1 公道通行利益の権利性(2種類の見解)と工事に伴う営業補償
2 公道通行利益の権利性の見解(全体)
3 公道通行の権利性を判断した裁判例(廃止・路線変更)
4 公道通行の権利性を判断した裁判例(管理方法)
5 道路工事に伴う営業補償の裁判例の事案内容
6 道路工事に伴う営業補償についての裁判所の判断

1 公道通行利益の権利性(2種類の見解)と工事に伴う営業補償

公道の工事が行われる時には,沿道の住居や店舗は不便を強いられます。
店舗は,来客が減って売上が下がるという損失を受けます。
公道の工事に伴う営業の損失について補償が認められるのか,については,公道を通行する利益が権利といえるのかどうか,と密接に関連します。
本記事では,公道を通行する利益の権利性に関する見解と,公道の工事に伴う補償の問題について説明します。

2 公道通行利益の権利性の見解(全体)

公道は,店舗への来客に限らず,多くの人が通行するものです。
この通行することは権利として保護されるのかどうか,ということについては,肯定する見解と否定する見解があります。
大きな傾向としては否定する傾向が強いです。

<公道通行利益の権利性の見解(全体)>

あ 問題点(前提)

公道の使用が,公共用物の設置管理者や第三者の行為によって妨害された場合
それにより損害を受ける利用者が法的救済を求めることができるか
法的救済=妨害行為の差止請求,損害賠償請求,行政処分の取消請求など

い 道路の廃止・路線変更のケース

道路の廃止・路線変更に関するもの
→消極説(権利性否定)が支配的である(後記※1)

う 道路の管理方法のケース

道路の管理方法に関するもの
→おおむね消極説(権利性否定)が支配的である
一方,積極説も有力になりつつある
ただし最終的に請求を認めるものは少ない(後記※2)
※法務省訟務局内行政判例研究会『昭和58年 行政関係判例解説』ぎょうせい1985年p681

3 公道通行の権利性を判断した裁判例(廃止・路線変更)

公道を通行する権利を判断した裁判例は多くあります。その中で,道路の廃止や路線変更に関して判断したものだけを集めてみました。
ほぼすべて権利を否定していることが分かります。

<公道通行の権利性を判断した裁判例(廃止・路線変更・※1)>

あ 消極説
岐阜地裁昭和30年12月12日 路線変更処分の取消請求
千葉地裁昭和34年9月14日(※4) 供用廃止処分の無効確認請求
水戸地裁昭和41年6月29日(※6) 路線変更処分の無効確認請求
東京高裁昭和42年7月26日 前記※6の控訴審
大阪高裁昭和58年9月30日 損害賠償請求(後記※3)
い 積極説
東京高裁昭和36年3月15日 前記※4の控訴審

自己の住宅の唯一の出入口が廃道処分によってふさがれたことにより直接生活上重大な支障を生じた,という特殊事情があった

4 公道通行の権利性を判断した裁判例(管理方法)

公道を通行する権利を判断した裁判例のうち,道路の管理方法に関して判断したものを集めてみました。
権利として肯定するものと否定するものの両方に分かれています。
ただ,権利として肯定した裁判例の中で,最終的に原告の請求を認めたものはあまりありません。

<公道通行の権利性を判断した裁判例(管理方法・※2)>

あ 消極説
高知地裁昭和35年4月27日 占用許可処分の無効確認請求
東京地裁昭和48年5月31日(※5) 歩道橋設置決定の取消請求
東京高裁昭和49年4月30日 前記※5の控訴審
名古屋地裁昭和48年6月29日 道路管理者への安全施設の設置請求
い 積極説
最高裁昭和39年1月16日 第三者の共用妨害に対する不法行為による妨害排除請求
東京地裁昭和45年10月14日 前記※5の執行停止申立
福井地裁昭和46年10月16日 横断歩道廃止処分の執行停止申立
名古屋地裁昭和47年9月22日 歩道橋設置に対する国家賠償請求
高知地裁昭和51年2月19日 廃道敷の使用承諾書分の取消請求
名古屋地裁昭和52年9月28日 歩道橋設置に対する国家賠償請求

5 道路工事に伴う営業補償の裁判例の事案内容

以上は,公道を通行する権利として肯定するか否定するかという解釈についての説明でした。
具体的に権利性が問題となった事例のうち営業補償を請求したケースについて,詳しい内容を紹介します。
公道の付け替え工事の際,公道に面していた店舗の来客が減少し,売上が減少したというケースです。

<道路工事に伴う営業補償の裁判例の事案内容(※3)>

あ 事案

Xは食堂・釣堀を営んでいた
店舗に通じる町道から店舗への展望が自動車道の設置により遮られた
自動車道設置に伴い町道の付け替えが行われた
これにより,町道が店舗に通じなくなった
顧客の来店が妨げられた
→店舗の売上が減少した

い 提訴

Xは,自動車道の設置・管理者(道路公団)と町道の管理者(町)に対して損害賠償を請求(提訴)した
※大阪高裁昭和58年9月30日

6 道路工事に伴う営業補償についての裁判所の判断

前記の事案について,裁判所は最終的に損害賠償請求を認めませんでした。
要するに,公道の通行のために営業利益を得られることは,権利とはいえないということです。公道の管理者としては,沿線の店舗の売上を確保する義務を負うわけではない,とも言えます。

<道路工事に伴う営業補償についての裁判所の判断>

あ 通行できることの位置づけ(反射的効果)

公道は,管理者が住民・一般公衆の通行の用に供したため,住民・一般公衆はその行政措置の反射的効果として,これを自由に通行できるのである
その使用は公法関係におけるいわゆる一般使用(自由使用)にあたるものである

い 公道に関する権利・法律上の利益(否定)

個々の住民・一般公衆は特定の権利or法律上の利益(う)を有するものではない

う 否定される権利・利益の内容

公道の利用
営業店舗が公道に接していることによる営業利益

え 損害賠償請求の可否(否定)

管理者において既設の公道を廃止or変更した場合
それが個々の住民・一般公衆の利害に直接間接に影響を及ぼすことがあるとしても
個々の住民・一般公衆はこれに対し自己の権利・利益の侵害を主張して損害の賠償を請求することはできない

お 本ケースの結論

町道の閉そくor付替えによって店舗の顧客の来店が妨げられ売上が減少したとしても,店舗営業者に対する不法行為が成立するとはいえない
→損害賠償を請求できない
※大阪高裁昭和58年9月30日