1 審判前の保全処分の基本(家事調停・審判の前に行う仮差押や仮処分)
2 審判前の保全処分の類型
3 審判と同時に行う保全処分の申立
4 調停と同時に行う保全処分の申立
5 家事事件における保全手続の種類とタイミングのまとめ
6 審判前の保全処分が発令される要件
7 保全命令における担保金の相場(概要)
8 審判前の保全処分の効力(概要)
9 審判前の保全処分を利用する典型例

1 審判前の保全処分の基本(家事調停・審判の前に行う仮差押や仮処分)

家事審判の確定まで至れば,差押などの強制的な手段が可能となります。
詳しくはこちら|債務名義の種類は確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)などがある
しかし,それまでの間に財産逃しをされてしまうと,対応は難しくなってしまいます。
そこで,審判前の保全処分として仮差押や仮処分の申立をすることができます。
※家事事件手続法105条,106条
これにより,審判に先行して仮に財産をロックしておくことが可能となります。
子供の引渡のような金銭請求以外の内容については,仮に子供を引き渡してもらうということになります。
本記事では,このような審判前の保全処分の基本的事項を説明します。

2 審判前の保全処分の類型

家事事件において,審判前の保全処分,を利用できる類型を説明します。
家事審判の対象事件のうち,別表第2事件については,適用対象とされています。
詳しくはこちら|家事事件(案件)の種類の分類(別表第1/2事件・一般/特殊調停)
具体的な保全処分の内容と,利用できるシチュエーションを説明します。

<保全処分の内容>

a 財産の管理者の選任
b 財産の管理又は本人の監護に関する指示
c 後見(保佐,補助)命令
d 本人の職務の執行停止又は職務代行者の選任
e 仮差押え,仮処分その他の必要な保全処分
 →仮地位仮処分については,生活費の仮払い,日用品の引渡し,物の利用関係の設定など
 →事情変更により,既に確定した扶養等審判に基づく強制執行を停止する仮処分もなしうる
f 養子となる者の監護者選任
g 児童の保護者に対する児童との面会,通信の制限

<利用できる保全処分の種類>

後見開始 a,b,c
保佐開始 a,b,c
補助開始 a,b,c
財産の管理者の変更,共有財産の分割 a,bの前者
遺産の分割 a,bの前者
特別養子縁組の成立,離縁
親権,管理件喪失宣言
未成年後見人,未成年後見監督人の解任
成年後見人,保佐人,補助人,これらの監督人,任意後見監督人の解任
遺言執行者の解任
親権者の指定,変更
任意後見人の監督 dの一部(職務停止のみ)
夫婦の同居,協力,扶助
財産の管理者の変更,共有財産の分割
婚姻費用の分担
子の監護
財産分与 a,e
親権者の指定,変更
扶養(順位・程度・方法)
遺産の分割

※記号(アルファベット)は,各手続において利用できる上記の保全処分の記号と対応する

3 審判と同時に行う保全処分の申立

家事審判の申立があった場合に,審判前の保全処分の申立ができます。
具体的には本案の家事審判事件が係属することが前提となっているのです。
※家事事件手続法105条1項
通常の申立タイミングは,条文の文字どおり,本体(本案)である家事審判の申立と同時,となります。
一方,家事審判の申立後に,追加的に保全を申し立てる,ということも可能です。
あくまでも,本案が係属していることだけが前提条件なのです。

4 調停と同時に行う保全処分の申立

以前は,条文の文言上,調停の係属だけでは審判前の保全処分は申し立てられませんでした。
しかし,法改正により調停の申立と同時に審判前の保全処分を申し立てることができるようになりました。
※家事事件手続法105条1項
この条文では,家事調停のうち,審判対象事件だけが対象となっています。
家事調停のうち訴訟対象事件審判前の保全処分はできないのです。
しかし,訴訟対象事件の場合は,民事保全法により,調停・訴訟の申立よりも前に(同時でなくても),保全申立が可能です。
もともと,審判前の保全処分を用いる必要がないといえます。
詳しくはこちら|民事保全(仮差押・仮処分)の基本|種類と要件|保全の必要性

5 家事事件における保全手続の種類とタイミングのまとめ

家事事件の種類によって『保全手続』の種類とタイミングが違ってきます。
これをまとめておきます。

<家事事件×保全手続|まとめ>

分類 保全手続 調停申立前 調停申立と同時 審判・訴訟申立と同時
審判対象事件 審判前の保全処分
訴訟対象事件 民事保全手続

6 審判前の保全処分が発令される要件

審判前の保全処分として,仮差押や仮処分命令が発令される要件を説明します。
これは,一般的な民事保全の場合と同様とされています。

<審判前の保全処分が発令される要件>

あ 判断の基本

発令の要件(い)のいずれかに該当する場合
→裁判所は審判前の保全処分を発令する

い 発令の要件

ア 通常の審判を待っていた場合,権利の実現が困難になる
イ 関係者の急迫の危険を防止する必要がある
※家事事件手続法115条,民事保全法20条,23条

7 保全命令における担保金の相場(概要)

一般的に,保全処分では,発令の際,引き換えとして担保の提供が必要とされています。
※家事事件手続法115条,民事保全法14条
担保金額の相場(担保基準)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|保全の担保金額算定の基本(担保基準の利用・担保なしの事例)

8 審判前の保全処分の効力(概要)

裁判所が保全処分を命じるとその内容(保全命令)はすぐに(告知の時に)効力が生じます。つまり,執行できる状態になるのです。確定するまでは執行できないということはありません。
また,保全命令の告知から2週間の期間だけしか執行できません。
一方,保全命令に不服がある当事者は即時抗告ができますが,それだけでは執行の効力が解消されるわけではありません。別に執行停止の申立を行い,裁判所がこれを認めて初めて執行停止などとして執行の効力が解消されるのです。
このような,保全処分の効力については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|審判前の保全処分の効力(発生時期・執行期限・執行停止)

9 審判前の保全処分を利用する典型例

前述のように,審判前の保全処分が使えるシーンは多いです。
その中でも利用する状況として典型的なものをまとめておきます。

<審判前の保全処分の活用|典型例>

あ 婚姻費用

もともと短期間で審理される
しかし『より急ぐ・切迫している』場合
→このような状況の発現頻度は高い

い 財産分与

ア 遺産を相手が処分した・預貯金を引き出した場合
イ 『ア』のような動きが予想される場合

<参考情報>

『月報司法書士2013年3月』日本司法書士会連合会p59

本記事では,審判前の保全処分の基本的事項を説明しました。
実際には,個別的な事情によって最適な手段は異なりますし,やり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に審判前の保全処分の活用をお考えの方や,保全処分に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。