【借地借家法の借地上の建物の滅失や再築による解約(全体・趣旨)】

1 借地借家法の建物滅失や再築による解約(まとめ)

借地借家法では、建物が滅失した時に解約できるルールがあります。
建物が滅失しただけで自動的に借地が終了するわけではありません。
本記事では、借地借家法の建物の滅失による解約について説明します。
この制度は多少複雑になっていますので、最初に要点をまとめます。
まず、この解約の制度が適用されるのは、更新後だけです。
最初の更新の前と後で扱いを変える、というは借地法になかった特徴的なものです。
分かりやすく『第1ステージ』『第2ステージ』と呼ぶこともあります。
第2ステージに建物が滅失すると、借地人が解約できます。
建物が滅失した後に、地主の承諾がないのに借地人が建物を再築すると、今度は地主が解約できます。

借地借家法の建物滅失や再築による解約(まとめ)

あ 建物滅失時期(更新前後)による違い
建物の滅失の時期 解約の制度
更新前(第1ステージ) なし
更新後(第2ステージ) あり
い 建物滅失による解約の種類
状況 解約できる者
建物の滅失 借地人
承諾なしの再築 地主

2 解約に関する更新前後の区別の趣旨

解約の制度に関して、更新の前と後で明確に区別がされています(前記)。
更新の前と後での区別は、旧借地法にはなかったルールです。
この趣旨は、借地権の強い保護を当初の契約期間に限定するというものです。
逆に言えば、更新後は借地が終了する可能性を拡げてあるということです。

解約に関する更新前後の区別の趣旨

あ 趣旨

本法の立法者は、借地権は一定の期間存続を保障されれば、なるべく早期に解消されることを期待し、それが合理的な借地関係であると考えていたようである。
※澤野順彦稿/稻本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p142

い 更新後(第2ラウンド)の扱い

更新(第2ラウンド)について
解約できる制度を作った

う 更新前(第1ラウンド)の扱い

更新(第1ラウンド)について
借地権(借地人)を強く保護する
借地権の強い保護は更新に限定する

え 旧借地法からの変化(参考)

更新について
借地借家法では、旧借地法よりも借地権(借地人)の保護を弱めた
=借地が終了する可能性を拡げた

3 建物滅失による解約の新旧法の適用の振り分け

前記のように、建物の滅失や再築による解約という制度は、借地借家法で新たに作られました。
それより前の旧借地法にはこのような解約の制度自体がなかったのです。
そして、旧借地法時代の借地については、この新たな規定は適用されないことになっています。

建物滅失による解約の新旧法の適用の振り分け(※2)

あ 旧借地法の規定(前提)

旧借地法において
建物の滅失や再築による解約の制度は存在しなかった

い 建物滅失による解約の適用範囲

建物滅失や再築による解約の規定(借地借家法8条)について
借地借家法の施行前に設定された借地権には適用しない
※改正附則7条2項

う 借地借家法の施行日

平成4年8月1日
※改正附則1条
※平成4年政令25号

4 建物の滅失・再築による解約が実現する時期

建物の滅失や再築による解約の制度は、新法時代(平成4年8月以降)に開始した借地だけが対象です。
しかも、更新後に限定されています。
結果的に、平成34年(令和4年)8月までは解約がなされること自体が生じません。
それまではこの解約の実例自体が存在しない状況です。

建物の滅失・再築による解約が実現する時期

あ 前提事情

建物の滅失や再築による解約には『ア・イ』の前提条件がある
ア 借地借家法施行後の借地開始 平成4年8月以降に借地が開始した(前記※2
イ 初回更新後 1度目の期間満了後である
期間の最低限は30年である
詳しくはこちら|借地期間|30年→20年→10年|旧借地法は異なる|借地期間不明への対応

い 滅失や再築による解約が実現する時期

最速でも平成34年(令和4年)8月に解約ができるようになる
平成34年(令和4年)8月より前には解約がなされることはない

逆にいえば、平成34年(令和4年)以降は確実に、建物の滅失や再築による解約が主張されるケースが生じます。

5 建物の再築による解約の規定と基本的解釈(概要)

借地上の建物の再築による解約の条文規定には細かい要件が決められています。
条文の規定の内容や、その基本的な解釈については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借地借家法の借地上建物の滅失・再築による解約の規定と基本的解釈

6 承諾に代わる裁判所の再築許可(概要)

第2ラウンドで建物の再築に地主が承諾してくれない場合、再築を強行すると、地主は解約できることになります(前記)。
借地人としては現実的には承諾がない限り再築できません。
この救済措置として、地主の承諾の代わりに裁判所が許可する手続があります。

承諾に代わる裁判所の再築許可(概要)

あ 地主の解約

更新後(第2ラウンド)において
借地人が承諾なく建物を再築した場合
→地主は解約することができる(前記※1
※借地借家法8条2項
→現実的には借地人は建物の再築ができない

い 解約を回避する救済措置

更新後(第2ラウンド)において
建物の再築について
『やむを得ない事情』がある場合
→裁判所が許可することができる
→借地人は解約されずに再築できる
※借地借家法18条
詳しくはこちら|借地上の建物の再築許可の裁判制度の基本(趣旨・新旧法の違い)

7 再築と増改築禁止特約(概要)

再築について地主が解約できるのは更新後(第2ラウンド)に限定されます。
更新前(第1ラウンド)や旧法時代の借地には解約は適用されません。
とはいっても、借地人が自由に再築をできるとは限りません。
特約で禁止(制限)されていることも多いです。

再築と増改築禁止特約(概要)

あ 更新前と解約の規定

更新前(第1ラウンド)において
借地人が『建物を再築すること』について
→地主の承諾がなくても解約は適用されない(前記※1

い 旧法時代の借地と解約の規定(参考)

旧法時代の借地について
更新前と後の両方とも解約は適用されない(前記※2

う 増改築禁止特約による制限

解約(あ・い)とは別に
増改築禁止特約がある場合
再築(建物の滅失後の築造)は増改築に含まれる
詳しくはこちら|増改築禁止特約における『増改築』の意味と解釈
→無断での再築は特約違反になる
→解除の対象となる
ただし、解除は制限される傾向もある
詳しくはこちら|借地契約の増改築禁止特約の有効性と違反への解除の効力

え 増改築許可による違反の回避

『う』の場合
地主の承諾に代わる裁判所の許可の制度を利用できる
詳しくはこちら|再築禁止特約と増改築許可の利用(新旧法共通)
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版補訂版』2009年p28

8 再築の承諾による期間延長(概要)

以上の説明は再築による解約についてのものでした。
これとは別の制度として、再築によって期間が延長するという規定もあります。
地主の承諾や異議がない場合が前提です。
この期間延長の制度には更新前と後の区別はありません。

再築の承諾による期間延長(概要)

あ 再築による期間延長(全体)

再築による解約の制度(前記※1)とは別に
建物再築による期間延長の規定(い・う)もある
期間延長の制度には更新前と後の区別はない
=両方とも適用される

い 承諾ある再築による期間延長(借地借家法)

地主が再築を承諾した場合
→借地期間が延長される
※借地借家法7条
詳しくはこちら|借地借家法における承諾のある建物再築による期間延長

う 異議のない再築による期間延長(旧借地法)

旧法時代の借地について
再築について地主が異議を述べない場合
→借地期間が延長される
※借地法7条
詳しくはこちら|旧借地法における異議のない建物再築による期間延長(基本)

共有不動産の紛争解決の実務第2版

使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第2版 弁護士・司法書士 三平聡史 著 使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記、税務まで 第2班では、背景にある判例、学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補! 共有物分割、共有物持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続きを上手に使い分けるためこ指針を示した定番書!

実務で使用する書式、知っておくべき判例を多数収録した待望の改訂版!

  • 第2版では、背景にある判例・学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補!
  • 共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分けるための指針を示した定番書!
  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【再築禁止特約と増改築許可の利用(新旧法共通)】
【借地借家法における承諾のある建物再築による期間延長】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00