【動産執行・自動車執行|店舗・事務所などに直接趣く|ハードルが高い・インパクトは大きい】

1 動産執行の手続概要|債務者の店舗などに直接行ってモノを差し押える
2 動産執行のハードル1|換価価値の判断|『価値がない』が多い
3 動産執行のハードル2|所有者の確定|『誰のものか』が断定できないこともある
4 動産執行のハードルを超える工夫|買取業者・鍵の専門業者の手配
5 動産執行|現実的なインパクト→任意の和解・回収のきっかになることもある
6 自動車執行|『登録済』自動車・重機の売却→配当
7 自動車執行|ハードル1|自動車を『確保』する→日時・場所の設定
8 自動車執行|ハードル2|売却手続→譲渡命令or購入候補者確保

1 動産執行の手続概要|債務者の店舗などに直接行ってモノを差し押える

強制執行の種類の1つに『動産執行』があります。
債務者の店舗・事務所・自宅にある『動産』を売却して回収する,というものです。

<動産執行の概要>

あ 申立

『場所』を特定して申し立てる
『対象物』ではない

い 執行の方法

対象の『場所』にある動産・金銭を執行官が差し押える
原則的に,取り上げて執行官が保管する

う 差し押える動産

債務者が占有すると認められる動産
例;什器備品・金銭(売上金など)
金銭も含む
未登録の自動車・軽自動車
※登録済の自動車→『自動車執行』

え 配当

差し押さえた動産を執行官が売却する
差し押さえた金銭や売却代金を債権者に『配当』する
※民事執行法122条〜

動産というのは,什器・備品や現金など,広く含まれます。
ただし,実務上の『回収の現実性』はあまり高くありません。
執行官が現場に行っても,売却できる財産がない→『執行不能』の判断,となることが多いのです。

2 動産執行のハードル1|換価価値の判断|『価値がない』が多い

一般に,店舗で使用されている什器備品類は『ほとんど値が付かない』ということが多いです。
購入する時はそれなりの金額でも,売却する時はまったく状況が違うのです。
執行官の評価の目安は『購入価格の10分の1以下』です。
手間・コスト(『執行費用』)をかけても売却→換価が合理的,と言えるものでないと『対象外』とするのです。
なお,この『ハードル』についてはクリアする工夫もあります(後記『4』)。

3 動産執行のハードル2|所有者の確定|『誰のものか』が断定できないこともある

(1)債務者の特定が難しいこともある

経営者・店のオーナー(株主)と,店舗内の個々の動産の所有者,が一致しないこともよくあります。
例えば『フランチャイズにして店舗名だけ同じにしている』とか『什器備品をリースで借りている』などです。
ラベルなどで記載してある場合や,債務者が現場で説明したり資料を提示して『自分の所有ではない』と判断されることがあります。
逆に言えば,そのような特殊な事情がなければ『債務者の店舗であれば債務者の所有』と通常は推定されます。

(2)仮差押の場合は『申立段階』での疎明が必要

『(本)差押』ではなく『仮差押』の場合は,申立の段階で所有者まである程度は証明(疎明)しなくてはなりません。
相手に確認しないと分からないという状態だと却下になってしまうことが多いです。
この部分は裁判官によっては柔軟に考えてくれる場合もあります。
ただし,東京地裁(民事第9部)は杓子定規な印象があります。

4 動産執行のハードルを超える工夫|買取業者・鍵の専門業者の手配

(1)事前に買取業者を手配→その場での売却が実現

動産執行の準備段階で予め『オフィス用品買取業者』など『買取してくれる者』を同行する方法があります。
というのは,その場で執行官が『売却』を行う,というケースもあるのです。
執行官としても『その場で確実に購入する者がいる=換価できる』という場合は『換価価値なし』と判断しないのです。
債務者の状況によっては『特殊な動産』を持っている場合もあります。
例えば,マニアックな楽器の店舗,については『同種類の楽器を扱う店舗の担当者』が同行していればその場で評価して購入してくれる可能性も高いです。

(2)鍵の専門業者の同行→金庫の解錠

動産執行では『ドアの解錠』が認められています(民事執行法123条2項)。
『強制執行』なので,抵抗されても強行できるようにする規定です。
ですから,最初から『鍵の専門業者』の同行を手配していることも多いです。
さらに『金庫の解錠』も規定上認められています。
ただ『鍵の専門業者』が金庫に対応したツールを持ってきていない,ということもあります。
そこで最初から業者に『金庫対応解錠ツール』の準備も要請しておくと良いのです。
実際には,金庫の中には現金や高価な動産がないとしても『預貯金通帳』の把握に成功することもあります。
詳しくはこちら|実績|債権回収業務の中で相手の財産を把握→差押に成功

5 動産執行|現実的なインパクト→任意の和解・回収のきっかになることもある

動産執行は,以上のとおり『回収の実現可能性』としては一定のハードルがあります。
その一方で『手続自体』のインパクトが大きいです。
債務者の店舗や事務所など,実際に居る場所,に対して強制的に踏み込む,という手続だからです。
仮に差し押えるべきものがない→『執行不能』となった場合でも,その後の和解交渉→任意の返済につながる,ということもあります。
いずれにしても,債権回収の業務の中の一環,という位置付けをはっきりさせておくと良いのです。

6 自動車執行|『登録済』自動車・重機の売却→配当

(1)自動車執行の対象|『登録済』自動車

債務者の財産のうち『登録済自動車』を差し押える手続があります。
民法上は『動産』ですが,差押については『自動車』独自の扱いとなっています。
基本的に『不動産の強制競売』の規定が準用されています(民事執行規則86〜97条)。
最初に『対象となる自動車』について整理します。

<『自動車』の執行方法>

対象財産 手続の種類
登録済の自動車 自動車執行
未登録・登録抹消済の自動車 動産執行
軽自動車 動産執行
建設機械(大型特殊自動車) 建設機械執行(※1)

<建設機械執行(上記※1)>

『建設機械』の登記がなされた『大型特殊自動車』が対象
差押(執行)の手続は原則的に『自動車執行』の規定が準用される
※民事執行規則98条,自動車抵当法2条但書,建設機械抵当法2条,建設業法2条1項,別表第1

このように『自動車執行』の方法が適用されるのは『登録済』の自動車のみです。
正確には道路運送車両法13条1項による『登録』のことです。
『建設機械執行』は,要するに,移動式の『重機』です。
手続としては自動車執行と同様です。
以下『建築機械執行』も『自動車執行』に含めて説明します。

(2)自動車執行のフロー|競売開始→引渡執行の2段階

次に手続全体の流れをまとめておきます。

<自動車競売の手続|流れ>

あ 当事者|自動車競売申立
い 裁判所|開始決定
う 陸運局|差押登録
え 当事者|自動車引渡執行の申立
お 執行官|引渡執行
か 裁判所|売却実施
き 裁判所|配当

当事者の申立は大きく2つあります。
最初は『競売申立』です。
簡単に言うと『差押の登録を入れる』というものです。
登録上,他に譲渡するなどして『逃す』ことが実質的にできなくなります。
その次の申立が『引渡執行』の申立です。
これにより,執行官が現実に自動車そのものを『確保』(保管)することになります。
保管した上で『売却』ができます。
逆に言えば『確保』できないと売却できないのです。

7 自動車執行|ハードル1|自動車を『確保』する→日時・場所の設定

自動車執行の手続では『自動車そのものを確保』できないと売却→換価ができません。
これが,自動車執行がうまくいかない『ハードル』となっています。
つまり,事前に『執行官が自動車所在地と想定される場所に赴いた時』にその場所に自動車が置いてある必要があるのです。
当然,自動車は瞬時に動かすことが可能です。
『常時1か所から動かない』ということはないのです。
実際には『営業時間外に特定の駐車場に置いてある可能性が高い』というような場合であれば『確保』可能です。
事前に執行官と協議し,現場に臨場する日時・場所をしっかりと設定しておくと良いのです。

8 自動車執行|ハードル2|売却手続→譲渡命令or購入候補者確保

民事執行規則上,自動車執行では『執行官が自動車を保管』して,その後『売却』をすることになっています。
しかし,自動車の移動については,公的・正式な手続では極力避けることとされています。
仮に交通事故が生じた場合に,賠償などの権利義務の処理が非常に大きな業務となるからです。
そのため,実際の『売却手続』に工夫が必要になってきます。

<自動車執行|売却手続の工夫>

あ 『譲渡命令』申立

『債権者自身が対象の自動車を買い取る』という手続
『引渡執行の申立』と一緒に申し立てておくと良い
買取金額は『売却基準価格の8割=買受可能価額』以上である必要がある

い 買取業者の同行

特に重機などの特殊な自動車の場合は『実際に買い取る者』が限られる
次のような『買取候補者』を執行官が現地に訪問する際に同行するよう手配する
例えば高級外車の場合は『当該メーカーを専門に扱う中古車販売業者』の同行が望ましい
《特殊な自動車の買取候補者》
ア 対象車種を使用する業種イ 対象車種の専門買取業者

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