【賃料増減額請求の実務的な解決手続の全体と流れ】

1 賃料増減額請求の制度(概要)

借地や借家では、状況の変化により、契約期間の途中で賃料の不適切になることがあります。
その場合は増額や減額を請求することができます。
詳しくはこちら|借地・借家の賃料増減額請求の基本
本記事では、賃料増減額請求の実務的な手続全体の流れを説明します。
それぞれの手続や制度の内容については、別の記事で詳しく説明しています。

2 賃料増減額の交渉と簡易的な算定

賃料の増減額について賃貸人と賃借人で見解が一致すれば合意による賃料改定が完結します。
しかし実際には適正な賃料の金額について見解が対立することがあります。
このような場合は、妥当な継続賃料の金額が把握できると見解の相違が縮まります。
コストをほとんどかけないで、簡易的な賃料の算定を行う方法があります。
詳しくはこちら|公租公課倍率法の基本(裁判例・倍率の実情データ)
簡易的な算定は、解決の方針の検討の段階でも役立ちます。
具体的には、簡易的な改定賃料の算定結果によって、不動産鑑定士への鑑定の依頼や、調停・訴訟の申立をするかどうかを判断するということです。
当然、鑑定の依頼や訴訟提起はいずれも一定の時間的・費用的コストを要します。
相手にとっても同様です。
簡易的な改定賃料額の算定を元にした代理人交渉で、相互に譲歩し、合意に至るケースも多いです。
このように、簡易的な算定は、交渉においても目安として活用できるのです。

3 不動産鑑定士への継続賃料の鑑定依頼

より正確に継続賃料を算定する場合は、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼します。
不動産鑑定士の鑑定では、不動産鑑定評価基準に基いた考察、算定がなされます。
しかし、当然ながら、計算上、裁量が入る部分が結構多いです。
鑑定する不動産鑑定士によって結果が異なることは多いです。複数の不動産鑑定士の鑑定がまったく同一の検討プロセス・算定結果となることの方が珍しいです。
この点、継続賃料の鑑定については、あまり多く扱っていない不動産鑑定士が多いです。
信頼できる不動産鑑定士に依頼することがポイントです。
正式な鑑定結果が出たら、通常はこれをベースにして代理人交渉を進めます。

4 継続賃料の鑑定費用の目安

継続賃料の鑑定を利用するかどうかの判断の前提として費用は重要です。ごく一般的な費用の相場・目安をまとめます。

継続賃料の鑑定費用の目安

あ 対象建物

ごく一般的・平均的な居住用建物

い 鑑定評価書の作成の費用目安

いわゆる正式な鑑定評価
20〜40万円程度

う 査定書の作成の費用目安

いわゆる簡易鑑定
5〜10万円程度

当然、個別的事情によって異なります。具体的には、事案の概要を不動産鑑定士に説明して見積もりを作成してもらう、という段取りになります。

5 賃料増減額の調停の申立と協議

当事者や代理人による交渉では最終的に合意に至らないこともよくあります。
このような場合の解決策として、裁判所の手続の利用があります。
賃料の増減額(改定)については、訴訟よりも前に調停を申し立てるルールとなっています。
詳しくはこちら|賃料改定事件の裁判手続(調停前置の適用範囲と例外)
賃料増減額の調停では、調停委員が話し合いの仲介・調整をしてくれます。
調停委員が適切な資料の提出を促したり、事情を聴取したりします。
調停委員として不動産鑑定士が選任される運用もよくあります。そして、調停委員が現地を確認したり資料を調べて適正な賃料について意見を言ってくれることもあります。
これで当事者が合意に至れば、調停成立となります。
調停調書に合意内容を記録して終了となります。
調停の中では、判断を調停委員に委ねる制度もあります。調停条項の裁定制度と呼ばれるものです。
詳しくはこちら|賃料改定の調停における調停条項の裁定制度
当事者の主張の食い違いの幅が小さくなった段階で活用するという戦略もあり得ます。

6 賃料増減額の調停の不成立と訴訟提起

調停委員は、当事者に説明・説得をすることはあります。
しかし、強制的・一方的に見解を押し付けることはできません。
当然、最終的に当事者が合意に達しないこともよくあります。いわゆる協議が決裂したという状況です。
当事者の両方が合意しない限り調停は不成立となり終了します。不調と呼ぶこともあります。
解決しないまま終わることがあるのです。これは訴訟との大きな違いです。
調停が終了すると、ルール上、訴訟提起が可能となります。

7 賃料増減額の訴訟の審理と和解・判決

最終的な裁判所の手続は訴訟です。
訴訟の審理では、各当事者は、資料を証拠として提出し、正式な主張を行います。
ただ、これだけでは適正な賃料の判断は通常できません。
裁判所では、中立の不動産鑑定士を選任して鑑定(評価)をしてもらい、これを参考に判断することになります。
実際には、審理の途中の段階で裁判所が当事者に和解勧告をすることが多いです。
その結果、和解が成立することも多いです。
詳しくはこちら|ご相談者へ;訴訟;判決/和解レシオ
和解が成立しない場合は、最終的には判決として裁判所の判断が示されます。
裁判所は、提出された証拠と当事者の主張と鑑定結果を元に判断します。
鑑定結果は専門的な判断ですが、粗いところもあります。
裁判所は鑑定結果に拘束されません。むしろ批判的な態度で正確性・合理性を判断することになります。
詳しくはこちら|改定賃料の鑑定結果と裁判所の判断の関係
いずれにしても『協議がまとまらないから何も結論が出ない』ということはありません。

8 賃料増減額の紛争中の賃料の支払(概要)

賃料の増額や減額請求の現実のケースでは、上記のように、解決のためのいろいろな手続が必要となります。
そうすると、最終的な賃料の金額が確定するまでにある程度の期間を要することになります。つまり、賃料が未確定の状態がある程度続くということです。
この紛争中の賃料未確定の期間中、借主は暫定的に一定の金額を支払うことが必要です。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|賃料増減額の紛争中の暫定的な賃料支払(基本・誤解による解除事例)

9 賃料改定特約による紛争予防(概要)

以上の説明のように、賃料の増減額(改定)は構造的にトラブルになるリスクがあります。当然、金銭的・時間的・精神的なコストを要することになります。
これを極力回避するために賃料改定特約を活用する方法があります。
賃料改定特約により、完全に増減額請求を回避できるわけではありません。
しかし現実のトラブルのリスクを大きく低減できます。
詳しくはこちら|賃料に関する特約(自動改定特約)の基本(種類とメリット)

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