1 賃料増減額請求の条文規定
2 賃料増減額請求権の行使の具体的方法
3 制度の趣旨と制度新設の経緯
4 事情変更の原則
5 賃料増減額請求の要件を欠く事例
6 賃料増減額請求の強行法規性(前提)
7 賃料に関する特約の制限(有効性;概要)
8 賃借権の準共有と増額請求・賃料請求(概要)

1 賃料増減額請求の条文規定

借地や借家では現在の賃料を変更する請求ができます。
これを賃料増減額請求と呼びます。
地上権の対価の場合は『地代』であり『賃料』ではありません。
本サイトでは,地代も含めて簡略化して『賃料(増減額請求)』と呼びます。
本記事では,賃料増減額請求の基本的事項を説明します。
最初に,賃料増減額請求の条文の規定をまとめます。

<賃料増減額請求の条文規定>

あ 賃料増減額請求の要件

請求時に従前の賃料が不相当となった場合
→当事者は賃料の増減を請求できる
不相当の例として『い・う』が示されている

い 経済事情の変動

『ア〜ウ』のいずれかの事情により賃料が不相当となった
ア 土地に対する公租公課の増減
イ 土地の価格の上昇or低下
ウ その他の経済事情の変動

う 近隣の相場の変動

近傍類似の土地の賃料に比較して対象の借地の賃料が不相当となった
※借地借家法11条1項

実際に賃料が『不相当』かどうかを判断するには『相当な賃料』を算出して比較します。
相当な賃料の算定は複雑です。
詳しくはこちら|改定賃料算定手法の種類全体(主要4手法+簡易的手法)

2 賃料増減額請求権の行使の具体的方法

賃料増減額請求権を行使する方法は意思表示です。要するに通知です。

<賃料増減額請求権の行使の具体的方法>

あ 一般的な方法

貸主or借主が相手方に対して意思表示する
意思表示の内容=賃料を増額or減額する

い 金額明示の要否

賃料増減額請求は具体的な額を明示することを要しない
単に値下げ・値上げの要請・交渉であってもよい
※名古屋地裁昭和58年3月14日;減額請求について

3 制度の趣旨と制度新設の経緯

賃料増減額請求の制度の新設は大正10年までさかのぼります。旧法(借地法・借家法)に規定が新設されたのです。
なおそれ以前から,慣習法として賃料増減額請求は認められていました。

<制度の趣旨と制度新設の経緯>

あ 趣旨=公平の原則

契約成立当時の賃料を維持することが公平の原則に反する
→当事者に増減の請求権を認めた
事情変更の原則の趣旨(根拠)もある(後記※1)

い 制度新設の経緯

従前の慣習法であった内容を大正10年に成文化した
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣p628

う 基本理念=事情変更の原則

制度の基本理念について
→事情変更の原則を貫く公平の観念・信義則である
※大判明治40年3月6日
※広瀬武文『借地借家法 法律学体系コンメンタール篇19』日本評論社1950年p137

4 事情変更の原則

賃料増減額の趣旨(根拠)には,事情変更の原則もあります。

<事情変更の原則(※1)>

あ 契約の拘束力の前提

契約は守られなければならない
その前提=契約を締結した様々な事情に大きな変化がない

い 事情変更による修正

契約締結の前提条件が大きく変化した場合
→原契約を履行することは衡平の観点から妥当性を欠く
→合意内容の変更を認める
※賃料評価実務研究会『賃料評価の理論と実務〜継続賃料評価の再構築〜』住宅新報社p94

5 賃料増減額請求の要件を欠く事例

賃料増減額請求は適切な賃料を定めるという機能があります。
この点逆に,適切な賃料を定めるニーズがあるからといって必ず増減額請求が認められるわけではありません。
賃料増減額請求には形式的な要件があるのです(前記)。
形式的要件を満たしていないために増減額請求が否定された実例を紹介します。

<賃料増減額請求の要件を欠く事例>

あ 当初から不相当

賃料決定の当初から不相当であった
→これのみで賃料増減額請求はできない
※大判昭和17年2月27日

い 賃料設定なし

契約の当初より賃料が設定されていなかった
『新規賃料』の確認請求の提訴について
→不適法却下とする
※東京高裁平成15年10月29日

う 使用開始前

使用収益の開始前において
賃料増減額請求は認められない
※最高裁平成15年10月21日

6 賃料増減額請求の強行法規性(前提)

賃料増減額請求は強行法規です。
この点,借地借家法では,一般的に借主保護の方向性だけの片面的強行法規が多いです。
しかし,賃料増減額請求は『片面的強行法規』ではありません。

<賃料増減額請求の強行法規性(前提)>

あ 個別的な強行規定

賃料増減額請求の規定について
※借地借家法11条1項,32条1項,借地法12条,借家法7条
→強行法規である
※最高裁昭和56年4月20日;地代について
※最高裁昭和31年5月15日;家賃について

い 片面的強行法規の該当性

一般的な片面的強行法規性について
→増減額請求は対象から外れている
※借地借家法16条,37条,借地法11条,借家法6条

7 賃料に関する特約の制限(有効性;概要)

賃料増減額請求は強行法規です。そこで,賃料増減額請求と似ている内容の特約の有効性が問題となります。
一般的には,特約は原則として有効で,事情によって連外的に無効となると解釈されています。

<賃料に関する特約の制限(有効性;概要)>

あ 不増額特約

一定期間の不増額特約がある場合
→賃料増額請求はできない
※借地借家法11条1項,32条1項,借地法12条,借家法7条

い 賃料改定特約(概要)

『あ』以外の賃料に関する特約について
原則として有効である

う 限定的有効説

『あ・い』の特約について
事情によって無効となることがある
詳しくはこちら|賃料に関する特約の一般的な有効性判断基準(限定的有効説)

8 賃借権の準共有と増額請求・賃料請求(概要)

賃借人が複数存在するというケースもあります。賃借権の準共有という状態です。
このようなケースでは,賃料増額請求や賃料の請求の当事者に注意が必要です。
賃料増額請求の意思表示は賃借人全員に対して行う必要があります。
賃料の請求については複数の賃借人のうち1人に全額請求ができます。

<賃借権の準共有と増額請求・賃料請求(概要)>

あ 増額請求の当事者

ア 基本的事項
賃借権が準共有となっている場合
賃貸人は賃借人の全員に対して増額の意思表示をする必要がある
イ 相対的な効力
賃借人の一部だけに対する意思表示について
→意思表示を受けた者との関係においても効力を生じない
※民法430条
※最高裁昭和54年1月19日;借地について

い 共同訴訟形態

増減額請求権の行使を前提とする訴訟について
→類似必要的共同訴訟となる見解が一般的である
※幾代通ほか『新版 注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣p652
詳しくはこちら|共有物と共同訴訟形態(損害賠償・境界確定・登記請求・賃料増減額)

う 賃料債務の不可分性

賃借権の準共有者(賃借人のうち1人)に対して
賃貸人は賃料全額を請求できる
※民法432条
※大判大正11年11月24日;家賃について
詳しくはこちら|賃貸借|貸主or借主が複数|賃料・損害金・敷金返還×可分/不可分