1 2重譲渡や2重抵当による刑事責任(横領罪・背任罪の成立)
2 不動産の2重譲渡による横領罪
3 2重抵当による背任罪
4 電話加入権の2重譲渡による背任罪
5 譲渡担保権者が抵当権を設定したことによる背任罪
6 虚偽申請としての公正証書原本不実記載等罪(否定・概要)
7 2重譲渡・2重抵当の民事的な扱い(対抗関係・参考)

1 2重譲渡や2重抵当による刑事責任(横領罪・背任罪の成立)

不動産やその他の権利を2人に重複して譲渡することや,2人に重複して担保権を設定するということがあります。実際に民法では正面からこのような行為を想定していて,その場合の扱いを規定しています(対抗関係・後記)。
一方,このような行為は刑法上の犯罪となることがあります。
本記事では,2重譲渡や2重抵当による横領罪や背任罪について説明します。

2 不動産の2重譲渡による横領罪

不動産を別の2人に重複して譲渡することは,民法上は認められています。しかし刑法では,原則的に,自己の占有する他人の所有物を処分したものとして,横領罪が成立します。

<不動産の2重譲渡による横領罪>

あ 不動産の2重譲渡

不動産の所有者XがAに譲渡した
その後,XはBに譲渡し,移転登記を申請(完了)した

い 横領罪の成立(基本)

移転登記未了の不動産について
登記上の所有者に法律上の占有がある
自己(X)の占有する他人(A)の物にあたる
→XがBに譲渡したことは,横領(罪)に該当する

う 代金未授受の際の不成立(概要)

AがXに代金をまったく支払っていない場合
→横領罪が成立しないこともあり得る
※刑法252条
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p265,279
詳しくはこちら|横領罪の基本(条文と占有・他人性の解釈・判断基準)

3 2重抵当による背任罪

不動産に抵当権を設定した所有者が,別の債権者にも抵当権を設定することがあります。もともと抵当権は1つの不動産に複数設定して登記することが可能です。
しかし,設定した順序登記の順序が違ってしまうと,抵当権の優劣が想定したものではなくなってしまいます。
そこで,任務に背いたこととして,背任罪が成立します。

<2重抵当による背任罪>

あ 不動産への2重の抵当権設定

Xが債権者AのためにX所有の不動産に抵当権を設定した
その後,債権者Bのために抵当権を設定し,登記を申請(完了)した

い 登記への協力義務

不動産に抵当権を設定した者(X)が抵当権設定登記に協力する行為について
一面では,自己(X)の財産処理を完成する事務である
しかし,主としてAの財産権保全のための事務(協力義務)である
※最高裁昭和38年7月9日
※最高裁平成15年3月18日
※東京高裁平成13年9月11日

う 『他人の事務』

Xが抵当権設定登記に協力する行為は
他人の事務(Aの事務)にあたる

え 結論(背任罪の成立)

Aが,Bに抵当権を設定し登記を完了した行為について
→背任罪が成立する
※最高裁昭和31年12月7日

お 古い判例(参考)

古い判例では,Bに対する詐欺罪としていた
※大判大正元年11月28日

4 電話加入権の2重譲渡による背任罪

現在では既に使われることはありませんが,古い判例に電話加入権の2重譲渡について背任罪の成立を認めたものがあります。
不動産の2重譲渡(横領罪・前記)とは異なり,電話加入権は『物』に該当しません。そこで横領罪は成立せず,代わりに背任罪が成立するのです。

<電話加入権の2重譲渡による背任罪>

あ 電話加入権の2重譲渡

Xが電話加入権をAに譲渡した
その後,Xは電話加入権をBに譲渡し,電話局への通知をした

い 背任罪の成立

背任罪が成立する
(第三者対抗要件を備えるに至らなかったため未遂罪となった)
※大判昭和7年10月31日

う 横領罪の不成立(参考)

横領罪の客体はである(刑法252条)
電話加入権は(有体物)ではない
詳しくはこちら|刑法の『財物』『物』の意味(有体性説・(物理的)管理可能性説)
→横領罪は成立しない

5 譲渡担保権者が抵当権を設定したことによる背任罪

譲渡担保権者は,形式的に所有権を得ますが,あくまでも担保目的という制限があります。
詳しくはこちら|譲渡担保権の設定方法と実行方式(処分清算方式と帰属清算方式)
そこで,譲渡担保権者が担保不動産に抵当権を設定することは権限外の行為となります。そのため,背任罪が成立します。
実質的に対立する権利の状態が生じるので,2重抵当と同質のものといえるでしょう。

<譲渡担保権者が抵当権を設定したことによる背任罪>

あ 譲渡担保の設定(前提)

不動産の所有者Aが債権者Xに譲渡担保を設定した
=形式的にXへの所有権移転登記を申請(完了)した

い 譲渡担保権者による抵当権設定

Xが自己の債務の担保のため不動産に抵当権を設定した

う 背任罪の成立

XはAのために担保不動産を保全する義務がある
→背任罪にあたる
※大阪高裁昭和55年7月29日

6 虚偽申請としての公正証書原本不実記載等罪(否定・概要)

以上のような2重の譲渡や担保設定が虚偽の登記申請による不実の記載(登記)として公正証書原本不実記載等罪に該当するという発想もあり得ます。
しかし,結果的には先になされた登記が優先となる,つまり真実の権利を示すものになります。不実の登記ではなくなります。
そこで,公正証書原本不実記載等罪は成立しません。
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の成立を認めなかった判例の集約

7 2重譲渡・2重抵当の民事的な扱い(対抗関係・参考)

以上のように,2重譲渡や2重抵当は刑法上,横領罪や背任罪が成立します。
一方,民法上は,対抗関係として,対抗要件の状況によって権利の帰属が決まることになっています。
要するに,民事と刑事で完全に別の扱いとなるということです。

<2重譲渡・2重抵当の民事的な扱い(対抗関係・参考)>

あ 前提事情

権利者Xが権利をAとBに重複して譲渡or担保権設定をした

い 民事的な扱い(対抗関係)

A・Bのうち,先に登記(対抗要件)を得た者が優先される
※民法177条
詳しくはこちら|対抗要件・登記の基本|種類・獲得時期・不完全物権変動・単純/背信的悪意者

本記事では,2重譲渡や2重抵当による刑事責任(横領罪・背任罪)について説明しました。
2重譲渡などのケースでは,民法上の解釈が複雑な上に,刑事責任の問題も別に生じるのです。
実際に2重譲渡や2重抵当などの問題に直面されている方はみずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。