【換価分割の補充性・分割請求権の保障との関係】

1 換価分割の補充性・分割請求権の保障との関係

共有物分割の分割類型には複数のものがあり、一定の優先順序(目安)があります。
詳しくはこちら|共有物分割の分割類型の選択基準(優先順序)の全体像
分割類型のうち、換価分割は、他の分割類型を選択できない場合に、最終的に選択される、という分割類型です。最終手段という位置づけのことを補充性といいます。違う角度からみると、換価分割によって分割請求権の保障が実現できているともいえます。
本記事では、換価分割の補充性や分割請求権の保障との関係を説明します。

2 換価分割の補充性(基本)

(1)判例・令和3年改正→換価分割は最劣後

換価分割は他の分割類型が選択できない場合に初めて選択される、ということは、条文の規定からも読み取れますし、また多くの判例が指摘しています。
そして、このことは、令和3年改正の民法258条2、3項に明記されるに至りました。

判例・令和3年改正→換価分割は最劣後

あ 判例

全面的価格賠償・現物分割の要件を満たさない場合に、換価分割が選択される
※最高裁平成8年10月31日
※最高裁平成9年4月25日
※最高裁平成10年2月27日
※『最高裁判所判例解説平成8年度(下)民事篇』財団法人法曹会p889

い 令和3年改正(概要)

令和3年改正で、「あ」の内容が条文に明記された
※民法258条2、3項
詳しくはこちら|全面的価格賠償と換価分割の優先順序(令和3年改正・従前の学説)

(2)遺産分割→換価分割は最劣後(参考)

なお、遺産分割も、共有物分割と同様に、分割類型の中で換価分割は最も劣後に位置づけられています。
詳しくはこちら|遺産分割における代償分割の基本(規定と要件)

以下、共有物分割について、令和3年改正前の解釈(判例、裁判例や学説)を説明します。

3 奈良次郎氏による補充性の指摘

全面的価格賠償を認めた平成8年判例をきっかけとする検討(論文)の中で、換価分割の補充性を明確に指摘しているものを紹介します。

奈良次郎氏による補充性の指摘

あ 従来の解釈

・・・金銭代価分割方式は、共有物分割訴訟としては、本来補充的ないし補完的性質を有すると解され、基本的には、分割訴訟手続上、必ずしも積極的に望まれている分割方式とはいえないと評価されていたが・・・結果的には、法的に保証是認されているところの、最終的な、目的物件の分割可能な方法であるとも考えられていたともいえる。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p11

い 平成8年判例による変化

いわばこの代価による金銭(代金)分割方式の地位は、最後の順位であることには変わりがないが、先順位が一つ増えたために、従来の第二位から、第三位の地位になったのであり、何れにしても、最終的地位であることには変わりはない
したがって、そのための「要件事実」関係又はこれに近い関係事実を確認した上での裁判がなされることが必要となったといえる。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p24

4 換価分割と分割請求権の保障の関係

ところで換価分割は最終手段であるとともに、確実かつ公平に分割を実現できるという特徴があります。他の分割類型(選択肢)がとれない場合に、分割の実現の道を閉ざさなくてすむ、ということができます。つまり、分割請求権の保障に役立っているということです。
ただし、オーバーローンの場合には換価分割(による競売)が完了しないこともありますが、これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|形式的競売における無剰余取消の適用の有無(オーバーローン不動産売却の可否)

換価分割と分割請求権の保障の関係

あ 公正・透明性のある最終手段という位置づけ

・・・現物分割が不能等の場合には代価分割によって少なくとも手続的には公正でかつ(強調したい所であるが)完全にほぼ100%透明な手続で換価されるということであるから、分割請求権の行使はほぼ絶対的に確保できることになる。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p70

い 共有関係性悪説に対応する最終手段という位置づけ

ここで、まず、注目しなければならないことは、共有物分割が、現物分割が何らかの事由により不可能である場合でも、この金銭代価分割であれば理論的には絶対に可能な筈で、それが不可能であることは、本来考えられ得ない筈(考えたくないもの)であるという意味では、最終的には、金銭代価分割によって、共有物件の分割(解消)は絶対に可能であるとして、いわゆる共有物分割の可能の絶対性を確保し、ないしは、保証していると、基本的には、(何となくではあっても)考えられていた筈で、この金銭代価分割方式は、同時に、特定物件の共有関係の存続自体は悪であるという従来古くからかつ長い間にわたって存していた考え方に対応し得る、最終的な対応策であるとも評価することができる。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p11、12

5 換価分割の「相当性」を認定した裁判例

前述のように、換価分割は補充性がある、つまり、他の分割類型を選択できない場合に消去法的に採用するという位置づけです。しかし、換価分割の相当性(換価分割が妥当である)ということを指摘した裁判例があります。表面的には消去法ではなく、過去の経緯から積極的に換価分割を選択したようにも読めます。一方で、その前の部分で現物分割を否定しているので、消去法の枠組みは維持しているとも読めます。参考として紹介しておきます。
なお、最近では共有者の分割方法の希望を重視する傾向が進んでいて、換価分割を単純に消去法で選ぶという枠組み自体を否定する見解も出てきています。

換価分割の「相当性」を認定した裁判例

あ 判決文

・・・本件不動産が狭小であることに照らすと、本件不動産を現物をもって分割することは、社会通念上著しく困難であるか、又は分割によって著しくその価格を損ずるおそれがあるというべきであり、また、本件和解(注・過去の共有者の任意の合意)において、本件不動産を売却して売却に係る費用を差し引いた残金を持分割合に従って配分する旨の合意がされていることからすれば、本件不動産につき競売を命じ、その売却代金をもって分割する方法によるのが相当であるというべきところ、本件記録に照らすと、この点については、既に原審において十分審理が尽くされていたものということができる。
したがって、本件を原審に差し戻すことなく、当審において更に実体判断をすることとし、本件不動産について競売を命じ、その売却代金を控訴人に一〇〇分の三五、被控訴人に一〇〇分の六五の割合で分割するのを相当とする。
※東京高判平成6年2月2日

い 事案の要点(概要)

共有者が裁判外で任意に、共有不動産を売却する合意をした
しかし、その後約3年半売却が実現しなかった
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の協議前置の要件(協議がととのわない)

う 評釈

本件判決は、本件物件の狭小を理由として現物分割が著しく困難又は著しく価格を損ずることと共に、不動産の任意売却・費用控除後の代金額の持分割合による配分の合意の成立を理由にいわゆる価額分割すべきことを命じている。
この合意自体は判文によれば効力を消滅しているが、歴史的経過として、合意の効力としては既に無効であっても、合意自体には合理的事由があることから、結果的にはその合意と同趣旨の分割方法によることが妥当とする旨の判示であろう。
その結論自体は賛成できる。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p59

本記事では、換価分割の補充性と分割請求権の保障との関係を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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