【共有物の賃貸借の解除の意思表示の方法(反対共有者の扱い)】

1 共有物の賃貸借の解除の意思表示の方法(反対共有者の扱い)

共有物を対象とした賃貸借契約があり、賃借人が債務不履行をしたため、解除できる状況で、賃貸人(共有者)から解除をするためには、共有持分の過半数の決定(多数決)が必要になります。原則として賃貸借の解除は管理行為と分類されているからです。
詳しくはこちら|共有物の「貸借契約」の解除を管理行為とした判例(昭和39年最判)
では、共有者全体の意思決定として解除すると決定した後に、共有者全体(賃貸人)として、賃借人に対して解除の意思表示(伝える・通知すること)をすることになります。ここで、解除の意思表示は誰が、誰の名義で行うか、という問題があります。本記事ではこの問題について説明します。

2 民法544条の条文(解除権の不可分性)

この問題に関しては、民法544条(解除の不可分性)をどのように解釈するか、ということが関係してきます。最初に条文を確認しておきます。
要するに、賃貸人が複数人(ABC)である場合には、解除は、全員から全員の名で)賃借人Dに通知する必要がある、と読める規定です。AとBだけ解除してCは解除しない(CとDの間にだけ契約が残る)、という状態を無理やり作り出そうとすると法律関係が複雑になってしまうからこれを禁止する趣旨です。

民法544条の条文(解除権の不可分性)

当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。
※民法544条1項

3 昭和39年最判による「解除権不可分の原則」の適用排除(概要)

この問題についての重要な判例があります。昭和39年最判は、賃貸借(貸借契約)の解除は共有物の管理行為に該当する、つまり共有持分の過半数で決定できる、判断しました。その上で、民法544条(解除権の不可分性)は適用しないという判断を示したのです。判例の読み方自体が複数ありますが、解除の通知は全員の名でなくてもよいという読み方が一般的です。ただし、現在ではこれを否定する見解の方が一般です(後述)。
詳しくはこちら|共有物の「貸借契約」の解除を管理行為とした判例(昭和39年最判)

4 近江氏見解=昭和39年最判の紹介のみ

この問題については多くの学者が議論しています。
近江氏は、(自身の見解というわけではなく)昭和39年最判は、全員による解除でなくてもよいと読める、ということだけを指摘しています。

近江氏見解=昭和39年最判の紹介のみ

(注・民法544条について)
ii 252条との競合
賃貸目的物が複数人の共有である場合に、その賃貸借契約を解除することは、共有物の「管理」の一環であろうか。
もし、そう解するならば、252条により全員による解除でなくてもよく(過半数で決する)、その限りで544条1項は適用されないことになる。
判例は、この立場である(最判昭39・2・25民集18巻2号329頁)。
※近江幸治著『民法講義Ⅴ 契約法 第4版』成文堂2022年p88

5 星野氏見解=全員の名が必要

星野氏は、解除は(共有者)全員の名で行う必要があるという見解です。理由は、民法544条に加えて、共有者全体として意思決定をしたことを示すという点も指摘しています。

星野氏見解=全員の名が必要

(ハ)解除の意思表示はどのようにするか。
(i)解除者が数人いる場合には、民法五四四条により、実質的にも意思決定が適法になされたことを示すために、全員から(つまり全員の名で)するのが妥当であろう。
※星野英一著『民法概論Ⅳ(契約)』良書普及会1994年p87

6 潮見氏見解=全員の名+代理が必要(授権への言及なし)

潮見氏も、解除は全員の名で行う必要があるという見解です。たとえば、共有者全員ABCが連名で通知書を作って賃借人Dに送付することになります。ここで、Cが協力しない場合はどうなるでしょうか。AかBがCの代理人なればよいという説明になっています。代理人になるためには、代理権の授与(授権)が必要ですが、これをどうやってクリアするのか、については示されていません。

潮見氏見解=全員の名+代理が必要(授権への言及なし)

あ 意思決定と実行行為の区別

Ⅱ 複数当事者内部の意思決定
解除権不可分の原則は、あくまでも契約の相手方に対する解除権の行使方法を定めたものにすぎない。
それを超えて、複数当事者の内部での意思決定の方法までも規定するものではない
それゆえ、解除権者が複数の場合に、契約を解除することについての意思決定が内部で有効にされたか否かは、民法544条1項を離れて、当該複数当事者内部に妥当する法律関係に関する規範(共有の法理、組合・共同事業の法理等)に従って判断される。

い 実行行為→全員の名が必要

しかし、この場合においても、賃借人に対する解除の意思表示は、民法544条1項により、全員の名でしなければならない

う 反対者→「代理」が必要(授権への言及なし)

(反対者がいる場合には、この者を代理して解除の意思表示をするということになる)。

え 昭和39年最判の批判

ところが、判例(注・最判昭和39年2月25日)は、このような場合に、賃貸借契約の解除は管理行為にあたるから単独での解除は特別の事情がない限り許されないと判断した際に、さらに進んで、賃貸借契約の解除は管理行為にあたるから民法544条1項の規定の適用が排除されるとの法理も立てている。
しかし、後者の法理に対しては疑問がある。
※潮見佳男著『新債権総論Ⅰ』信山社出版2017年p553、554

7 広中俊雄氏見解=授権を認める方向

広中俊雄氏は、過半数を制した共有者実行について管理権を取得すると指摘しています。反対共有者からの授権があるという扱いにする、その上で共有者全員の名で解除の意思表示をする、と読めると思います。

広中俊雄氏見解=全員の名が必要+授権みなし方向

あ 授権みなし方向

(注・管理分類の行為の意思決定一般について)
「各共有者ノ持分ノ価格ニ従ヒ其過半数ヲ以テ」決定された事項については、「過半数」を制した共有者がその実行について管理権を取得するものと解することが妥当である。

い 昭和39年最判との関係

「共有者が共有物を目的とする貸借契約を解除することは民法二五二条にいう〔同条本文の適用を受ける〕『共有物ノ管理ニ関スル事項』に該当し、右貸借契約の解除〔の意思表示〕については民法五四四条一項の規定の適用が排除される」とする判例(共同相続の場合に関するが、最判昭三九・二・二五民集三三一頁)は、意思決定の問題を決定の実行の問題に直結させているきらいがあるけれども、右のような理解を基礎にすえることによって正当と評価されうる。
※広中俊雄著『現代法律学全集6 物権法 第2版増補』青林書院1992年p428

8 平野氏見解=全員の名が必要+授権を認める

(1)「判例民法」=全員の名が必要+授権を認める

平野氏は、共有者間の、共有物の使用方法の意思決定一般について、その後の実行行為については、共有者全員の名で行うことが必要であるという見解です。具体例としては、賃貸借契約の締結と賃貸借の解除を挙げています。
そして、意思表示の授権については、意思決定の中に含まれるという見解です。各共有者が、他の共有者の代理人となる、という考え方です。

「判例民法」=全員の名が必要+授権を認める

あ 実行行為(解除の意思表示)に関する規定の不存在

(3)管理実行(注・「管理行為」が正しいと思われる)について決定後の実行行為
共有者内部での意思決定は持分の多数決で「決する」ことができるが、その実行については規定がない
この点は、組合財産についても同様であったが、2017年改正法(平成29年法律44号)は「決定」とその「執行」とについてそれぞれ明記をした(670条以下)。
共有については依然としてこの点は明確ではないので、解釈に任されることになる。

い 意思決定に代理権授与を含む(共有者間の意思決定一般論)

決定に際して実行権者を決めたならば、その権限を授与された者のみが権限を持つことになる。
これに対し、特に共有者の一部ないし第三者に実行権限を付与していなければ、共有者全員が実行権限を有するものと考えられる。
事実行為(廃棄処分等)をするだけでなく、契約などの意思表示をする場合には共有者全員を代理する代理権が認められることになる。

う 賃貸借契約締結→全員の名が必要+授権認定

例えば、不動産を賃貸するということを決めた場合には、全員を貸貸人とする賃貸借契約が締結されるべきことになり、そうすると各共有者は自分の名及び他の共有者の代理人を兼ねて契約を締結することになる。
したがって、意思決定にはこのような代理権授権も含まれ、特に実行権者を限定しない限り、共有者全員がこの代理権を認められることになる。
※平野裕之稿/能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 第3版』第一法規2019年p350

え 解除の意思表示→全員の名が必要

・・・解除では、共有物という物権関係を離れて、賃貸借契約という債権関係を問題にしなければならないので、解除の効果は賃貸人たる共有者全員に帰属しなければならず、ここでは解除権不可分の原則は回避できないはずである。

お 解除の意思表示→授権を認める

そして、解除の意思決定においては、解除の意思表示についての代理権授与の決定も併せて可能であり、それにより全員の名で解除をする権限が認められるので、いわば全員を代表して1つの契約全部の解除の意思表示ができるというべきである。

か 解除の意思表示・まとめ

要するに、解除の意思決定は持分の過半数ででき、他方で、解除の意思表示は全員がしなければならない―全員に解除の効果が帰属しなければならず全員の意思表示が必要である―が、解除をする共有者は反対の共有者も含めて全員の名で実行として解除ができるので、何も不都合はないのである。
※平野裕之稿/能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 第3版』第一法規2019年p355

(2)「契約法」=全員の名が必要(「賃貸人」の名)

前記の平野氏は、別の著書でも同じ論点の説明をしています。解除の意思表示は全員の名が必要だということを前提として、「賃貸人の名で(ABを意味する)」意思表示をするという説明です。一見、通知書に「賃貸人」とだけ記載して、共有者の氏名は記載しなければ、それが共有者全員を意味するから、授権をどうするかの問題は避けられるという発想かな、と思いましたが、実際にそのような通知書だと誰が効果帰属主体かが分からないのでそのようなことはないです。結局、前記の文献(判例民法)における説明と同じように、授権を認めて、「賃貸人AB」と記載する、ということを意味していると思われます。

「契約法」=全員の名が必要(「賃貸人」の名)

あ 民法252条と544条の関係→3つの問題に分解

◆共有物の管理と解除権不可分の原則
以上の説明は賃貸借契約の解除にも妥当するが、共有規定との関係については議論がある。
例えば、ABがCに賃貸されている不動産を共同相続により取得し、相続分、したがって持分はAが3分の2、Bが3分の1であるとする。
Cが賃料の支払を遅滞する場合、解除をするかどうかは共有物の管理に関する事項なので、252条により持分の過半数で「決する」ことができる。
したがって、Aが解除をするかどうか決められることになる。
ところが、解除権はABに1つの権利として帰属し、544条によりABが全員で行使をしなければならない
また、解除権の準共有であり(264条)、解除権の行使処分になるので全員の同意が必要である。
①252条は持分の過半数で決する、
②264条では全員の同意で決する、
③544条で解除は全員の行使が必要、
とこれら3つの規定の関係が問題になる。
①と②が内部的意思決定で、③は決定されたことの実行であり、抵触が問題になるのは①と②である。

い 昭和39年最判の批判+自説

判例は、「共有者が共有物を目的とする貸借契約を解除することは民法252条にいう『共有物ノ管理ニ関スル事項』に該当し、右貸借契約の解除については民法544条1項の規定の適用が排除される」とした(最判昭39・2・25民集18巻2号329頁)。
①と③が抵触するという理解であるが、①②の抵触を問題とすべきであり、共有物の管理規定が優先適用され、②は適用排除されると考えるべきである。
したがって、Aは持分の過半数を有するので解除を決定できる。

う 全員の名が必要(「賃貸人」の名)

そして、解除は544条に基づき全員の名で行い全員に効力が生じる必要があるので、Aは賃貸人の名で(ABを意味する)解除を実行することができる。
①と③は抵触するものではない。
※平野裕之著『債権各論Ⅰ 契約法』日本評論社2018年p112、113

(3)「物権法」=全員の名が必要+授権を認める

さらに平野氏の別の著書でも、解除に限らず、共有物を対象とする契約一般について、全員が当事者となる必要がある、という見解が示されています。また意思決定の段階で実行する者を決めていない場合には共有者の全員が実行権限をもつ、つまり授権があったものとする、という見解が示されています。

「物権法」=全員の名が必要+授権を認める

あ 授権みなし

(注・管理分類の行為の意思決定一般について)
意思決定に際して、誰が実行できるかを決めていればそれに従うが、決められていない場合には、共有者の全員に実行権限また代理権が認められる(広中428頁)。

い 意思表示は全員が必須

契約ないし意思表示の当事者については、全員を当事者とする必要があり、各共有者が全員を当事者とする意思表示ができると考えるべきである。
例えば、AB共有の土地を、Aが裁判所の許可を得て単独で売却することを決めた場合、AはABを売主とする売買契約を締結できる(→21-15)。
不動産を賃貸することを決めた場合には、全員を賃貸人とする賃貸借契約が締結されるべきである。

う 昭和39年最判との関係→批判

賃貸借の解除も同様であり、解除の内部的意思決定は持分の多数で決められるが、解除は全員の名でしなければならない
したがって、解除権不可分の原則(544条)とは抵触することはなく、持分の過半数で解除が決まったら、全員の名で解除の意思表示ができるのである。
判例は、「民法544条1項の規定の適用が排除される」と説明するが(最判昭39.2.25民集18巻2号329頁)、適切ではない。
※平野裕之著『物権法 第2版』日本評論社2022年p366

9 谷口氏見解=全員の名が必要+授権みなし

古い時代の見解ですが、谷口氏は、解除の意思表示は全員の名で行うことが必要であるということを前提として、意思表示(通知)の委任をしたものとみなす(授権があるものとみなす)という見解です。

谷口氏見解=全員の名が必要+授権みなし

あ 解除の意思表示→全員の名が必要

さて過半數で解約すると決定した場合に、これに基く解約告知は全員から全員へ爲されねばならないことは本判決(注・大判昭和29年3月12日)が認めている如くだが、解約反對者は恐らく通知を出さないであろう。

い 「全員の名」を実現する3つの方法

ア 第1説=協力義務 この場合管理協力義務を認め通知を爲すべきか、
イ 第2説=授権みなし(採用) 反對者も決議において通知を發すことの委任を爲したものと看做し賛成者において反對者の名をも連記して有効に解約告知を爲しうると解すべきか、或は
ウ 第3説=家裁の手続(立法論) 家庭裁判所をして管理人を選任せしめて共同相続人全員に代つて通知を爲さしむべきだと解しうるか

う 見解

疑問であるが、私は第二説を採りたい
※谷口知平稿『共同相續人の一人が相續財産たる家屋の使用借主である場合と他の共同相續人のなす使用貸借の解除』/『民商法雑誌31巻2号』1955年6月p224

谷口氏の見解のうち、解除は全員の名で行うというところで、昭和29年最判がこれを認めていると指摘していますが、この判例は、「通知の名(は全員を要する)」という判断を直接示しているわけではありません。昭和29年最判は、共有者3人のうち1人が借主であったケースで、残りの2人が貸主として通知をする、という原審の判断を維持したものです。
詳しくはこちら|共有物の使用貸借の契約締結・解除(解約)の管理・処分の分類

10 村松聡一郎見解=全員の名が必要+授権みなし方向(参考)

最近の実務家の文献にも解除の通知について全員の名が必要であり、授権があったものとみなすという記述があります。これは、前述の平野氏や谷口氏の(伝統的な)見解を採用したものであると思われます。

村松聡一郎見解=全員の名が必要+授権みなし方向(参考)

あ 全員の名は必要ではない見解(前提)

この点については、解除の意思決定も、解除の意思表示も、賛成した者のみで行えばよいというのが判例の立場と整合するという見解もあります。
この見解は、解除に反対する意見を述べた者までも解除の意思表示に名義を連ねなければならないことは不合理だと理由づけます。

い 自説=全員の名が必要

しかしながら、解除の効果は、解除に反対する意思を示した者についても及ぶ以上、解除に反対した一部の共有者につき、解除の効果は及ぶのに解除の意思表示を行わないというのも不自然です。

う 昭和39年最判の読み取り方

そこで、解除の意思表示は、解除の効果が及ぶ全員の名義で行うべきと考えられます。
この考え方によると、前掲最判昭39・2・25は、解除の意思決定に関する判断であり、解除の意思表示については判断していないと考えることになります。

え 授権みなし方向

したがって、解除の意思表示(賃借人への通知方法)については、解除に反対の意思表示をした共有者も含めた賃貸人全員の名義で行うことが適当であると考えます。
※村松聡一郎稿/鈴木一洋ほか編『共有の法律相談』青林書院2019年p67

11 中田氏見解=全員の名が必要+4とおり授権の方法

中田氏はまず、解除の意思表示は全員の名が必要であることを前提として、授権については4とおりの考え方(方法)がある、と整理します。
まず、意思表示を求める訴訟による方法です。判決を得れば、反対者(被告)の名も正式に入れた解除の意思表示ができることになります。ただ、大げさな手続であり、現実的ではないと指摘しています。
ただし、判決を得るためには、反対共有者が意思表示をする義務を負ったといえることが前提です。仮に担当裁判官が保守的であれば「昭和39年最判によって反対共有者の意思表示は不要なのだから意思表示の必要はない(義務はない)」と判断する可能性もあると思います。
次に、授権の認定ですが、みなすことを否定しています。要するにみなす根拠がないという発想です。
3つ目は、反対者の名は入れないことを許容する(全員の名が必要という前提(民法544条)に例外を認める)ものです。昭和39年最判がとったと読める見解と同じです。
最後も、反対者の名は入れない方法ですが、考え方としては、民法544条に違反するので、原則として解除は(完全には)効力を発生しないけれど、相手方(賃借人)は信義則により、そのような主張ができない(結果的に解除は有効となる)、というものです。
中田氏の見解としては、3つ目の昭和39年最判の考え方だけは否定して、残りの3つはどれも解釈としてあり得る、という結論になっています。

中田氏見解=全員の名が必要+4とおり授権の方法

あ 解除の意思表示→全員の名が必要

これは、ABC全員の名前で、又は、一部の者(A)が残りの者(BC)を代理して「A及びBC代理人A」として、解除する(544条1項)。

い 非協力者がいる場合の方法(事案の設定)

少数者の意思表示問題は、第1段階で解除することに決まったが、これに反対していた者が第2段階で意思表示及び代理権授与に応じない場合である。
上記の例でABが解除に賛成し、Cが反対したが、ABが持分の過半数を有しており、解除する決定がされたとする。
次の4つの方法が考えられる。

う 授権についての4つの方法

ア 第1=意思表示を求める訴訟 第1に、第1段階の決定によりCも解除の意思表示をする義務を負ったとして、ABがCに対し意思表示を求める訴訟を提起する方法(現414条2項但書〔改正民法では削除〕、民執174条)。
理論的難点は少ないが、現実的ではないだろう。
イ 第2=授権の事実認定または擬制が必要 第2に、第1段階の決定に伴い、Cは第2段階における代理権をABに授与したと評価し、代理方式の意思表示をする方法。
これは、ABCの内部関係において組合等の成立が認められるときは有効(注・明文規定があるという意味であろう)だが、そうではない共有の場合は、個別事情に基づく代理権授与の認定又はその擬制を要することになろう。
ウ 第3=全員の名は不要(昭和39年最判) 第3に、544条1項は、(a)の①に関する規律であり、(a)の②については少数者Cの利益が保障されていればよいと理解し、その保障は第1段階の決定の段階でなされていると考え、ABのみの名前での意思表示をする方法。
上記判例と同様の帰結を導きうるが、同項をそこまで限定解釈してよいかという問題がある。
エ 第4=全員の名は不要(信義則活用) 第4に、(a)の②の場合には、相手方の利益より少数者の利益の方が大きな問題であるが、少数者Cの利益の保障が内部的になされている場合には、ABのみの名前での解除であっても、それによる実質的不利益を受けない相手方が544条1項に基づき解除の無効を主張することは、信義則に反すると解する方法。
有効な解除かどうかを判断するという相手方の負担は抽象的には考えられるものの、特に債務不履行による解除の場合には、その負担をさほど重視するまでもない。

え 採否→第1・第2・第4

第1、第2の方法のほか、第4の方法もありうると考える。
※中田裕康著『契約法』有斐閣2017年p220、221

12 判決による意思表示の擬制(参考)

前記の中田氏の見解の中の、第1(意思表示を求める訴訟)を使うとした場合の方法を整理しておきます。
Aが協力しないCを被告として賃借人Dに対して解除の意思表示をしろという内容の訴訟を提起します。裁判所が、Aは意思表示をする義務がある、と判断すれば、これを認める判決を言い渡します。この判決が確定してから、AはDに対して判決書を送付すれば、CがDに解除の意思表示をしたことになります。

判決による意思表示の擬制(参考)

あ 意思表示を命じる判決の効果の発生時点(前提)

意思表示が擬制される時点は、原則として、意思表示を命ずる判決その他の裁判の確定時(判決につき、民訴116)または債務名義の成立時である。

い 意思表示の擬制の効果

債務者が有効かつ適式・・・意思表示をしたものとみなされる

う 意思表示の相手方への到達(通知)(基本)

本条(注・民事執行法177条)により擬制されるのは意思表示の表白だけであり、意思表示の相手方への到達(民97①)は擬制されない

え 意思表示の相手方への到達(第三者への通知)

意思表示の相手方が第三者である場合には、債権者が債務名義の正本または謄本を第三者に提示または送付した時(送達の必要はない(松本339頁))に、表白を擬制された意思表示が到達したことになる(中野=下村873頁)。
※青木哲稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1673、1674

13 令和3年の民法改正に伴う議論(概要)

(1)立法過程の議論(共有物の管理者)

以上のように、共有物の賃貸借における解除の意思表示は、共有者全員の名が必要であり、次に、反対者(協力しない共有者)の名を出すにはどうしたらよいか、という問題があります。授権があるとみなすのであれば簡単に解決しますが、根拠はないのでそれはできない、という考え方もあります。
この点、令和3年の民法改正の際の議論の中で、共有者間の意思決定(多数決)をしても、授権があったわけではない(授権は認められない)という見解が示されています。具体的には、共有者「共有物の管理者」に委任する意思決定(多数決)をした後に委任する(委任契約を締結する)時に、反対共有者の名は入れられない、という見解です。
詳しくはこちら|共有物の管理者と共有者の委任関係(授権否定・管理者選任関係)

(2)改正に対応した通達(登記関連)

令和3年改正に対応した登記手続を説明する通達が、令和5年に出されました。この通達の中の、賃借権設定登記の箇所で、賃貸借契約(締結)に反対した共有者は賃貸人に含まないという説明がなされています(法務省民事局長令和5年3月28日『法務省民二第533号』通達p3)。
詳しくはこちら|共有不動産への賃借権設定登記申請の当事者(令和5年通達)

14 共有物の賃貸借の解除通知書の賃貸人の記載方法(概要)

以上のように、共有物の賃貸借の解除の通知では、賃貸人の名、つまり通知書の作成者(作成名義)をどうするか、という問題がありました。実際に解除通知書を作成する時の工夫、具体的な記載方法について別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有不動産の賃貸借契約書・解除通知書のサンプル(賃貸人の記載方法)

15 共有物の賃貸借契約の締結の際の賃貸人(参考)

以上で説明したのは、(共有物の賃貸借の)解除の意思決定の後の意思表示についてのものでした。
この点、賃貸借契約の締結の場面でも同じような問題があります。管理行為に分類される賃貸借の場合、持分の過半数で決定しますが、その後の実行行為、具体的には賃借人との間で賃貸借契約を締結する時に、「賃貸人」となるのは誰か、という問題です。
反対する共有者も含めた全員が賃貸人となるという判例がある一方、一部の共有者(反対共有者以外の共有者)だけを賃貸人とした賃貸借を認める裁判例もあります。
詳しくはこちら|共有不動産の賃貸借における賃貸人の名義(反対共有者の扱い・契約書記載方法)

16 賃貸人以外の者による解除(参考)

管理行為に分類される共有物の賃貸借契約を締結することについて、共有者AB(持分過半数)が賛成して、共有者Cが反対した場合にも、意思決定としては成立します。Cの授権を認めない場合は、賃貸人はAB(だけ)となります。
この場合に、解除の意思表示をCが行うことができるか、ということが次に問題となってしまいます。とても難解ですが、令和3年の民法改正の際の議論では、(共有物の管理者の解任について)「委任者」以外の者による解任(の意思表示)を認める方向の見解が示されています。
詳しくはこちら|共有物の管理者と共有者の委任関係(授権否定・管理者選任関係)

本記事では、共有物の賃貸借を解除する意思表示(賃借人への通知)の内容について説明しました。
実際には、具体的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産の賃貸借に関する問題に直面している方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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