【共有物分割の結果と抵触する処分(妨害行為)の効力】

1 共有物分割の結果と抵触する処分(妨害行為)の効力

共有物分割の協議や訴訟で、分割が完了した、つまり合意成立または判決確定に至った場合、一定の権利関係が形成されます。
この点、実務では、たとえば判決に納得できない当事者が、妨害的な処分をすることがあります。本記事では、いろいろな妨害的処分について法的にどのような扱いとなるのか、ということを説明します。

2 全面的価格賠償による持分移転と持分譲渡の抵触

(1)事案

最初に、全面的価格賠償として成立した後に、持分を失った共有者(対価取得共有者)が、まだ持分移転登記が終わってない時点で、第三者に持分を譲渡して登記もしてしまった、というケースを想定します。

事案

不動産がAB共有であった
AB間で、「B単独所有とする(A持分をBに移転する登記をする)、BがAに賠償金を支払う」という内容の共有物分割が成立した(合意または判決)
Aが自身の持分をCに譲渡し、移転登記を行った

(2)結論

前述のケースでは、まずBは全面的価格賠償によってA持分を取得していますが、その法的性質は売買という解釈なので、Aは譲受人として捉えます。
詳しくはこちら|共有物分割の分割類型の基本(全面的価格賠償・現物分割・換価分割)
次に、CもA持分の譲受人です。
ということは、二重譲渡の状態であり、いわゆる対抗関係となります。簡単にいえば、先に登記を得た方が権利(共有持分権)を得ることになるのが原則です。では、登記を得たCがA持分を取得するかというとそうではありません。Cは、持分の譲受人として、Aが負っていた登記義務を承継しているのです。登記義務を負っている者が、登記を得たからといって優先させるのは不当です。そこで、例外的に民法177条が適用されない(登記の欠缺につき正当な理由を有さない)ということになる可能性が高いと思います。
このような解釈が採用されれば、結論として、BがA持分を取得することになります。Aの妨害工作は功を奏しないということになります。
この点、全面的価格賠償の賠償金不払いリスクの考察の中で、持分の譲受人に判決が及ばないとも読めるような説明が登場する論文がありますが、メインの議論から外れている余談のような部分ですし、そもそも対抗関係(民法177条の適用の有無)を意識したコメントではないと思われます。

結論

あ 形式

Aを起点とした、BとCへの持分譲渡であり、二重譲渡(対抗関係)といえる
B・Cは相互に(一般的用語としての)「第三者」である
→登記を得たCが確定的に共有持分権を取得する方向性である

い 実質(制限説)

Cは持分の譲受人であるため、それ以前に成立した共有物分割に基づく債権・債務を承継する
※民法254条
※最判昭和34年11月26日
詳しくはこちら|民法254条が共有物分割契約上の債権に適用されるか否かの判例・学説
Cは、Aが負っていた共有物分割による持分移転登記義務を承継している
登記義務を負っている者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない(後記※1
BはCに対して共有持分権の取得を主張できる

う 結論

ア 判例を元にした結論 BからCに対する持分移転登記請求は認められ、これを実現することにより、Bが確定的にA持分を取得する
Cは確定的にA持分を取得できないことになる
イ 別の見解(遺産分割の扱いの流用) 例えば、AB共有の不動産(共有登記済み)につき、ABの合意で分割されBの単独所有になった場合には、177条が適用されるが(遺産分割につき→9-33)、・・・
※平野裕之著『物権法 第2版』日本評論社2022年p357

え 賠償金不払いリスクの検討におけるコメント(参考)

(全面的価格賠償の賠償金の不払リスクについて)
なお共有登記がなされている場合には、その共有者から共有持分を譲り受けた者に対して分割の結果を対抗できなくなる危険が一定程度の履行促進効果をもつことが見込まれるが、これは共有者が適法に共有関係を解消して離脱することを認めるものではない。
※上田誠一郎稿『全面的価格賠償の方法による共有物の分割と対価の確保の問題について』/『同志社法学296号(55巻6号)』同志社法学会2004年p1440

(3)登記義務承継による民法177条適用除外(昭和35年広島高判・参考)

前述の説明の中で、登記義務を負う者は登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない(民法177条の「第三者」に該当しない)という解釈が登場しました。この解釈は下級審裁判例が採用したことがあるものです。

登記義務承継による民法177条適用除外(昭和35年広島高判・参考)(※1)

あ 事案

原判決の確定した事実によると、被上告人上告人の父Sから本件山林を昭和二三年五月一日買受け、その後同年九月二日上告人Sから同山林の贈与を受けたが、いづれも移転登記手続未了のうちに右Sは昭和二七年二月一四日死亡し、上告人がこれを相続してその権利義務を承継したが、被上告人は本訴提起後間もない昭和二七年四月二一日上告人に代位して上告人のために相続による所有権取得登記をなしたと謂うにある。

い 判断

即ち上告人は相続前生前贈与による所有権を以て第三者に対抗し得なかつた関係上、右贈与がなくして相続が開始された場合と同一の立場になり上告人は被相続人の被上告人に対する所有権移転登記義務を承継するものといわなければならない。
したがつてこの場合は上告人は所謂二重譲渡を受たものとしての立場を失つたものとゆうべく、上告人民法第一七七条にいわゆる第三者に該当せず、登記なき故を以て被上告人の所有権を否定し得ないと同時に、上告人は最早生前贈与による登記ができず、相続による登記があつても被上告人に対し優先的所有権取得を主張し得ないものと解すべきである。
※広島高判昭和35年3月31日

3 全面的価格賠償による持分移転と抵当権設定の抵触

(1)事案

次に、全面的価格賠償で持分を失った者が、移転登記をする前に、第三者に抵当権の設定をしてしまった、というケースを想定します。持分譲渡まではせずに、抵当権という負担を作った(にとどめた)、という状況です。

事案

不動産がAB共有であった
AB間で、「B単独所有とする(A持分をBに移転する登記をする)、BがAに賠償金を支払う」という内容の共有物分割が成立した(合意または判決)
Aが自身の持分について、債権者Cの抵当権を設定し、登記をした

(2)結論

この状況も抵当権設定の範囲で対抗関係となります。BがA持分を取得する登記よりも先にCが抵当権を取得する登記がある場合は、Cが優先となります。
結論としてBはA持分の取得はできますが、Cの抵当権の負担がある状態で取得することになるのです。Aの妨害工作が機能してしまいました。
最初に想定した持分譲渡では民法254条の適用がありましたが、抵当権設定では、抵当権者に民法254条は適用されません。この違いが妨害工作が機能したかどうか、という結論の違いとなったのです。

結論

あ 対抗関係による処理

Bは抵当権設定登記よりも先に登記を得ないと、Cに(抵当権の負担がないことを)対抗できない
※大判昭和7年5月27日

い 民法254条の適用

Cは持分の譲受人ではないため、民法254条の適用はない
(共有物分割による登記義務を承継する立場にはない)
登記の欠缺を主張する正当な理由を有する第三者に該当する

う 結論

Cは確定的に抵当権を取得する
Bは抵当権の負担のある共有持分権を取得する

なお、状況によってはCが背信的悪意者であると認められ、Cの抵当権が否定される可能性もあります。
詳しくはこちら|登記を得た者の主観による対抗力への影響(背信的悪意者排除理論)

4 全面的価格賠償による持分移転と用益権設定の抵触

全面的価格賠償で持分を失った共有者Aが、第三者Cに不動産を賃貸した場合を想定します。分割の効力が生じた後であれば、(移転登記が未了であったとしても)Aはすでに共有持分を有していません。そこで、Cは占有権原を持っていないことになります。
結論として、不動産を取得したBは明渡請求をすることができることになります。

全面的価格賠償による持分移転と用益権設定の抵触

あ 事案

不動産がAB共有であった
AB間で、「B単独所有とする(A持分をBに移転する登記をする)、BがAに賠償金を支払う」という内容の共有物分割が成立した(合意または判決)
Aが、第三者Cとの間で、Cを賃借人、当該不動産を対象とする賃貸借契約を締結し、Cに引渡をした

い 結論

賃貸借契約締結の時点でAは共有持分を持っていなかった(共有者ではなかった)
他人物賃貸借になる
民法94条2項類推など、一般条項によりCが保護されない限り、BはCに対して明渡請求をすることができる

5 現物分割による持分移転と持分譲渡・抵当権設定・用益権設定の抵触

共有物分割の内容が現物分割の場合については、全面的価格賠償の場合と同じです。というのは、現物分割の中身は、持分の交換です。
詳しくはこちら|共有物分割の分割類型の基本(全面的価格賠償・現物分割・換価分割)
物理的に複数のエリアに分けますが、個々のエリアについて、持分が共有者AからBへ、またはその逆に移転するのです。つまり、持分の譲渡にあたるのです。
そこで、全面的価格賠償と同じ結論、つまり、持分譲渡という妨害は機能しないけれど、抵当権設定という妨害は機能してしまう、ということになります。
また、Aが持分を失ったエリアについて賃貸借(用益権設定)をしても、他人物賃貸となるので賃借人は占有権原を持たない、というのも全面的価格賠償と同じことです。

6 換価分割と持分譲渡の抵触

3つ目の分割類型である換価分割について考えてみます。
換価分割が成立した後にAが持分をCに譲渡して登記をする、という妨害工作を想定します。まず、民事執行法の規定で、執行力はCにも及びます。では、Cは先に登記を得たことで権利(持分権)を得た、という固有の抗弁が認められるか、というと、そもそも二重譲渡のような対抗関係が生じていないので、これも認められないと思います。
結果的に、Cを共有者として扱う前提で、形式的競売が進む、ということになります。Aによる妨害工作は機能しなかったことになります。

換価分割と持分譲渡の抵触

あ 事案

不動産がAB共有であった
AB間で、「不動産を競売にする、代金を分割する」という内容の共有物分割が成立した(調停または判決)
Aが自身の持分をCに譲渡し、移転登記を行った

い 執行力の及ぶ範囲

Cは民事執行法23条3項の「債務名義成立後の承継人」として執行力(判決の効力)が及ぶ
Cには固有の抗弁はない(請求異議の訴えでくつがえせるわけではない)

う 競売手続(概要)

形式的競売の申立において承継執行文は不要である
Cへの持分移転登記がなされている登記事項証明書で足りる
詳しくはこちら|形式的競売における差押の有無と処分制限効、差押前の持分移転の扱い

7 換価分割と抵当権設定の抵触

では次に、換価分割が成立した後に、Aが持分譲渡ではなく、Cの抵当権を設定したということを想定します。この場合、他の共有者(B)には何も影響が生じません。
Bは何事もなかったかのように競売を申し立てます。裁判所は不動産を売却し、代金のうちA持分割合相当額から、抵当権の被担保債権額をCに配当し、その残額をAに弁済(交付)します。Bが弁済を受ける金額は、売却代金のうちB持分割合相当額です。抵当権があることにより控除される(減額となる)ことはないのです。
Aによる妨害工作は機能しない結論です。

換価分割と抵当権設定の抵触

あ 事案

不動産がAB共有であった
AB間で、「不動産を競売にする、代金を分割する」という内容の共有物分割が成立した(調停または判決)
Aが自身の持分について、債権者Cの抵当権を設定し、登記をした

い 抵当権の扱い

執行裁判所では原則として消除主義が採用されている
詳しくはこちら|形式的競売の担保権処理は引受主義より消除主義が主流である
売却代金から執行費用を控除した金額のうちA持分割合相当額から、抵当権者への配当がなされ、その残額がAへの弁済金となる

う 結論

Bには何も影響は生じない

8 換価分割と用益権設定の抵触

(1)まとめ

さらに、換価分割の判決の後にAが第三者に賃貸したことを想定します。買受人に対抗できるとすれば、売却価格が大幅に下がってしまいます。
管理分類の賃貸借であり、過半数持分を有する共有者が賃貸した場合であれば、原則として買受人に対抗できることになります。もちろん、妨害目的である場合など、個別的事情によっては例外もありえます。
これに該当しない場合には、賃貸借は適法にならないので、買受人に対抗できません。

まとめ

あ 事案

不動産がAB共有であった
AB間で、「不動産を競売にする、代金を分割する」という内容の共有物分割が成立した(調停または判決)
Aが、第三者Cとの間で、Cを賃借人、当該不動産を対象とする賃貸借契約を締結し、Cに引渡をした

い 結論

ア 共有物の賃貸借として適法であるケース 当該賃貸借が管理分類であり、かつ、Aが過半数持分を有していた場合
(協議必要説に立つ場合は、さらに賃貸借の意思決定についてBと協議を履行していた場合)
賃貸借は適法となる(=CはBに対しても賃借権を対抗できる)
Cの賃借権が第三者対抗要件(建物であれば引渡)を備えていれば、形式的競売の買受人にも対抗できる
イ 共有物の賃貸借として適法ではないケース 当該賃貸借が変更分類である場合、または、管理分類であるがAが過半数持分を有していない場合
賃貸借は(共有物の賃貸借としては)適法ではない(=CはBに対して賃借権を対抗できない、Cの占有権原はAの共有持分権(Aの使用承諾)にとどまる)
Cの占有権原は買受人に対抗できない

(2)妨害的賃貸借に対する引渡命令の実例(概要)

実際に、妨害的な目的で共有者の1人が、関係する者や法人に対して形式的に賃貸する、というケースはあります。令和5年通達で、過半数持分を有する共有者だけで賃借権設定登記の申請が可能となっています。妨害目的で賃借権設定登記が活用(悪用)されることも想定されます。
令和5年通達や妨害目的の賃貸借の実例については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有不動産への賃借権設定登記申請の当事者(令和5年通達)

9 共有物分割請求権の保全のための処分禁止の仮処分(概要)

以上の検討の結果をまとめると、妨害工作が機能するのは、全面的価格賠償で対価取得者が抵当権を設定するもの、現物分割で抵当権を設定するもの、換価分割で過半数持分を有する共有者が用益権を設定する(賃貸する)ものでした。
ここで、このような妨害の対策として、事前に処分禁止の仮処分をしておく、という発想が浮かびます。
しかし、共有物分割請求を保全するための処分禁止の仮処分は肯定する見解と否定する見解に分かれています。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における保全処分の可否(処分禁止の仮処分など)

本記事では、共有物分割の結果と抵触する妨害的な行為の効力を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有物分割などの共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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