1 不在者財産管理人が行方不明の方の財産の管理をできるが売却はできない
2 災害→復興事業では不在者財産管理人の活用促進|手続の簡略化
3 不在者財産管理人の権限は現状維持が原則だが不動産の売却ができる例外もある
4 債権者からの『行方不明の方の財産の差押,競売』は可能
5 長期間行方不明の方を死亡したものとみなす手続がある;失踪宣告
6 生死不明が7年に達すると普通失踪となる
7 災害などで死亡が推定される+生存可能性もゼロではない場合に危難失踪となる
8 失踪宣告により死亡とみなされ,相続,生命保険金支払などが生じる

1 不在者財産管理人が行方不明の方の財産の管理をできるが売却はできない

<行方不明の方の財産の扱いで困るケース>

父が行方不明になってから5年が経った
父の不動産の売却はできないのか

(1)行方不明の方の所有物管理のために不在者管理人の選任ができる

不動産の所有者が行方不明という場合,管理する人がいないということになります。
一定の管理が必要,という場合,不在者財産管理人の選任が認められます。
家庭裁判所に申し立てることにより,不在者財産管理人選任の審判がなされます。
詳しくはこちら|家庭裁判所は不在者の財産管理人を選任できる(選任の要件)

(2)不在者財産管理人の権限は現状維持のみ

不在者財産管理人の権限の範囲は,基本的には,現状維持の範囲です(後記『3』)。
この点,売却処分行為とされます。
不在者財産管理人が行える権限の範囲を超えています。
原則的に,不在者財産管理人は不動産の売却をできません。

2 災害→復興事業では不在者財産管理人の活用促進|手続の簡略化

(1)災害の復興事業で不在者財産管理人が活用される

災害の復興事業において,『用地の所有者が行方不明→買収ができない』ということが生じます。
そのような場合に,不在者財産管理人が活用されます。

<災害復興で不在者財産管理人が活用される事情の具体例>

ア 復興事業の対象土地の所有者が行方不明(不在者
イ 不在者の住所が津波被害のエリア内
ウ 市の行方不明者名簿に不在者の記載がある
エ 不在者について死亡届はなされていない(戸籍に記載がある)
オ 不在者について,警察による『未発見者証明書』の発行が受けられる

(2)復興事業主体の地方自治体は『利害関係人』として申立人になれる

復興のための公共事業における用地取得(買収),という目的があれば,事業主体の地方自治体が不在者財産管理人の選任申立を行うことができます。
申立人となれる『利害関係人』に該当すると言えるからです。
※民法25条1項

(3)東日本大震災の復興事業に関しては不在者財産管理人の手続が簡略化されている

不在者財産管理人の選任の手続では,一定の資料が必要とされます。
この点,東日本大震災の復興事業に関する申立については,一定の簡略的な運用がなされています。

不在者財産管理人の選任手続で必要とされる資料>

あ 不在者の戸籍謄本(証明書)・戸籍附票
い 不在の事実を証する資料

《例》
ア 不在者宛郵便物が返送されたもの
イ 捜索願受理証明書
ウ 不在者の親族による陳述書(聴取報告書)
※東日本大震災を原因とする不在者での緩和;概要
・警察が発行する『届出・未発見事実証明書』で足りる
・親族の陳述書については『手紙や電話による聴取』(を報告書にしたもの)で足りる

う 不在者の財産に関する資料

・(不在者が所有者となっている)不動産の登記事項証明書,土地評価調書
なお,不在者財産管理人が選任された後に,管理人が財産の調査を行ないます。
申立の段階では,正確・網羅的なものが必要というわけではありません。

え 申立人の利害関係を証する資料

不在者の親族である場合,戸籍謄本(証明書)など
※東日本大震災を原因とする場合の緩和
地方自治体が用地取得を必要とする事情(事業内容)

3 不在者財産管理人の権限は現状維持が原則だが不動産の売却ができる例外もある

不在者財産管理人の権限の範囲は,基本的には,現状維持の範囲のみです。
『売却』などの処分行為は権限外です。
詳しいルールをまとめます。

不在者財産管理人の権限の範囲>

あ 原則

保存行為,目的物・権利の性質を変えない範囲内の利用or改良行為
※民法28条,103条

い 裁判所の許可による例外

家庭裁判所の許可があれば,『あ』の権限外の行為ができる
※民法28条

<裁判所が不動産の売却を許可する例>

あ 納税資金不足

固定資産税の納税資金が不足している

い 建物の修理や取壊しが必要

※次のいずれも該当する場合
ア 建物が老朽化し,近隣に損害を及ぼす可能性が高い
イ 修理や取壊し費用が不足している

う 債務弁済のために良い条件で売却する

※次のいずれも該当する場合
ア 多額の債務を負っている
イ 強制競売や競売がなされることが予想される
ウ これらの手続までの時間に多額の遅延損害金が生じる

え 公共事業の買収

道路用地等とし,国や地方自治体から買収の申出がなされている

以上のような『特別な』事情がない場合,売却は許可されません。

<裁判所が資産の売却を許可しない例>

NG例 現時点であれば高価で売却できる→資産の維持・増殖として有利

<参考情報>

『相続人不存在・不在者財産管理事件処理マニュアル』p245

4 債権者からの『行方不明の方の財産の差押,競売』は可能

<行方不明の方の財産の差押の事例>

Aに以前お金を貸した
返済できなくなって,Aは『所有している土地を売却して返済する』と言っていた
その後,Aが行方不明になって数年が経った
土地を売って返済してもらいたいが,Aが出てこないので困っている

(1)行方不明になった方の財産に対して差押競売をすることができる

差押,競売という強制手段は,所有者の同意連絡することは不要です。
債務者と連絡が取れない状態であっても進めることは可能です。
裁判所からの連絡については,公示送達を用いることになります。
相手方の具体的に住居が分からなくても問題なく手続を進められるのです。
別項目;公示送達は相手の所在が不明という場合に行なわれる

(2)行方不明の方の所有不動産について,通常の売却はできない

通常の売却については,所有者が合意しないとできません。
所有者が行方不明の場合は,通常の売却はできないのです。
仮に不在者財産管理人が選任されても,原則的に権限外のため,売却できません(前記『3』)。

5 長期間行方不明の方を死亡したものとみなす手続がある;失踪宣告

行方不明の方の財産の管理は,不在者財産管理人が行うことができます(前記『1』)。
しかし,長期にわたってこのような暫定措置を続けることは不合理です。
そこで,行方不明期間が長い場合には死亡したものとみなす制度があります。
失踪宣告,という手続です。
失踪宣告には普通失踪特別失踪(危難失踪)の2種類があります。
いずれも家庭裁判所の審判で判断されます。
詳しくはこちら|家裁の失踪宣告の審判手続(申立権者・管轄・調査方法・所要期間)

6 生死不明が7年に達すると普通失踪となる

(1)7年間生死不明が継続することが必要

生死不明の期間7年になった場合は,失踪宣告が利用できます。
※民法30条1項
あくまでも生死不明なので,所在を明かさないがたまに電話が来るという場合には使えません。
姿も現わさないし,電話・手紙・メールその他の連絡も一切ない,という状態が7年間続いた場合に失踪宣告が下されます(民法30条)。
いわゆる蒸発という状態のことです。

(2)生死不明7年間満了時点死亡したとみなされる

失踪宣告がなされると,生死不明の7年間の満了時点に死亡したものとみなされます。
※民法31条

7 災害などで死亡が推定される+生存可能性もゼロではない場合に危難失踪となる

(1)死亡が推定されるが生存の可能性もゼロではない場合に危難失踪に該当する

危難失踪は,災害などの推定的に死亡している可能性が高いという状況において利用できる制度です。
条文上は,戦地に臨んだ者沈没した船舶の中に在った者が例として挙げられています。
解釈上,地震・津波等の自然災害による行方不明・生死不明,という場合も含まれます。
生存している可能性も考えられるという場合には,事故だけでは死亡したとは認められないので,失踪宣告という手続きが必要となるのです。

(2)確実に死亡している場合は死亡認定となる

この点,飛行機の墜落など遺体確認はできないが,どう考えても生存しているはずはないという場合は生死不明とは言えません。
失踪宣告などの手続きとは関係なく,事故の時点で死亡したと認められましょう。
詳しくはこちら|死亡認定・3徴候説|刑事責任との関係・臓器移植法改正
詳しくはこちら|災害×死亡認定|特別失踪・死亡届の緩和措置

(3)死亡推定事故から1年間の生死不明で危難失踪に該当する

<危難失踪の成立>

あ 前提(要件)

事故自体では死亡しているとは断言できない=生存している可能性もゼロではない

この期間が1年間継続した
※民法30条2項

い 危難失踪宣告の結果

死亡したものとみなされる
死亡時期=危難が去った時点
※民法31条

危難が去った時点の例>

ア 地震
揺れが収まった時点
イ 津波
水流が引いた時点

8 失踪宣告により死亡とみなされ,相続,生命保険金支払などが生じる

(1)失踪宣告により相続が生じる

失踪宣告がなされると死亡したとみなされます。
そのため,不在者の相続が生じます。
不在者の相続人が財産を承継します。
当然ですが,相続人が第三者に不動産を売却するなどの行為ができるようになります。

(2)生命保険金が支払われる

生命保険契約上の死亡事故として扱われます。
要するに,生命保険金が下りる,という状態です。
この制度を悪用した保険金詐欺も生じることがあります。

(3)家庭裁判所からの通知により戸籍への記録がなされる

家庭裁判所が失踪宣告をして,これが確定した時点で,裁判所書記官から役所の戸籍の部署に『通知』がなされます。
※家事事件手続規則89条1項
要は,家庭裁判所がアフターサービスとして,戸籍関係の事務まで行ってくれる,という状態です。
家族が役所に死亡届を提出することは不要です。