1 背任罪(特別背任罪)の具体例
2 株主(親会社)の指示と任務違背の判断(裁判例)
3 理事長の指示と任務違背の判断(裁判例)
4 蛸配当の図利・加害目的の判断(判例)
5 取締役・会社間の取引による特別背任罪(判例)

1 背任罪(特別背任罪)の具体例

背任罪に該当する行為(背任行為)の要件は少し複雑です。
詳しくはこちら|背任罪の基本(条文と背任行為の各要件の解釈・判断基準)
特別背任罪も,背任罪をベースとするので同様です。
詳しくはこちら|特別背任罪(会社法960条)の基本(条文・法的位置づけ)
実際の事案について,どのように判定されたのかを知るとより理解しやすくなります。
本記事では,実際の事案について裁判所が判断した裁判例を紹介します。

2 株主(親会社)の指示と任務違背の判断(裁判例)

会社の役員が行った行為が,一見不正にみえても,実質的な権利者に承諾されているケースでは,任務違背にはなりません。(特別)背任罪は成立しません。

<株主(親会社)の指示と任務違背の判断(裁判例)>

あ 事例

代表取締役が,親会社を同じくする子会社に利益を供与して自社に損害を与えた
(同じグループ企業間の取引である)
利益供与が経営判断として合理性を有するものであった
完全親会社の代表取締役の指示に従ったものであった

い 裁判所の判断結果

任務違背行為にはあたらない(特別背任罪は成立しない)
※東京地裁平成21年9月18日

3 理事長の指示と任務違背の判断(裁判例)

理事長の指示によって,他の理事が不正な行為をしたことが任務違背として認められた事例があります。
内容が,ほぼ確実に回収不可能となる貸付でした。直接的に本人(信用組合)に大きな経済的損失を発生させるものであったことが重く評価されたのです。

<理事長の指示と任務違背の判断(裁判例)>

あ 事案

信用組合の専務理事が,自ら所管する貸付事務において
決済権を有する組合理事長の決定・指示に従い,貸付金の回収が危ぶまれる状態にあったことを明確に認識しながら,十分な担保を確保せずに貸付を行った
理事長に消極的な意見を具申していた

い 裁判所の判断結果

任務違背行為にあたる(特別背任罪は成立する)
※最高裁昭和60年4月3日

4 蛸配当の図利・加害目的の判断(判例)

背任行為の典型例の1つに蛸配当(たこはいとう)があります。
形式的には違法なので,背任にあたるのが原則です。しかし,現実には会社のためを思って蛸配当を実施することが多いです。
結果的に,主な目的が会社の利益であると評価されれば,図利・加害目的が否定されます。つまり,背任罪は成立しなくなるのです。

<蛸配当の図利・加害目的の判断(判例)>

あ 蛸配当の意味

配当すべき利益が存在しないのに架空の利益を計上して株主に配当すること
商法上厳格に禁止されている
※会社法963条5項2号

い 原則的な扱い

特殊の場合を除いて特別背任罪を構成する
※大判昭和7年9月12日

う 本人の利益の目的の典型例

株価を安定させる目的
配当を出さないと業績悪化とみなされ融資が受けられない

え 目的の分類

『う』の目的について
→会社(本人)の利益のためである
主たる目的が『う』であれば,『図利・加害目的』を欠く
=背任罪は成立しない
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p286
※大谷實著『刑法講義各論 新版第4版補訂版』成文堂2015年p330

お 判例の実例

『う』の目的に加えて
利益を生じたときは利益金を過少に表示して蓄積し,赤字のときは過去の利益を取り崩して補填し利益を計上していた
→図利・加害目的を欠くので背任にならない
※大判大正3年10月16日

5 取締役・会社間の取引による特別背任罪(判例)

特別背任罪となる典型例の1つに,取締役・会社間の取引があります。類型的に会社に不利益が生じるので,会社法で原則的に禁止されている行為です。任務違背行為に該当します。

<取締役・会社間の取引による特別背任罪(判例)>

取締役会の承認なしでの取締役・会社間の取引について
→特別背任罪が成立する
※大判大正14年6月19日