【借地契約の増改築禁止特約の有効性と違反への解除の効力】

1 増改築禁止特約の有効性

借地上の建物の増改築を禁止する特約がある借地は多いです。
建物の増改築が行われた場合、建物の寿命が伸びます。
そうすると、地主は大きな不利益を受けます。
そのため、増改築を制限(禁止)する特約は有効とされています。

増改築禁止特約の有効性

あ 増改築禁止特約の典型例

増改築や改築には地主の承諾を要する
承諾なしに行った場合には地主は契約を解除できる

い 増改築禁止特約の有効性

ア 判例(概要) 増改築禁止禁止特約は有効である
ただし違反による解除を制限する(後記※1
※最判昭和41年4月21日(部分的有効説)
イ 学説 今日の学説は、基本的にこの立場(折衷説=部分的有効説)を支持しており(高島・判例(上)110、森泉契約大系Ⅲ91、広中・判例(1)46、星野・借地借家196など)、・・・
※鎌野邦樹稿/稲本洋之助ほか編『コンメンタール借地借家法 第4版』日本評論社2019年p131

2 再築禁止特約の有効性(概要)

建物の再築(建替え)を制限(禁止)する特約もあります。
この有効性については、無効と有効の判例があります。
実務では一般的に有効としつつ、違反に対する解除について制限を加えるという扱いをしています。

再築禁止特約の有効性(概要)

あ 複数の見解

借地上の建物の再築を禁止・制限する特約の有効性について
→無効と有効の見解がある

い 実務的な見解

『再築』は『増改築(禁止)』に含まれる
→実務では一般的に有効とする
一方で違反による解除を制限する(後記※1
詳しくはこちら|再築禁止特約と増改築許可の利用(新旧法共通)

3 修繕を禁止する特約の有効性(概要)

特約としては『修繕』も禁止に含める条項が実際に多いです。
『大修繕』については禁止することができます。

修繕を禁止する特約の有効性(概要)

禁止する修繕 特約の有効性
大修繕 有効
通常の修繕 無効

詳しくはこちら|借地上の建物の『修繕』の意味と修繕禁止特約の有効性

4 増改築禁止特約による解除の効力(基準)

増改築禁止特約は一般的に有効とされています(前述)。では、増改築禁止特約があるのに、借地人が無断で増改築の工事をした場合には借地契約の解除ができるのでしょうか。理論的には解除できるのが原則ですが、信頼関係が破壊されていないものとして、解除が認められない、ということがあります。

増改築禁止特約違反による解除の有効性(昭和41年判例の基準)(※1)

一般に、建物所有を目的とする土地の賃貸借契約中に、賃借人が賃貸人の承諾をえないで賃借地内の建物を増改築するときは、賃貸人は催告を要しないで、賃貸借契約を解除することができる旨の特約(以下で単に建物増改築禁止の特約という。)があるにかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで増改築をした場合においても、この増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、賃貸人が前記特約に基づき解除権を行使することは、信義誠実の原則上、許されないものというべきである。
※最判昭和41年4月21日
※最高裁昭和44年1月31日(同趣旨)
※東京高裁昭和45年10月29日(同趣旨)
※最判昭和51年6月3日(同趣旨)

なお、一般的な信頼関係破壊の理論については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論と背信行為論の基本(同質性・主な3つの効果)

5 増改築禁止特約違反による解除が否定された工事内容

前記の判例(昭和41年最判)の事案の内容は、木造2階建の建物の2階部分の床面積を6坪から14坪に拡げて、自宅から賃貸用に変更するというある程度規模の大きい工事でした。これについて最高裁は、住宅用であることには変わらないということで、土地の通常の利用上相当であり、信頼関係を破壊しない、つまり解除は無効であると判断しました。

増改築禁止特約違反による解除が否定された工事内容

あ 改造工事の内容→2階を賃貸用にした

・・・両者間に建物増改築禁止の特約が存在し、被上告人が該地上に建設所有する本件建物(二階建住宅)は昭和七年の建築にかかり、従来被上告人の家族のみの居住の用に供していたところ、今回被上告人はその一部の根太および二本の柱を取りかえて本件建物の二階部分(六坪)を拡張して総二階造り(一四坪)にし二階居宅をいずれも壁で仕切つた独立室とし、各室ごとに入口および押入を設置し、電気計量器を取り付けたうえ、新たに二階に炊事場、便所を設け、かつ、二階より直接外部への出入口としての階段を附設し、結局二階の居室全部をアパートとして他人に賃貸するように改造したが、住宅用普通建物であることは前後同一であり、建物の同一性をそこなわないというのであつて、右事実は挙示の証拠に照らし、肯認することができる。

い 判断→解除権否定

そして、右の事実関係のもとでは、借地人たる被上告人のした本件建物の増改築は、その土地の通常の利用上相当というべきであり、いまだもつて賃貸人たる第一審原告(脱退)Hの地位に著しい影響を及ぼさないため、賃貸借における信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない事由が主張立証されたものというべく、従つて、前記無断増改築禁止の特約違反を理由とする第一審原告(脱退)Hの解除権の行使はその効力がないものというべきである。
※最判昭和41年4月21日

個別的な判断ですので、現在でも、同じような規模の工事について、解除が否定されるとは限りません。

6 増改築禁止特約違反による解除の裁判例(概要)

実際に、借地人が行った工事が増改築禁止特約に違反するケースも多いです。
形式的に違反(債務不履行)でも、解除の効果は否定される傾向が強いです。
多くの裁判例を、別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|増改築禁止特約の違反による解除の効力(裁判例集約)

本記事では、借地契約の増改築禁止特約の有効性と、この特約の違反を理由とする解除の有効性について説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地上の建物の増改築、建替に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【借地上の建物の『修繕』の意味と修繕禁止特約の有効性】
【借地における増改築禁止特約の設定の実情とあいまいな特約の解釈】

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