【複数の賃借人(共同賃借人)の金銭債権・債務の可分性(賃料債務・損害金債務)】

1 複数の賃借人(共同賃借人)の金銭債権・債務の可分性

賃貸借契約の賃借人(借主)が複数人存在するケースがあります。複数の賃借人のことを共同賃借人と呼びます。
典型例としては、借地上の建物を複数の者で所有(共有)している状況です。
この場合、共同賃借人が負う金銭債務が可分なのか不可分なのか、という解釈論があります。本記事ではこれについて説明します。
なお、賃貸人が複数であるケースにおける金銭債権・債務の問題については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|複数の賃貸人(共同賃貸人)の金銭債権・債務の可分性(賃料債権・保証金・敷金返還債務)
また、賃貸人または賃借人が複数人であるケースにおける金銭債権・債務以外の問題については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|貸主or借主が複数の賃貸借の金銭請求以外の問題

2 共同賃借人が負う賃料債務の不可分性

賃借人が複数人いる状態で、毎月発生する賃料債務はどのように(共同)賃貸人に帰属するか、という問題です。単純に考えると金銭は分けられるので、可分であるという発想になりそうですが、貸す債務が不可分であることから、その対価である賃料債務も不可分として扱われます。つまり、各賃借人が全額を支払う義務を負うということです。

共同賃借人が負う賃料債務の不可分性

あ 前提事情

『ア・イ』のいずれかに該当する
ア 契約締結時に賃借人が複数であったイ 賃借人に相続が生じて複数の相続人が賃借人になった

い 賃料債務の不可分性(※3)

賃貸借の目的物は貸す債務は性質上不可分の給付である
賃料債務は不可分給付の対価である
→賃料債務も不可分とする
特約があれば別である
※民法428条、429条、430条
※大判大正11年11月24日
※大判昭和14年5月12日
※大判昭和8年7月29日

う 注意

(元)賃借人の相続開始より前に既に発生していた賃料の相続については別の扱いである(後記※1

3 区分所有建物の敷地の共同賃借人が負う賃料債務の不可分性

前述の解釈は、あくまでも一般的な賃貸借が前提とするものです。一方、区分所有建物の敷地についての賃貸借では、特殊性を反映させる必要性もあります。
賃料債務について、一般論どおりに不可分債務とする見解と、特殊性から可分債務とする見解があります。

区分所有建物の敷地の共同賃借人が負う賃料債務の不可分性

あ 前提事情

区分所有建物の敷地利用権が土地の賃借権である
区分所有者全員が共同賃借人となっている

い 分割債務説(概要)

賃料債務を可分としないと不都合が生じる
→可分債務とする(後記※2

う 不可分債務説

賃料債務は合有債務である
→不可分債務である(後記※4

4 区分所有者・共同賃借人が負う賃料債務を可分とする見解

区分所有建物の敷地の賃貸借における賃料債務を可分債務とする見解の内容を紹介します。結果の妥当性を重視しています。また、解除についても、一般論(原則)である不可分性を修正して可分と解釈しています。

区分所有者・共同賃借人が負う賃料債務を可分とする見解(※2)

あ 可分性

借地権の準共有における地代・賃料債務の性質であるが・・・
これは、要するに、区分所有者の1人に対し区分所有者全員の支払うべき金額全部の支払いを求めることの当否ということであろう。
区分所有者が2人か3人くらいならともかく、50人、60人といる場合に、請求された人の区分所有者が全員の支払額を支払わなければならないというのでは余りにも苛酷であるのみならず、共同賃貸借契約の全部解除にまで発展するというのは、はなはだ不都合なことであって適当でないから、可分債務と解すべきなのではなかろうか。
それに、賃借権の準共有だからといって必ず地代支払が不可分債務でなければならないという論理的必然性はないのではないか、ということも付言することができよう。
ここでは、不可分債務説でなく、可分債務説に従っておきたい。

い 解除の可分性

したがって、土地所有者は、地代を滞納している区分所有者に対してのみ催告のうえ同人の土地賃借権の準共有持分を解除すればよいことになり、この方が、他の区分所有者に対して格別の影響もなく、区分所有の実情に即するであろう。
※玉田弘毅著『建物区分所有法の現代的課題』商事法務研究会1981年p126

う 区分所有権の売渡請求との関係(参考)

特定の区分所有者だけに対する賃貸借の解除の後には、区分所有権の売渡請求を行うことで不合理(専有部分の収去請求)を避けることができる
詳しくはこちら|区分所有権の売渡請求(区分所有法10条)の基本(趣旨・典型例・行使・効果)

5 区分所有者・共同賃借人が負う賃料債務を不可分とする見解

区分所有建物の敷地の賃貸借における賃料債務を不可分債務とする見解の内容を紹介します。一般的な賃貸借における賃料債務の不可分性(前記※3)と同じ考え方といえるでしょう。

区分所有者・共同賃借人が負う賃料債務を不可分とする見解(※4)

あ 合有債務とする見解

地代債務は(たとえ実際には賃借人X・Yが別々に賃貸人Aに支払っている場合でも)一種の合有債務である

い 賃料不払いに対する解除の方法

地代延滞がある限度以上に達すれば、Aは、XとYとに対して借地契約解除の意思表示をして、借地権を全面的に消滅させることができると解すべきである
ただし、原則としてその前提として、X・Y両者に対する催告が必要である、というべきであろう

う 解除後の収去または売渡請求

かくして借地権が消滅すれば、Aは、XおよびYに対して各建物部分の収去請求ないし売渡請求権を選択的に行使しうることになる
※鈴木禄弥著『物権法の研究 民法論文集1』創文社1976年p477

え 他の区分所有者分の賃料支払の対応

ア 解除の回避 Yが、この結果を避けるため、Xの分の地代をもAに支払った場合には、Yは、Xに対し求償権を有することになる
この求償権は、区分所有法6条の先取特権によって担保されるばかりでなく、Yが求償に応じないときは、民法253条2項(264条による準用)の規定にしたがって、Xの準共有持分を取得することができる
(現在では分離処分禁止に抵触すると思われる)
イ 区分所有権の売渡請求との関係 後の途がとられた場合には、Yは、さらにXの区分所有権の売渡を請求することができる(区分所有法10条)
詳しくはこちら|区分所有権の売渡請求(区分所有法10条)の基本(趣旨・典型例・行使・効果)
※鈴木禄弥著『物権法の研究 民法論文集1』創文社1976年p477

6 相続開始時に既発生の賃料債務の可分性(参考)

共同賃借人が存在する状況で毎月発生する賃料債務は不可分でした(前記)。
この点、既に発生している(過去の)賃料債務が相続によって複数の相続人(共同相続人)に承継されたという状況では扱いが異なります。単純な金銭債務として考えます。つまり、可分債務として扱われるのです。結論として、各相続人は各自の相続分に応じた金額だけを支払う義務を負うということです。
これは、単なる金銭債務の相続であり、賃借人の地位を誰が承継するかとは別の問題であるといえますが、参考として説明しておきます。

相続開始時に既発生の賃料債務の可分性(参考)(※1)

あ 前提事情

Aが賃借人であった
賃料債務に滞納があった
Aが死亡した
相続人はB・Cである

い 賃料債務の可分性

既に発生していた賃料債務について
→一般的な金銭債務として扱う
→可分債務となる
→分割して相続する
※大決昭和5年12月4日
※最高裁昭和34年6月19日
詳しくはこちら|債務の相続|当然分割承継|遺産分割・遺言の効力×債権者の『承認』

7 共同賃借人が負う損害金債務の不可分性

賃借人が負う債務として、損害金債務が生じることもあります。結果的に(毎月発生する)賃料債務と同じ扱いとなります。

共同賃借人が負う損害金債務の不可分性

あ 前提事情

賃貸借契約が締結されている
賃借人が複数人いる

い 損害金債務の不可分性

賃借物返還義務不履行による損害賠償の債務について
→共同賃借人は各自が全額の支払義務を負う
※大判昭和8年7月29日

本記事では、共同賃借人が負う金銭債務の可分性について説明しました。
実際には、個別的な事情によって扱いが違ってくることもあります。
実際に共同賃借人(賃借人が複数存在する)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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