【遺産流れと全面的価格賠償の相当性(最判平成10年2月27日)】

1 遺産流れと全面的価格賠償の相当性

遺産流れで共有になったケースでは、その後の共有物分割において、全面的価格賠償が認められる傾向が強いです。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の相当性が認められる典型的な事情
実際に、平成10年判例では、遺産流れのケースで全面的価格賠償が認められる(方向性)の指摘がなされています。本記事では、このようなことを説明します。

2 遺産流れと全面的価格賠償の相当性の関係(一般論)

相続によって、相続財産が共有となった、というケースでは、一般論として、全面的価格賠償が認められやすいです。理論的には、全面的価格賠償の相当性が認められる傾向があるということになります。

遺産流れと全面的価格賠償の相当性の関係(一般論)

あ 遺産流れと相当性の関係

共有物分割の対象がいわゆる遺産流れのものである場合は、共有物分割訴訟といっても、その実質は遺産分割と異ならず、全面的価格賠償の方法を採るのに適当な事案が少なくないものと思われる。
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p889

い 全面的価格賠償に否定的な見解(参考)(※1)

全面的価格賠償という分割類型自体を批判する立場からであっても、遺産分割と同じ実態のケースでは全面的価格賠償を認めている
詳しくはこちら|全面的価格賠償に対する否定的な見解(要件の厳格な適用)

3 平成10年判例の判決内容

実際に、遺産分割の協議として、共有のままとしたケースで、全面的価格賠償の相当性を認める方向の判断がなされた判例があります。全面的価格賠償の定着化の一環とされている平成10年判例です。
平成10年判例は、遺産流れであることなどの事情から、全面的価格賠償の相当性を否定できないとだけ指摘し、それ以降の判断は差戻審に委ねたという内容です。少なくとも遺産流れという事情が全面的価格賠償の相当性を認める方向に働くということを明示したといえます。

平成10年判例の判決内容

・・・本件不動産は、亡Mの相続人間の協議により法定相続分の割合に応じた共有とする遺産分割がされたものであって、その形状等から現物分割は不可能である上、上告人X1が今後も本件不動産に居住することを希望しており、上告人らにおいて、本件不動産を競売に付することなく、上告人X1が単独であるいは他の上告人らとともに亡Sの持分につき対価を支払ってこれを取得する方法による分割を提案していることなどにかんがみると、本件不動産についての被上告人らの持分を上告人X1単独ないし上告人らの取得とすることが相当でないとはいえないし、上告人らの支払能力のいかんによっては、被上告人らにその持分の対価を取得させることとしても、共有者間の実質的公平を害することにはならないものと考えられる。 
そうすると、本件について、全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情の存否について審理判断することなく、直ちに競売による分割をすべきものとした原審の判断には、民法二五八条の解釈適用の誤り、ひいては審理不尽の違法があるというべきであり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があるから、原判決は破棄を免れず、前記説示に従い更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
※最判平成10年2月27日

4 平成10年判例が指摘した相当性を肯定する事情

平成10年判例の中で、全面的価格賠償の相当性を認める方向に働く事情として指摘されているのは3つの事情です。遺産流れということだけでなく、従前の居住の維持や現物分割が不可能という事情もあります。
いずれも、全面的価格賠償の相当性を認める事情の典型的なものです。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の相当性が認められる典型的な事情

平成10年判例が指摘した相当性を肯定する事情

あ 居住維持(利用状況)

取得希望者X1は共有不動産に居住している

い 共有関係の発生原因(遺産流れ)

共有関係が発生した原因は共有とする遺産分割の合意である

う 現物分割不可能

不動産の形状から現物分割は不可能である
※最判平成10年2月27日

5 平成10年判例による相当性の判断の評釈

平成10年判例が示した判断に対する評釈として、(平成8年判例の)判例解説を紹介します。全面的価格賠償の相当性の判断について賛同しています。

平成10年判例による相当性の判断の評釈

あ 相当性を肯定する理由

右事案(最判平成10年2月27日)では、昭和59年に相続が発生した後、いったん昭和61年に本件不動産を法定相続分の割合に応じた共有とする遺産分割協議が成立したため、物権法上の共有関係が成立し、その解消は共有物分割として行われることになった。
しかし、実質的には、その分割は遺産分割に準ずる面を有しているから、右事案は全面的価格賠償の方法による共有物分割に馴染む事案の一つといえるであろう。
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p877

い 全面的価格賠償に否定的な見解との関係

学説には、「全面的価格賠償は家事審判規則109条(注・当時の条文)の明文規定のある遺産分割と実態として類似するものに限定して認められるべきと考える。」との見解があるが(前記※1)、「共有関係の発生原因」は、本判決では相当性判断の一ファクターとして位置付けられている。
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p889

6 相続開始10年後の共有物分割と全面的価格賠償

ところで、遺産流れで共有物分割になるというケースは、平成10年判例のように、遺産分割をしたがその結果、共有のままとなったという場合に生じます。
このことについて、令和3年改正でルールが変わりました。遺産分割をしないままでも、10年が経過すると共有物分割をすることができるようになったのです。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺産共有の法的性質(遺産共有と物権共有の比較)

本記事では、遺産流れのケースでは全面的価格賠償の相当性が認められる傾向があるということを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に相続、遺産分割や、共有不動産、共有物分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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