【共有状態を維持するニーズ・ハードル】
1 共有状態を維持するニーズ・ハードル
共有不動産は一般的には解消することが好ましいです。そこで共有物分割によって単独所有に移行することがよくあります。
詳しくはこちら|共有の本質論(トラブル発生傾向・暫定性・分割請求権の保障)
しかし、状況によっては逆に共有を維持するニーズもあります。共有を維持しようとした場合、いろいろなハードル(問題点)があります。
本記事ではこのようなことを説明します。
2 共有の状態を維持するニーズの典型例
共有の状態を維持するニーズが生じる典型な事情をまとめます。
共有の状態を維持するニーズの典型例
あ 収益物件
共有のビルを賃貸しているケース
→賃料収入を共有者で分配している
→この状態を安定的に維持したい
い 共有者の居住
共有のビルの一部(1室)に共有者が居住している
→ビルが第三者の手に渡ると退去を請求される
→売却という可能性を排除したい
3 共有状態を維持することのハードル
共有状態を維持しようとしても、いろいろな状況変化が起きます。たとえば、共有者のうち1人が共有物分割を請求してくることや、共有持分の譲渡(売却)や相続で共有者が変わってしまうということです。
共有者の債権者が、債権者代位によって共有物分割を請求するケースや、共有持分を差し押さえる(共有持分を売却される)というケースもよくあります。
共有状態を維持することのハードル
あ 基本
共有状態を維持することについて
→次の『あ・い』のようなトラブル発生リスクがある
=共有状態を維持するハードルである
い 共有物分割リスク
ア 分割請求のリスク
共有者は共有物分割請求ができる
共有者の債権者が債権者代位により分割請求をすることもある
(参考)債権者代位による共有物分割では共有者の希望の扱いに問題がある
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における当事者の希望の位置づけ(希望なしの分割方法の選択の可否)
イ 分割禁止特約の限界
禁止する分割禁止特約を合意することができる
しかし、期間制限・対抗要件などのハードルがある
→共有状態の維持が困難である
詳しくはこちら|共有物分割禁止特約の基本(最長5年・登記の必要性)
う 共有者の変更リスク
共有者が共有持分を譲渡することを禁止できない
共有者の相続を防止できない
共有者の債権者が共有持分を差し押さえることがある
→共有者が繰り返し変わることになる
→人的関係性・信頼関係を元にした運営ができなくなる
4 共有維持のための信託の活用(概要)
前述のように、共有の状態を維持することは、共有物分割請求をされない状態を維持することと言い換えられます。そして、共有物分割請求を未然に、確実に防ぐということはできません(共有物分割請求権を制限しないよう設計してあるからです)。
この点、信託を活用した工夫もあります。ちょっと手間がかかりますが、実質的には共有と同じような状況を作って、これを維持する方法があるのです。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|実質的共有状態の維持|信託受益権化・資産管理会社の活用
5 対抗力のある長期の利用権設定の活用
共有物分割そのものを長期間未然に防ぐことはできませんが、共有物分割をしても意味がない状況にしておく方法はあります。長期間の、対抗力のある利用権を設定するというのがその1つです。
共有物分割によって単独所有となった者は、賃貸人(や地上権設定者)の地位に立つことになり、自身で使用することはできません。賃料(や地代)を得ることは原則としてできますが、仮に事前に将来の賃料債権の譲渡が行われていた場合にはこれもできません。
このように、状況によっては、共有物分割はできるけれどやっても意味がないということになります。
対抗力のある長期の利用権設定の活用
あ 長期の利用権設定の例
共有物について、共有者の全員の合意により、長期間の賃貸借契約(や地上権設定などの利用権設定)を行う
賃借権(利用権)について対抗要件を備える
賃貸借は転貸可能という特約をつけておく
賃借人は共有者が実質的に支配する法人Aとする
Aが第三者に当該不動産を賃貸(転貸)して収益を得る
い 共有物分割への耐性
ア 利用権の存続
仮に共有物分割が請求され、共有関係が解消されたとしても、新たな所有者は賃貸人の地位を承継する
※民法605条
イ 賃料の防衛
新たな所有者は賃貸人として、その後の賃料収入を得られる(原則)
ただし、事前に将来の賃料債権が第三者に譲渡されていた場合、新たな所有者は賃料収入を得られないことになる(後述)
6 将来の賃料債権譲渡と破産の関係(参考)
前述の説明の中で登場した、将来の賃料債権の譲渡(共有とは関係ない問題)について補足しておきます。実は以前から、将来債権の譲渡については、いろいろな議論があったのですが、複数の判例がこれを認め、その後、民法の条文化されるに至っています。
詳しくはこちら|将来債権譲渡(集合債権譲渡)の要件・活用の例
破産手続の中で、将来の賃料債権が譲渡された収益物件は、売却しても購入者は当面賃料を受け取れないことになるため、そもそも売却できない(財産から放棄する)こともあるのです。
詳しくはこちら|将来の債権譲渡と破産の関係(賃料債権譲渡による不動産の換価不能)
本記事では、共有の状態を維持するニーズや、維持することのハードルを説明しました。
実際には個別的な事情によって最適な対応・対策は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。