1 保全の担保金額算定の基本
2 保全命令における担保の判断(基本)
3 担保の金額の算定要素(判断材料)
4 担保基準の存在と運用の実情
5 仮差押・仮処分の担保基準(概要)
6 担保不要となる典型例
7 離婚に関する保全における担保なしでの発令の例
8 面会強要禁止の仮処分における担保なしでの発令の例

1 保全の担保金額算定の基本

民事保全(仮差押・仮処分)では,通常,担保決定により担保(金)(保証金)が要求されます。
詳しくはこちら|民事保全の担保の基本(担保の機能・担保決定の選択肢・実務の傾向・不服申立)
当然,裁判所は,担保の金額を算定する(定める)ことになります。中には,金額をゼロとする,つまり,担保を立てなくてもよいという判断もあります。
本記事では,保全の担保金額の算定(判断)の基本的な内容を説明します。

2 保全命令における担保の判断(基本)

保全命令に伴って,裁判所は個別的な事案内容(事情)を元にして担保の判断をします。ほとんどのケースでは,担保は必要という前提で,担保の金額を算定します。ただし,担保を不要とするケースもあります。

<保全命令における担保の判断(基本)>

あ 担保決定の手続

裁判所は,保全命令の担保の意義,機能を踏まえ,個別の具体的事案ごとに,後記※1のような事情を総合的に考慮し,担保額を算定する
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p56

い 担保の有無の判断

ア 原則
担保を決定する(立担保を必要とする)のが通常である
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p26
※西山俊彦著『新版 保全処分概論』一粒社1985年p118
※『東京地裁保全部の事件処理の現況』/『判例タイムズ238号』1969年11月p11
イ 例外
裁判所は担保を不要とすることもできる(後記※2)
※民事保全法14条1項
詳しくはこちら|民事保全の担保の基本(担保の機能・担保決定の選択肢・実務の傾向・不服申立)

3 担保の金額の算定要素(判断材料)

裁判所が保全の担保の金額を算定する事情(判断材料)は広い範囲に及びます。大きく5つ程度に分類できます。
これらの事情の内容については別の記事で説明しています。

<担保の金額の算定要素(判断材料・概要・※1)>

あ 保全命令の種類
い 保全目的物の種類・価額
う 被保全権利の種類・価額
え 予想される債務者の損害
お 疎明の程度

詳しくはこちら|保全における担保の金額の算定(考慮)要素とその内容

4 担保基準の存在と運用の実情

実際に裁判所が担保の金額を算定する現場では,証拠(疎明資料)や審査する時間がとても限られています。そこで,担保基準が活用されています。
もちろん,個別的な特殊事情をまったく考慮しない,ということはないです。一方で,基準どおり(基準の範囲内)に算定するケースが実際には多いです。

<担保基準の存在と運用の実情>

あ 担保基準

担保金額の算定は複雑困難な場合が多い
一方,迅速性と公平が要請される
実務では,事件類型ごとに一定の基準(いわゆる担保基準)が定められていることが多い
担保基準は標準的な状況(立証活動など)を前提としている
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p56
※西山俊彦著『新版 保全処分概論』一粒社1985年p115,116

い 個別的事情による変動

個々の事案において裁判所は担保基準を一応の参考にする
しかし,あくまでも事案の具体的事情を考慮して,その事案の担保として妥当な額を決定する
具体的事案における担保額は,基準により算定したものとは必ずしも一致しない
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p26

う 実務の傾向

現実の運用面を観察していると,特別の事情がなければ,担保基準を目安に担保金額が決められているというのが実情といえそうである
もちろん,一応の目安なので,そのとおりにならないことも実際にある
※『最近における大阪地方裁判所保全部の事件処理の実情1』/『判例タイムズ341号』1977年2月p56

5 仮差押・仮処分の担保基準(概要)

実際に使われる担保の金額の基準は,保全処分の種類ごとに整理できます。
これらについてはそれぞれ別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|仮差押の担保基準(担保の金額の相場の表と実務の傾向)
詳しくはこちら|係争物に関する仮処分の担保基準(担保の金額の相場の表と実務の傾向)
詳しくはこちら|仮の地位を定める仮処分の担保基準(担保の金額の相場の表と実務の傾向)

6 担保不要となる典型例

保全の担保は不要(ゼロ)と判断されるケースもあります。ただし,非常に少ないです。そのレアケースとは,債権者(申立人)に資力がないことが前提となっている類型の保全処分です。
具体的には賃金(給料)の仮払交通事故の被害者への金銭仮払に関する仮処分です。

<担保不要となる典型例(※2)>

あ 共通事項

債権者に資力がないこと保全の必要性の要素となっている場合
担保なしで保全の発令がなされることが多い
具体例は『い・う』くらいである

い 賃金仮払

債権者の生活の困窮を理由とする賃金仮払の仮処分

う 交通事故に関する金銭仮払

交通事故による損害賠償請求を本案とする生活費(休業損害)・医療費の仮払の仮処分
※司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 補正版』日本弁護士連合会2014年p26
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事保全法』日本評論社2014年p56
※西山俊彦著『新版 保全処分概論』一粒社1985年p118
※『東京地裁保全部の事件処理の現況』/『判例タイムズ238号』1969年11月p11

7 離婚に関する保全における担保なしでの発令の例

担保なしで保全処分がなされるレアケースは前記の類型だけとは限りません。
個別的事情から,担保なしとするのが妥当と判断されるケースもあります。
具体例として,離婚が想定される状況でのマイホームの仮処分(や仮差押)を紹介します。

<離婚に関する保全における担保なしでの発令の例>

あ 申立人の資力

申立人は専業主婦→収入がない
申立人は他に預貯金などの資産がない

い 相手方の不合理性

マイホーム購入資金は夫婦生活中の夫の給与収入
→実質的に共有(夫婦共有財産)であることが明らか
→夫は形式的に所有名義であるという理由だけで売却できてしまう
→この状態は不公平

う 保全の必要性(が特に高い)

申立人はマイホーム以外に身を寄せる場所がない

え 担保の判断の傾向

『あ〜う』のような事情がある場合
離婚の財産分与請求権を被保全債権とする仮処分(仮差押)について
→担保なしで保全(仮処分)が発令されることがある

8 面会強要禁止の仮処分における担保なしでの発令の例

仮処分の中には,面会を強要することを禁止するというものもあります。
相手方(債務者)が執拗に自宅や職場を訪問するとか待ち伏せをするということで困惑している状況で活用する仮処分です。
仮にこの仮処分が不当であっても生じる損害がほとんどないです。仮に相手方(債務者)の態度が悪質である場合は特に担保を立てさせる要請は低くなります。
そこで,担保なしで仮処分が発令されることもあります。

<面会強要禁止の仮処分における担保なしでの発令の例>

あ 保全命令による影響

もともと債務者の態度が悪質である場合に発令される
債務者が『面会できなくなる』ことの不利益は小さい

い 担保の判断の傾向

債務者に損害が生じる可能性・程度は低い
担保なしで保全の発令がなされることが比較的多い

本記事では,保全の担保金額の判断についての基本的な内容を説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で担保に関する判断は違ってきます。
実施に保全の担保に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。