1 『対抗要件』の種類|権利の移転・担保設定などの『競合』の扱いルール
2 『対抗要件』獲得の『順序』で優劣を決める|典型例|2重譲渡
3 『対抗要件』獲得の『順序』で優劣を決める|典型例|売買vs賃貸借
4 『対抗要件』の獲得時期|『担保権設定→差押→競売』一連の流れの最初の時点
5 『対抗要件(登記)』を行う『義務』はない|不動産の表示・法人登記は別
6 対抗要件制度の仕組み=『不完全物権変動』理論
7 『単純悪意者』も『登記』を得れば優先となる|条件競争はマーケットメカニズムの範囲内
8 『背信的悪意者』は『登記』を得ても負ける|正常なマーケットメカニズムの範囲外

1 『対抗要件』の種類|権利の移転・担保設定などの『競合』の扱いルール

不動産を始めとして,多くの財産・権利について,『対抗要件』という制度があります。
『権利を持つ者』が重複する(複数いる)場合のルールです。
まずは『対抗要件』の種類をまとめておきます。

<『対抗要件』の種類>

財産 対抗要件の内容 主な根拠
不動産 登記 民法177条
自動車(軽自動車以外) 登録 道路運送車両法5条,4条
債権(譲渡・担保) 債務者への通知・承諾・登記 民法467条2項
動産 引渡・登記 民法178条
株式 株式名簿への記載 会社法130条
立木・稲立毛 明認方法 慣習・判例
温泉権 温泉台帳への記載ほか 慣習・判例
著作権移転・質権設定 文化庁の登録原簿への登録 著作権法77条
特許権の通常実施権 特許庁の登録原簿への登録 特許法99条
意匠権の通常実施権 特許庁の登録原簿への登録 意匠法28条3項
商標権の通常使用権 特許庁の登録原簿への登録 商標法31条5項,34条2項

次に,代表的な不動産における対抗要件の制度を中心に説明を進めます。
詳しくはこちら|温泉権の公示方法=対抗要件の種類と具体例・判例
関連コンテンツ|不動産登記制度の意義,保管期間

2 『対抗要件』獲得の『順序』で優劣を決める|典型例|2重譲渡

複数の物権(取引)が競合する場合に『対抗要件』で優劣が決まります。
『競合する状態』のことを『対抗関係』と言います。
典型例は『2重譲渡(売買)』です。

<2重譲渡(売買)における対抗関係>

あ 2重譲渡(売買)の例

第1売買 A→B
第2売買 A→C

い 対抗関係

BとCは対抗関係にある

う 優劣の判断

B・Cのうち,先に『売買登記(所有権移転登記)』を得た方が所有権を得る
※民法177条

所有権が2重に移転していることになるのです。
この場合,結論として『登記を得た者』が実際に所有者となります。
BとCを『対抗関係』,勝負の判定に使う『登記』のことを『対抗要件』と言います。

3 『対抗要件』獲得の『順序』で優劣を決める|典型例|売買vs賃貸借

対抗関係が生じるのは『別の取引(種類)』ということもあります。
典型的なのは『売買と賃貸借』です。

<建物の賃借人(賃借権)の対抗関係|例>

あ 対抗関係
当事者 対抗要件
建物の譲受人(買主) 売買登記
建物の賃借人 賃借権登記or引渡
い 優劣

先に『対抗要件』を備えた方が優先となる

仮に『賃借権登記or引渡』が先,という場合は,賃借権が優先となります。
その結果,買主は『所有権』を得ることは問題ないですが『賃貸借が存在したまま』となります。
要するに『賃貸人』という立場も承継する,ということになります。
建物賃借権の対抗要件の内容は別記事で説明しています(リンクは末尾記載)。

4 『対抗要件』の獲得時期|『担保権設定→差押→競売』一連の流れの最初の時点

対抗関係の判断は『対抗要件の順序』で結論が決まります(前述)。
『対抗要件を得たタイミング』が非常に重要なのです。
一般的な売買の場合『対抗要件を得た時期』は『売買による所有権移転登記』がなされた時点,です。
これは単純ですが,ちょっと間違えやすいものもあります。

<対抗要件獲得時点>

通常の売買による取得 売買の登記の時点
担保権実行に基づく競売による取得 『抵当権設定登記』の時点
一般的な差押に基づく競売による取得 『差押登記』の時点
破産管財人による競売・任意売却による取得 『破産手続開始決定』の時点(※1)
賃貸借契約による賃借権取得(後記『6』) 『賃借権登記(or代替対抗要件)』の時点

<補足;『破産開始決定』の時点,について(上記※1)>

『破産開始決定』の『登記』ではなく『決定された日時』となる
※破産法47,48,49条
※大コンメンタール破産法〔青林書院〕p192

5 『対抗要件(登記)』を行う『義務』はない|不動産の表示・法人登記は別

対抗要件は,あくまでも権利を持つ者が『保護される制度』です。
登記などの対抗要件の制度を利用するかどうかは『法律上は自由』です。
もちろん,現時点では不動産の所有権の公示として,常識的には『登記は必須』と言えます。
なお『登記』の中でも直接的な『対抗要件』ではないものもあります。
例えば『不動産の表示登記』や『法人登記』です。
これらについては法律上,一定期限までに『登記を行う義務』があります。

詳しくはこちら|不動産登記申請の基本|申請義務・所要時間・登録免許税

6 対抗要件制度の仕組み=『不完全物権変動』理論

2重売買をよく考えると次のような発想があります。

<対抗関係×『無権利者からの権利承継』|疑問>

あ 2重譲渡(売買)の例

第1売買 A→B
第2売買 A→C

い 疑問点

第1売買でAは所有権を失っている
権利のないAからCが所有権を得るのはおかしい

この『疑問』に関する法律的な理論をまとめます。

<対抗関係×不完全物権変動理論>

あ 不完全な物権変動

Aは『当初は所有者』だった
第1売買の後もAは所有権登記を持っている
→『不完全な所有権』が『残存』している

い 物権変動が『完全』になる

B・Cのうち先に登記を備えた方が『完全な所有権』を取得する

法律上,この『不完全物権変動』理論が採用されているのです。
その結果,『重複する譲受人』のうち『先に登記を得た者』が『完全な所有権』を得るのです。

7 『単純悪意者』も『登記』を得れば優先となる|条件競争はマーケットメカニズムの範囲内

第2売買の買主Cが『既にABで売買契約が行なわれている』と『知っている』こともあります。
法律用語で『知っている』ことを『悪意』と呼んでいます。
この場合,AとCで結託してBに迷惑をかけていることになります。
しかしこの場合でも『登記さえ先に得れば優先』というルールに変わりはありません。

<単純悪意×登記>

あ 結論

『単純悪意者』でも登記を先に得れば優先される
↑先行する取引を知っている者

い 理由

高い代金など,より良い条件を提示して取引の勧誘を行うことは『保護』されている

これは,経済システムとして社会(憲法)が『自由経済』を選択していることと関係しています。
要するに『極力自由な取引・経済活動・ビジネス』は保護されるのです。
逆に政府が介入するのは最小限であることが要請されているのです。
詳しくはこちら|マーケットメカニズムの基本|自由経済・商品流通の最適化・供給者の新陳代謝

8 『背信的悪意者』は『登記』を得ても負ける|正常なマーケットメカニズムの範囲外

登記を得ても,純粋なビジネスの範囲を逸脱するような特殊事情があれば,例外的に『劣後』となります。
例えば,ライバルを困らせることが目的,などです。
講学上,『背信的悪意者』というネーミングとなっています。

<登記による対抗力判断の例外>

『背信的悪意者』
=登記の欠缺を主張することが信義に反する者
※最高裁昭和43年8月2日