【弁済供託|債権者不確知|賃貸借関係|建物所有権が不明確・サブリース】

1 賃貸借×債権者不確知の判断|建物の停止条件付譲渡
2 賃貸借×債権者不確知の判断|管理を受託した者
3 賃貸借×債権者不確知の判断|所有権の主張者登場
4 賃貸借×債権者不確知の判断|マスターリースの解除
5 賃貸借×債権者不確知の判断|二重譲渡→解消

1 賃貸借×債権者不確知の判断|建物の停止条件付譲渡

債権者不確知を理由とする弁済供託という制度があります。
『賃貸借』に関してこの供託を利用するケースが実務上多いです。
典型例について,判例を元に紹介します。
まずは,建物について所有権移転の登記があったケースを挙げます。

<賃貸借×債権者不確知の判断|建物の停止条件付譲渡>

あ 賃料請求のコンフリクト

次の2者が賃料受領者の候補となる状態であった
ア 賃料債権の質権者 賃貸人から賃借人への通知がなされた
イ 建物の譲受人 賃貸借の目的物が,代物弁済により譲渡された
停止条件付所有権移転の仮登記がなされた状態であった

い 裁判所の判断

所有権移転・賃貸人たる地位の移転の対抗要件はない状態である
→『質権者に受領権限がある』と判断できる
→不確知には該当しない
=弁済供託は無効である
※東京地裁昭和40年6月23日

2 賃貸借×債権者不確知の判断|管理を受託した者

賃貸物件では管理を委託する,ということが多く行われています。
ここで『賃料受領権限』の所在が問題となったケースがあります。

<賃貸借×債権者不確知の判断|管理を受託した者>

あ 賃料請求のコンフリクト

次の2者が賃料受領者の候補となる状態であった
ア 賃貸人から管理を委託された者イ 競売によって建物が落札された 買受人が居る状態のことである

い 裁判所の判断

賃料受領権限を持つ者の判断は容易ではない
→不確知に該当する
=弁済供託は有効である
※東京地裁平成15年2月19日

3 賃貸借×債権者不確知の判断|所有権の主張者登場

賃貸借の目的物の所有者が不明確になることもあります。
その結果として債権者不確知として認められたケースを紹介します。

<賃貸借×債権者不確知の判断|所有権の主張者登場>

あ 賃料請求のコンフリクト

次の2者が賃料受領者の候補となる状態であった
ア 従前の賃貸人イ 『所有権者』であると主張する者 従前の賃貸人に対して『所有権に基づく明渡請求』を提起した

い 裁判所の判断

賃借人にはどちらが『賃貸人』なのか判断できない
→不確知に該当する
=弁済供託は有効である
※東京地裁昭和32年12月19日

4 賃貸借×債権者不確知の判断|マスターリースの解除

賃貸物件では転貸借=サブリースという方式が用いられることも多いです。
賃貸借が2つ連なる状態になります。
この構造に起因して『債権者不確知』となるケースもあります。

<賃貸借×債権者不確知の判断|マスターリースの解除>

あ 賃料請求のコンフリクト

転貸借がなされていた
原賃貸人が次の主張・請求をしてきた
ア 原賃貸借契約(マスターリース)の解除イ 直接の賃料支払請求

い 裁判所の判断

原賃貸借契約の存否について争いがある状態である
→債権者不確知に該当する
=弁済供託は有効である
※東京地裁平成14年12月27日

5 賃貸借×債権者不確知の判断|二重譲渡→解消

賃貸物件の所有者が不明になり『債権者不確知』となるケースがあります(前述)。
要するに複数の者が所有者と名乗って紛争となっている状態のことです。
この場合,紛争が解決すると『不確知』は終了します。
これに関する判例を紹介します。

<賃貸借×債権者不確知の判断|二重譲渡→解消>

あ 事案=二重譲渡

賃貸借の目的物について二重譲渡が生じた
2者において所有権が争われている

い 前提|供託

債権者不確知による供託は有効である

う その後の状況変化

賃貸人が確定した
→その後は『債権者不確知』による供託は無効である
もちろん『提供+拒絶』があれば『受領拒否による供託』は可能である
※東京地裁昭和37年3月5日

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