【令和3年改正による共有関連の新制度のまとめ(共通点・相違点)】

1 令和3年改正による共有関連の新制度のまとめ(共通点・相違点)

令和3年の民法改正で、共有に関する規定は大きく変わりました。特に、変更・管理行為に関して裁判所が許可を出す制度と、所在不明の共有者の共有持分を強制的に買い取る、または、第三者に売却できる、という制度が目玉です。また、共有物分割と遺産分割の優劣関係もルール化されています。また、共有物の管理者の規定が新たに作られて、ルールが明確になっています。
これらの新制度や新たなルールは似ているところと異なるところがあって理解しにくいです。
そこで、本記事では、これらを横断的に整理して、違いが理解できるように説明します。

2 所在等不明共有者がいる場合の変更・管理許可手続

まず、所在不明の共有者がいる場合などに、裁判所が、その共有者がいないものとして変更や管理の決定をしてよいという決定を出せる制度ができました。
詳しくはこちら|所在等不明共有者がいる場合の変更・管理の裁判手続(令和3年改正)
ここでは、利用できる条件(要件)や手続上のルールのうち、間違えやすい、他の手続と混同しやすいものをまとめておきます。個々の制度のまとめの後に、横断的な説明をします。

<所在等不明共有者がいる場合の変更・管理許可手続>

(裁判所の判断により)所在等不明共有者の議決権を「存在しない」扱いにできる
根拠=民法251条2項、252条2項1号(+非訟事件手続法85条)
申立人=共有者、共有物の管理人(「変更」のみ)
管轄=共有物所在地
遺産共有の除外=なし
決定内容=他の共有者の同意で(特定の)変更の決定をすることができる、他の共有者の持分の過半数で(特定の)管理の決定をすることができる
裁判所からの伝達=公告
回答期限=1か月以上
所在等不明共有者の対抗措置=変更・管理の裁判への異議(所在判明)
他の共有者の対抗措置=なし(分割請求で阻止できない(当然))
不動産限定=なし

3 賛否不明共有者がいる場合の管理許可手続

次に、所在は分かるけれど、話し合いに応じない(連絡しても回答すらしない)という共有者がいるケースで、裁判所が、その共有者がいないものとして管理の意思決定をしてよいという決定を出せる制度ができました。
詳しくはこちら|賛否不明共有者がいる場合の管理の裁判手続(令和3年改正)
これも、他の手続と混同しやすいものを中心にまとめておきます。
なお、賛否不明共有者がいる場合の変更の裁判手続はありません。賛否を表明していない時点で、反対しているとカウントすべきだ、という考えから、制度化されませんでした。

<賛否不明共有者がいる場合の管理許可手続>

(裁判所の判断により)賛否不明不明共有者の議決権を「存在しない」扱いにできる
根拠=民法252条2項2号(+非訟事件手続法85条)
申立人=共有者
管轄=共有物所在地
決定内容=他の共有者の持分の過半数で(特定の)管理の決定をすることができる
遺産共有の除外=なし
裁判所からの伝達=通知(賛否不明共有者に対して賛否明示を求める)
回答期限=1か月以上
賛否不明共有者による対抗措置=「賛否を明らかにする」
他の共有者の対抗措置=なし(分割請求で阻止できない(当然))
不動産限定=なし

4 共有物の管理者

共有物の管理を充実させる制度として、共有物の管理者のルールが作られました。実は改正前から管理者を選任することはできましたが、選任の要件や管理者の権限には不明確なところがあり、結果的にあまり使われない(使えない)状況でした。令和3年改正で明確なルールができたのです。
この制度は、本記事の他の制度と違って裁判所は関係しません。共有者の多数決だけで管理者を選任できます。
詳しくはこちら|共有物の管理者の制度(令和3年改正)

<共有物の管理者>

共有者の多数決(持分の過半数)で、共有物の管理者を選任することができる
共有物の管理者は、管理行為の範囲内であれば自身が決定、実行することができる
根拠=民法252条の2、252条1項(選任・解任)
申立人・管轄=(裁判所の手続ではないので関係ない)
遺産共有の除外=なし
不動産限定=なし

5 所在等不明共有者の不動産の持分取得手続

前述の、所在不明の共有者がいる場合の変更・管理の許可の手続ができたので、所在不明の共有者がいるために共有不動産(共有物)の活用ができないという状況は解消できる(しやすく)なりました。
さらに、所在不明の者を共有者から排除する(共有者を減らす、共有持分を集約する)制度もできました。それは所在不明の共有者の共有持分を強制的に買い取る制度です。裁判所が所在不明であることを認めれば決定を出すことになります。もちろん、タダではなく、対価として持分の価値相当の金銭を支払う必要があります。
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分取得手続(令和3年改正)
この制度も、他の制度と混同しやすい細かいルールが多くあるので、まとめておきます。

<所在等不明共有者の不動産の持分取得手続>

(裁判所の判断により)所在等不明共有者の持分を強制買取できる
結果的に単独所有にならない場合は共有減価した金額で買い取れる
根拠=民法262条の2(+非訟事件手続法87条)
申立人=共有者
管轄=共有物所在地
遺産共有の除外=あり(10年間は禁止)
決定内容=持分取得(+持分の時価相当額の支払債務)
裁判所からの伝達=公告+通知(通知は登記上の住所)
回答期限=3か月以上
所在等不明共有者の対抗措置=持分取得裁判への異議(所在判明)
他の共有者の対抗措置=分割請求による阻止(異議届出)・持分取得裁判の申立(申立人に加わる)
不動産限定=あり

6 所在等不明共有者の不動産の持分譲渡権限付与手続

前述の持分取得裁判は、所在不明の共有者の持分を申立人(共有者の1人)が買い取るものでしたが、それとは別に、所在不明の共有者の共有持分を含めて、第三者に共有物全体として売却できるという制度もできました。メカニズムとしては、申立人(共有者の1人)に、所在不明の共有者の持分を売却する権限を付与する(裁判をする)というものです。
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分譲渡権限付与手続(令和3年改正)
これも手続に関する間違えやすい事項を中心にまとめておきます。

<所在等不明共有者の不動産の持分譲渡権限付与手続>

(裁判所の判断により)所在等不明共有者の持分も含めて、所有権全体を強制的に共同売却をすることができる
根拠=民法262条の3(+非訟事件手続法88条)
申立人=共有者
管轄=共有物所在地
遺産共有の除外=あり(10年間は禁止)
決定内容=持分譲渡の権限付与(+不動産の時価相当額×持分割合の支払債務)
裁判所からの伝達=公告のみ(通知なし)
回答期限=3か月以上
所在等不明共有者の対抗措置=持分取得裁判への異議(所在判明)
他の共有者の対抗措置=なし(他の共有者も賛同しているのが前提であるため)
不動産限定=あり

7 共有物分割(遺産分割との優劣)

最後に、新しい制度、ではなく、従来からある共有物分割の手続のルールが変更されました。遺産分割との優劣関係です。
以前は単純に遺産分割が優先でした。つまり、遺産分割が未了である場合は共有物分割はできない、という扱いだったのです。
改正後も、遺産分割が優先という方向性は変わっていませんが、例外が認められるようになりました(後述)。

<共有物分割(遺産分割との優劣)>

原則(=従来の規律)=共有物分割で遺産共有を解消することはできない
例外(=新たな規律)=物権共有持分と遺産共有持分が混在している、かつ、相続後10年であれば共有物分割の中で遺産共有の解消をすることができる
他の共有者の対抗措置=遺産分割請求+(共有物分割への)異議
不動産限定=なし

8 まとめ1・相続後10年前後の違い(遺産共有による制限)

以上で、個々の制度のまとめは終わりです。それぞれの制度の細かいルールがたくさん出てきましたが、共通するものや違うところがあり、複雑に感じます。しかし、さかのぼってどのような考え方(基本設計)があるのか、ということを理解すると、混同・混乱しなくて済みます。
以下、横断的な根本設計を軸に説明します。
まず、相続後10年が経過したかしていないかによる区別に着目してみましょう。
相続から10年が経過する前(まで)は、遺産分割が優先です。遺産分割が未了であれば、共有物分割はできませんし、持分取得の裁判持分譲渡権限付与の裁判も利用できません。この3つは、遺産共有(遺産分割未了の状態)を壊してしまうからです。
一方、変更・管理許可の裁判は、遺産共有状態を壊すことはありません。共有持分の帰属に変化は生じないからです。変更・管理許可の裁判は、相続開始後10年以内であっても制限されることはありません。

<まとめ1・相続後10年前後の違い(遺産共有による制限)>

あ 相続から10年以内→遺産分割優先・例外なし(改正前と同じ)

「相続から10年以内」は、遺産分割以外で遺産共有を解消できない(遺産の一部の解消も含む)
つまり、共有物分割・持分取得の裁判・持分譲渡権限付与の裁判はできない
共有者全員の同意があったとしても同じ

い 相続から10年後→遺産分割優先・例外あり(改正による変更)

ア 10年後の遺産分割(参考) 相続から10年後は、遺産分割で寄与分・特別受益は反映されない
遺産分割自体ができなくなるわけではない
イ 具体的なルール 相続から10年後は、遺産共有(遺産分割未了)でも、共有物分割・持分取得裁判・持分譲渡権限付与裁判、は可能である
ただし、他の共有者が(遺産分割の申立をした上で)異議を出すことで阻止できる
ウ 持分譲渡権限付与裁判の特殊性 持分譲渡権限付与裁判だけは、「すべての共有者の協力」が前提であり、反対する共有者が不動産の譲渡に協力しなければ「持分譲渡」は実現しない→「異議」の制度はない

う 変更・管理許可手続→無関係

変更・管理許可手続については、持分の帰属に変更を生じないので、分割手続より劣後という扱いはない
(分割手続の申立をした上で)異議を出して阻止するという手続はない

9 まとめ2・持分帰属に変更を生じる手続と分割の優劣

前記のように、新制度では、分割手続(共有物分割と遺産分割)との関係について細かいルールがあります。
まず、分割手続がどんなものかを考えると、関係者全員の希望を踏まえて、最も妥当な方法で共有を解消する、つまり完全に解決する、というものです。
この点、新制度のうち、持分取得裁判は、共有持分の帰属に変化が生じる制度です。共有関係が解消することも、しない(共有状態が維持される)ことも両方あります。また、多くの選択肢から最も妥当な方法を選択するということはありません。
このようなことから、持分取得裁判よりも分割手続の方が優先という位置付けになりました。具体的なルールとしては、持分取得裁判が始まっても、(申立人以外の)共有者は、分割手続の申立をした上で異議を出せば、持分取得裁判を阻止できるという仕組みになっています。
ここで、持分譲渡権限付与の裁判も、持分の帰属に変化が生じる(というより共有を解消する)ので、分割手続を優先すべきであることに変わりはありません。しかし異議で阻止する制度はありません。なぜなら第三者への譲渡に反対の共有者は異議を出さずに裁判所が持分譲渡権限付与の裁判をしてしまっても、その裁判(決定)は、共有者全員が持分を売却することが条件になっていますので、売却に協力しなければ売却を阻止できるのです。異議の制度を作らなくても阻止できるのです。
話は変わって変更・管理の許可手続では、分割手続が優先ではありません。異議で阻止できるという仕組みはありません。もともと持分の帰属に変化を生じるものではないので、分割手続との優劣自体がないからです。

<まとめ2・持分帰属に変更を生じる手続と分割の優劣>

あ 基本設計

持分の帰属に変更を生じさせる手続は、関係者全員の利害を調整する分割手続(共有物分割・遺産分割)によって実施することが妥当である
所在等不明共有者の持分取得裁判持分譲渡権限付与裁判よりも分割手続優先とする

い 具体的なルール

持分取得裁判は、(他の)共有者が(分割手続の申立をした上で)異議を出すことで阻止できる

う 持分譲渡権限付与裁判の特殊性

持分譲渡権限付与裁判は、「すべての共有者の協力」が前提であり、反対する共有者が不動産の譲渡に協力しなければ「持分譲渡」は実現しない
→「異議」の制度はない

え 変更・管理許可手続→無関係

変更・管理許可手続については、持分の帰属に変更を生じないので、分割手続より劣後という扱いはない
(分割手続の申立をした上で)異議を出して阻止するという手続はない

10 まとめ3・変更・管理許可手続と遺産共有による制限・分割との優劣

すでに説明しましたが、変更・管理許可の手続は、持分の帰属に変化が生じません。遺産共有を壊すようなこともなければ、分割手続と抵触する(重複する)ものでもありません。
そこで、相続開始後10年以内だと制限されるというルールもないし、分割手続を申し立てた上で異議で阻止できるというルールもありません。
いわば小規模な影響しか生じない手続なので、制限は少ない、といえます。

<まとめ3・変更・管理許可手続と遺産共有による制限・分割との優劣>

あ 特徴

変更・管理許可手続は、遺産共有を解消するものではない
共有の解消や持分の帰属の変更を生じるものではない

い 扱い

相続から10年前後の違いはない
分割請求との優劣(異議による阻止)の制度はない

11 まとめ4・不動産限定

次のまとめは単純です。新制度には、対象が不動産(とその利用権)に限定されているものと、限定されていないものがあります。その区別は、持分の帰属の変更をするものとそうでないものです。
持分の帰属を変更する制度とは、持分取得裁判と持分譲渡権限付与裁判です。持分(所有権)を奪うものであって、影響が大きいため、必要最小限の範囲で(解決策として)利用する、という趣旨です。
一方、持分の帰属に変更はない手続、具体的には、変更・管理許可の裁判は影響が比較的小さいので、限定なく(共有物全般に)解決策として利用できるようになっているのです。共有物の管理者の制度も、さらに影響は少ない(特定の共有者の権限の制約はない)ので、不動産限定にはなっていません。

<まとめ4・不動産限定>

持分の帰属に変更がある手続→不動産に限定される
持分の帰属に変更がない手続→不動産に限定されない

本記事では、令和3年改正によって作られた共有関連の新制度やルールを横断的に説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産(共有物)や相続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【所在等不明共有者の不動産の共有持分譲渡権限付与手続(令和3年改正)】
【「共有持分の対価」の算定(評価)における共有減価の有無(各種手続横断)】

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