1 公正証書原本不実記載等罪の成立を認めなかった判例の集約
2 裁判所を騙して取得した判決による登記
3 売主の背任的な担保設定
4 貸付経緯の簡略化(真実の総額)
5 架空の株主総会・取締役会の実質的追認
6 架空の創立総会の実質的追認
7 記載内容が真実であるケースの不実の判断(概要)

1 公正証書原本不実記載等罪の成立を認めなかった判例の集約

登記や戸籍などの一定の公的な記録について,不正な申請(届出)をすると,公正証書原本不実記載等罪が成立することがあります。
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の基本(条文と公正証書の意味)
本記事では,公正証書原本不実記載等罪の成立が認められなかった実際の事例(判例)を紹介します。

2 裁判所を騙して取得した判決による登記

最初に,訴訟の中で不正な主張や立証を行って,裁判所が騙されて不正な判決がなされてしまったケースです。判決自体は本物の裁判所が出したものなので,その意味では虚偽の申請ではありません。公正証書原本不実記載等罪は成立しません。
もちろん,裁判所をだましている行為について詐欺罪が成立することはあり得ます。

<裁判所を騙して取得した判決による登記>

あ 事案と判断

未登記の土地の所有者が,所有権確認の訴えを提起し,確認の利益につき虚偽の事実を主張し,当事者の通謀により勝訴判決を得て所有権保存登記を申請して登記簿にその旨を記載させた
→公正証書原本不実記載等罪は成立しない
※大判昭和2年11月10日

い 訴訟詐欺の成立(参考)

裁判所をだましたことにより,詐欺罪が成立する可能性はある

3 売主の背任的な担保設定

不動産の売主は,買主に所有権移転登記をする立場にあります。この立場に反して,抵当権設定登記の申請をしてしまったケースです。民法上は対抗関係として登記の順序によって優劣をきめる状態です。つまり,登記申請自体は想定されているのです。虚偽とはいえないのです。公正証書原本不実記載等罪は成立しません。
もちろん,買主を裏切っているので,横領罪(または背任罪)が成立することはあり得ます。

<売主の背任的な担保設定>

あ 事案と判断

不動産の売買の売主が,登記が移っていないことを奇貨とし,自己の債務の担保として抵当権を設定し,その旨の登記申請をして登記簿に記載させた
→公正証書原本不実記載等罪は成立しない
※東京高裁昭和27年3月29日

い 横領罪・背任罪の成立(参考)

所有者ではないのに所有者としての処分行為をしている
→横領罪(または背任罪)が成立することがある
詳しくはこちら|2重譲渡や2重抵当による刑事責任(横領罪・背任罪の成立)

う 民事的な扱い(参考)

売主と抵当権者は対抗関係にあり,先に登記を得た者(抵当権者)が優先される
詳しくはこちら|対抗要件・登記の基本|種類・獲得時期・不完全物権変動・単純/背信的悪意者

4 貸付経緯の簡略化(真実の総額)

公証人に貸金の返還についての公正証書の作成を依頼したケースです。貸付金額の総額は正しかったのですが,貸付の内容(日時・回数)をひとまとめにして記載したのです。形式的には真実と異なるので虚偽や不実といえます。しかし本質的な部分(総額)は真実に合致していたので,公正証書原本不実記載等罪は成立しないことになりました。

<貸付経緯の簡略化(真実の総額)>

消費貸借契約の貸主が,複数回にわたる貸付,返済内容を簡明にするため,1口にまとめ,弁済期を一定にして1度に貸したように公正証書に記載させた
→公正証書原本不実記載等罪は成立しない
※宮崎地裁日南支部昭和39年4月21日

5 架空の株主総会・取締役会の実質的追認

株主総会や取締役会を開催していないのに,開催したことにして役員選任などの商業登記の申請をしたケースです。形式的には虚偽や不実といえます。しかし,株主や役員などの実際の関係者の意思に沿ったものでした。そこで公正証書原本不実記載等罪は成立しないと判断されました。

<架空の株主総会・取締役会の実質的追認>

あ 事案

株主総会及び取締役会を開催して会社の商号・目的の変更,役員の選任などを決議した事実はない
決議があった旨申請して商業登記簿にその旨の記載をさせた

い 実情との合致

決議内容が実質的には関係者の意思に沿うものであった

う 裁判所の判断

公正証書原本不実記載等罪は成立しない
※東京地裁昭和35年2月27日

6 架空の創立総会の実質的追認

創立総会を開催していないのに,開催したことにして会社の設立登記の申請をしたケースです。しかし,登記された事項は真実と合致するものでした。前記の裁判例と同様に,公正証書原本不実記載等罪は成立しないと判断されました。

<架空の創立総会の実質的追認>

あ 事案

創立総会が開催されておらず,決議もされていない
総会で決議されたとして登記を申請した
株式会社の設立登記が商業登記簿に記載された

い 実情との合致

登記されている事項はすべて真実であった
株式の払込も有効であった

う 裁判所の判断

公正証書原本不実記載等罪は成立しない
※福岡高裁昭和44年3月18日

7 記載内容が真実であるケースの不実の判断(概要)

以上のように,申請自体は虚偽(不正)であっても,登記された内容(結果)が現実に合っている場合は不実の記載とはいえず,公正証書原本不実記載等罪が成立しないこともあります。このような虚偽の申請不実の記載(記録)の解釈や判断基準については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の虚偽の申立と不実の記載・記録

本記事では,公正証書原本不実記載等罪の成立が認められなかった実例をまとめて紹介しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に公正証書原本不実記載等罪に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。