1 共有物の使用方法の意思決定をした後の実行行為の方法
共有物の使用方法はその内容によって変更・管理・保存行為に分類されます。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類
保存行為以外は共有者による意思決定をします。特に管理行為は協議して多数決をすることになります。
詳しくはこちら|共有物の使用方法の意思決定の方法(当事者・協議の要否)
このように使用方法についての意思決定をした後に、これを実行することになります。具体例は、解除や賃料増額請求について、第三者に対して意思表示(通知)をするというものです。
誰が、誰の名義で行うか、という問題があります。本記事ではこの問題について説明します。
2 共有者による決定した内容の実行行為の授権
共有者が意思決定をする段階で、一緒に誰が実行行為を遂行するかを決めていれば、その者が実行行為を授権したことになり、特に問題は生じません。
実行行為の授権がない場合には、原則として共有者の全員が実行できることになります。実際には、実行者をハッキリとは取り決めていないことも多いですが、特定の共有者に実行行為を授権したと判断されることもあります。
共有者による決定した内容の実行行為の授権
あ 前提事情
使用方法の意思決定が行われた
決定された行為を実行する
い 基本的な実行者
実行者への授権を共有者間で決定した場合
→授権を受けた者が実行(執行)する
う 授権なしの場合の実行者
特定の実行者への授権を決定していない場合
意思決定には各共有者が、他の共有者の代理人を兼ねて、共有者全員の名(後記※2)で実行(執行)する
意思決定にはこのような代理権授権も含まれる
→共有者全員が実行権限を有する
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2物権 第3版』第一法規2019年p350
※谷口知平稿『民商法雑誌31巻2号』p224
3 共有者から第三者への意思表示の名義
共有物の使用に関する実行行為の典型は、第三者への意思表示(通知)です。この意思表示による効果は、共有者全員に帰属します。そこで、表示する名義としては、反対した共有者も含めた共有者全員とします。
共有者から第三者への意思表示の名義(※2)
=共有者全員としての意思決定である
→効果は共有者全員に帰属する
→意思表示は全員の名で行う
(意思決定に反対した共有者も含めた共有者全員の名義で行う)
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 第3版』第一法規2019年p350、355
※谷口知平稿『民商法雑誌31巻2号』p224
※鈴木一洋ほか編『共有の法律相談』青林書院2019年p66、67(解除、更新拒絶の意思表示について)
4 昭和39年判例の「解除権不可分の原則」の適用排除(概要)
最判昭和39年2月25日は、「貸借契約」の解除の意思決定は管理行為であると判断しました。その上で、解除権不可分の原則は適用されないということも示しています。
これをそのまま読み取ると、解除の意思表示も、共有者全員の名でなくてもよい、ということになります。
しかし、これは、意思決定と意思表示(執行・実行)を混同したことによる誤りで、意思表示には、解除権不可分の原則が適用される(適用を排除する必要はなかった)という指摘があり、これが合理的であると思います。
詳しくはこちら|共有物の「貸借契約」の解除を管理行為とした判例(昭和39年最判)
5 解除の通知の具体的方法
賃貸借契約解除(や賃料増額請求)の意思表示(通知)の方法について、具体例を元にして説明します。
意思決定と意思表示(実行行為)は別であることを理解しやすいと思います。
解除の通知の具体的方法(※1)
あ 事案(前提)
共有物について賃貸借契約が締結されている
賃貸人=共有者=A・B・C
共有持分割合=それぞれ3分の1
賃借人=第三者D
い 解除することの意思決定
A・Bは賛成した
Cは反対した
→過半数に達したので『意思決定』は完了した
=『A・B・C全員としての』意思決定である
う 実行行為の授権
A・Bが『AがDへの通知を行う』ことに賛成した
→過半数に達したので共有者の意思決定として成立する
え 通知の名義人
共有者全員=A・B・C
反対しているCも含めて表示すべきである
お 通知の実行者
Aが『Dに通知することの授権』を受けている
→Aが書面の作成・賃借人への発送を行う
か 解除の効果の帰属
解除の効果は共有者全員=A・B・Cに帰属する
6 通知の文面の記載サンプル
前記の通知の名義部分の具体例・サンプルをまとめます。
通知の文面の記載サンプル
あ 通知書の名義部分
共同賃貸人(共有者)A・B・C
代表 A(Aの署名+押印)
い 趣旨
意思表示の主体は共有者全員(A・B・C)である
通知する作業は共有者を代表してAが行う
7 共有不動産の賃貸借契約締結の具体的方法
共有物を賃貸することを共有者で決定することがあります。
この場合も、決定後に賃借人と契約を締結する作業があります。具体的には賃貸借契約書の調印です。
理論的には、賃借人に対する申込または承諾の意思表示です。その結果、共同賃貸人と賃借人の意思が合致したので契約書(合意書)を作成するということになります。
賃貸借契約書の『賃貸人』の記載・署名・押印をすることになります。この方法についても、前記の解除の場合とまったく同じです。
本記事では、共有物に関して共有者による意思決定をした後に、その意思決定に基づいて第三者へ通知を行うなどの実行行為の授権の方法について説明しました。
実際には、細かい具体的事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に共有物の使用方法に関する問題に直面している方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。