1 自己借地権の要件と具体的ケースにおける自己借地権の成否
2 自己借地権設定の要件の基本的部分
3 自己借地権設定の合意の主体
4 自己借地権が認められるケース
5 土地共有者の一部の同意のない借地権設定(否定・参考)
6 自己借地権が認められないケース
7 自己借地権に関する判例の不存在

1 自己借地権の要件と具体的ケースにおける自己借地権の成否

借地契約の貸主(借地権設定者)と借主(借地権者)が同一の者である,というものは,民法上は認められていません。しかし,一定の範囲で,例外的に自己借地権として認められます。
詳しくはこちら|自己借地権の基本(混同回避の趣旨・種類・認める範囲)
実務では,自己借地権として認められるのか,または認められない,つまり民法の原則どおり借地契約(借地権)はないことになるかという意見が対立することがあります。
本記事では,自己借地権が認められる要件と,具体的ケースについて自己借地権が成立するかどうかの判断を説明します。

2 自己借地権設定の要件の基本的部分

借地借家法の条文上,自己借地権の設定が認められるのは,借地権を他の者と共に有する場合(だけ)です。条文の規定はとてもシンプルです。

<自己借地権設定の要件の基本的部分>

あ 原始的自己借地権の条文

借地権を設定する場合においては、他の者と共に有することとなるときに限り、借地権設定者が自らその借地権を有することを妨げない。
※借地借家法15条1項

い 要件の基本部分

借地権を『他の者と共に有する(こととなるとき)』ことが必要である
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p116,117
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p91

3 自己借地権設定の合意の主体

自己借地権が成立するためには,借地権者は,借地権設定者とそれ以外の者の2者(以上)である必要があります。借地権の準共有の状態であるということです。

<自己借地権設定の合意の主体>

あ 当事者

自己借地権の設定は,土地所有者(借地権設定者)借地権設定者でない借地権者との合意で行う契約である
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p117

い 借地権者

自己借地権の設定が認められるのは,土地所有者すなわち借地権設定者が自己と自己以外の者をともに借地権者とする場合である
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p117

4 自己借地権が認められるケース

自己借地権が認められる典型例は,借地権者ABのうち一方Aが借地権設定者であるというものです。同様に,借地権者ABCのうち一部ABが借地権設定者であるというケースもあります。また,借地権者ACのうち一方Aが,借地権設定者の一部であるというケースもあります。

<自己借地権が認められるケース>

あ AからABへの設定(※1)

借地権設定者Aが,自己と借地権設定者でないBとを借地権者とする場合

い ABからABCへの設定

土地共有者A・Bが借地権設定者となる場合において,A・BとCを借地権準共有者とする借地権が認められることはいうまでもない
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p117

う ABからACへの設定(※2)

借地権設定者全員を借地権者とする必要はなく,A・Bが借地権設定者となる場合,AとCを借地権準共有者とするような借地権も認められる
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p117
※法務省民事局参事官編『一問一答新しい借地借家法』商事法務研究会1992年p144,145
※寺田逸郎『新借地借家法の解説(4)』/『NBL494号』1992年p29
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p92
※東京地裁民事執行実務研究会編著『改訂 不動産執行の理論と実務(上)』法曹会2003年p284

5 土地共有者の一部の同意のない借地権設定(否定・参考)

前記※2のケースにおいて,土地の共有者Bの協力が得られなかったケースを想定します。そうすると,借地権者ACのうち一方Aが借地権設定者であるということになります。自己借地権が成立する典型です(前記※1)。
しかしこの場合は,自己借地権の要件以前に,別の理由で借地権自体が認められません。
共有の土地に借地権を設定することは共有物の処分行為として共有者全員の同意が必要なのです。一部の共有者が同意しない以上は借地権設定としては無効なのです。

<土地共有者の一部の同意のない借地権設定(否定・参考)>

あ 共有物の処分行為該当性(前提)

共有土地への借地権設定は共有物の処分行為なので共有者の全員の同意が必要である
詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容

い 自己借地権の判定(否定)

関連問題として,A・B共有の土地についてAが単独で借地権設定者となり,A・Cを借地権準共有者とすることができるかという問題があるが,Bが不関知であればできないと解される
なぜなら,Aの土地所有権の共有持分の上に地上権や賃借権のような用益権を設定することはできないからである
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p117

6 自己借地権が認められないケース

自己借地権が認められるのは,借地権者が,借地権設定者プラス別の者である場合のみです(前記)。この別の者とは,借地権設定者ではない者です。
借地権設定者がAB,借地権者がAであるケースを想定します。借地権者Aの中に別の者(=借地権設定者ABではない者)が存在しません。そこで自己借地権は認められません。民法の混同の規定が適用され,借地権は存在しないことになります。

<自己借地権が認められないケース>

あ 一般論

借地権者となる者に借地権設定者でない者がいない場合には,借地権の設定は認められない

い ABからAへの設定

たとえばA・Bが所有する土地をAだけが使用するような場合には,借地権の設定は認められない
この場合には,土地利用に関する共有者間の合意という形で占有権原が存在する
※寺田逸郎『新借地借家法の解説(4)』/『NBL494号』1992年p29
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p117
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p92

7 自己借地権に関する判例の不存在

ところで,自己借地権の判断についての判例はまだ見当たりません。そこで実務では,事情が複雑であるケースでは自己借地権が成立するかどうかの意見が激しく対立することがあります。

<自己借地権に関する判例の不存在>

本条(借地借家法15条)の自己借地権そのものをめぐる裁判例は今までのところないようである
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p94

本記事では自己借地権の要件や具体的ケースについて自己借地権が成立するかどうかの判断を説明しました。
実際には個別的な事情によって判断が違ってくることがあります。
実際に借地・貸地に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。