1 共有物分割禁止特約の基本
2 民法256条の条文
3 分割禁止特約の内容(基本)
4 分割禁止特約の期間制限
5 分割禁止特約の対抗要件(基本)
6 共有持分移転の原因と登記の要否の関係
7 実質的な分割禁止特約の扱い
8 分割禁止特約の通常の活用例
9 共有物分割に伴う分割禁止特約の活用例
10 分割合意に含まれる分割禁止特約とその期間
11 破産・民事再生・会社更生手続における分割禁止特約の適用除外(概要)
12 信託の活用や民法組合による(実質)共有の維持(概要)
13 遺産分割禁止との比較(参考)

1 共有物分割禁止特約の基本

共有物を分割する(単独所有にする)ことは保護されています。しかし、状況によっては共有の状態を維持したいというニーズもあります。
詳しくはこちら|共有状態を維持するニーズ・ハードル
そこで、共有者全員で、一定期間は分割をしないという合意をすることが認められています。
本記事ではこのような分割禁止特約の基本的事項を説明します。

2 民法256条の条文

分割禁止特約は、共有物分割請求を定める民法256条1項のただし書として規定されています。分割請求の保障が原則で、その制限(分割禁止)は例外である、という関係・位置づけがよくわかります。また、2項では分割禁止特約を更新することができることが規定されています。

民法256条の条文

(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
※民法256条

3 分割禁止特約の内容(基本)

共有状態を維持するために共有物分割を禁止する合意が認められています。共有者全員が賛成する必要があります。つまり、共有者のうち1人でも反対したら、分割禁止の合意(特約)は成立しません。
また、分割することを保障(保護)するため、分割禁止は最小限にとどめておくべきであり、最長期間は5年となっています。
期間が満了した時に、更新することもできます。更新の場合も、初回の分割禁止特約と同じように、共有者全員が賛成することが必要です。

分割禁止特約の内容(基本)

あ 共有物分割請求の保障(前提)

共有者は共有物の分割請求をする(共有を解消する)ことは強く保護されている
詳しくはこちら|共有の本質論(トラブル発生傾向・暫定性・分割請求権の保障)

い 分割禁止特約の基本的な内容

共有者全員が5年以内の期間内は分割しないことを合意することができる
※民法256条1項ただし書

い ネーミングの例

『分割禁止特約』以外のネーミングもある
不分割特約
分割禁止合意
分割禁止契約

4 分割禁止特約の期間制限

分割禁止特約は、前記のように、強く保障される分割請求権を制限するものです。そこで、5年の期間制限があります。最初の特約(合意)も、更新も5年間が上限です。

分割禁止特約の期間制限

あ 最長期間

分割禁止の最長期間は5年間である
※民法256条1項ただし書

い 更新

分割禁止特約は更新できる
更新後の分割禁止の最長期間も5年間である
※民法256条2項

う 登記手続における最長期間(参考)

5年を超える期間共有物の分割をしない旨の契約は、無効であるから、その旨の登記の申請は受理すべきでない
※昭30・6・10民甲1161民事局長通達

5 分割禁止特約の対抗要件(基本)

分割禁止特約は分割請求権への制限、つまり共有持分権が負担する大きな制約です。そこで、公示して、持分を取得する者がすぐに知れるようなシステムとなっています。つまり、登記がないと持分の譲受人は承継しないことになるのです。

分割禁止特約の対抗要件(基本)

あ 対抗要件

分割禁止特約について
→登記が対抗要件となる
※不動産登記法59条6号

い 対抗関係(登記の必要性)

分割禁止特約の当事者(合意した共有者)以外の者(共有持分の譲受人)に主張するには登記(対抗要件)が必要である
分割禁止特約の当事者に対しては登記がなくても主張できる

う 一般的な共有者間の合意の承継(比較)

共有と相分離できない共有者間の権利関係、共有者間の共有物に関する使用収益、管理又は費用の分担についての定めについて
→(対抗要件とは関係なく)当然に持分の譲受人に承継される
詳しくはこちら|共有持分譲渡における共有者間の権利関係の承継(民法254条)の基本

6 共有持分移転の原因と登記の要否の関係

分割禁止特約の登記は対抗要件となります(前記)。登記がないと分割禁止特約を主張できないという状況とは、具体的には共有持分の譲渡(売買や贈与)があった場合です。

共有持分移転の原因と登記の要否の関係

あ 分割禁止特約vs持分の取得者

共有者全員で分割禁止特約を合意した
共有持分をAが取得した
Aが共有物分割請求をした
他の共有者は分割禁止特約を主張した

い 対抗要件

Aの持分取得原因と登記の有無で優劣が決まる
=分割禁止特約が適用されるか否か

う 分割禁止特約適用の有無
Aの持分取得原因 特約登記あり 特約登記なし
相続 特約適用あり 特約適用あり
売買・贈与など 特約適用あり 特約適用なし

7 実質的な分割禁止特約の扱い

以上の説明は、分割禁止(不分割)特約そのものを前提としていました。ところで、実際には、分割禁止や不分割という用語を使わないけれど、実質的に分割をしない内容の合意をするケースもあります。このように、実質的な分割禁止の合意も、(分割禁止特約そのものと)同じ扱いとなります。

実質的な分割禁止特約の扱い

分割禁止の契約同様の効果を生ずる共有物についての債権的合意は、不動産登記法所定の登記をして初めて、共有者の特定承継人に対抗でき、しかも、登記をしても、その不分割の契約の期間は5年を超えることができない
※東京地裁平成3年10月25日

8 分割禁止特約の通常の活用例

ここで、分割禁止特約を使う状況としては、文字どおり共有物分割請求を防ぐというものです。現時点で分割請求がなされる心配はないけれど、共有者が亡くなった後に相続人が分割請求をしてくるということは実際にあります。

分割禁止特約の通常の活用例

あ 想定外の分割請求の具体例(前提)

共有者間の関係は良好であり、共有者の1人が分割請求をするような状況ではなかった
共有者の1人(A)が死亡した
Aの相続人の1人が共有物分割請求を行った
共有解消が強制される

い 予防方法

当初から(相続前に)分割禁止特約を合意しておく
共有者の相続人もこれに拘束される
分割請求を阻止できる
なお、このケースでは登記していなくても拘束されるが、登記は強い証拠(記録)として機能する

9 共有物分割に伴う分割禁止特約の活用例

さらに、共有物の分割をすることに伴って分割禁止特約を活用することもあります。一見すると矛盾しているようですが、現在進んでいる協議や合意の履行を確保するという機能として活用できるのです。

共有物分割に伴う分割禁止特約の活用例

あ 任意売却の合意に伴う分割禁止特約

任意の共同売却の合意をしたが、実際の売却までに時間がかかると予想される
分割禁止特約により売却までに分割請求がなされることを防止する
ただし、明確な合意がなくても、分割合意分割禁止特約も含むという解釈もあり得る(後記※1

い 全面的価格賠償に伴う分割禁止特約

共有者の1人が対価(賠償金)を支払い、共有物全体を取得する合意をしたが、賠償金の調達に時間を要する
分割禁止特約により、賠償金の支払完了までに分割請求がなされることを防止する
ただし、明確な合意がなくても、分割合意分割禁止特約も含むという解釈もあり得る(後記※1

う 分割協議中の分割禁止特約

共有物分割の協議中であるが、共有者の債権者による差押が想定される
分割禁止特約により差押を回避できるわけではないが、抑制することにはなる
※羽瀬智史稿『共有物不分割特約登記を利用した予防』/『月報司法書士2016年10月』日本司法書士会連合会p23~26参照

10 分割合意に含まれる分割禁止特約とその期間

前述のように、共有物分割の合意をした後、その履行を待っている状況で、新規に共有物分割の請求をされると困ります。
これに関して、そもそも共有物分割の合意をした場合は、一定期間は新たな分割請求はしないという合意も含まれるという解釈も十分あり得ます。これを前提として、その分割請求をしない期間を3年程度として(と読める)裁判例があり、これに対して5年が合理的であるという批判があります。

分割合意に含まれる分割禁止特約とその期間(※1)

あ 分割禁止特約の認定

共有物分割の合意が成立した場合、履行期限までの期間について分割禁止特約の合意が成立しているものと考えられる
典型例=任意売却(共同売却)をする分割合意

い 分割合意後の分割請求を認めた裁判例

履行期限が明確に定められていないケースについて、合意から約3年半後の分割請求を認めた
※東京高判平成6年2月2日
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の協議前置の要件(協議がととのわない)

う 履行期限についての学説

東京高判平成6年2月2日は合意成立後3年近く経っても任意に売却する見込みがない状態にある場合には、特段の事情のない限り、分割の協議調わざるものとして、共有物分割請求をできるとする旨判示する。
おそらく任意売却の合意の履行期限には通常合理的期限の定めがある筈だというものであり、それは3年程度といういわば一般経験則の存在を前提とするものであろうが、逆に、任意売却の履行の期限内では共有物分割請求は禁止される旨の合意は成立しているものと考えられ・・・
問題は合意の効力の存続期間に明示の期限の定めがないときにどのように解すべきかの問題である。
不動産の任意売却には一般に相当な期間が必要であり、特に本件のような目的建物に居住者がいる場合には退去の交渉や退去期間の設定、さらには退去料の合意・準備に相当な期間が必要なことは明らかであり、順調にいっても相当な期間が必要である。・・・
そうだとすると、持に明示等の期限の合意の成立が認めないとすれば、法的に明確に容認されている5年の期限が定められていると解するのがむしろより合理的なものというべきようにも考えられるが、どうだろうか。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p59

11 破産・民事再生・会社更生手続における分割禁止特約の適用除外(概要)

ところで、分割禁止の合意をして、登記もしておいたとしても、共有者の1人が破産などの倒産手続を行った場合、共有物分割請求をすることができることになってしまいます。特殊な例外的扱いです。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有者の破産・民事再生・会社更生における不分割特約の適用除外・持分買取権

12 信託の活用や民法組合による(実質)共有の維持(概要)

以上のように、共有の状態を維持するために不分割特約は有用ですが、確実に拘束できるのは5年間という上限があり、また、共有者の破産など、不分割特約が例外的に適用されなくなることもあります。つまり共有の状態を確実に維持するということはできないのです。
この点、信託を活用して、実質的な共有の状態を作れば、この状態を長期間維持することができます。
詳しくはこちら|実質的共有状態の維持|信託受益権化・資産管理会社の活用
また、共有物(共有不動産)を、民法上の組合の財産(組合財産)にすれば、無期限で分割請求はできなくなります。ただし、当該財産(共有物)を共同事業に用いることが前提となります。
詳しくはこちら|法律上の規定による共有物分割の制限(境界上の工作物・組合財産・区分所有建物関係)

13 遺産分割禁止との比較(参考)

ところで、遺産分割の禁止もあり、共有物分割禁止と似ています。ただ、大きな違いもあります。
遺産分割禁止は、遺言で定めることができます。また、裁判所が審判の中で遺産分割禁止を定めることもできます。
共有物分割の禁止は、遺言や裁判所の判決で定めることはできません(ただし、遺産分割の審判の中で、共有とする分割を定めるとともに共有物分割禁止を定める手法は可能です)。
これらについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺産分割の禁止(4つの方法と遺産分割禁止審判の要件)

本記事では、分割禁止特約の基本的事項を説明しました。
実際には、個別的な事情によって最適な対策・対応は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。