【行方不明の相続人がいる場合の遺産分割(不在者財産管理人選任・失踪宣告)】

1 行方不明の相続人がいる場合の遺産分割(不在者財産管理人選任・失踪宣告)

遺産分割は相続人全員で協議して合意を目指し、合意に至らなければ調停や審判といった裁判所の手続を利用します。この点、相続人の1人が行方不明である場合には、相続人全員の協議ができません。このようなケースでは、不在者財産管理人の選任を行うか、執行宣告を得れば、遺産分割が実現します。
本記事ではこのような方法について説明します。

2 行方不明の相続人がいる場合の遺産分割の問題(設例)

最初に、説明の前提となる事案を整理しておきます。相続人ABCのうちCが行方不明となっているケースです。

<行方不明の相続人がいる場合の遺産分割の問題(設例)>

父Xが亡くなった
相続人はきょうだい(Xの子)3人(ABC)である
困ったことに、Cが以前から行方不明である
Cの妻Dと子供Eは連絡がとれる

3 不在者財産管理人の選任により遺産分割を実現する方法

(1)遺産分割実現への流れ

行方不明、所在不明のケースの原則的な対応方法として不在者財産管理人の制度があります。裁判所が管理人を選任して、選任された管理人が不在者の代わりにいろいろな処理を進めます。もちろん、遺産分割の協議(合意)もこれに含まれます。
可能な範囲で調べてもCの所在が不明であれば、不在者にあたります。
詳しくはこちら|不在者財産管理人が選任される状況(不在者の解釈と具体例)
BやCが家庭裁判所に申立をすれば、裁判所は不在者財産管理人を選任することになります。
詳しくはこちら|不在者財産管理人の制度の全体像(選任要件・手続・業務終了)

(2)不在者財産管理人は家裁の許可を得て遺産分割に参加する

家庭裁判所に選任された不在者財産管理人の標準的な権限は保存行為、管理行為に限られています(民法28条、103条)。
詳しくはこちら|権限の定めのない代理人の代理権の範囲(民法103条)の基本
遺産分割協議(への参加)はこれにあたりません。そこで、管理人は家庭裁判所の許可をもらった上で遺産分割に参加することになります(民法28条)。

(3)不在者財産管理人による遺産分割の特徴→法定相続分逸脱・出現時支払方式

不在者財産管理人が遺産分割に参加する場合には、あくまでも不在者本人(C)の代わりの立場です。本人Cに不利にならないようにするのが原則(理想)です。しかし、実際にはたとえば、法定相続分よりも本人に不利になる(分割内容を裁判所が許可する)こともあります。またたとえばAが多めに遺産を取得して、その分、AがCに代償金を支払う、という遺産分割をすることがあります(代償分割)。通常であればAはすみやかに代償金を支払いますが、状況によっては本人Cが出現した時に支払う(当面支払わなくてよい)ということにすることもあります。
このように本人Cが実際に参加したのとまったく同じ内容になるとは限らないのです。

不在者財産管理人による遺産分割の特徴→法定相続分逸脱・出現時支払方式

あ 法定相続分・指定相続分からの逸脱→許容

もっとも、遺産分割による不在者の取得分は、必ずしも法定又は指定相続分どおりである必要はなく、不在者の年齢、職業など民法九○六条列挙の事由のほか、将来における不在者の出現の可能性や配偶者・直系卑属の有無などをも考慮してこれを決することができるものと解する。
※松岡登稿『不在者の財産管理及び失踪』/岡垣學ほか編『講座・実務家事審判法4』日本評論社1989年p127

い 出現時支払方式→実例あり

不在者が長期間所在不明であるなどして、出現する可能性が少なく、かつ不在者に直系卑属がいない場合には、遺産を取得する相続人に「不在者が出現し、同人から請求があったときは相続分に相応する金員を支払う」という債務負担をさせる旨の協議条項による遺産分割協議を許可することがある(中村・前掲一○五頁、山田・前掲五頁)
※松岡登稿『不在者の財産管理及び失踪』/岡垣學ほか編『講座・実務家事審判法4』日本評論社1989年p129

4 失踪宣告により遺産分割を実現する方法

(1)遺産分割実現への流れ

相続人Cが7年以上生死不明、という状況であれば、家庭裁判所に失踪宣告を求める方法もあります。家庭裁判所が調査しても生死不明であれば、裁判所は失踪宣告をします。そうすると、Cは死亡したものとみなされることになります。
詳しくはこちら|普通失踪(失踪宣告)の基本(要件・効果・手続)

(2)執行宣告の後→数次相続または代襲相続となる

執行宣告がなされると、(法律上は)Cは死亡したものとみなされるので、Xの遺産分割には、Cではなく、Cの妻Dや子供Eが参加することになります。状況によってどちらが参加するかが違ってきます。

(3)代襲相続となるケース

まず、失踪宣告によって死亡したとみなす時期は、Cの生存が確認できた最終時点から7年後です(Cの死亡みなし時点)。父Xが亡くなった時点よりも、Cの死亡みなし時点の方が過去である場合は、父Xの相続開始時点においては、既にCは死亡していたということになります。
そうすると、Xの相続に関してCは相続人ではないということになります。そして、Cの子供Eが、父Xの直系卑属として代襲相続人になります(民法887条2項)。
詳しくはこちら|代襲相続|孫・甥・姪が相続する・『相続させる』遺言・民法改正による変化
結局、父Xの相続について、遺産分割協議の参加者(相続人)は、ABEの3人ということになります。

(4)数次相続となるケース

父Xが亡くなって時点よりも、Cの死亡みなし時点の方が後であった場合はどうでしょうか。父Xの相続開始時点にはCは生存していたことになります。そこで、Xの相続に関する相続人はABCの3人のままです。
その後、Cが死亡した(こととみなされた)ことにより、Cの財産が、Cの相続人に承継されます。正確にいうと、父Xの相続に関する相続人という立場がCの相続人に承継されるのです。
Cが遺言を作成していなければ、Cの相続人は妻Dと子供Eです。D・EがXの相続人の立場を承継するのです。
結論として、Xの相続について、遺産分割の参加者(相続人)は、ABDEの4人ということになります。このように相続によって承継が2ステップあるので、数次相続と呼びます。

5 不在者財産管理人選任と失踪宣告の関係

以上で説明した2つの制度は、それぞれ別のものです。つまり、状況によってはどちらを使うこともできることがあります。それぞれの制度を使った場合の結果がどう違うのか、手続にかかる時間や金銭的コスト、死亡したとみなされるということの気持ち的な問題など、多くの点から最適な手法を選択することになります。

6 関連テーマ

(1)意思能力を欠く相続人は成年後見人が遺産分割に参加する(概要)

以上の説明は、相続人の1人が行方不明であるために遺産分割に参加できないというものでした。この点、相続人の所在ははっきりしていて連絡もとれるけれど、判断能力が低下している、というケースもよくあります。高齢者や認知症や精神的な疾患などが典型例です。
そのような場合は家庭裁判所に成年後見人を選任してもらえば、後見人が本人に代わって遺産分割に参加できるようになります。
詳しくはこちら|成年後見人の制度の基本(活用の目的や具体例と家裁の選任手続)

本記事では、行方不明の相続人がいる場合の遺産分割について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に相続、遺産分割に参加する相続人に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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