【遺産分割における代償分割の基本(規定と要件)】

1 遺産分割における代償分割の基本(規定と要件)

遺産分割は、個々の遺産を承継する者(相続人)を決める手続です。具体的な承継方法(分割類型)の1つとして、相続人の1人が承継し、代わりに対価(代償金)を支払う、という代償分割があります。
詳しくはこちら|遺産分割の分割方法の基本(分割類型と優先順序)
実際の遺産分割で、裁判所が代償分割を選択することができるかどうか、ということが問題となることがあります。本記事では代償分割の意味や要件を説明します。

2 代償分割を定める条文規定

代償分割は、家事事件手続法の条文に規定されています。「債務を負担させる方法による遺産の分割」という見出しがついています。条文上は、特別の事情(以前は特別の事由)があるときに代償分割を選択できる、と規定されています。

代償分割を定める条文規定

あ 現行法(家事事件手続法)

(債務を負担させる方法による遺産の分割)
第百九十五条 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。
※家事事件手続法195条

い 改正前(旧家事審判規則)

家庭裁判所は、特別の事由があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて、現物をもつてする分割に代えることができる。
※旧家事審判規則109条(平成24年に廃止)

なお、遺産分割における代償分割は、共有物分割訴訟における(全面的)価格賠償に相当します。この点、共有物分割訴訟の価格賠償については、平成8年判例で認められますが、条文の規定はありませんでした。令和3年改正で条文に定められました(明文化されました)。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の基本(平成8年判例で創設・令和3年改正で条文化)

3 代償分割の要件(特別の事情)の一般的見解(概要)

前記の「特別の事情」、つまり代償分割の要件についてはいろいろな解釈があります。一般的には、現物分割が不可能か、そうでなくても代償分割が相当である事情が必要となり、さらに、支払能力も必要とされます(これらが特別の事情の内容となります)。

代償分割の要件(特別の事情)の一般的見解(概要)

あ 現物分割の不合理性

ア 現物分割が不可能 遺産の現物分割が不可能か、不可能ではないがその分割により著しく経済的な価値を減じる
例=遺産が狭隘な土地や一棟の土地建物である
イ 代償分割の相当性 現物分割は可能であるが、遺産の内容や相続人の職業その他の事情から一部の相続人にその具体的相続分を超えて現物を取得させることを相当とする事情がある
例=農地や営業用財産や住居を事業後継者や居住者に取得させる

い 支払能力

債務を負担する相続人(当該遺産を取得する相続人)に、代償金の支払能力がある(後記※1
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p395

4 支払能力の必要性

代償分割を選択するには、債務を負担する者(=当該財産を取得する者)に代償金を支払う支払能力が必要です。この点、共有物分割(全面的価格賠償)では、支払能力は厳格に判定される傾向があります。しかし、実際の遺産分割(代償分割)では(共有物分割よりは)支払能力の判定が厳しくないという傾向があります。

支払能力の必要性(※1)

あ 結論

(「特別の事由」(特別の事情)(前述)の1つとして)
代償分割の方法により債務を負担させるためには、当該相続人にその支払能力があることが不可欠である
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p395

い 学説の傾向(概要)

一般的な学説は支払能力を必要としている
詳しくはこちら|代償分割の要件(特別の事情)の解釈(学説・裁判例)

う 判例

ア 支払能力の必要性の指摘 現物分割が相当でない事由があることのほかに、遺産を取得する相続人に代償金支払能力があることを要する
※高松高決平成7年11月2日
イ 資力の調査のための差戻 (全面的価格賠償に相当する)代償分割の適否に関し、債務を負担する相続人の資力について審理を尽くさせるため原判決を破棄差し戻した
※最判平成12年9月7日
※大阪高決平成3年11月4日
※仙台高決平成5年7月21日

え 実務の実情

ア 資力認定レベル→高くはない ・・・従来遺産相続の場合の共同相続人間の遺産分割における金銭調整の場合には、現実の資金力ということは重視されるにしても、必ずしも絶対的なものではなく、債務負担について担保権の設定も可能とされていることは理論上のみならず、現実の家事審判では十分あり得たのに対し、・・・
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟と全面的価格賠償について』/『判例タイムズ953号』1997年12月p58
イ 短期間の全額払い→否定方向 ・・・これは丁度遺産分割で必ずしも明確な短期間内での債務全額払いを予定としていないことがまま相当あることとも関連しよう。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟と全面的価格賠償について』/『判例タイムズ953号』1997年12月p59、60

5 相続財産が共有持分である場合の共有減価→単独所有実現の有無で判定

代償金の金額は、当然、相続財産全体と、各相続人が取得する財産の額から算出します。ここで、相続財産が共有持分である場合には、一般論として(原則として)共有減価を行います。ただし、代償分割の結果、単独所有が実現する場合だけは例外であり、共有減価は行いません。

相続財産が共有持分である場合の共有減価→単独所有実現の有無で判定

あ 原則→共有減価あり

・・・共有持分を相続する場合には、共有持分減価(通常2割程度)を行う。
詳しくはこちら|共有減価の意味(理由)と減価割合の判断要素・相場

い 例外(単独所有実現)→共有減価なし

【共有持分の併合
不動産の共有持分(1/2)を有する相続人被相続人の共有持分(1/2)を代償取得する場合、あるいはすべての共有持分を一括売却する場合などは、共有減価は行わない
なぜなら、共有持分どうしが併合し、完全所有権(共有持分100%)を取得するのでいわゆる併合利益が生まれ、共有持分減価は消滅するからである。
※片岡武ほか編著『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務 第3版』日本加除出版2017年p228

6 負担する債務(支払)の内容

代償金の支払いは、当然ですが、金銭というとになります。この点、別の財産を提供する(交換する)という発想もありますが、裁判所の判断としては否定されています。

負担する債務(支払)の内容

負担すべき債務としては、金銭の支払に限られる
当該相続人の固有の(金銭以外の)財産の提供は認められない
※横浜地判昭和49年10月23日
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p395参照

7 支払能力の立証

代償分割が選択されるためには、前記のように支払能力が認められる必要があります。通常は預貯金の通帳が証拠となりますが、確実に融資が受けられるという資料を用いることもあります。

支払能力の立証

代償金が高額である場合、支払能力の立証のため、次のような資料を用いる
ア 預貯金通帳の写しイ 預金残高証明書ウ 銀行支店長名義の融資証明書 ※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p395

なお、共有物分割の全面的価格賠償についても、いろいろな支払能力(資力)の証明方法があり、基本的に遺産分割でも使えるので参考になります。
詳しくはこちら|全面的価格賠償における現物取得者の支払能力の要件(内容・証明方法と判定の実例)

8 代償金の支払猶予・利息の付加(支払能力の緩和)

特定の相続人が代償金を支払っても遺産を取得したいが、すぐには代償金を支払うだけの資力がない場合はどうなるでしょうか。
前述のように、代償金(対価)を取得する側の相続人としては、確実に支払われることが重要です。そこで、支払猶予が必要な状況は、支払能力(資力)がないものとして、代償分割を選択できないと判断するのが原則です。
しかし、代償金の支払猶予を与えることを認める裁判例もあります。その場合には、少しでも公平に近づけるために利息の付加も定めることが多いです。

代償金の支払猶予・利息の付加(支払能力の緩和)

あ 原則=支払猶予否定

ア 一般的見解 現実に分割を受ける相続人との利益の平等からいって、同様の利益が与えられる必要がある
代償金の支払は、原則として即時になされなければならない
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p395
イ 裁判例 支払猶予は相続人間の公平を害し遺産分割の本旨に反する結果となる
支払猶予(を前提とする代償分割)を否定した
(支払能力の必要性を優先させた)
※福岡高判昭和40年5月6日
※東京高決昭和53年4月7日

い 例外=支払猶予肯定

ア 支払猶予を認めた裁判例 代償分割を選択した
金銭債務の支払猶予を認めた
※佐賀家審昭和29年11月24日
※高松高決昭和38年3月15日(1年内の支払猶予)
※東京高決昭和54年3月29日(10年の均等分割払)
イ 支払猶予に伴う利息の付加 (支払猶予を認める場合に)利息の付加を命じることも多い
※東京高決昭和54年3月29日
※東京高決平成元年12月22日
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p395、396

9 代償金の履行確保措置(概要)

代償分割では、審判の後に、実際に代償金がきちんと支払われないと、審判が無駄になったことになります。そこで、代償金支払を中心に、審判で決めた内容の履行が確実になされるような工夫が考えられます。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺産分割における代償分割の履行確保措置

10 代償分割と換価分割の優先順序(換価分割の補充性)

ところで、代償分割とは別の分割類型として換価分割があります。競売手続で売却し、得られた代金を分けるというものです。一般論として、代償分割と換価分割の関係について、代償分割が優先とされています。換価分割は最も劣後、つまり補充性がある、ともいえます。
もちろん、個別的な権利関係から、換価分割となった場合には相続人の一部が生活の本拠を失う、という状況にある場合にはますます代償分割の優先度は上がります。

代償分割と換価分割の優先順序(換価分割の補充性)

すなわち、本件宅地上には抗告人甲野一郎及び抗告人甲野三郎の生活の本拠である本件建物1及び2があり、その使用関係は必ずしも明確ではないことからすると、競売により右使用関係を買受人に対抗できなくなる危険がある。
そして、本件遺産につき、これを相続人のうちの特定の者(1人とは限らない。)に取得させて、取得者が債務を負担する方法をとることが可能であれば、競売による換価分割よりも望ましい方法であることは明らかである。
※仙台高決平成5年7月21日

11 遺産分割と共有物分割の分割方法判断の比較(参考)

遺産分割の代償分割は、共有物分割の(全面的)価格賠償に相当します。このことも含めて、遺産分割と共有物分割は似ているところが多いです。そうすると、遺産分割と共有物分割で、分割方法の選択基準は同じであろうという発想が浮かびます。実際には、共通するところも多いですが、異なるところもあります。
詳しくはこちら|2つの分割手続(遺産分割と共有物分割)の違い

本記事では、遺産分割における代償分割の意味や要件について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺産分割(相続)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分

相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【全面的価格賠償の「賠償金」の用語と性質】
【遺産分割における代償分割の履行確保措置】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00