【借地借家法(新法)の更新後の建物再築許可手続の基本】

1 借地借家法(新法)の更新後の建物再築許可手続の基本

借地借家法(新法)が適用される借地契約のケースで、更新後に建物を再築することを裁判所が許可する手続(借地非訟事件)があります。本記事では、この再築許可の手続の基本的事項を説明します。

2 借地借家法18条の条文

最初に、再築許可の手続を規定する借地借家法18条の条文を確認しておきます。主なルールは記載されていますが、これだけだとわかりにくいです。

借地借家法18条の条文

(借地契約の更新後の建物の再築の許可)
第十八条 契約の更新の後において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造することにつきやむを得ない事情があるにもかかわらず、借地権設定者がその建物の築造を承諾しないときは、借地権設定者が地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができない旨を定めた場合を除き、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、延長すべき借地権の期間として第七条第一項の規定による期間と異なる期間を定め、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。
2 裁判所は、前項の裁判をするには、建物の状況、建物の滅失があった場合には滅失に至った事情、借地に関する従前の経過、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。)が土地の使用を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。
3 前条第五項及び第六項の規定は、第一項の裁判をする場合に準用する。

3 更新後の建物再築に関する基本ルールの要点(前提)

そもそも再築許可の手続は、更新後の建物再築に関するルールの一部といえます。更新後の建物再築のルールは、旧借地法とは根本的に違っています。まず、基本方針として、更新後については、借地を終了させる方針、言い換えると借地を長引かせることは避ける方針がとられているのです。
詳しくはこちら|借地借家法の借地上の建物の滅失や再築による解約(全体・趣旨)
そのルールのうち代表的なものが、更新後に借地人が地主の承諾なく建物の再築をしたら地主は解約できるというルールです。
詳しくはこちら|借地借家法の借地上建物の滅失・再築による解約の規定と基本的解釈
このルールで、借地を長引かせないという方針が実現しますが、状況によっては借地人を救済した方がよいこともあります。そこで、裁判所の判断で例外的に許可をして、これで地主の承諾があったものとして扱う、という制度を用意したのです。

4 形式的要件

再築許可の手続の説明に入ります。最初に形式的要件のうち主なものを説明します。

(1)当事者(基本)→申立人は借地人のみ

再築許可の手続の申立人は借地人、相手方は地主です。

当事者(基本)→申立人は借地人のみ

申立人 相手方 借地人(借地権者) 地主(借地権設定者)
※借地借家法18条1項

(2)当事者(複数の場合)→承諾した地主の除外可能

ところで、地主が複数(土地が共有)というケースや、借地人が複数(建物が共有)というケースも多いです。このような場合は、原則として全員が当事者(申立人または相手方)になります。ただし、地主ABのうちBは再築に承諾したケースでは承諾していない地主Aだけを相手方とすることも可能です。とはいっても、裁判所の判断で借地条件を変更することがありますが、その場合は地主全員(AB)が相手方となっている必要があります。

当事者(複数の場合)→承諾した地主の除外可能

あ 原則

借地権者あるいは借地権設定者が複数存在する場合には、申立ては、借地権者全員から、又は借地権設定者全員に対してしなければならないと解される。

い 地主複数ケースで一部の承諾ありの場合

複数の借地権設定者のうち一部の者のみが再築に承諾しない場合であっても、借地条件を変更する付随処分が必要なときは、同様に解すべきであろう。
※東京地裁借地非訟研究会編『詳解 借地非訟手続の実務』新日本法規出版1996年p234
※七戸克彦稿/『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p110(同意見)

(3)借地権(借地契約)の存在(概要)

再築許可をする当然の前提として、借地権(借地契約)が存在することが挙げられます。借地契約がはっきりしている事案が多いですが、中には地主と借地人で対立しているケースもあります。たとえば地主が「解除したから借地権はない(消滅した)」と主張して、借地人が「解除は無効である」と主張しているようなケースです。
そのような場合は通常、再築許可の手続とは別に、借地権の確認(や明渡請求)の訴訟を提起して前提問題の判定を済ませて、その後再築許可の手続を進めることになります。借地条件変更の手続に関して、昭和45年最決がこのような判断を示しています。
詳しくはこちら|借地条件変更・増改築許可の裁判の形式的要件

(4)申立時期→更新後・再築前

申立時期についてはまず、更新後であることは当然の前提です。前述のように、建物再築を理由として借地契約の解約が認められているのは更新後だけです。この解約を制限するのがこの再築許可手続なのです。
次に、これから行う再築工事に対して許可を出すので、再築工事の前である必要があります。この点、地主の解約は「建物」の完成、つまり工事が「建物」といえる程度に至ることという解釈があります。
詳しくはこちら|借地借家法の借地上建物の滅失・再築による解約の規定と基本的解釈
再築許可の手続の申立は、工事の着手前に行うのが理想ですが、「建物」の完成までであれば行うことができる、とも考えられると思います。

申立時期→更新後・再築前

あ 更新後

(a)借地契約の更新後であること
本条1項にいう契約の「更新」には、(i)合意更新(法4)、(ii)更新請求・使用継続による法定更新(法5)のほか、(iii)建物再築につき借地権設定者の承諾がある場合の法定更新(法7)も含まれる。

い 再築前

その一方で、更新後の建物再築に関しては、みなし承諾の制度の適用がなく(法7②ただし書)、借地権設定者に借地関係を終了させる権利が付与されていることから(本条②)、本条の許可の申立ては、建物を再築する前にしなければならないと解されている(東京地裁借地非訟研究会編・前掲64頁、235頁、園部・前掲134頁)。
※七戸克彦稿/『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p110

5 再築許可の実質的要件(やむを得ない)(概要)

裁判所は、どのような事情があれば再築を許可するのでしょうか。
この点、旧借地法の時代からある、増改築許可では、建物が老朽化していれば許可するのが通常でした。
しかし借地借家法(新法)では前述のように更新後は長引かせないという基本方針がとられています。そこで原則としては再築を許可しない、例外的な事情がある場合にだけ許可する、ということになります。条文上は、「やむを得ない」事情がある場合に許可する、と記述されていますが、これは基本方針からハードルを高く設定した、というものなのです。
詳しくはこちら|借地借家法(新法)の更新後の建物再築許可の実質的要件(判断基準)

6 再築許可の承諾料相場(概要)

そもそも裁判所が再築を許可するハードルは高いのですが、特殊な事情があり、これをクリアして裁判所が許可を出すとしても、承諾料(財産上の給付)が必要になるのが通常です。例外的に借地の寿命を大きく伸ばすという構造になっているので、従来の増改築許可の承諾料よりは高くなる傾向です。事案によって異なりますが、更地価格の10%程度が1つの目安となります。
詳しくはこちら|借地借家法(新法)における更新後の建物再築の承諾料相場(再築許可の財産上の給付)

7 附随処分の内容

(1)承諾料(財産上の給付)(概要)

裁判所が許可する場合、附随処分(付随的裁判)をつけることができます。前述の承諾料(財産上の給付)はその代表的なものですが、それ以外にも候補があります。

(2)期間の定め→法定の20年を短縮可能

前提として、裁判所が附随処分として期間を定めなかった場合は、地主が承諾したのと同じ扱いとなる、つまり決定(確定)の日から20年ということになります。
詳しくはこちら|借地上の建物の再築許可の裁判の効果(解約回避・期間延長)
そこで、裁判所が、「決定から20年だと長引きすぎる」と考えれば、それよりも短い期間を定めることもありえます。

期間の定め→法定の20年を短縮可能

あ 附随処分なしの場合→決定から20年(前提)

ア コンメンタール借地借家法 この許可の裁判がなされると、借地権設定者の承諾があったものとみなされ、借地期間は裁判のあった日から20年間延長される。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p139
イ 実務解説借地借家法 まず、再築許可は借地権設定者の再築承諾があったと同じ効力を生ずるものであるから、借地借家法7条1項本文により、借地権の存続期間は(裁判確定から)20年延長することになるのが原則である
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p236

い 附随処分→定めるとしたら短縮傾向

・・・裁判所は付随的裁判として、これと異なる期間を定めることができる(異なる期間を定める場合には、20年より短い期間を定める場合が多いと思われる)。
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p236

(3)借地条件変更→地代・建物の種類・構造・規模・用途など

附随処分として、借地条件の変更をすることも可能です。地代を変更することが代表例です。それ以外に、建物の種類・構造・規模・用途などの条件を変更することも挙げられますが、これを否定する見解もあります。

借地条件変更→地代・建物の種類・構造・規模・用途など

あ コンメンタール借地借家法

他の借地条件(建物の種類、構造、規模または用途の変更、賃料の増減など)を変更し、・・・することができる。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p139

い 実務解説借地借家法

「他の借地条件」は、存続期間以外の条件をさすが、地代等の改定や、堅固建物借地権を非堅固建物借地権に条件変更することなどが考えられる。
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p236

う 新基本法コンメンタール

ア 地代→変更可能 借地条件のうち、(i)地代または土地の借賃の定めの変更に関しては、裁判所は、再築許可申立事件の付随処分として、変更を命ずることができる(法11条の地代等増減請求権の規定に対する例外的な措置となる)。
イ 建物の種類・構造・規模・用途→争いあり これに対して、(ii)本法17条1項の規定する建物の種類・構造・規模・用途を制限する旨の借地条件の変更については、本法17条と本条の適用領域(守備範囲)に関する理解の違いに基づく争いがあり、
本法17条1項の規定は更新前・更新後とも適用があるとする見解に立った場合には、同条項の規定する(i)の借地条件の変更は、17条3項あるいは本条1項後段にいう「他の借地条件」には含まれず、本法17条2項の増改築許可申立事件あるいは本条1項前段の建物再築許可申立事件の付随処分として行うことはできないとされる(借地非訟実務研究会編『借地非訟事件便覧』(新日本法規出版、1977〜)370頁407頁、東京地裁借地非訟研究会編・前掲225頁1頁、園部・前掲300頁。なお、(ii)の借地条件が存在していない場合に、裁判所が新たに(i)の借地条件を付することは、本法17条1項の借地条件「変更」申立事件にならないので、①説に立った場合にも、付随処分として行うことができる)。
これに対して、②本法17条1項の規定は更新前に関する規定であって、更新後には適用がないとする見解に立った場合には、(i)建物の種類・構造・規模・用途を制限する借地条件の変更も、本条1項後段の「他の借地条件」の変更に含まれるので、同条項前段の建物再築許可申立事件の付随処分として行うことができる(基本コンメ64頁[石外=田山〕稻本=澤野編・コンメンタール130頁133頁〔澤野〕)。
※七戸克彦稿/『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p112

8 その他の処分→工事遂行上の留意事項

条文上、裁判所は「その他相当の処分」をすることもできます。具体例としては、工事を行う上での注意事項を盛り込む、ということが考えられます。

その他の処分→工事遂行上の留意事項

あ コンメンタール借地借家法

その他相当の処分(建物を再築するにあたっての留意事項、たとえば近隣との関係、建築の工法、道路の利用方法についての遵守など)
をすることができる。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p139

い 新基本法コンメンタール

「その他相当の処分」として、裁判所は、例えば借地権者の建物再築に際して近隣との関係・建築の工法・道路の利用方法等につき留意すべき旨を命ずることができる。
※七戸克彦稿/『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p112

9 考慮する事情(概要)

借地借家法18条2項には、再築許可の裁判で、裁判所が判断材料にする事情が定められています。その内容については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借地借家法における更新後の建物再築許可で考慮する事情

10 鑑定委員会の関与

再築許可の判断において、裁判所は鑑定委員会の意見を聴くことが必要とされています。実務では、鑑定委員会の判断として当方に有利な意見が作られることが有利な結果に直結します。そこで、有利な鑑定委員会の意見の獲得に向けた主張・立証(資料提出)が非常に重要です。

鑑定委員会の意見(概要)

あ 条文規定

本裁判・付随的裁判をする場合
特に必要がないと認める場合を除いては
鑑定委員会の意見を聴かなくてはならない
※借地借家法18条3項、17条6項

い 鑑定委員会の意見の要否

付随的裁判の判断においては鑑定委員会の意見が必要である
本裁判については必ずしも必要ではない

う 鑑定委員会の意見の法的扱い

ア 理論 鑑定委員会の意見について
できるだけ尊重すべきである
裁判所は鑑定委員会の意見に拘束されない
イ 実務の傾向 実務上は鑑定委員会の意見の全部or大部分が採用されることが多い
詳しくはこちら|借地非訟の裁判における鑑定委員会とその意見
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p133

本記事では、借地借家法(新法)の建物再築許可手続について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地借家法(新法)の建物再築許可手続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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