1 借地条件変更・増改築許可の裁判の形式的要件(総論)
2 借地条件変更の裁判の申立人
3 増改築許可の裁判の当事者
4 地主or借地人が複数いるケースの当事者
5 借地条件変更・増改築許可の裁判の申立タイミング
6 借地条件変更・増改築許可裁判と『協議が調わない』
7 建物に関する借地条件の存在
8 増改築許可裁判と増改築禁止特約の存否

1 借地条件変更・増改築許可の裁判の形式的要件(総論)

地主の承諾に代わって裁判所が,借地条件変更や増改築の許可をする制度があります。
詳しくはこちら|借地条件変更・増改築許可の裁判手続(基本・新旧法振り分け)
これらの裁判には形式的要件があります。
つまり,申立ができる前提条件のことです。
借地条件変更と増改築許可のそれぞれの形式的要件は違うところもありますが,共通するものも多いです。
そこで本記事では,借地条件変更と増改築許可の裁判の形式的要件について,まとめて説明します。

2 借地条件変更の裁判の申立人

通常,借地条件変更の裁判を申し立てる者は借地人です。
法律上の規定では地主も申し立てることができます。

<借地条件変更の裁判の申立人>

あ 申立人の条文規定

『当事者』の申立てにより
※借地借家法17条1項

い 申立人の範囲

借地人or地主
実際には借地人がほとんどである

3 増改築許可の裁判の当事者

増改築許可の裁判の申立人は借地人に限定されています。

<増改築許可の裁判の当事者>

あ 申立人の条文規定

借地権者(借地人)の申立てにより
※借地借家法17条2項

い 申立人の範囲

借地人だけである

4 地主or借地人が複数いるケースの当事者

土地が共有だと通常,地主が複数いることになります。
借地人が複数人いる場合もあります。
これらの場合は,借地条件変更や増改築許可の裁判では,全員が当事者になる必要があります。
例えば増改築を承諾している土地共有者だけ外れるということはできません。
このことは賃料増減額請求の訴訟でも同じ扱いです。

<地主or借地人が複数いるケースの当事者>

あ 借地非訟手続の共同訴訟形態

借地条件変更・増改築許可の裁判について
地主or借地人が複数人存在する場合
=土地or借地権が(準)共有である
→全員が当事者となる必要がある
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p214;借地条件変更について

い 賃料増減額請求訴訟の共同訴訟形態(参考)

賃料増減額請求訴訟について
賃貸人or賃借人が複数人存在する場合
→全員が当事者となる必要がある
詳しくはこちら|貸主or借主が複数の賃貸借の金銭請求以外の問題

5 借地条件変更・増改築許可の裁判の申立タイミング

増改築許可の申立をするタイミングは,工事の着手前が原則です。
しかし,タイミングについてはある程度柔軟に『工事着手後』の申立も認める傾向があります。

<借地条件変更・増改築許可の裁判の申立タイミング>

あ 原則

申立は増改築着手前になされるべきである
増改築着手後に借地人が申し立てることは原則としてできない

い 特殊な扱い

工事完了後に付随的裁判を目的とする申立を認める見解もある
※幾代通ほか『新版注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p492
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p122,123
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p59

これらの見解は増改築許可が前提です。
この点,借地条件変更も建物の増改築が前提になっていることが多いです。
詳しくはこちら|借地条件(変更)と増改築禁止特約(許可の裁判)の包含関係
このような状況での借地条件変更の申立タイミングも前記が当てはまります。

6 借地条件変更・増改築許可裁判と『協議が調わない』

条文では,地主と借地人の『協議が調わない』場合に借地条件変更や増改築の裁判ができると規定されています。
しかし実際には,これを厳密に必須の要件としては扱っていません。

<借地条件変更・増改築許可裁判と『協議が調わない』>

あ 典型的な事情

ア 協議拒否
借地人が地主に対して話し合うことを申し出た
地主が話し合いに応じなかった
イ 協議決裂
話し合いが行われたが地主が承諾しなかった

い 広い解釈

協議なしで借地人が借地条件変更or増改築許可を申し立てた
審理において地主が承諾しない場合
→『協議不調』として扱う
=申立を却下しない
※東京地裁平成9年8月11日;借地条件変更について
※東京地裁平成8年3月29日;同趣旨
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』1998年p24,44
※星野英一『法律学全集26 借地・借家法』有斐閣1969年p184;旧借地法について
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p120,122

7 建物に関する借地条件の存在

借地条件変更の裁判の前提は『借地条件によって制限されていること』です。
裁判所が制限を外すことが目的ですので,当然といえます。
ただし借地条件は『建物について』の制限だけが対象です。

<建物に関する借地条件の存在>

あ 借地条件についての条文上の列挙

建物の種類,構造,規模,用途を制限する旨の借地条件
※借地借家法17条1項

い 対象となる借地条件

『あ』は例示である
実際にはどれに該当するかが不明確であることも多い
区別しなくてもよい
『建物に関する』条件に限定される

う 具体的内容(概要)

借地条件の具体的内容にはいろいろなものがある
詳しくはこちら|建物に関する借地条件の内容(基本的な分類)
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p215

8 増改築許可裁判と増改築禁止特約の存否

増改築許可の裁判は,特約で増改築が禁止されていることが前提です。
禁止されていなければ自由に増改築ができます。裁判所の許可を得る必要はありません。
詳しくはこちら|借地上の建物の建築・増改築の自由と制限(借地条件・増改築禁止特約)
しかし実際には特約の内容があいまいなことも多いです。
詳しくはこちら|借地における増改築禁止特約の設定の実情とあいまいな特約の解釈
そこで,増改築を禁止する特約があるかどうかが不明な状態で増改築許可の裁判を活用する手法もあります。
実務で『念のため』としての申立と呼ばれるものです。

<増改築許可裁判と増改築禁止特約の存否>

あ 事案

借地人は増改築禁止特約はないと考えている
借地人は増改築許可を申し立てた

い 地主の反対

地主は特約があると主張して増改築を承諾しない場合
=要するに増改築に反対している
→増改築許可の審理を進める

う 制限なしという地主の意見

地主が増改築特約の不存在を認めている場合
→借地人は承諾なしで増改築ができる
→申立の利益を欠く
=裁判所は却下決定をする

え 増改築禁止特約存在の立証

『い・う』のいずれについても
借地人(申立人)は『増改築禁止特約の存在』を立証する必要はない
※東京地裁昭和50年9月11日;旧借地法の増改築許可について
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p122