1 遺産分割における用益権設定による分割(現物分割の一種)
2 用益権設定による分割の基本
3 用益権設定の種類(認める規定と裁判例)
4 用益権設定を認める事情
5 用益権設置における決定事項

1 遺産分割における用益権設定による分割(現物分割の一種)

遺産分割において遺産を分割する方法(分割類型)の1つとして,用益権を設定するというものがあります。
詳しくはこちら|遺産分割の分割方法の基本(分割類型と優先順序)
本記事では,用益権設定による分割について説明します。

2 用益権設定による分割の基本

遺産の中の財産を相続人Aに承継させた上で,相続人Bが使用する権利を設定するという方法は,柔軟な方法といえますが,法的性質はどうなるのでしょうか。
これについては,当該財産の所有権と(所有権の一部である)利用権に分けた,という意味で,現物分割の1形態であると考えます。

<用益権設定による分割の基本>

あ 分割方法(類型)

遺産である財産の上に,一部の相続人について不動産等の賃借権あるいは使用貸借に基づく使用権を設定する分割方法である

い 法的位置づけ

審判においても,所有権を交換価値と使用価値に分離して,異なる相続人に分割取得させることであり,現物分割の一態様として認められる
※糟谷忠男『遺産分割の審判における分割の方法』/東京家庭裁判所身分法研究会編『家事事件の研究(1)』1970年
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p398

3 用益権設定の種類(認める規定と裁判例)

実際に裁判所が設定する用益権の種類としては,従来は,賃借権使用借権の2つでした。民法の平成29年改正によって,配偶者居住権も創設されたので,今後はこれも有力な選択肢となっています。

<用益権設定の種類(認める規定と裁判例)>

あ 賃借権

※富山家審昭和42年1月27日
※東京家審昭和52年1月28日
※東京高決平成22年9月13日(一時使用目的の建物賃借権)

い 使用借権

※浦和家審昭和41年1月20日
※高松高決昭和45年9月25日

う 配偶者居住権

ア 条文規定 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は,被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において,次の各号のいずれかに該当するときは,その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし,被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては,この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
※民法1028条1項
イ 運用の傾向 配偶者居住権は,遺産分割における選択肢として活用が見込まれる
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p399

4 用益権設定を認める事情

用益権の設定を採用した場合,その後,所有者と利用者という関係が継続することになります。そこで,他の分割類型が選択できない,また,所有者と利用者の関係が良好であるという事情が必要とされます。

<用益権設定を認める事情>

あ 基本

代償分割や換価分割等によることが適切でない事情(=利用権設定が必要かつ妥当であるか)を十分に検討すべきである
当該遺産の形状や利用態様,当事者の関係等,とりわけ,用益の当事者が継続して良好な関係を維持できる見通しがあるかが重要である
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p399

い 当事者の承諾を要件とする見解

用益権設定自体について当事者が承諾している事案に限られる
※石田忠雄「用益権設定の方法による遺産分割の可否」/『判例タイムズ688号』1989年p244

5 用益権設置における決定事項

相続人の合意(協議,調停)による場合でも,裁判所の判断(審判)による場合でも,用益権の設定による分割をする場合には,単に「使用できる」だけでなく,権利の種類や期間など,用益権の内容をはっきりと決めておくことが求められます。

<用益権設置における決定事項>

用益権を設定する場合は,用益権の種類,賃料の有無,額,期間等を具体的に定める必要がある
※福岡高決昭和43年6月20日(主文にて内容を明示すべき)

本記事では,遺産分割の分割類型のうち,用益権の設定という方法を説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に相続や遺産分割に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。