【抵当権や仮登記の負担つきの不動産売買(担保責任・支払拒絶権)】

1 抵当権や仮登記の負担つきの不動産売買(担保責任・支払拒絶権)

抵当権や仮登記がついている不動産の売買に関して、民法上いくつかのルールが定めてあります。このようなルールは普通の売買で使うことはありませんが、特殊な売買(と同じ扱いとなる場面)では使うこともあります。
本記事では、抵当権や仮登記がついたままで不動産を売買する場合のルール(担保責任・支払拒絶権)を説明します。

2 抵当権・仮登記などの負担による担保責任を使う場面

担保責任の説明に入る前に、どのような状況で担保責任が使われるのか、ということに触れておきます。
不動産の売買では、決済(残金支払)と同時に抵当権や仮登記(などの負担)を消す方法をとることはよくありますが、抵当権や仮登記がついたままで売買するということは通常ありません。
ただし、売買をしたのと同じ扱いとなる局面がいくつかあります。たとえば、共有不動産の共有物分割(全面的価格賠償、現物分割)や借地上の建物の建物買取請求などです。
詳しくはこちら|共有物分割の法的性質と契約不適合責任(瑕疵担保責任)
詳しくはこちら|建物買取請求の時価算定における負担の扱い(賃借権・担保権・仮登記)
そこで、本記事で説明する担保責任は、売買契約そのもので使うこともありますが、むしろこのような売買契約そのものではないけど同じ扱いとなる場面、がほとんどなのです。

3 権利の不適合における担保責任

(1)権利の不適合の場合の担保責任の基本(民法565条)

売買の対象不動産に抵当権や仮登記の負担がついている場合の民法上のルールは担保責任と呼ばれるものです。条文上は権利契約の内容に適合しないという言い回しになっています。一見わかりにくいですが要するに負担がついている場合のことです。
その担保責任の内容としてはまず、買主が売主に対して負担を消してくれを要求する追完請求があります。売主が負担を消せなければ不動産の価値が下がった状態なので、代金減額損害賠償を請求して金銭的に穴埋めをしてもらいます。状況によっては売買契約自体を解除して白紙に戻すことが認められます。
詳しくはこちら|売買・請負の契約不適合責任(瑕疵担保責任)の全体像

権利の不適合の場合の担保責任の基本(民法565条)

(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)
第五百六十五条 前三条の規定は、売主が買主に移転した権利契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。
※民法565条

(2)買主による抵当権消滅の場合の償還請求(民法570条)

売主に頼らずに、買主が積極的に動いて、抵当権を消すというケースもあります。買主が債務全額を弁済する第三者弁済、買主が不動産評価額程度の弁済をして抵当権を消滅させる抵当権消滅請求などです。
詳しくはこちら|抵当権付不動産売買における買主と抵当権者の関係(基本)
これらの場合は買主が金銭的に負担(支出)をしているので、その分を売主に償還請求することができます。

買主による抵当権消滅の場合の償還請求(民法570条)

(抵当権等がある場合の買主による費用の償還請求)
第五百七十条 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権、質権又は抵当権が存していた場合において、買主が費用を支出してその不動産の所有権を保存したときは、買主は、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。
※民法570条

4 抵当権つきの売買における支払拒絶権(民法577条)

抵当権つきの不動産の売買では、前述のように、売主としては抵当権を消滅させる義務がありますが、一方、買主には代金支払義務があります。買主の立場としては、後から代金減額や損害賠償を請求することになるかもしれないので、先に代金全額を支払ってしまうのは不安です。そこで、代金の支払を拒絶することが認められています。
この点、買主サイドで抵当権を消滅させる手段として抵当権消滅請求があります。そこで支払拒絶をすることができるのは、抵当権消滅請求を行った場合だけ、となっています。要するに、買主としてできる手段をとった場合にだけ防衛手段が与えられる、という寸法です。
なお、抵当権ではなく他の担保物権がついている場合でも同じです。

抵当権つきの売買における支払拒絶権(民法577条)

(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
第五百七十七条 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
2 前項の規定は、買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。
※民法577条

5 仮登記つきの売買における支払拒絶権(民法578条)

次に、仮登記がついた不動産の売買を想定します。たとえば、売買予約による所有権移転請求権仮登記がついている不動産です。「仮」登記なので所有権移転の効果は生じていません。そこで買主は所有権を獲得できます。ただし、後から獲得した所有権を強制的に取り上げられる可能性がある状態ということになります。もちろん、所有権を取り上げられたら(喪失したら)売買契約の解除をして代金の返還請求をすることができます。しかし代金が戻ってくるかどうかは別です。
そこで、抵当権つきの売買と同じように、代金の支払を拒絶できることになっています。

仮登記つきの売買における支払拒絶権(民法578条)

(権利を取得することができない等のおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)
第五百七十六条 売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により、買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず、又は失うおそれがあるときは、買主は、その危険の程度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。
※民法576条

6 代金に負担織り込み済→担保責任・支払拒絶権なし

(1)代金に織り込み済み→担保責任なし

ところで、通常の不動産売買では、負担つきのまま、ということはほとんどありません。ただし、負担がある分を控除した代金で売買するということはあります。つまりリスク分を下げた評価額で考えた、という状況です。リスクは売買代金(額)に織り込み済、ということもできます。
ここで、担保責任が適用されるのは売買の対象が契約に適合しない場合だけです。負担がない(売主が消す)前提で買ったのに負担が外れない、という場合のことです。最初から負担ありの前提の売買では担保責任(契約不適合責任)は発生しません。

(2)代金に負担織り込み済→支払拒絶権なし

買主の代金支払拒絶権も同じことです。負担があることによる買主のリスクは織り込み済である場合には、買主を保護する必要はありません。そこで、買主に支払拒絶権は与えられないということになります。

代金に負担織り込み済→支払拒絶権なし

あ 新版注釈民法

まず、当事者が当初から担保物権による負担を勘定に入れて不動産の価格を決定した場合(すなわち、売買契約締結にあたって買主がその担保物権によって担保されている債務またはその履行を引き受けて、その債務額を控除した額をもって代金額とした場合)には、滌除(注・現在の抵当権消滅請求)をすると否とにかかわらず、買主は代金支払拒絶権を有しないものと解すべきである(通説)。
※柚木馨・高木多喜男稿/柚木馨ほか編『新版 注釈民法(14)』有斐閣2002年p428

い 昭和39年最判の判例解説→学説紹介

(注・建物買取請求のケースの説明の前提として)
買取請求の場合でない一般の売買の場合にあっても、抵当不動産の売買において、「売買契約を締結する際に買主が不動産上の担保物権によって担保されている債務を引受け又はその履行を引受けてその債務の額を控除したものを以て代金額としている場合、すなわち当初から担保物権による負担を勘定に入れて不動産の価格を決定している場合には、滌除をすると否とに拘らず代金の支払を拒絶すべき理由はなく、また滌除をしても代金額からの控除を為すことを得ないのは当然の事に属する」として、その場合民法五七七条の適用の余地のないことが説明されている(末川・債権各論一部九七頁、同説、鳩山・同(上)三六一頁、勝本・契約各論一一一頁、磯谷・債権各論四二三頁)。
※安倍正三稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和39年度』法曹会1965年p65

7 代金支払拒絶に対する供託請求

(1)支払拒絶に対する供託請求(民法578条)

前述のように、買主の代金支払拒絶権は、売主の資力不足で買主がダメージを受けることを回避する手段です。
この点逆に、買主が代金を支払わない状況を前提とすると今度は売主もリスクを負います。売主の努力で負担を消すことが実現した時に買主が代金を払えない(資力不足)だと、売主は結局代金を得ることができないことになり困ります(実害が生じることもあります)。
そこで、買主が支払拒絶権を行使した場合、売主はカウンターとして供託してくれと請求できます。供託をすればその金銭(供託金)は法務局が預かるので、買主も売主も使えない状態になります。

支払拒絶に対する供託請求(民法578条)

(売主による代金の供託の請求)
第五百七十八条 前二条の場合においては、売主は、買主に対して代金の供託を請求することができる。
※民法578条

(2)供託請求に応じない→支払拒絶権否定

売主が買主に対して供託請求をしたのに、買主が供託をしない場合には、買主の支払拒絶権はなくなります。代金を支払わなくてはならなくなります。
とはいっても、同時履行の抗弁権は別です。具体的には「売主が負担つきのままで不動産を引き渡し、かつ移転登記もした」場合には買主は代金全額を支払わなくてはならなくなる、という状況です。

供託請求に応じない→支払拒絶権否定

あ 昭和14年大判

(注・要旨・現代語化)
売主が買主に対して民法第五七八条により代金の供託を請求したるに拘らず買主に於て之が供託を為さざるときは自ら代金の支払拒絶権を行使し得ざるものとす
※大判昭和14年4月15日

い 新版注釈民法

(注・民法578条について)
売主よりこの請求があったにかかわらず、買主が供託をしないときは、買主は代金支払拒絶権を失う。
これは通説であるが、判例(大判昭14・4・15民集18・429)もまた同趣旨である。
なお、同時履行の抗弁権(→§577IV)までも、失うものでないことはいうまでもない。
※柚木馨・高木多喜男稿/柚木馨ほか編『新版 注釈民法(14)』有斐閣2002年p429

本記事では、抵当権や仮登記の負担つきの不動産売買について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産売買に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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