1 全面的価格賠償の基本
2 全面的価格賠償の内容
3 平成8年判例による創設
4 全面的価格賠償の法的性質(概要)
5 全面的価格賠償の要件(平成8年判例)(概要)
6 令和3年改正による全面的価格賠償の条文化
7 全面的価格賠償における典型的争点

1 全面的価格賠償の基本

共有物分割の分割類型(分割方法)の中に、全面的価格賠償があります。
詳しくはこちら|共有物分割の分割類型の基本(全面的価格賠償・現物分割・換価分割)
もともと、全面的価格賠償という分割類型は条文に定められておらず、平成8年判例が創設したものです。その後、令和3年改正によって、民法の条文に定められるに至りました。
本記事では、全面的価格賠償の基本的事項を説明します。

2 全面的価格賠償の内容

全面的価格賠償とは、文字どおり、全面的に金額の支払いで済ます、というものです。つまり、共有者の1人が共有物全体を取得し、その代わり、他の共有者(共有持分を失う共有者)に対価を支払う、というものです。理論的には債務を負担することになります。

全面的価格賠償の内容

共有物を共有者のうち1人の単独所有(または数人の共有)とする
現物を取得した共有者が、他の共有者に持分権の価格相当の対価を支払う(債務を負担する)

3 平成8年判例による創設

もともと、全面的価格賠償の分割類型は条文に定められておらず、共有物分割としては否定されていました。そして平成8年判例が創設したのです。その後、令和3年改正で、民法の条文に明記されました。

平成8年判例による創設

あ 昭和30年判例による否定(概要)

全面的価格賠償の分割類型は民法258条に規定されていない
民法258条2項の規定では全面的価格賠償の分割方法をとることができない
(原審の判断を維持した)
※最判昭和30年5月31日
詳しくはこちら|全面的価格賠償の法的性質(現物分割・部分的価格賠償との比較・創設なのか)

い 下級審裁判例による採用

下級審裁判例において、特殊な事情があるケースなどでは全面的価格賠償を採用するものも現れるようになった
詳しくはこちら|持分割合の極端な差と全面的価格賠償の相当性(昭和45年山口地判)

う 平成8年判例による創設

平成8年判例(3つ)は、全面的価格賠償という分割類型を認めた

え 平成8年判例後の定着

平成8年判例の後の判例も、全面的価格賠償の採用(適用)が続いている
※最高裁平成9年4月25日
詳しくはこちら|最判平成9年4月25日(全面的価格賠償の判断のための差戻)の内容
※最高裁平成10年2月27日
詳しくはこちら|遺産流れと全面的価格賠償の相当性(最判平成10年2月27日)
※最高裁平成11年4月22日

お 令和3年改正民法による条文化(概要)

令和3年改正により民法の条文に全面的価格賠償が、分割類型の1つとして明記されるに至った(後記※1

4 全面的価格賠償の法的性質(概要)

全面的価格賠償は、現物分割とも換価分割とも違う、新たな分割類型であり、平成8年判例が創設したという見解が一般的です。
この点、全面的価格賠償と似ている分割類型(分割方法)として、部分的価格賠償があります。文字だけみると、一部か全部か、という違いに思えますが、法的には別の分割類型です。つまり、部分的価格賠償は現物分割の一種であり、一方、全面的価格賠償は、独立した1つの分割類型であると考えられています。
このような、全面的価格賠償の法的性質については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の法的性質(現物分割・部分的価格賠償との比較・創設なのか)

5 全面的価格賠償の要件(平成8年判例)(概要)

実務では、全面的価格賠償は、共有関係を解消するために非常に有用です。実際には、全面的価格賠償が選択されるかどうか、について熾烈な対立が生じることがよくあります。最終的には判例が立てた判断基準(要件)によって結論が決まることになります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物分割における全面的価格賠償の要件(全体)

6 令和3年改正による全面的価格賠償の条文化

全面的価格賠償は、令和3年改正の民法で条文に組み入れられました。
ちなみに、遺産分割に関しては、(価格賠償に相当する)代償分割の根拠規定が以前からありました(旧家事審判規則109条、家事事件手続法195条)。
詳しくはこちら|遺産分割における代償分割の基本(規定と要件)
令和3年改正で新設された民法258条4項の内容は家事事件手続法195条と実質的に同じです。

令和3年改正による全面的価格賠償の条文化(※1)

あ 令和3年改正の条文規定

裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
※民法258条2項

い 令和3年改正の趣旨

ア 分割類型の明文化 1.賠償分割に関する規律の整備
裁判による共有物分割の方法として、賠償分割(「共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法」)が可能であることを明文化(新民法258Ⅱ)
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p35
イ 優先順序の明文化(概要) (全面的)価格賠償を含む分割類型の優先順序を明文化した
詳しくはこちら|全面的価格賠償と換価分割の優先順序(令和3年改正・従前の学説)

7 全面的価格賠償における典型的争点

全面的価格賠償は、実際のケースで活用できることがとても多いです。共有者の1人が、自身が取得する全面的価格賠償を主張し、他の共有者もそのことには賛成するけれど対価(賠償金)の金額で対立する、ということがよくあります。
そのような場合、最終的には共有物分割訴訟の中で鑑定が行われることになります。
詳しくはこちら|全面的価格賠償における共有物の価格の評価プロセス(鑑定)

全面的価格賠償における典型的争点

あ 取得する共有者

共有者の1人Aが共有不動産に居住しているケースにおいて
Aが共有不動産を単独で取得することについては、共有者間で意見が一致することが多い

い 金額

賠償金の金額(不動産の評価額)について
共有者の間で見解の対立が生じることが非常に多い

本記事では、共有物分割の分割類型の中の全面的価格賠償の基本的なことを説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。