が行方不明になった場合に,家庭裁判所が管理人(不在者財産管理人)を選任する制度があります。本記事では,不在者財産管理人の制度に関して,選任の要件(どのような場合に選任できるのか)その他の基本的事項を説明します。

2 不在者財産管理制度の条文規定

最初に,不在者財産管理人に関する基本的な条文を押さえておきます。

<不在者財産管理制度の条文規定(※4)>

(不在者の財産の管理)
第二十五条 従来の住所又は居所を去った者(以下『不在者』という。)がその財産の管理人(以下この節において単に『管理人』という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
※民法25条1項

3 不在者財産管理人の選任の要件

不在者財産管理人が選任が認められるための主な要件は不在者,財産管理人の不在,財産が放置されていることというものです。

<不在者財産管理人の選任の要件>

あ 不在者

不在者とは,従来の住所または居所を去って容易に帰来する見込みがない者のことである(前記※4)
不在者の判断に関してはいくつかの解釈論がある(後記※1)

い 財産管理人の不在

不在者が財産の管理人を置かなかった(後記※2)

う 財産の無管理状態

不在者の財産が放置された状態にあるが財産管理人の選任の要件である
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)総則(1)改訂版』有斐閣2002年p442

4 不在者の判断の補足説明

不在者財産管理人が選任されるためには,不在者に該当する必要があります。つまり従来の住所・居所を去ったという要件です(前記)。
失踪申告の審理における行方不明や生死不明よりも大幅に緩く認められます。

<不在者の判断の補足説明(※1)>

あ 従来の住所・居所の判明(肯定)

従来の住所・居所自体が不明である場合
→不在者財産管理人の選任はできない
(従前の住所または居所が判明していることが要件となる)
※長崎家裁佐世保支部昭和43年3月16日

い 新たな住所・居所の必要性(否定)

不在者が他に住所or居所を定めたか否かは問わない

う 行方不明・生死不明との関係(否定)

行方不明や生死不明は不在者財産管理人選任の要件ではない
例=海外への移住者も不在者となりうる

え 戸籍の記録の必要性(否定)

戸籍の記録がない者について
例=元樺太在住者
→不在者財産管理人の選任はできる
※昭和28年5月19日最高裁家庭局長回答

お 一時的滞在地を去った者(肯定)

単なる滞在地を去った者について
例=ホテルの滞在者
住所などが知れず容易に連絡が取れず,遺留品を管理する必要性があるときは不在者に含める,とする見解もある
※大谷美隆『失踪法論』1933年p683
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)総則(1)改訂版』有斐閣2002年p441,442

5 財産管理人の不在の判断の補足説明

実際には,一時的,暫定的に財産の管理に関わっている者が存在することもあります。しかし,しっかりした財産を管理する権限がない場合には,財産管理人がいないものとして扱われます。

<財産管理人の不在の判断の補足説明(※2)>

あ 事務管理との関係

事務管理(民法697条)として財産管理をしている者がいても,財産管理人がいるとは言えない
※大谷美隆『失踪法論』1933年p697

い 財産管理人該当性判断の例

夫が家出をするにあたり,妻に対し『債権者で来るものがあったら適当に応待すべき』旨を言い置いたのみでは訴訟代理人の選任行為を妻に委任したとは言えず,利害関係人において家庭裁判所による不在者の財産管理人の選任を求めることができる
※東京高裁昭和46年1月28日

6 不在者財産管理人選任手続の分類

家庭裁判所が不在者財産管理人を選任するのは,利害関係人や検察官が請求(申立)をした時です。家庭裁判所の手続は別表第1事件に分類されます。

<不在者財産管理人選任手続の分類>

家庭裁判所が不在者財産管理人を選任する手続について別表第1事件に分類される
詳しくはこちら|家事事件(案件)の種類の分類(別表第1/2事件・一般/特殊調停)

7 不在者財産管理人の審判における不在の証明

家庭裁判所の審理では,不在(従来の住所・居所を去ったこと)について判断します。通常,自治体や親族への照会が行われます。

<不在者財産管理人の審判における不在の証明>

あ 不在の証明の方法

家庭裁判所が審判において不在を認定する方法について
→『い〜え』のような方法がある

い 本籍地への照会

家庭裁判所から不在者本人の本籍地へ問い合わせる

う 住民票上の住所地への照会

戸籍の付票で住民登録上の住所を確認する
住民登録における本人の現住所の市区町村に問い合わせる

え 推定相続人への照会

推定相続人に問い合わせて不在であることを確認する
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)総則(1)改訂版』有斐閣2002年p446

8 不在者財産管理人と失踪宣告の比較

ところで,人が行方不明になった場合に利用する制度として,不在者財産管理人とは別に失踪宣告があります。失踪宣告は生死不明の状況が一定期間継続することが必要であり,また,死亡したものとみなす結果となる制度です。この点で不在者財産管理人の制度とは違います。

<不在者財産管理人と失踪宣告の比較>

あ 不在者財産管理制度

不在者が生存しているものと推測して,残留財産を管理し帰来を待つ
行方不明や生死不明になっている必要はない(前記※1)
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)総則(1)改訂版』有斐閣2002年p123

い 失踪宣告

不在者が死亡したものとみなして,法律関係を確定させる
生死不明の状態が一定期間経過しなければならない
失踪宣告の前提として,不在者財産管理人を選任する必要はない
※民法30条

9 不在者財産管理人と成年後見との関係

本人(所有者)が財産を管理できない状況としては,不在者以外にも成年被後見人などもあります。
詳しくはこちら|成年後見人の制度の基本(活用の目的や具体例と家裁の選任手続)
実際には,不在者財産管理人の選任も成年後見人,保佐人,補助人の選任もできるという状況がよくあります。
この2種類の制度については,優劣関係はありません。
どちらか一方だけの選任を申し立てることも,両方申し立てることもできます。

<不在者財産管理人と成年後見との関係>

あ 優劣関係

財産管理人制度と成年後見制度の関係について
利用上の優劣関係はない

い どちらでも利用できる状況

判断能力が不十分な者について
例=被補助人(被後見人)の要件を満たす者
→不在者財産管理人の選任は可能である

う 両方とも利用する具体例

施設入所の手続をすぐに行いたい
→先行して不在者財産管理人を選任する
その後,財産全体の管理のために後見人を選任する
このようなケースは多い
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)総則(1)改訂版』有斐閣2002年p443,444

10 不在者財産管理人の選任の具体例(概要)

実際に不在者として財産管理人が選任される状況にはいろいろなものがあります。不在者にあたる者の状況の具体例については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不在者財産管理人が選任される状況(行方不明・認知症・知的障害・家出)
なお,大規模な災害の際に不在者が生じたケースでは,不在者財産管理人の選任に関して特別な扱いがなされることもあります。
詳しくはこちら|生死不明→不在者財産管理人→失踪宣告→相続,生命保険金支払となる;普通失踪,危難失踪
また,不在者がいるだけで不在者財産管理人の選任の申立が必要なわけではなく,実際には,すぐに財産の管理が必要な状況にある場合に申立を利用することになります。建物が倒壊しそうであるような物理的な対応が必要な場合もありますし,また,遺産分割をするため,ということもあります。
詳しくはこちら|相続人の行方不明の場合は失踪宣告or不在者財産管理人により遺産分割ができる

本記事では,不在者財産管理人の制度の基本的事項を説明しました。
実際には,具体的な状況によって法的扱いや最適な対応は違ってきます。
実際に財産の管理をする者がいないという状況に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。