【遺産分割に関する審判前の保全処分(要件・具体例)】
1 遺産分割に関する審判前の保全処分(要件・具体例)
2 遺産分割に関する審判前の保全処分の要件
3 遺産分割に関する審判前の保全処分の例
4 遺産分割に関する不動産の処分禁止の仮処分
1 遺産分割に関する審判前の保全処分(要件・具体例)
家事調停や審判(相続や離婚)については,最終的な結論に至る前に,暫定的な応急措置を行う方法(審判前の保全処分)があります。
詳しくはこちら|審判前の保全処分の基本(家事調停・審判の前に行う仮差押や仮処分)
本記事では,遺産分割に関する審判前の保全処分について,その要件や具体例などを説明します。
2 遺産分割に関する審判前の保全処分の要件
審判前の保全処分に共通する実質的な要件は本案審判認容の蓋然性と保全の必要性です。
詳しくはこちら|審判前の保全処分の基本(家事調停・審判の前に行う仮差押や仮処分)
遺産分割に関する審判前の保全処分にも当てはまります。2つの要件のうち保全の必要性の内容については,条文で具体的に規定されています。
<遺産分割に関する審判前の保全処分の要件>
あ 本案審判認容の蓋然性
保全処分の内容と予盾しない内容の遺産分割が本案審判においてなされることの蓋然性が高い
い 保全の必要性
強制執行の保全または事件関係人の急迫の危険防止の必要がある
※家事事件手続法200条2項
※宮地英雄ほか稿『審判前の保全処分』/野田愛子ほか編『判例タイムズ688号 遺産分割・遺言215題』1989年4月10日p181
※札幌高裁平成2年11月5日
3 遺産分割に関する審判前の保全処分の例
遺産分割に関する審判前の保全処分にはいろいろなものがあります。具体例を整理します。
<遺産分割に関する審判前の保全処分の例>
あ 共有持分の処分禁止
遺産の中の不動産の共有持分を相続人が処分することを禁止する(後記※1)
い 単独所有名義の登記を得た相続人の処分禁止
遺産の中の不動産を相続人の1人が自己の単独名義に登記を移転した上で第三者に売却しようとしている
本案の審判における当該不動産の引渡命令の強制執行を保全するため,当該相続人に対して当該不動産の処分禁止の仮処分をする
※金子修編著『逐条解説 家事事件手続法』商事法務2013年p633
※池田光宏『家庭裁判月報38巻6号』p83注24
※岡口基一著『要件事実マニュアル 第5版 第5巻』ぎょうせい2017年p377,378
う 現金の仮払(仮地位仮処分)
遺産分割までの時間が相当かかることが見込まれる一方,相続人の1人の生活が困窮しており,一刻も早く生活費に当てる現金を取得したい
相続財産中の現金をこの者に取得させるため他の共同相続人に仮払を命じる
※金子修編著『逐条解説 家事事件手続法』商事法務2013年p634
4 遺産分割に関する不動産の処分禁止の仮処分
遺産分割に関する審判前の保全処分のうち,基本的なものは不動産(の共有持分)の処分を禁止するものです。前提として,このような処分(持分の売却など)は有効ですし,その後の遺産分割で不公平が生じることになるので是正する手段をとることになってしまいます。そこで,持分の処分が想定される場合には事前に処分を禁止するという手段が求められるのです。
<遺産分割に関する不動産の処分禁止の仮処分(※1)>
あ 権利関係(遺産共有)
遺産の中の特定不動産について
各相続人は共有関係(遺産共有)にある
い 共有持分処分の可能性と事後対応
法律上,遺産共有(遺産分割未了の状態)で,共有持分を処分することは可能である
詳しくはこちら|遺産の中の特定財産の処分(遺産共有の共有持分の譲渡・放棄)の可否
共有持分の処分があった場合,その後の遺産分割で不公平を是正する措置が必要となってしまう
詳しくはこちら|遺産の中の特定財産の処分(譲渡)の後の遺産分割(不公平の是正)
このようなことを避けるために共有持分の処分を禁止する必要がある
う 保全処分の当事者
仮処分債権者=本案審判で当該不動産を取得する蓋然性のある相続人
仮処分債務者=他の共有権者である特定の相続人
え 保全処分の内容
仮処分債務者の具体的な共有持分の処分を禁止する
※松原正明著『全訂 判例先例 相続法Ⅱ』日本加除出版2006年p436
※宮地英雄ほか稿『審判前の保全処分』/野田愛子ほか編『判例タイムズ688号 遺産分割・遺言215題』1989年4月10日p181
本記事では,遺産分割に関する処分禁止の仮処分について説明しました。
実際には個別的事情によって,最適な手段(対応策)は違ってきます。
実際に相続,遺産分割に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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