【賃料増減額請求に関する訴訟の共同訴訟形態(賃貸人または賃借人が複数ケース)】

1 賃料増減額請求に関する訴訟の共同訴訟形態(賃貸人または賃借人が複数ケース)

賃貸借契約の賃貸人や賃借人が複数人存在するケースがあります。具体的には、賃貸借の対象の土地や建物が共有であるケースでは賃貸人が複数となり、一方、賃借人が複数、言い換えると賃借権の準共有というケースもあります。
このようなケースで賃料増減額請求がなされ、その後協議で解決しない場合は最終的に賃料(地代)の額を確認する訴訟で決着がつきます。最終段階の訴訟について、当事者を誰にするか、ということ(共同訴訟形態)について解釈の問題があります。本記事ではこのことを説明します。

2 賃料増減額請求の流れ(前提)

(1)増減額の意思表示

賃料増減額請求は、意思表示(通知)により効果が生じます。
この意思表示については、複数の相手方の全員に対して行う必要があります。
詳しくはこちら|共同賃借人(賃借権の準共有)の賃料増減額に関する管理・変更の分類と当事者

(2)賃料確認の調停

賃料の増減額請求の意思表示をした後、当事者間の協議で解決しない(合意に達しない)場合には、訴訟を提起する前に調停を先に行う必要があります。
詳しくはこちら|賃料改定事件の裁判手続(調停前置の適用範囲と例外)

(3)賃料確認訴訟

調停が不成立となった場合、最終的に賃料を確認する訴訟を提起して、裁判所が賃料を決めることになります。

3 賃料確認訴訟の当事者(まとめ)

賃料増減額によって賃料が変わったのか、具体的金額はいくらになるのか、ということは、最終的には訴訟の中で裁判所が判断します(前述)。
この最終段階の訴訟については、新たな賃料に賛成している者は訴訟の当事者から除外してよい(類似必要的共同訴訟または通常共同訴訟)のか、全員が当事者となる必要がある(固有必要的共同訴訟)のか、ということが問題となります。
この点、古い判例(大正5年大判)は全員でなくてもよいと判断しています。別の見解をとった下級審裁判例はありますが、事案の特殊事情が影響しているとも考えられます。
そこで、実務としては全員でなくてもよいという見解が採用される傾向があります。その上で、複数の賃貸人、または、複数の賃借人が当事者になった場合には、賃料の金額について、判断が異なってしまうと不合理です。そこで、この場合には共同訴訟が強制される見解、つまり類似必要的共同訴訟とする見解が合理的であると思います。
以下、個々の判例、裁判例や学説を紹介、説明します。

4 大正5年大判・準共有地上権→一部の地上権者除外可能

この解釈を示した判例としては大正5年大判があります。地上権者が複数人いたケースで、地代増額に異議がない地上権者は被告としなくてよい、という判断です。つまり固有必要的共同訴訟ではない(=類似必要的共同訴訟または通常共同訴訟)という判断です。

大正5年大判・準共有地上権→一部の地上権者除外可能

(判決の要旨)
共同地上権者に対し地代増額の請求をなすに当っては異議のない者は共同被告と為すことを要しない
※大判大正5年4月20日

5 新版注釈民法・一方が複数→(固有)必要的共同訴訟

新版注釈民法には、増減額請求権の行使を前提とする訴訟について「類似必要的共同訴訟」である、と書いてあります。ただ、全員を当事者とする、と書いてあるので固有必要的共同訴訟であるという見解と読み取れます。

新版注釈民法・一方が複数→(固有)必要的共同訴訟

あ 実体法の解釈(判例の紹介・前提)

借地人が2人以上あって借地権の共有関係を形成しているばあいには、その全員に対して増額の意思を表示しなければ全員に対して増額地代の請求をすることはできない
(430。最判昭54・1・19裁判集民116・155)。
しかし、全員に増額の意思表示をしたあとは、そのうちの1人に対し、全額の請求をすることはさしつかえない(432。家賃につき大判大11・11・24民集1・670)。

い 共同訴訟形態→(固有)必要的共同訴訟

したがって、増減額請求権の行使を前提とする訴訟は、共有者全員に対し、または全員から提起さるべき、類似必要的共同訴訟と解される(反対:広瀬144)。
(注・「固有」必要的共同訴訟のことを意味していると思われる)
※篠塚昭次稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2010年p652

6 広瀬武文・借地借家法・準共有借地権→判例と通説の紹介のみ

広瀬武文氏は大正5年大判(前述)を紹介した上で、通説も同じ見解である、という説明をしています。積極的に自説としては見解を示してはいません。

広瀬武文・借地借家法・準共有借地権→判例と通説の紹介のみ

あ 問題提起

借地權が共有であるとき、裁判上増減額請求をなすには常に共有借地權者全員が訴訟當事者とならねばならないものか。

い 大正5年大判の紹介

本法施行前に、共有地上權者を相手方とする増額請求訴訟について、増額請求について異議がない者を除いて、他の地上權者のみを相手方として提訴できると判示したものがある(大判大正五・四・二〇民録七八五頁)。

う 通説の紹介

このような訴訟は、類似(不真正)必要的共同訴訟となるかどうかについては争があり(金子・民事訴訟法概論四二八頁)、通説は必ずしも共同訴訟によらなくともよいとする。
そうして、共有借地権者全員が共同訴訟人となった場合、その一人の訴訟行爲の效力については補助参加に関する規定(民訴法六四・六九條)が適用される(兼子・前掲書四二九頁)。
※広瀬武文『借地借家法 法律学体系コンメンタール篇19』日本評論社1950年p144

7 令和3年東京地判・準共有借地権・地代増額請求→固有必要的共同訴訟

(1)令和3年東京地判の内容

令和3年東京地判に、準共有の借地権(賃借権)について、固有必要的共同訴訟であると判断したものがあります。

令和3年東京地判の内容

あ 理由1=準共有者の利害に直接影響する(前提=準共有説)

原告は、本件転貸借契約に係る地代の確認につき、本件マンションの区分所有者ら全員が準共有する本件転貸土地についての転借権が一個であるとの前提に立っているところ、これは、実体法上不可分な一個の法律関係についての確認を求めるものとして、準共有者全員の利害に直接に影響し得るものである。

い 理由2=既判力や地代の矛盾回避

そして、仮に、総体としての地代額の確認を一部の区分所有者のみが当事者となる本件訴訟において許容した場合には、本件訴訟の当事者となっていない区分所有者らと被告らとの間の別訴において、本件転貸借契約について同一時点における別個の地代額の確認がされる可能性が排斥できず、既判力ある判断の矛盾が生じる余地があるといえ、確認の訴えの意義である抜本的な紛争解決がむしろ妨げられることとなり、妥当ではない。加えて、矛盾した地代額を前提として、後日、新たに地代増減額請求がされることにより、さらに地代額が食い違う可能性もある。

う 保存行為という主張→否定

この点、原告らは、主位的請求(1)に係る確認の訴えは、保存行為(区分所有法21条、18条1項ただし書)として各区分所有者(共同転借人)各人が提起できるものであるから固有必要的共同訴訟には当たらない旨主張するところ、上記の説示に照らし、当該訴えは保存行為の範囲を超えるものであることは明らかであって、この原告らの主張は採用することができない。

え 結論→固有必要的共同訴訟

したがって、主位的請求(1)に係る確認の訴えは、本件転貸借契約の当事者である被告ら(共同転貸人)と区分所有者ら(共同転借人)の全員が当事者となるべき固有必要的共同訴訟であるところ、区分所有者ら全員が本件訴訟の当事者となっていない以上(前記第2の1(1)ア、イ)、当該訴えは固有必要的共同訴訟の訴訟要件を欠く不適法なものであり、却下を免れない。
※東京地判令和3年9月7日

(2)令和3年東京地判の特殊性

前記の令和3年東京地判の事案は、区分所有建物の敷地の賃貸借について判断したものです。そこで、判断結果(固有必要的共同訴訟)は、この特殊性が反映されたもの、つまり、区分所有建物以外の建物(戸建てなど)の敷地の賃貸借にはあてはまらないかもしれません。
この点、区分所有建物の敷地の賃借権の性質については3つの見解があります。
詳しくはこちら|区分所有建物の敷地の賃借権・賃料債務の性質・解除の範囲の解釈論
令和3年東京地判は3つの見解のうち準共有説をとっています。この点を捉えると、一般的な建物の敷地の賃貸借と同じです。
詳しくはこちら|賃借権(借地権)の準共有の全体像(明渡請求・分割請求)
結局、令和3年東京地判の判断が「区分所有建物の敷地だけ」にあてはまるのか、そうではなく(準共有の賃借権に)一般的にあてはまるのか、ということは判決だけからは読み取れないと思います。

本記事では、賃料増減額請求に関する訴訟の共同訴訟形態について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃貸人または賃借人が複数である賃貸借において、賃料増減額に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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