【借地上の建物の再築許可の付随的裁判と承諾料の相場】
1 再築許可の付随的裁判と承諾料の相場(総論)
2 再築許可の付随的裁判(条文規定)
3 再築許可の付随的裁判(処分)の内容
4 再築の承諾料の算定
5 再築の承諾料の相場
6 付随的裁判における考慮事情(概要)
1 再築許可の付随的裁判と承諾料の相場(総論)
借地借家法では,初回の更新後(第2ラウンド)における建物の再築について,裁判所が許可する手続があります。
詳しくはこちら|借地上の建物の再築許可の裁判制度の基本(趣旨・新旧法の違い)
裁判所が再築を許可する際には,付随的な決定(付随的裁判)をすることができます。
付随的裁判のうち,主なものは承諾料の算定(財産上の給付)です。
本記事では,再築許可の付随的裁判と,その中の承諾料の算定や相場について説明します。
2 再築許可の付随的裁判(条文規定)
最初に,再築許可についての付随的裁判を定める条文の規定をまとめておきます。
<再築許可の付随的裁判(条文規定)>
再築についての許可(認容決定)に伴い
当事者の利益の衡平を図るため必要があるとき
裁判所は付随的な処分(裁判;後記※1)をすることができる
3 再築許可の付随的裁判(処分)の内容
条文の規定では,付随的裁判の内容の大まかなものが記載されています。
<再築許可の付随的裁判(処分)の内容(※1)>
あ 借地期間の変更
原則は法定期間(借地借家法7条1項)が適用される
裁判所はこれと異なる期間を設定できる
法定期間よりも短い期間を決める傾向がある
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p236
い 他の借地条件の変更(例)
ア 建物の種類・構造・規模・用途の変更イ 賃料の増減
う 財産上の給付
いわゆる再築承諾料のことである(後記※2,※3)
え その他相当の処分
再築にあたっての留意事項など
例;近隣との関係,建築の工法,道路の利用方法についての遵守
※借地借家法18条1項
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p130
4 再築の承諾料の算定
再築許可の付随的裁判のうち代表的なものは承諾料(財産上の給付)です。
まず,算定する方法の枠組みとしては,許可によって生じる経済的なプラス・マイナスの効果を元にする,というものです。
<再築の承諾料の算定(※2)>
あ 承諾料の算定
承諾料(財産上の給付)の金額について
一切の事情を考慮して定める
実質的な対価関係を特に考慮する
い 主な考慮事情(対価関係)
ア 期間の延長(更新)イ 地主の解約権の放棄
5 再築の承諾料の相場
再築の承諾料の実務的な相場は更地の10%相当額です。
もちろん,個別的な事情によってこれとは異なることもよくあります。
<再築の承諾料の相場(※3)>
あ 承諾料の相場
平成34年(令和4年)8月までは再築許可の手続の実例が生じない
詳しくはこちら|借地上の建物の再築許可の裁判制度の基本(趣旨・新旧法の違い)
再築許可の実質は,従来の借地条件変更と同様である
→借地条件変更における承諾料(え)に近いものになると思われる
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p130
い 借地条件変更の承諾料の相場(参考)
原則として更地評価額の10%相当額である
詳しくはこちら|借地条件変更の承諾料の相場(財産上の給付の金額)
う 実務的な相場
現在でも(旧借地法時代の借地でも)
次のようなケースで『い』の相場が形成されている
ア 任意の合意
裁判外の交渉によって再築の承諾料支払が生じる
イ 増改築許可の裁判の流用
『増改築許可』の裁判によって再築が許可される
詳しくはこちら|旧借地法における再築禁止特約と再築許可の裁判
6 付随的裁判における考慮事情(概要)
再築許可の裁判の付随的裁判でも,本裁判(許可本体)と同様の考慮事情が定められています。
<付随的裁判における考慮事情(概要)>
あ 考慮事情の内容(条文規定)
ア 建物の状況イ 建物が滅失に至った事情
建物の滅失があった場合に限る
ウ 借地に関する従前の経過エ 当事者双方が土地の使用を必要とする事情
更新(拒絶)の正当事由と同じものである
オ その他一切の事情
い 考慮の必要性
『あ』の事情について『考慮しなければならない』
→本裁判・付随的裁判ともに必ず考慮する
※借地借家法18条2項
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p131,133
詳しくはこちら|借地上の建物の再築許可の実質的要件(基準)・考慮事情と鑑定委員会