【自己借地権の要件と具体的ケースにおける自己借地権の成否】

1 自己借地権の要件と具体的ケースにおける自己借地権の成否

借地契約の貸主(借地権設定者)と借主(借地権者)が同一の者である、というものは、民法上は認められていません。しかし、一定の範囲で、例外的に自己借地権として認められます。
詳しくはこちら|自己借地権の基本(混同回避の趣旨・種類・認める範囲)
実務では、自己借地権として認められるのか、または認められない、つまり民法の原則どおり借地契約(借地権)はないことになるかという意見が対立することがあります。
本記事では、自己借地権が認められる要件と、具体的ケースについて自己借地権が成立するかどうかの判断を説明します。

2 自己借地権設定の要件の基本的部分

借地借家法の条文上、自己借地権の設定が認められるのは、借地権を他の者と共に有する場合(だけ)です。条文の規定はとてもシンプルです。

自己借地権設定の要件の基本的部分

あ 原始的自己借地権の条文

借地権を設定する場合においては、他の者と共に有することとなるときに限り、借地権設定者が自らその借地権を有することを妨げない。
※借地借家法15条1項

い 要件の基本部分

借地権を他の者と共に有する(こととなるとき)ことが必要である
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p116、117
※小賀野晶一稿/『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p94

3 自己借地権設定の合意の主体

自己借地権が成立するためには、借地権者は、借地権設定者とそれ以外の者の2者(以上)である必要があります。借地権の準共有の状態であるということです。

自己借地権設定の合意の主体

あ 当事者

ア コンメンタール借地借家法 自己借地権の設定は、土地所有者(借地権設定者)借地権設定者でない借地権者との合意で行う契約である
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p117
イ 新基本法コンメンタール 自己借地権の設定は、土地所有者土地所有者でない借地人とが、借地権の設定を合意することによって行われる。
※小賀野晶一稿/『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p95

い 借地権者

ア コンメンタール借地借家法 自己借地権の設定が認められるのは、土地所有者すなわち借地権設定者が自己と自己以外の者をともに借地権者とする場合である
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p117
イ 新基本法コンメンタール ・・・本条(注・借地借家法15条)は、自己借地権を無限定に認めるものではなく、借地権を借地権設定者と借地権設定者以外の者が準共有する場合にのみ認めた。
本条は土地所有者が他人とともに借地人となる場合に限り、借地権は消滅しないことを明らかにした。
※小賀野晶一稿/『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p94

4 自己借地権が認められるケース

自己借地権が認められる典型例は、借地権者ABのうち一方Aが借地権設定者であるというものです。同様に、借地権者ABCのうち一部ABが借地権設定者であるというケースもあります。また、借地権者ACのうち一方Aが、借地権設定者の一部であるというケースもあります。

自己借地権が認められるケース

あ AからABへの設定(※1)

借地権設定者Aが、自己と借地権設定者でないBとを借地権者とする場合

い ABからABCへの設定

土地共有者A・Bが借地権設定者となる場合において、A・BとCを借地権準共有者とする借地権が認められることはいうまでもない
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p117
※小賀野晶一稿/『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p96(同内容)
※寺田逸郎稿『自己借地権』/『NBL494号』1992年p29(同内容)

う ABからACへの設定(※2)

借地権設定者全員を借地権者とする必要はなく、A・Bが借地権設定者となる場合、AとCを借地権準共有者とするような借地権も認められる
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p117
※法務省民事局参事官編『一問一答新しい借地借家法』商事法務研究会1992年p144、145
※寺田逸郎稿『自己借地権』/『NBL494号』1992年p29
※小賀野晶一稿/『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p96(同内容)
※東京地裁民事執行実務研究会編著『改訂 不動産執行の理論と実務(上)』法曹会2003年p284

5 土地共有者の一部の同意のない借地権設定(否定・参考)

(前記※2)のケースにおいて、土地の共有者Bの協力が得られなかったケースを想定します。そうすると、借地権者ACのうち一方Aが借地権設定者であるということになります。自己借地権が成立する典型です(前記※1)。
しかしこの場合は、自己借地権の要件以前に、別の理由で借地権自体が認められません。
共有の土地に借地権を設定することは共有物の処分行為として共有者全員の同意が必要なのです。一部の共有者が同意しない以上は借地権設定としては無効なのです。

土地共有者の一部の同意のない借地権設定(否定・参考)

あ 共有物の処分行為該当性(前提)

共有土地への借地権設定は共有物の処分行為なので共有者の全員の同意が必要である
詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容

い 自己借地権の判定(否定)

関連問題として、A・B共有の土地についてAが単独で借地権設定者となり、A・Cを借地権準共有者とすることができるかという問題があるが、Bが不関知であればできないと解される
なぜなら、Aの土地所有権の共有持分の上に地上権や賃借権のような用益権を設定することはできないからである
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p117

6 自己借地権が認められないケース

自己借地権が認められるのは、借地権者が、借地権設定者プラス別の者である場合のみです(前記)。この別の者とは、借地権設定者ではない者です。
借地権設定者がAB、借地権者がAであるケースを想定します。借地権者Aの中に別の者(=借地権設定者ABではない者)が存在しません。そこで自己借地権は認められません。民法の混同の規定が適用され、借地権は存在しないことになります。

自己借地権が認められないケース

あ 一般論

借地権者となる者に借地権設定者でない者がいない場合には、借地権の設定は認められない

い ABからAへの設定

たとえばA・Bが所有する土地をAだけが使用するような場合には、借地権の設定は認められない
この場合には、土地利用に関する共有者間の合意という形で占有権原が存在する
※寺田逸郎稿『自己借地権』/『NBL494号』1992年p29
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p117
※小賀野晶一稿/『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p96(同内容)

7 後発的な借地権準共有解消に自己借地権を適用する提唱

自己借地権が問題なく成立した後に、借地権設定者が借地権者から(建物と)借地権を買い取ることで借地権者は1人だけとなってしまう、ということもあり得ます。借地権が準共有ではなくなったので、自己借地権にあてはまらなくなり、原則どおり混同により借地権は消滅します。
この場合には、その後、建物と借地権を販売して再び借地権者が複数になる(準共有となる)ことが予定されることもあります。そこで、一時的なのだから借地権を消滅させない(存続させる)べきである、という見解もあります。

後発的な借地権準共有解消に自己借地権を適用する提唱

あ 上原由起夫氏見解

しかし、たまたま全戸を買い戻したり、借地権付分譲マンション売買契約が解除されたことにより、土地所有者がすべての区分所有権者になった場合には、「他の者」が存在しないので自己借地権は混同で消滅してしまう。
ふたたび売却することを念頭に置くならば二項については「他の者と共にその借地権を有するときは」という要件をはずした方が流通促進という観点からは望ましかったであろう。
有価証券の戻裏書に関しては規定がなくても混同原則の例外とするのが通説である。
自己借地権も一個の客観的財産として取得保有しうるものと認めるべきであろう。
※上原由起夫稿『自己借地権』/『法律時報64巻6号』日本評論社1992年5月p41、42

い 生熊長幸氏見解

本条2項によれば、先の例で、Aが分譲した、借地権を敷地利用権とする区分所有建物を後に全戸取得した場合には、Aの取得した借地権は混同により消滅することになる。
この点については、Aがその後再び第三者に、借地権を敷地利用権とする区分所有建物を譲渡する可能性がある以上、自己借地権は消滅しないとする余地があるのではないかとする批判があり(上原由起夫「自己借地権」法時64巻6号〔平4〕42、岩城・前掲論文82)、この見解を支持したい。
※生熊長幸稿/幾代通ほか編『新版 注釈民法(15)増補版』有斐閣2003年p882

う 岩城謙一氏見解

しかし、自己借地権を設定した土地上のすべての建物を設定者が買い取ったような場合には、右の要件には該当しないから、自己借地権は消滅することになる。
この点は、商法が株式会社については、かって、有限会社と異なり、株主が一人になることは、解散原因にはならない、としていたことを想起させる。
平成二年の改正前における一人株主会社の存続の説明としては、たまたま株式が一人の手に帰属しても、その後に他に一部譲渡する可能性がある以上、それは過渡的な現象にすぎないから、とするものがあった。
同様の議論として、一時的に借地上の建物がすべて設定者の所有に帰しても、自己借地権は消滅しないとできる場合もあるのではないか、と考える。
もっとも、そのような理論で救済を必要とするケースはなにか、はすぐに思いつかないが。
※岩城謙一稿『自己借地権』/『ジュリスト1006号』有斐閣1992年8月p82

8 自己借地権に関する判例の不存在

ところで、自己借地権の判断についての判例はまだ見当たりません。そこで実務では、事情が複雑であるケースでは自己借地権が成立するかどうかの意見が激しく対立することがあります。

自己借地権に関する判例の不存在

・・・本条(注・借地借家法15条)の自己借地権そのものをめぐる裁判例は今までのところないようである。
※小賀野晶一稿/『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p99

本記事では自己借地権の要件や具体的ケースについて自己借地権が成立するかどうかの判断を説明しました。
実際には個別的な事情によって判断が違ってくることがあります。
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